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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

リアクション


おっぱい軍議


 雲海から頭を覗かせる牙攻裏塞島を前に、横山 ミツエ(よこやま・みつえ)達は軍議を開いていた。
 広い天幕に集まるのは、ミツエと曹操孫権
劉備の三人の英霊に、彼らのもとで武将として参加する者達、それからミツエの親衛隊などだ。火口敦(ひぐち・あつし)董卓も入口付近に立っている。董卓は今日も食べ物を抱えていた。紙袋から出しているのは豆大福だ。
 ミツエは一同を見渡してから、真ん中の大卓に広げた地図を指しながら今回の作戦について話した。
「劉備と曹操と孫権は、牙攻裏塞島を三方向から囲んで何とかして城壁を越えて、内側から門を開いてちょうだい。あたしのいる本軍は正面突破をするわ」
「ティターン族と真正面からぶつかるのですか? 危険すぎます」
「何を弱気なことを言ってるのよ、劉備! 正々堂々と正面突破してこそ、あたしの権威も高まるのよ。大丈夫、やりとげてみせるわ」
 自信満々に言い切られた劉備は心配そうにしながらも、ミツエがそう言うのならと引き下がった。
「今は雲で見えないけど、晴れたらきっと島のあちこちに穴があいているのがわかるわ。気をつけて戦わないと穴から下の海へ真っ逆さまよ」
「島の縁(ふち)にも注意しないとな」
 孫権の付け足しに頷くミツエ。しかし、次には笑顔で足元の荷物を持ち上げて言った。
「パラシュートを用意したわ。落ちた時のためにね。この下の海は漁船や艦隊がいるから、きっと助けてもらえるはずよ」
 できればそれを使うような事態にはなってほしくないな、というのがその場にいた全員の思いだった。
 じっとりしてしまった空気を振り払うようにミツエは「意見はある?」と見渡した。
 手を上げたのは宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)
「要塞まで伸びているこの参道と要塞のある島の穴および縁についてですが」
 言いかけた時、
「ちょっと待った」
 と、割り込む者がいた。
 席を立った彼女の露出度の高い服装に男性達の反応は様々であったが、羽高 魅世瑠(はだか・みせる)は周囲の目など気にとめずにまっすぐミツエの前に歩み寄る。
「具体的なことを話し合う前に約束はどうなってんだ? 中原制覇したら本当に大将のおっぱい見せてもらえるんだろうな、と兵達から突き上げくらってんだよ。部下の士気に関わるこった、デマなのかマジなのかはっきりしてもらいてぇ」
「うちの隊からも似たような疑問が上がってるよ」
「ミツエのオパーイ、みんな見たガてルよ、大人気!」
 魅世瑠のパートナーであるフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)も続いた。
 あの情報がミツエ自身が流したものでないことなど、ここにいる者達なら知っていることだが、あれだけを見て集まったパラ実生達は知らない。そして彼らにとっては、中原制覇の褒美におっぱいを見せることも、牙攻裏塞島攻略の報酬に不健全動画を検閲の対象としてコピーすることを認めたことも、どちらもミツエが言ったことなのだ。
 自分が言ったことならともかく、どこの誰が言ったかもわからないことに責任など持てるか、と言いたげな様子のミツエに、追い討ちをかけるように国頭 武尊(くにがみ・たける)が口を開いた。
「オレもこの三人に賛成だ。だいたい、先の関が原合戦の後、君は集まった者達に労いの一つも見せたか? オレは知らねぇな。それが中原に覇を唱えようとする者の態度か? 他校のお人好しならともかく、こっちは天下のパラ実生だぜ。タダ働きなんかするかよ」
 魅世瑠、フローレンス、ラズはうんうんと頷いている。
「ようするに、だ」
 武尊は続く言葉に効果を持たせるようにそこで区切って立ち上がり、ゆっくりとミツエに歩み寄る。
 そして立ち止まるとふんぞり返って要求した。
「生おっぱい揉ませろってことだ」
「何ですって……!?」
「先の合戦の功で生おっぱい観賞、今回の攻略戦の功で生おっぱいを揉ませる。ちょうどいいじゃないか」
 どうするんだ、とミツエに視線が集まる。
 武尊はともかく、魅世瑠達三人は返答しだいによってはここから去ることも考えている。
 ミツエが彼女達の決心に気づいているかはわからないが、携帯でおっぱい疑惑を見た時のように皇氣をほとばしらせて怒るようなことはしなかった。
 眉間にしわを寄せ、じっと目を閉じて考えている。
 やがてカッと目を見開いたミツエは、大卓を叩いて宣言した。
「わかったわよ! 中原制覇をした暁には生おっぱいを揉ませる! やってやるわよ! ただし一回だけよ!」
「待て、この攻略戦でじゃないのか? しかも一回だけ!?」
「今回の分はすでに約束してあるでしょ。それに、乙女のおっぱいを揉もうっていうんだから、中原制覇くらいじゃないと釣り合いが取れないわよ!」
「ケチくせえことを……」
 武尊は渋い顔をしたが、魅世瑠はにっこりした。
「あたしは構わないよ。キミの口からはっきりした決定を聞きたかったんだ。ま、足りない分はあたしが補ってやるから安心しな! フル、ラズ、兵に伝えに行くよ」
 『見せる』から『揉む』に変わった上にそれを認めたのだ。魅世瑠には充分な手応えだった。彼女はフローレンスとラズを連れて上機嫌で兵達のもとへ戻っていってしまった。
 こうなっては武尊もこれ以上ねばるのは分が悪い。
「約束したからな!」
 念を押すように言って、彼も魅世瑠達に続いて幕舎を出て行った。
 呆然と見送った劉備は、やや顔色を悪くしてミツエにそっと聞いた。
「あの、よろしかったので? 相手が何人いると……?」
「女に二言はないわ」
 きっぱり言い切ったミツエに、感極まったかのような伊達 恭之郎(だて・きょうしろう)が抱きついてくる。
「オレは絶対にみっつんの味方だぜ! オレ的にはえっちぃ動画のデータよりも、みっつんの生おっぱいの方がいいから。大きいおっぱいも小さいおっぱいも大好きっ。真っ平らもそれはそれでイイと思うよ」
「それはつまり」
「うわぁ〜ん! 恭ちゃんのバカぁー!」
 ミツエが不満そうに何か言いかけた時、パートナーの天流女 八斗(あまるめ・やと)にホーリーメイスでどつかれ、恭之郎は幕舎の隅にぶっ飛ばされた。
 八斗は恭之郎に馬乗りになると襟を掴んで前後に激しく揺すって訴える。
「女の子は脱げばいいってもんじゃないんだよぅ! オシャレやコスプレが女の子の魅力を引き出したりもするんだから!」
 早いところ止めないと、恭之郎はミツエのおっぱいを拝む前にあの世を拝んでしまいそうだが、割り込む隙がない。
「え……と、軍議を進めていいかしら?」
 祥子が遠慮がちに申し出た声を聞いて我に返ったミツエが中央に目を戻した時、再び待ったがかかった。
「おっぱいの話題になったから聞いておく。今回のおっぱい疑惑、犯人は誰だと思う?」
「知らないわよ。ついでにそいつも見つけ出して、裸にして城壁に吊るしてやるわ」
 威勢の良いミツエの返事に、ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)はニヤリとした。
「実はあれを流したのはこのナガンだぜ! 驚いたか? びっくりして言葉も出ねぇか?」
 まさか自身の陣営の中に犯人候補が出るとは思っていなかったミツエはしばし唖然とし、だんだんと怒りで顔を赤黒くさせていった。
「あんた……!」
 睨みつけるミツエから皇氣が漏れ出る。
 パートナーなしではあらゆる災難が降りかかり、一日と生きていられないこのパラミタでミツエを守ってきたものだ。ミツエを襲ったモンスター達は、この皇氣に畏怖を覚え道をあけてきた。
 勝手に折れそうになる膝を、大卓に手をつくことでごまかしてナガンは表面上はいつも通りに続ける。
「でも、おかげで兵は集まって牙攻裏塞島へ攻める口実もできただろ?」
「自慢そうに言ってんじゃないわよ!」
 皇氣が引っ込んだかと思ったら、ナガンは思い切り脛を蹴られた。
 劉備と曹操が慌てて宥めに入る。
 と、孫権が携帯の画面をみんなに見えるように掲げながら言う。
「俺が犯人って、他にもいるけど」
 その画面には、派手にライトアップされた牙攻裏塞島を背景に『WELLCOME!』という文字がチカチカ点滅している。さらに画面をスクロールしていくと、
ミツエはここに来なかった場合、後日南鮪の女になると宣言してたぜヒャッハァー!
 とあった。
 そして最下部には『牙攻裏塞島ご招待券』。
「おっぱい疑惑犯人ってわけじゃなさそうだけど、充分怪しいよな。あとこれも」
 さらに孫権が見せたのは。
ゲーム『おっぱい三国志』(18禁)
 トップページのゲーム開始画面を表示すると、
『このゲームはフィクションですので、実在の団体・人物とはまったく関係がありません。 製作サークル/おっぱい三国志生徒会』
 と出てくる。
「修正パッチをダウンロードしたら出てきたんだ。今回の動きを知って慌てたんだろうな」
 馬鹿だなぁと笑う孫権の頭にミツエの拳が飛んだ。
「つまりあんたはそのゲームで遊んでたわけね? この、どこからどう見ても、あたしにしか見えない、ゲームで!」
 一言ずつ力を入れて区切って迫るミツエに、孫権は冷や汗をかいてササッと遠くへ避難した。
「犯人はナガンだけじゃないってわけね。でもそれなら……」
「混乱してるねぇ。狙い通りだ。情報撹乱狙って何人かと同時に流したのさ。曹操が最初に見たのはその一つってわけだ。すがすがしいくらいに大成功だ!」
 一人、機嫌の良いナガンにミツエは冷めた目を向けた。
 こいつ追放してやろうかと言おうとした時、唐突にナガンが膝を着いて頭を垂れた。
「全部、ミツエ様のためにやったことでございます。とはいえ、あなたの名誉を傷つけたことには変わりなく、そのための罰は受けましょう。けれどこの忠誠心だけは疑わないでください。どうか、ナガンを下僕に」
 前置きなくしおらしくなったナガンだが、どうしても言葉の端々におどけた雰囲気が見えて仕方がない。
 ミツエは渋い表情でナガンを見下ろしている。
 周りの者達にしても、ふざけているようにしか見えないだろう。
 どれくらいかの沈黙の後、ひどく落ち着いた声でミツエが言った。
「そんなに下僕になりたいなら、いいわよ、今からナガンはあたしの下僕よ。あなたがやったかどうかの真偽はともかく、あの情報で兵が集まって四天王の拠点の一つを攻める口実が作れたのは事実だものね。罰は保留よ。あなたが元凶だという確かな証拠が出たら、その時は、素っ裸で城壁吊るしの刑を受けてもらうわ」

 ひとまずこれで、おっぱい疑惑に関する話題は落ち着き、ずっと祥子を待たせていた軍議が開始されたのだった。