イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

【冬季ろくりんピック】激走! ペットソリレース!

リアクション公開中!

【冬季ろくりんピック】激走! ペットソリレース!

リアクション

「夏の雪辱。それ以外に何もありません」
 御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)は力強く言い切った。観客席に集まった西の生徒達から大きな拍手が起きる。夏季ろくりんピックでは、東チームが勝利していた。
 普段ネタが滑り勝ちな千代は観客の反応に気を良くした。
「アラフォーでも婚約したばかりですし、身も心も充実しきった私なら勝ってみせますわ」
 またも大きな拍手が起きた。
「でも幸せすぎてー、油断しちゃうかもー」
 右手でゲンコツを作ると、自らの頭を軽くコツンと叩く。あからさまなウケ狙いに、観客席が静まり返った。
「んだぁ、テメーら! 文句あんのかー!」
 マイクを引ったくってカメラに突進する。元ヤンの迫力はただごとではなかった。
「あら、ごめんなさい。これも演技なの」
 もはや誰もその言葉を信じなかった。

 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)は拍手で迎えられたが、清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)がスクリーンに映ると拍手もまばらになる。
「さっきの人とペアなんじゃないか」などの声も聞かれた。
 角刈りに悪い目つき、顔の中央に斜めに入った傷、そして答えた口調がヤの付く自由業を思わせる。
「わしか? わしは昇りを担当するけんのう。ペットはパワーを重視して、他の選手や運営に力強さを見せ付ける(魅せ付ける)ためにも、パワーの花形であるパラミタホッキョクグマと召喚獣:ウェンディゴを備えるけん。パワーだけでなく、寒さによる妨害にも強いんじゃ」
 大笑いする。
「もちろん相手の妨害には召喚獣:ウェンディゴを一体向かわせて、パワーと凍える攻撃で反撃したるわ」
 言っていることは至極もっともだったが、物騒な感じは否めなかった。
 しかし騎沙良詩穂とセルフィーナ・クロスフィールドで雰囲気が一変する。観客には猛吹雪から春の陽射しが差し込んだように見えた。
「優勝! と言いたい所だけど入賞できれば良いかな」
「ゴールを目指すことを最優先し、確実で堅実にコースを攻めていきますね」
 コメントは清風青白磁と大差なかったが、一言ごとに拍手や歓声があがった。

 ティセラ・リーブラへの歓声も大きかったが、セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)のそれも負けてはいなかった。
 グリム童話 『白雪姫』(ぐりむどうわ・しらゆきひめ)を胸ポケットに入れたシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)も、満面の笑顔で手を振った。
「ウェイトがほぼゼロの私が乗っている以上、大いに有利であることは間違いありません。他のチームは出場する意味すらないとも言えますね」
 体は小さいものの、態度の大きいグリム童話『白雪姫』は、その毒舌を大いに発揮した。
「ペットはシルバーウルフと賢狼を用意しました。他にも同じように揃えているところがあるようですが、まぁ、私達ほどチームワークの取れているところはないのではないかしら」
 これ以上は言わせない方が良いと判断したシャーロットが、グリム童話『白雪姫』をポケットの中へ押し込む。
「優勝なんて、テーブルの上のリンゴを、もがっ…………シャロ……な、何を」
「操縦はセイニィに任せます。私は状況判断や妨害に備えるつもりです」
 そう言ってシャーロットがセイニィと頭を下げると、観客から拍手が起こった。

 長身の真田 幸村(さなだ・ゆきむら)を中央に小柄な3人が取り囲む。誘拐騒動とならないのは、幸村の人徳ゆえか。
 柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)が計画を説明する。
「登りと湖はひー(曹丕 子桓(そうひ・しかん))と真田 大助(さなだ・たいすけ)に任せてある。ヒーに操縦を、大助に回復を任せておけば十分な結果を出してくれるだろう」
 ここまで言って、やや顔を赤らめながら咳払いする。
「下りは俺と俺の嫁……っと幸村だ。いろいろ考えてはあるが、状況に応じて臨機応変だな。もちろんラストスパートもやるぞ」
 自信ありげな氷藍と曹丕、幸村はどこか戸惑いつつ、大助はおどおどしていた。
 ── これで大助が成長してくれれば良いのだが、ここまで来たら、ひーに任せるよりないな ──
 氷藍にひーと呼ばれた曹丕にマイクが向けられる。
「俺達の役目はできるだけリードしてバトンタッチすることだろうな。坂も氷の上も全速力で乗り切ってやる。多少の無茶は覚悟の上だ」
 曹丕が語る度に、乗員としてパートナーを組む大助は不安そうな顔をみせた。

 大中小ではないが、背の高い高円寺 海(こうえんじ・かい)と小柄な杜守 柚(ともり・ゆず)、その中間の杜守 三月(ともり・みつき)の3人がスクリーンに姿を見せる。
「あ、はい、海くんがOKしてくれて良かったです。思い切って誘って良かったなって思いました」
 背の高い2人に挟まれて真っ赤になっている柚が、一生懸命にインタビューに答える。
「海くんと三月ちゃんと相談して、作戦も練ってきました。出場するからには優勝したいし、チームの勝ちも目指したいです」
 大胆な発言とはうらはらに、観客席からは「可愛い!」の声が聞こえる。
「僕は交代ポイントで待機するよ。操縦は2人に任せてあるので、2人が全力を出せるようにフォローするのさ」
「ペットも作戦も十分な仕上げをしてある。あとはスタートを待つばかりだ」
 三月も海も自信満々でコメントした。

「可愛い!」と歓声の聞こえた柚と変わらない2人の登場に、観客席が更に盛り上がる。
 芦原 郁乃(あはら・いくの)荀 灌(じゅん・かん)は、大きく両手を振った。
「出るからには優勝を目指します!」
 鼻息も荒く宣言したのは芦原郁乃。
「見学するだけじゃツマンナイ、やっぱり参加しないとね。そして参加することに意義があるんだけど、参加する以上は勝ちたい!!」
 再びの勝利宣言に「おおー!」と観客が沸く。
「お姉ちゃんが大張り切りなら、私も負けてられないです」
 荀灌もガッツポーズを決める。本人の意図がどうあれ、観客席に起こるのは「可愛いー!」の声だったが。
「賢狼のはやていかづちは、とってもアタマがよくって、こっちの指示や意図にもしっかり反応してくれるの。これなら存分に戦えるよ」
 それぞれの手で賢狼の頭をナデナデした。

 西チームの最後に紹介されたのが小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)達。もちろん偶然……ではなく、「私が一番目立つんだから」と上手く場所取りをして、最後にインタビューが回るように画策した。
 美羽がスクリーンに映ると、高根沢理子が大きく拍手する。
「とにかく加速と小回りを重視。だから私1人で操縦するよ」
 8頭の賢狼と共に美羽が挨拶する。
「私達は、それぞれの交代ポイントで……」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は回復を担当する旨を語った。
「妨害なんかしないで、正々堂々と優勝! そして西チームの勝利を目指します!」
 西チームを代表するかのような発言に、観客席では東西の生徒を問わず歓声が起こる。
「理子ー、見てるー? 応援よろしくねー。西チームのみんな! 行くよー!」
 美羽の合図で、西チームの参加者が「おー!」と一斉に応じた。

 参加者へのインタビューが終わると、一部の参加者は用意された特別機で、交代ポイントへと移送される。優梨子達、中継担当の生徒も、今後の配置へと移動していった。
 再び会場のヴィゼントが盛り上げる。
「OK! インタビュアーのビューティー達、ご苦労だった! これからは中継をよろしく! 人数の差か参加者も西が元気が良かったようだぜ。東の連中も負けてくれるなよ」
 スクリーンが切り替わると、先ほどのキャンディスと男性が映る。
「ここで解説の紹介だ。さっきまでここに居たから、キャンディスは分かるよな。もう1人がイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)
 スクリーンのイーオンが会釈する。
「レースの状況から、予測される展開や戦術まで解説できるそうだ。これに備えて、しっかり下見もしたそうだから、みんな楽しみにしててくれ」
 ヴィゼントはひとしきりしゃべっていると、リカインのアナウンスと同時に、スクリーンにスタートまで10分と表示された。
「ご覧の通り、そろそろスタートだ。観客席もテレビの前のみんなも応援頼むぜ!」