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リアクション
「出番がないのはつまんないけど。頑張って!」
最初の交代ポイントで北月 智緒(きげつ・ちお)は桐生 理知(きりゅう・りち)と辻永 翔(つじなが・しょう)を、そう言って送り出す。
ちょっと理知と翔の距離が近づいたように思ったが、まだ“によによ”するほどではない。
「順位は悪くないし、入賞も行けるかも。気になるのは賢狼くらいかなー」
智緒は翔が予備として連れてきた賢狼の頭をなでる。次の交代ポイントに間に合うよう、それらを連れて急ぎ移動した。
「翔くん、疲れませんか?」
辻永翔は理知を横目で見る。
「疲れたら……代わってくれる?」
「ふぇ? 私がですか?」
翔は理知を引っ張ると、両腕で抱え込むようにする。翔の持っている手綱の真ん中あたりを握らせた。ゆっくり翔が手を離すと、理知の手のひらに賢狼達の躍動が伝わってくる。
「どう?」
理知の胸がドキドキする。ただそれが賢狼から伝わったものか、翔の懐にいるためなのかは分からない。
「……両方なのかも」
「両方? 何と何?」
「あ……、ううん、なんでも」
再び翔が手綱を握る。やや右に動かして障害物を避けた。
「ちょっと危なっかしいけど、万一のことがあれば代わってもらうぜ」
「はい!」
坂道をなんとか登りきった曹丕 子桓(そうひ・しかん)と真田 大助(さなだ・たいすけ)は、ダメージはないと見て、そのまま湖に突入する。
「少しでも追い上げるぞ!」
曹丕は最短距離を進もうと、ソリを真っ直ぐ走らせる。
氷のひび割れや薄くなったところでは、氷術を使いながら、一段とスピードアップさせた。
「ぼ、僕も……」
坂道から氷上に移ったことで、大助もソリにしがみついてばかりではなく、周囲を見渡す多少の余裕が生まれる。
「ん……どうした? 何か案でもあるのか?」
曹丕が見つめる前で、大助は1頭の獅子にヒールをかけた。多少、足元がおぼつかなくなっていた獅子が元気を取り戻す。
「ふふっ、いい心がけだ。では回復は任せたぞ、小さな相棒よ!」
大助が残りの獅子にもヒールをかけ終わると、ますますスピードがアップする。それはそれで大助が再びソリにしがみつく結果になってしまうが、曹丕は満足だった。
「あの……曹丕姉さまは?」
「俺か?じゃあ、頼む」
曹丕が伸ばした手を大助が握る。気のせいか、曹丕の鼻に極上の芳香が漂った。
「よーし! 行くぞ!」
見る見るうちに中盤グループとの差が詰まっていく。
先頭グループから離された高峰 雫澄(たかみね・なすみ)と魂魄合成計画被験体 第玖号(きめらどーる・なんばーないん)だったが、湖では持ち前の軽快さを生かして、次第に距離を詰めていった。
「ここでも私の出番はなさそうですね」
第玖号は魔鎧のままだ。
「そうだぁ、妨害がなかったねぇ」
「ほとんど計画していないか。もしくは下りで計画しているか。どちらにしても、ここは飛ばしていきましょう」
「うん、わかったぁ」
雫澄は周囲への警戒を続けながら、賢狼を走らせた。
登りでさしたるダメージのなかった杜守 柚(ともり・ゆず)と高円寺 海(こうえんじ・かい)のソリは、最初の交代ポイントでは杜守 三月(ともり・みつき)の見送りを受けただけでそのまま突っ切った。そのおかげで順位がいくらかアップする。
「どうする?」
海に見とれていた柚だったが、気を取り直して「向こうは氷が薄ので避けましょう」とアドバイスした。
柚の指示に従って、海が手綱を操る。
「ごめんなさい。まっすぐ行けば良かったかも」
「謝ることじゃないぜ。女の子に寒中水泳させるわけにも行かないからな」
上位になって、多少の余裕が出てきたのか、海がかすかに笑みを見せた。柚の心のシャッターが激しく切られたのは言うまでもない。
好位置で湖に滑り込んだアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)は、湖でも好調を維持していた。
「アキュート、それがしこの戦いを通じて、漢の本質をつかんだ気がするぞ」
ウーマ・ンボー(うーま・んぼー)はどこか浮かれたままだ。
「そりゃ結構だがな、まだ何にも終わっちゃいねえぞ。それどころか半分来たくらいだ」
「うむ、そこでな、それがし自ら、漢には引けぬ戦いがあるのを見せてやろうと思う」
「はぁ?」
ウーマはクルッと1回転すると、ソリを引いていたシルバーウルフがウーマの場所にチョコンと座り、シルバーウルフに代わってウーマがソリを引きはじめた。
「引けぬ戦いこそ引いてみせよう!」
「……おい」
アキュートが呆気に取られている間に、ソリはかなりの距離を滑っていく。もはや引き返すのは不可能だった。
「……パフォーマンス賞ってあったか?」
湖に進んでも、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は先頭集団の後方を維持していた。
小次郎は注意深く、周囲のライバル達を監視する。例えそれが女性の乗ったソリばかりであったとしても、なんら意図的なものではない。
しかし同乗するリース・バーロット(りーす・ばーろっと)には、そうは思えなかった。
「どうしてソリの後ばかり付いて行くんですの?」
「この方が空気抵抗が少なくて、体力のロスが少なくて済むんです」
「それは分かりますけど、女性のソリばかり気にしてるように見えますが……」
「気のせいですって」
「便りの無いのは良い便りって言うよね」
「そうですね」
「私達の出番が無いのは良い事なんだけど」
「はい、ちょっと退屈です」
救護班の布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)とエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)は、少し離れたところで参加者を眺めてココアを味わう。
「オレにもくれないか」
「いいよー」
地上で監視していたヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)にもココアを届ける。
「ペット用の治療器具とかいろいろ揃えてあるんだぜ」
「ヴァイスさんがお金を出したわけじゃないんでしょ」
「そうだけど……あー、なんだか性格が悪くなるな。怪我人や病人が出るのを待ってると」
ヴァイスの言い草に、佳奈子もエレノアも思わず笑ってしまう。
「ここらでまたビューティーズに活躍してもらおうか」
ヴィゼントの合図にセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)と火村 加夜(ひむら・かや)がインタビューできそうな相手を探す。
しかし先ほどの登りと異なり、スピードの出ている。湖面では出場者を捕まえるのは難しかった。
「OK! それなら交代ポイントでも良いぜ! 先回りしてインタビューしてみてくれ!」
佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)はペットを交代しつつ、チルーにご馳走を与える。
「さて、吉と出るか……、凶と出るか……だねぇ」
フライングヒューマノイドにつなぎ代えると、ソリを湖面へと進めた。使用人の統率を効かせると、思いの他すんなり飛んでいく。
「杞憂だったかなぁ」
しかし予感は悪い物ほど当たる。少し行ったところで、フライングヒューマノイドが迷走し始めた。
「しようがないなぁー」
弥十郎は得意の薔薇学式話し合いを一旦放棄して、裏芸のパラジツ式話し合いに取り組んだ。簡単に言えば、拳で語り合う方式である。
少々手間取ったが、無事? 弥十郎の思惑通りに話し合いは落着した。
「じゃあ、行くよぉ」
フライングヒューマノイドは少々フラついてはいたが、弥十郎の指示通りに飛んでいく。
「さーて、おっさんが待ってるから急がなきゃ」
レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は湖にパラミタホッキョクグマを進める。ミシリと音がしたが、氷に異常はない。
「ここが正念場だね」
「とりあえずはこのままじゃな」
それでも奈落の鉄鎖がいつでも出せる用意はしておく。氷が薄そうな場所では、パラミタホッキョクグマの体重を軽くする予定だ。
「しかし妨害する者はおらんのう」
「良いことじゃない。でも最後まで油断しないでね」
「うむ、わかっておる」
緋王 輝夜(ひおう・かぐや)とネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)を乗せたソリは、最初の交代ポイントをそのまま通過した。
「へぇ、なんか調子いいじゃない」
「しかし……妨害も…………トラブル……も、ないのは、つまらない……です」
「うーん、言われてみればそうかもね。ミラージュの出番もなかったなー」
2人を乗せたソリは、軽々と湖面を進む。
湖のセクションを半ばも過ぎたところで、ネームレスが輝夜に話しかける。
「ペット……を……交代させた方…………が……いい」
「そう?」
ネームレスの指差す方を見ると、わずかにケルベロスの息が上がっているのが分かる。
「用意……は、して……ある」
「じゃあ次のポイントで代えよ。時間のロスはしょうがないね」
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