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世界を滅ぼす方法(第5回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第5回/全6回)

リアクション

 

 ヒラニプラ鉄道の駅で購入した冷凍ミカンをハルカへの土産に、ゲー・オルコット(げー・おるこっと)は、ハルカの祖父、ジェイダイトの捕獲が間に合わなかったことをハルカに詫びた。
「悪かった……もう少しだったんだが……」
 言い訳がましいと自分でも思うが、本当にもう少しだったのだ。
 後悔のあまり、そう言わずにはいられない。
「ごめんなさいは、いらないのです。
 もうちょっとでおじいちゃんに会えるって解ったからいいのです」
 ハルカは冷凍ミカンを受け取って、冷たいとはしゃぎ、
「それは、凍ってるうちに食べるのよ」
 ゲーのパートナーの藤波 竜乃(ふじなみ・たつの)に教えられて、野々や愛達におすそ分けしながら、まずは皆で冷凍ミカンおやつタイムとなった。

「して、これからどう動くのじゃ? 追って鉄道で空京へ向かうか、それとも……」
 御厨 縁(みくりや・えにし)が提言する。
……それとも、空京でもジェイダイトに追いつけないと仮定して、その先に進むか、だ。
「おじいちゃん、また飛んで行っちゃったの? 今度は何で?」
 パートナーのサラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)が不思議そうに訊ねる。
「あの人は、”渡し”を探すことまで解っているのですから、上手く時間を詰められれば、空京で掴まえることも不可能ではないと思いますよ」
 そう言ったのは支倉 遥(はせくら・はるか)で、パートナーのベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)も珍しくその言葉に同意した。

 ちなみに、そんな相談を必要とせず、既に鉄道で空京に向かっているのが、迷子のハルカを樹月 刀真(きづき・とうま)らに預けた後、
「追跡はスピードが命ヨ!」
 と叫んで出て行ったレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)とそのパートナーのアリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)
「空京で待ってますね」とハルカに言って彼女等を追いかけて行ったソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)とパートナーの雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)、そして
「飛空艇は任せたけえ!」
と仲間達に言い残してそれに続いた光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)だった。

 勿論、翔一朗は行く前にハルカのお守りに恒例の『禁猟区』を掛けていくことを忘れなかった。
 ヒラニプラと空京とに別れていては、万一『禁猟区』が発動しても、翔一朗に成す術はないのだが、そこは言わないお約束だ。
 しかもその際に、いつの間に購入していたのか、まあ何かの参考になればと、ハルカに魔法少女系の本をどさどさと渡す。
「魔法少女がいい言うちょったな。やるわ」
「わー! ありがとなのです!」
 ハルカは喜んで礼を言ったが、ハルカから差し出されたお守りに、今回は目立った変化は見られない。
 毎回変わっていることに慣れていた翔一朗が、返って不思議に感じてどうしたのかと思えば、高務 野々(たかつかさ・のの)は、お守りの改造は一旦置いといて、
「魔法少女といえばマスコットキャラですよね!」
 という展開になっていたのだった。
「ハルカさんはどんなマスコットキャラがいいですか?」
 素材はフェルトや綿がいいかしらと脳内で考えながら野々が訊ねると、ハルカはじーっと野々の持つゆるスターを見つめた。
「かわいいのです」
「では、ネズミ系で?」
「あと、猫も好きなのです」
 猫とネズミとはまた、極端なことを言う、と野々は苦笑する。
「……はね」
「え?」
「きれいな羽根があるのがいいのです」
「…………天使、とかですか?」
 ふと、野々の胸に、不安めいたものがよぎったが、それを振り払って笑顔で訊ねると、ハルカは
「天使がいいです」
と笑った。
(……考えたらだめです)
 そんなハルカの頭を撫でて、野々は不安を打ち消そうとした。
 だって触れる。話せる。こんなに可愛いのに。
 そんなこと、あるはずがない。
 ……けれど、思うのだ。
 ハルカの言う、アケイシアの種を持っていた『最初』とは、一体いつを指すのだろう?
(――もしも、パラミタに来て、私達に会うまでの間が『最初』だとしたら?)
「ののさん?」
 見上げるハルカに我に返って、微笑んで見せる。
「腕によりをかけて作りますから。待っていて下さいね」


 そして最終的に、相談の結果、ハルカ達も鉄道でジェイダイトの足取りを追うことに決まった。
 蛮族が絡んでいるという情報がある以上、飛空艇入手に関わるのは危険だし、無事入手できたら合流すればいい。
「くれぐれも」
 飛空艇入手に向かうことにした樹月刀真は、別れ際ハルカに念を押した。
「何処かへ行く時は絶対に、野々さんやヒーローさん達、誰かが一緒なのを確認するんですよ? 絶対ですよ!?
 今度迷子になったらお尻百叩きですからね解りましたね?」
「ばっちりなのです!」
 信憑性のまるでないハルカの返答だったが、そんなハルカを背後からがっしりと、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が抱きしめている。
「……ハルカ……いなくなるから……」
 こうでもしていないと心配でならなかった。
 ハルカに対しては大げさな行為にも見えなくて、誰もそれを止めようとしていない。
 飛空艇組と空京に向かう組が分かれる、というのは、月夜には不満だった。
 飛空艇が駄目だということになってから、鉄道で行けばいいことだと思うのに。
「私達も今度こそ、目を離さないようにしますし」
と、野々が月夜を安心させるように請け負う。月夜は渋々ハルカから離れた。
「また空京で会うのです。飛空艇楽しみにしてるです」
 ハルカが月夜にそう言って、こくり、と月夜は頷いた。

 他に武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)五条 武(ごじょう・たける)も飛空艇に関わることにし、神代 正義(かみしろ・まさよし)は勿論、ハルカに同行して鉄道に乗った。
 4人掛けの席の何処に座るか、つまり誰がハルカと一緒に座るかで揉めたが、一戦交えた結果(じゃんけんの結果)、ハルカと野々と正義、正義のパートナーの大神 愛(おおかみ・あい)が向かい合った席に座り、通路を挟んだ向こうに、ゲーと竜乃が、それぞれ鳥釜飯といかめしの駅弁を買い込んで座った。
 支倉遥達は後ろの席である。
 そして勿論、車中の話題はヒーロー談議だった。

「ほん……っとうにごめんなさい……
 あたし達もっと真面目にジェイダイトさん探さなきゃいけないのに……」
 勿論正義はハルカの警護も油断も怠らないのだが(決してついでなんかではない)、毎回律儀というか健気というか、正義の話に付き合ってくれるハルカに、愛は申し訳なさそうにハルカに謝ったが、
「ごめんなさいは、いらないのです」
 ハルカは笑って、楽しいのです、と言った。
「つまりだな!」
 正義は力説の握り拳を眼前に掲げた。
「ハルカちゃんは『ステッキとかコンパクトで変身するやつがいい』とは言ったが、別に『魔法少女がいい』とは言っていなかった。
 あれは俺の完全な思い込みだった!」
 つ・ま・り!!
 愛は正義の瞳に炎が宿るのを見た。
「ハルカちゃんを『ステッキとかコンパクトで変身するかわいい系の正義のヒーロー』にすればいいんだ!!!」
 ぽかん、と全員が言葉もなく正義を見る。
 何というある意味前向きというかこじつけというか、愛は深く溜め息をついて、そのトンデモ発言に突っ込みを入れた。
「ええっと……突っ込みどころは沢山あるんですけど……
 それって、ハルカちゃんが『魔女っ子の方が好き』と言った時点で終わりですよね」
 ピシィ! と正義が固まった。
 野々や愛、通路を挟んだゲーや竜乃の視線が、ハルカに集中する。
 ハルカはキョトンとしてその視線を受け、正義を見上げた後、
「ハルカは」
と口を開きかけたその瞬間、正義が硬直から解けた。
「いや待て!! その先は言わなくていい!!」
 顔を背けながら、ビシ! と拒絶の手の平をハルカに向ける。
 別にとどめを刺される必要はない。
 真実を突きつけられなければ、持論を信じていられるのだから。
「正義さん……駄目ですよ、ちゃんと現実を見なきゃ……」
 愛に憐れみを込められた口調で言われ、言われなくてもここが車両内でなければ泣きながら夕陽に向かって走り出したい心境だったが、正義のヒーローはそんなことで負けてはいられないのだった。

「でもまあ、正義のヒーローに見えないこともない魔法少女、というのもアリかもしんないじゃん」
 通路の向こうでいかめしを食べながら竜乃が言ったが、
「いや! それは敗北だ!」
と正義が言って、でもそれは正義の持論とどう違うのでしょう、とよく解らない野々だった。