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女王危篤──シャンバラの決断

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女王危篤──シャンバラの決断
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メッセージ輸送


「西側が布陣してますね……」
 真口 悠希(まぐち・ゆき)が前方を見て、つぶやく。
「真口さん、隠れて」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が悠希の腕を引いて、木陰に身を隠させる。彼女達のずっと前方には、西シャンバラ王国のものらしき軍勢が見えた。
 皆を道案内していた和泉 真奈(いずみ・まな)が、ふうと息をつく。
「なるべく妨害の少ない道を探していたのですけれど……独自に出兵してくる方々までは読みきれませんわね」
 悠希はいぶかしげだ。
「で、でもボクはロイヤルガードですし、女王様へのメッセージを運んでるんです。妨害はされないはずですよ」
 真奈は純真な悠希に、悲しげに首を振った。
「前方の軍を見てくださいな。あれは学校からの出兵ではなく、義勇兵のようです。しかも遠目から見ただけでも、かなり興奮している様子。
 学校どうしの取り決めだからと、必ずしも私達の言う事を聞いてくれるとは限りませんわ。まして、こんな可愛らしい女の子が女王様へのメッセージを運んでいる、だなんて……何が起こるか分かりませんわ」
 するとミルディアが、いい事を思いついた、と明るい表情で提案する。
「じゃあ、あたしが囮になって、あの軍の注意を引きつけるよ! 真口さんはその間に、先に進んで!」
「え、でも……」
 悠希が驚き、真奈も呆れる。
「まったく、無茶にも程がありますわ! ミルディ、もともとそのつもりでしたわね?」
「えー? でも、おもしろそうじゃない!」
 事も無げに言うミルディアに、真奈は額を押さえる。
 イシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)はケラケラと笑う。
「ミルディが馬鹿なのは今に始まったことじゃないよ。
 ま、私も『分の悪い賭けは嫌いじゃない』ってね♪」
 イシュタンはミルディアと一緒に突っこむ気、満々だ。
 真奈はため息をつくと、ルートを記した地図を悠希に押し付ける。
「しかたありませんね。分の悪い勝負は愚者の行為と思うのですが、今回は分の悪い賭けに乗らさせて頂きます」
 悠希は驚いた様子で、彼女たちを止めようとする。
「そんな……ボクの為に皆さんが犠牲になるなんて……」
「平気平気、このままやられちゃ寝覚めが悪いし、ちょっと遊ばせてもらおうかな?」
「必要なのは元の鞘に収めること。よろしくおねがいします」
 イシュタンと真奈は悠希に笑いかけ、ミルディアは悠希の背を押す。
「女王様へのメッセージは一言も無駄にしたくないもん!
 さあ、気付かれてないうちに行って行って!」
 悠希は「皆さん、お気をつけて!」と、まだ何か言いたげに涙を浮かべながら走り出した。
 その背に向けて、ミルディアはそっとつぶやく。
「メッセージを頼んだよ……」
 それから彼女達三人は、あえて気を引くように西の軍勢へと向かっていった。