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リアクション
「おい!! あれを見ろ!!」
ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)が北西の空を見て叫んだ。集落の、いや、少し外れだろうか。その空を埋め尽くすような黒い影、そしてその一部だろうか、巨体を誇る龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)にも多くの影が虫のように群がっている。
駆け寄りてようやくにそれらを捉えた。それは人影。翼を持った悪魔であった。
「マルドゥーク!!」
「うむ。行くぞぉおおお!!!」
西カナン軍の『小型飛空艇』がエンジンを壊す勢いで飛び駆けていった。
「うぉおおおおおらぁあああああ!!!!」
飛空艇から飛び降りたそのままにラルクは『鳳凰の拳』を繰り出した。
空中で2体の虫悪魔を殴り飛ばすと、落下の途中でもう一匹の悪魔を掴み寄せて空中一本背負いを決めてやった。投げつけた虫が地面に着く前に2匹の虫を巻き添えにしたから、計3匹の悪魔が地面に叩きつけられて戦闘不能。ほんの数秒でラルクは5体もの悪魔をKOした。
「うっしゃあ! 悪魔だが魔神だかしらねぇがやってやるぜ!」
マルドゥーク本隊の西カナン兵も到着した。彼らもパイモン軍の悪魔たちと正面からぶつかったわけだが、天津 亜衣(あまつ・あい)の『オートガード』や『パワーブレス』が効いているのだろう、兵士たちでも十分に悪魔兵と戦えていた。
「死ぬんじゃないわよ! 生きて戻れば『リカバリ』で治すわ!!」
回復魔法での治療もしれくれるようだ。単独で戦う時間を短くすれば兵たちの被害は少なくなるだろう。あとは―――
「俺たちが働きまくれば良いってことよ!! おらぁあああ!!!」
悪魔兵が振り下ろした大槌をラルクは両拳で迎え打って、受け止めた。その一瞬にマルドゥークが瞬剣で悪魔兵の腹を斬り裂いた。
「サンキュー、マルドゥーク」
「無茶は止せ、拳を壊すぞ」
「その前にアンタが敵を斬ってくれるだろ?」
「斬る相手を残しておいてくれたら、な」
「へっ。行くぜっ!!!」
ラルク、そしてマルドゥークが飛び出して、そこに兵たちが後に続いた。
ラルクが『虫』と称した悪魔兵は、戦ってみればすぐに実感するだろう、とても『虫』なんて可愛らしいものではないことに。
鐘楼のように膨らんだ大槌を振り回す腕力、『神速』を使ったかのような速さの飛び込みに、自在に空を飛ぶ翼が頭上からの奇襲を可能にしている。
鍛えられた軍兵、そんな印象を受ける悪魔たちであったが、戦況はマルドゥーク軍に分があった。
数も決して負けてない。兵士たちは悪魔兵とも戦えている、2対1の構図に持ち込めばかなり有利に戦える。そこに加えてラルク、ドラゴランダーをはじめとしたシャンバラ生徒たちの強者共が優勢の波を押し進めていた。
終幕は近い! 敵の軍勢も散り裂ける! このまま一気に押し切れる!
誰もが、マルドゥークさえもそう思った―――ときだった。
「なかなか見事な戦いぶりですね」
男は静かにその姿を見せた。
「個人の力、戦略、魔術。どれも実に興味深い」
悪魔兵たちが戦いの手を止める。寄れる者は戻り、無理な者は敵と距離を取ってから武器を収める。全ては王に捧げし忠誠の証。
魔神 パイモン(まじん・ぱいもん)が戦場の空に姿を現した。
右から正面、そして左へ。ゆっくり眼で舐め回して、おそらくマルドゥークの事も視界に捉えたことだろう、それでもパイモンは視線を集落の空へと向けた。
「誰も、なにも感じませんか?」
魔王の視線は変わらずに、
「中はもっと、実に興味深いことが起きているようですよ」
ひとごとのように、そうつぶやいた。
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