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リアクション
スモークの中、ベース、続けてギターの音が鳴り響き、三人の少女たちがステージ上に舞った。
846プロダクションの所属のユニット・ラブゲイザーである響と鳳明。普段はロックナンバーを中心に歌っているが、今回ダンスで千尋が参加することもあり、観客も楽しめるようにインストゥルメンタルで演ることに決めたのだ。
ギターを鳳明がまとう王子様風の衣装の所々にトランプのスペードをあしらっており、ニーソックスやスカーフにもデザインされている。同じようにクローバーでデザインされた衣装に身を包みながら響は軽快にピックを弾き音を奏でていた。
くるくるとステージ上を回り、観客を楽しませているのは千尋。オレンジのチェック柄のワンピース風の衣装は背中の大きなリボンが特徴的だ。また帽子とネクタイにはうさぎ模様がプリントされている。
しかし、最初のうちは笑顔がどこかこわばっているように見える。
……うぅ、緊張するよう。
少しかたい顔で散々練習したダンスを踊る。前日にやー兄こと兄である社から、観客を千尋の大好きな動物だと思えば大丈夫だと聞かされていたのだが、いざ考えても頭は動物とは捉えてくれないようだった。どこを見ても人、人、人。右を見ても左を見ても視線がこちらを突き刺してくる。広い意味で見れば人間も動物なのかもしれないが、そう思えたところで落ち着けるような余裕は千尋は持ち合わせていなかった。
もうすぐ練習で何度も何度もつまずいたステップだ。
そう考えるとどんどん不安も高まっていく。ドキドキしていく。
あぁ、もうダメだ。間違ってしまう。
そう頭を過ぎった時だった。
「さぁ皆も一緒に盛り上がっていこう! Hey!」
鳳明の掛け声とともに響のギターが強く響いて、観客席からも次第に掛け声が響き始め、ついにはドームを揺らし始めた。
ミクちゃんと鳳明ちゃんの演奏って近くで見るとこんなに凄いんだ……
ほぅっと羨望の眼差しを二人に送れば、次は千尋ちゃんの番だよと言わんばかりにウインクを送られてもっと前へ出るように促された。
おずおずとステージの前に出れば、そこに広がるのはスポットライトに照らされた白い世界。逆光で人の顔もよく分からないが、楽しんでくれていることだけは気配で分かった。
二人に負けないように頑張ってアピールするぞと、今までの緊張はどこかに吹き飛んだ様子で今までよりもさらに切れのよいダンスを披露する千尋だった。
「吹っ切れた、か?」
妹の様子を心配そうに見守っていた社も、どこか力が抜けたようで顔が自然と緩んでいくのを感じていた。
ラブゲイザーの演奏はノリやすい軽快なポップスで、ベースのソロパートでは鳳明が千尋の隣に並んでダンスに合わせるように動きながら演奏し、また響はギターの細かで軽快な刻みや早引きなどをやってのけ、千尋は可愛らしいダンスとキレのよい動きを見せ観客をわかせた。
楽しそうに、流れるように指先から音楽を溢れさせる。
気付けばあっという間に演奏は終わってしまっていた。
そしてステージは暗転し、しっとりとしたイントロが流れる。
――迷子の小指の赤い糸 あの時 貴方が繋いでくれた
薄暗いステージにぽつりとカナの姿が映り、しっとりとしたカナの歌い出しから徐々に曲調がテンポアップしていくのと同様に客席から歓声が上がる。
間奏の間、カナは考えていた。
魔法少女アイドルとしてやってきた成果をここで出したいと。
さらにたかれたスモークの中、カナの姿は客席から見えなくなった。
間奏が終わって歌い始めたカナを次にカメラが捉えた時には、客席のあちこちから驚きの声が上がっていた。
先ほどまでの可愛らしい衣装とは違い、大人らしい衣装に着替えたカナの姿がそこにはあった。虹色の翼を広げ、蝶をモチーフとした衣装をまとったカナは、今まさにここから飛び立とうとしているようにさえ見える。
――小指のか細い赤い糸 あの時 貴方が見つけてくれた
闇の中で確かに繋いだ 煌めく絆と光 私の世界が光に満ちてく――
親愛のパートナー羽純への気持ちをたっぷりと込めて歌に乗せれば、くすぐったいけれどもきっと分かってくれる。
どこにいるか分からなくても、この会場のどこかで歌を聞いて応援してくれている。
その気持ちが伝わったのか、羽純も同じことを考えていた。
ステージに立つパートナーがこちらを見ているような気がして、大丈夫だここにいると心の中で強く思うと彼女がより笑顔になったように思えた。
このくすぐったい気持ちが他のやつらにも聞かれているかと思うと少しだけ妬ける気もするが、気にもならないくらい嬉しさが上回っていて、ステージ上で自分に向けて歌う可愛らしい女性を見つめて微笑むのだった。
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