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リアクション
迷った時は、振り出しに戻れ。
シャール・アッシュワース(しゃーる・あっしゅわーす)は、姫北 星次郎(ひめきた・せいじろう)にそう助言して、星次郎は、魔境化した聖地、ヒラニプラ南部のクリソプレイスへ向かうことにした。
飛空艇に関する諸々の謎を明かすには、飛空艇があったクリソプレイスを捜索することが、最も確実だと思われた為だ。
今も世界を魔境化させる危険性を持つ、クリソプレイス。
今にもか細い戒めの糸が切れ、シャンバラ中に魔境化が広がってしまうかもしれない可能性を辛うじて抑え続けているのは、たった1人の少女だった。
クリソプレイス内部では、一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)が、パートナーの久我 グスタフ(くが・ぐすたふ)、リリ マル(りり・まる)らと共に守り人の少女、ヘリオドールを護っていた。
諸々の準備を済ませ、ヒラニプラから氷雪地帯を経、地下都市だったクリソプレイスに到着して、星次郎はそこに充満する気のようなものに、顔を顰めた。
「息苦しいですね……」
「頭が痛む……。
何か嫌なものに、中を撫でまわされているようじゃ」
シャールが不快そうに漏らす。
町だったものは、更に地下から地面を突き破って盛り上がってくる何かに呑みこまれ、殆ど町の形を無くしている。
奥の建物と思しき場所に入って行くが、殆どの部屋はかつての形を留めていなかった。
「資料のようなものはなさそうです」
時折、本のようなものが転がっているのも見付けるが、殆どが腐っていた。
期待外れな有様に、星次郎は溜め息を吐く。
その息が濁っているような気がして、背筋が冷やりとした。
「見たことも聞いたこともないような化け物もおるようじゃの」
まるで闇の世界から抜け出てきたような、異形の魔物が徘徊している。
なるべく気付かれないように、2人は進んだ。
「……シャンバラには、表の世界の他にもう1つ、裏の世界とも言うべきものが地下に広がっておるという伝説もあるが……その類のものじゃろうか」
「ナラカではなく?」
「冥府ではない。物理的な、魔物の蔓延る地下世界がある、と、言われておる。
真実かは知らぬがの。
本当だとすれば、あの魔物どもは、そこから滲み出てきた存在なのやもしれんの」
「……守り人の少女は、無事なのでしょうか」
飛空艇に関することも、恐らくその少女に訊けば解るに違いないが、話ができる状態なのだろうか。
異形の化け物達は、”柱”付近にも入り込み始めていた。
以前は数も少なく、幽鬼のように徘徊していただけだったのが、少しずつ動きが活発になり始め、好戦的になり始めている。
そして、更にアリーセとグスタフを驚愕させる現象が生じた。
「アリーセ、”柱”が!」
グスタフに上方を指差され、見上げた先で、”柱”の一部が、おおよ1メートルほど、殺げるようにもげて、床に落下した。
他にも、斜めにヒビのようなものが入っている場所があちこちにあり、それがやがて今のように削げ落ちて来るのだと容易に想像できる。
アリーセは咄嗟にヘリオドールの様子を見た。
小刻みにわなわなと震えるヘリオドールの顔色は、ぞっとする程悪い。
「好転することが想像できない事態とはね……」
冷や汗が流れ落ちるのを感じながらも、口元には笑みを浮かべてみせ、アリーセは踵を返した。
自分達人間か、ヘリオドールか、”柱”か、何かあの化け物達を呼び寄せるものがここにあるのか、入り込んだ異形の化け物達が、この場所に集まって来る。
「アリーセ」
「援護を頼みます」
ハンドガンを構えるアリーセに、グスタフも肩を竦めて苦笑し、
「おう」
とだけ答えた。
背後に逃げ道は無い。
動くことのできないヘリオドールを残して、逃げることもできない。
それでも。
「……望む所だと言わせてもらいましょう」
アリーセは銃を構えた。
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