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Zanna Bianca――ザナ・ビアンカ

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Zanna Bianca――ザナ・ビアンカ

リアクション


●prologue 2

 その指が、猟銃の引き金に乗ることは二度とあるまい。
 祈るようにこれを絞ることは、二度とあるまい。
 数時間前から始まった雪混じりの風が、叩きつけるようにフードを打った。剃刀で撫でられたような痛みを頬に覚えても、瓜生 コウ(うりゅう・こう)は暫時、老ハンターの惨殺死体から視線を逸らすことはできなかった。
「『ハンター』こと、イサジ老……だろうな。できることなら話を聞きたかったが……」
 コウは魔獣ザナ・ビアンカについて興味を持ち、この地を訪れていた。教導団や他の契約者の動きについては、知らない。
 事前に聞き取りをした麓の村で、ハンターをしているという一人の老人の噂を彼女は耳にした。孤独な老人だったのだろう。多くの村人は、『イサジ』というその本名すら記憶していなかった。魔獣を追う頭のおかしい爺さんと冷笑する者すらいた。しかしイサジの頑な生き様に逆にコウは関心を寄せ、こうして彼の足跡を追ったのである。
 その結果が、これだ。
 コウは屈み込むと死体を調べた。残酷な冷気は死体を殺害時の状態にとどめ、『新鮮』な状態で彼女に提示してくれている。
 短い調査ですぐに、コウは老人の命を奪ったものについて一つの結論を出した。
「獣の仕業ではない」
 切断面が綺麗すぎる。鋭利な刃物、それも大型のもので削ぎ落としたように老人は切りきざまれていた。
 死体の傍らに落ちていた猟銃をコウは拾い上げた。古い型の銃だが、よく使い込まれておりコンディションは完璧に近い。
「この件、これだけでは済まないだろうな……もっと多くの悲劇、あるいは死……もたらそうとしている……」
 意識せぬままコウの口から、不吉な言葉が洩れていた。彼女ははっとしたように口をつぐんだ。
 まるでその言葉を、誰かが聴いているとでもいうかのように。
 ――予言か。
 禍々しい、とコウは奥歯を噛みしめた。幼い頃から彼女は、ときとして不吉な予言を口にして周囲から疎んじられていた。
 しばしば、予言は的中した。