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リアクション
「お前等こんな悪事を働いてないで俺達に協力しないか?」
と牙竜が言った途端、拘束されて飛空艇の床に座り込んでいるオニキスは、腹を抱えて笑い出した。
涙を流して笑いながら、
「じゃあてめえらは、俺達に誘われたら、仲間に入るのかよ!」
と嘲笑う。その一言で、どんな説得も無意味だと解った。
「……牙竜……」
きゅっと眉を顰める牙竜をリリィが不安げに見つめ、
「説得は無理ってことで」
と、理緒が前に進み出る。
「あなたの処遇も今後もどうでもいいけど、1つだけ、教えて欲しいわね。
攫った飛空艇操縦士の人は何処?」
何故そのことを? というような、驚いた顔をして理緒を見た後、オニキスはにやりと笑った。
「知らねえな。知ってても言うと思ってんのかよ」
「型通りのセリフ過ぎて笑いも出ませんが、話さないなら拷問という手を使わせて貰いますよ?」
その背後でテュティリアナが、剣を手ににこりと笑う。
「へ! てめえら、正義の味方がそんなことすんのかよ!?」
「正義の味方はもう交替した。急いでいると最初に言わなかったか?」
相手が女性なので舐めているのか。
見物しながらそう判断すると、脅しでも何でもなく、本気で痛め付けることも厭わないイーオンが、後ろで冷たく言い放った。
結果、口が固くて本当に多少痛めつけることになってしまったが、非常事態なのだからそんなことを気にしている余裕もなく、ともあれ、飛空艇操縦士、ヨハンセンが監禁されている場所を白状させて、理緒はその場所を、目的を同じくしてヨハンセン救出の為にヒラニプラ周辺の捜索に当たっていたクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)達に連絡をした。
「大胆にも無謀な連中だ。ヒラニプラ内に潜伏しているらしい」
連絡を受けてクレアは、パートナーのハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)、エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)、パティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)らに言う。
指示された場所に行ってみると、そこはヒラニプラの中心地からは随分と離れた場所にある廃屋だった。
「それなりの人数が屯しているようだ」
気配を探って、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が言って、
「じゃあ、俺が囮になる」
と緋桜 ケイ(ひおう・けい)が言った。
「後は任せたぜ」
「キュー、くれぐれも、操縦士の人を戦いに巻き込んじゃだめよ」
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)にそう言われ、パートナーのキュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)は呆れた顔をした。
「その言葉はそっくり返す。くれぐれも暴れすぎるなよ」
ついうっかり、と言って怪我をさせるとか、勢いで巻き込むとか、そんな光景が簡単に思い浮かんで、頼むから落ち着いて行ってくれと気の休まらないキューをよそに、
「大丈夫よ、操縦士さんの特徴もしっかり聞いたしね」
とリカインは受け答える。
本当に頼むぞ、とキューの不安は拭い切れなかったが、それでも聖地カルセンティンで『カゼ』と対峙して以来、やや塞ぎ込んでいた様子のリカインが立ち直ったようなのに安堵もしていた。
気持ちを切り替え、とにかく前進していかなければという結論に達したのだろう。
周囲の状況は、ゆっくりと考え込んでいる余裕もない程、慌しく変わっていく。
立ち止まらせてやりたかったが、そういうわけにもいかない。
リカインを心配しつつ見守っていたキューだが、リカインは、しっかりと自力で立ち直った。
ケイが物陰から飛び出した。
「何だ貴様ぁ!?」
ケイに気付いた蛮族の一人が道を阻もうとする。
「ここに攫ってきた人がいるだろ! 返して貰おうか!」
ケイが言うなり、蛮族の男は問答無用で襲いかかってきた。
それを返り討ちにして倒した向こうから、先の叫びを聞きつけたのだろう、バタバタと何人もの蛮族達が走ってくる。
「どうしたッ!」
リカインとキューも飛び出し、3人は二手に分かれて走り出した。
とにかく、自分の役目は派手に敵の目を引き付けることなので、ケイは機関銃で、目標を定めるよりも先に銃弾をばら撒きまくり、リカイン達の方は、キューの氷術を中心とした足止め攻撃で片っ端から転がして行く。
クレアは外から、見える位置にいる見張りなどの蛮族達を狙撃して数を減らした。
「皆様、大丈夫でしょうか?」
先陣で戦う仲間達の身を案じて、ハンスが心配そうに呟く。
「心配なら行って援護してやれ。
私は後方からの狙撃だ、向こうからの攻撃は受けぬ」
そう言われて、困ったようにハンスはクレアを見たが、
「いえ、わたくしはクレア様を護ります」
と答えた。
そうして仲間達が蛮族の注意を引き付ける中、隙をついてカナタが内部に潜入する。
「……さて、何処に捕らわれているのか……」
ケイ達の戦う音が遠くに聞える中を、カナタは飛空艇操縦士を探し回ってさまよう。
「こりゃあ、随分小せえガキが入り込んだもんだな!?」
突然声が響いてきて、カナタはばっと振り返った。
「外の騒ぎはてめえらか。
気持ち良く寝てたところを起こしやがって。
寝起きの俺は不機嫌だぜ!?」
「奇遇だな。
わらわも今、不機嫌極まりなかったところだ」
カナタは不遜に男を睨みつける。
この際なので直接訊いてみた。
「おぬしらが攫った者は何処に隠した?」
「はっ! あいつを探しに来たのかよ!
残念だな! 答えると思うのが甘いぜ!」
叫んで、男は咄嗟に飛び退いた。
窓の外から銃弾が飛び込んで床を弾く。
「外したっ」
クレアが舌打ちをした。
「ちっ! 味な真似してくれるじゃねえか! 容赦しねえぞ!
十二神将が6位! アゲイト様を舐めんじゃねえ!!」
吠えながら、背にしていた鎚を手に取り、アゲイトはそれをカナタに向けて叩き下ろした。
見かけによらない素早い攻撃だが、カナタは何とか距離をとってそれを躱す。
「――カナタ!」
ケイが走ってきた。
「ケイ? おぬし、どうして」
「全部、倒した! あとはそいつだけだ!」
「何だと! ふざけたヤツめ!」
ブン、と風を切る音を上げ、ケイに向かって横振りした鎚が壁を叩き割る。
ケイはハンドガンに持ち替えて構え持ったが、狙いを定める前にアゲイトの鎚が叩き落され、慌てて躱す。
「ちっ! 近づきすぎたか!」
カナタを心配して駆け寄ってしまったのは判断ミスだったか。
思ったよりも、アゲイトのリーチが長い。
多少飛び退いても、すぐにその差を詰めてくるのだ。
(こいつ、でかい図体して意外に素早い!)
ケイは内心で舌打ちをする。
カナタが援護の魔法を放とうとしたそこへ、キューが走ってくるなり、アゲイトに向けて氷術を放った。
「ぐっ!?」
不意の攻撃に、アゲイトの動きが固まる。
「今だっ!」
そこへケイが、スプレーショットでアゲイトの肩と足を撃ち抜いた。
倒れたアゲイトに全員で駆け寄って縛り上げる。
「……っの野郎! 放しやがれ!!」
負傷しながらも暴れるアゲイトを何とか拘束すると、ケイ達はとりあえずほっと息をついた。
「……あらっ」
先にアゲイトが叩き壊した壁の穴をふと見ると、その向こうに知ったような顔を見付けて、リカインが声を漏らした。
部屋の奥には、縛られた、がっしりした長身に髭面の中年男。
聞いていた通りの特徴を持ったその男は、飛空艇操縦士、ヨハンセンだった。
「無事か。怪我は?」
「いんや。何ともない。助けてくれてありがとう。
お前さんらは誰だ?」
カナタの問いに、拘束を解かれ、ほっと一息ついて、ヨハンセンは礼を言う。
壁の向こうで銃声は聞えるわいきなり壁に穴が空くわ、何事かと思ったぜと彼は肩を竦めた。
「死者はいません」
キューやリカイン達と共に、倒れている蛮族達全員の拘束を追え、ハンスがほっとしながらクレアにそう報告して、あとは警察に引き渡して任せようとクレアは頷くと、ヨハンセンに向かった。
「申し訳ないが、本音を言わせて貰うと、全くの善意で我々はあなたを救出したわけではない」
ヨハンセンはきょとんとした後、噴き出した。
「こりゃあ、正直な娘っ子だな! 何だ、金か?」
「いや」
クレアは首を横に振る。
「あなたの命を、借り受けたい」
ヨハンセンはその飛空艇を見て、へえ! と感嘆の声を上げた。
「こりゃあ、いい船だな!」
クレアの言葉に笑いだし、2つ返事で飛空艇の操縦を引き受けたヨハンセンは、内部に案内され、操縦室で計器類を確認した。
「ああ、問題ない。いけるぜ」
燃料計も、満タン表示。
蛮族を退けた後、コハクの持つ”光珠”を例の場所にセットしてみたところ、それは不思議な淡い輝きを放ち、そしてみるみるメーターを一杯にしたのだ。
コハクは”光珠”の側から離れるのが心許ないのか、ずっとその場所にいる。
よしよし心配しないでも大丈夫だよと、リズリットがコハクの頭を撫でてやり、それを見た月実が衝撃のあまり固まっていた話は余談である。
「まず、空京に向かって貰えますか。
仲間達と合流したいので」
樹月刀真の要請に、ヨハンセンは頷いた。
「いいとも。俺もアウインに無事を伝えたいしな!」
「貴兄らはどうする」
調査もあるのだろうしと、一緒に来たいと言えば拒まないつもりでイレブンがラブラドルに訊ねると、彼は苦笑して遠慮する。
そして、
「ぜええええええええっっったい! 行かないわよ!」
と、ここまで主にスナネズミ要員として同行していたリシアが、ここから先に同行することを頑なに拒んだ。
「どーして?」
友達じゃん! とカッティが言ったが、リシアは全く引かなかった。
「どうしてもこうしても無いでしょうが!
あたしがこの先に行ってどうすんのよ!
全ッ然何ッにもこれッぽっちも意味ないわよ!
空峡を越えて結界の向こうの島へ?
何であたしがそんな危険な場所に行かなきゃならないの!!」
ここまで流されてきたけど、もうこれ以上は絶対無理!! と言い放つリシアの意志を覆すことは、できそうもなかった。
「で? この船の名前は何ていうんだ?」
船を生かすには名前が必要だぜ、というヨハンセンに、良くぞ聞いてくれましたとばかりに五条武が反応した。
「名付けて、『空中戦艦、ラー・ハルカイラム』!」
「いつ戦艦になったんですか、この船は?」
シャンテが不思議そうに訊ねる。
「ていうか、微妙にやばいだろう……」
ハルカの名前が入るならコハクの名前も入るべきなんじゃないかとか、これからの目的を指標としたものはどうかとか、何故かそこにいる者達で喧々囂々とやった末、
「まあ、第一発見者の名前を取るのが一般的かな」
とヨハンセンが助言をして、この場にはいない者の名だが、『ハーレック号』と呼ぶことに決まった。
操縦士と艦長は違う、と言うので、そこでまたコハクだハルカだとなったが、コハクは謹んで辞退したので、空京に到着し次第、ハルカに艦長職が任命されることとなったのだった。
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