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ンカポカ計画 第3話

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ンカポカ計画 第3話

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第5章 

「この辺りですかね〜」
 ヴァーナーが危険いっぱいのジャングルの真ん中で、頭上を見てきょろきょろ。ぽけーっと大口をあけてナオランナを探している。
「ヴァーナーちゃん。危ないですよ〜」
 相変わらず奇行状態がだだ漏れしてほとんどキャラクターが崩壊している「若奥様」のヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)が、ヴァーナーを護衛していた。
「えいっ。えいっ」
 飛んでくる謎の生物をハタキでパシパシ払っている。
「もうみなさん。ナオランナを探すのはいいけど、気をつけてくださいよ〜」
 ヴィナが護衛しているつもりになっているナオランナ狩りのメンバーは、以下の面々だ。
 ソークー1に兄弟と言われたケイラ、ストローで血を吸うミレイユ、全裸のラルク、ミュージックプレイヤーであそこを隠す比賀一、薫にもらった貝殻ナイフを握りしめる風天、ダウジング奇行が発覚した梓、トコロテンから復活した英希とショウ、ウミガメの産卵を済ませたエース。そして、マネーロンダリングでお馴染みの橘 恭司(たちばな・きょうじ)だ。
 さらに、もう1人。
「ああ? なに。胸が見えそう? 先が隠れてれば十分だろ」
 ボロボロの服がかなりセクシーな林田 樹(はやしだ・いつき)だ。
 尖った石を木に結わえて即席の斧を作ろうとして、ツタを探している。
「お、これが丈夫そうでいいな。……ちょっとそこのパシリ。手伝ってくれ」
 これはひどい。
 フツウは何かしら特徴を見つけてあだ名にするものだが、パシリにするつもりなので最初から「パシリ」だ。
 だが、これがちょうどいい。呼ばれたのは、のぞき部パシリのショウだった。
「パシリ。ここを持っててくれ。私がツタで縛るからな」
「ああ、いい……よよよよよ!」
 樹が俯き加減で作業をすると、ちょうどパシリの視界に豊満な胸の谷間がどどーん!
 ぶぶぶっぶーーーー!!!
 スケベブラッドの大量噴出だ。
「おいおい。きったねえな。しっかり持ってろよ?」
「あ、ああ。持ってるぜー」
 そして、こういうチラリズムをあの男が黙って見逃すわけはなかった。
「たまりませんねー。この破れたデニムから丸見えの……尻!」
 ――チラリズムあるところに、この男あり。
 明智珠輝だ。
 樹はなかなか作業がうまくいかず、身体を上から下からじろじろ見られていることに気がついていない。実際、気がついたところで気にするようなタマではないんだが。
「おい、パシリ。持ち方が悪いんじゃねえかな。もっとこう下から持っててくれ。……ああ、そうそう」
 ぶぶぶっっぶぶーーーー!!!
 今度は頭上に掲げる石の影から、セクシーすぎる下乳が目の前にどどーん!
(そ、そうだ! こ、こ、こんなところにナオランナが2つもあるじゃねえかー!)
 男子なら誰でもそうするだろう。ショウは思わず、石を捨ててナオランナを掴みにいった!
 ガツッ。
 尖った石が顔面に落下した。
 ジョバーーーーーッ!
 ショウは大量のバカブラッドを放出し、再び脳みそがトコロテンとなって倒れた。
 ポトリ。そのとき何かがポケットから落ちたが、誰も気がつかなかった。
「んぱーんぱー」
「おいおい。パシリ、大丈夫か? ん? もう眠っちまったのか。最後まで手伝ってくれねえと困るじゃねえかよ」
「樹さん。私がお手伝いいたしましょう」
 今度は珠輝が石を支え、胸の谷間を味わった。
「これはこれは……素晴らしいものをお持ちですね」
「どうだろうな。使い物になるかどうか」
「それはもちろん色々な使い方があると思いますが」
「ただこれで思いっ切りドーンとやれば、太いのもいけるだろ」
「ええ。その通り。太いのもイケるでしょう」
 会話が成立しているような、していないような。
 この後、すっかり興奮した珠輝は、またどこかのスケベを求めて消えてしまった。
 入れ替わりにやってきたのは……。
「変身ベルトだけは流されなかったッス!」
 葉っぱで大事なところを隠しつつ、腰にはしっかり変身ベルトを構えた愛と正義のヒロイン、ラヴピースことサレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)だ。
「飢えに苦しむみんなのために! ナオランナを採るッス!!」
 行動力だけは誰にも負けないサレンは、さっさとナオランナのなる木を見つけると、登っていった。
 隣の木では、躊躇っていたヴァーナーが木を登りはじめた。
「うんしょ。うんしょ……」
 ヴァーナーはイモムシのようにゆっくりゆっくり登っていく。
 サレンは流石は正義のヒロイン、かっこよくサッサッと登っていく。
 なかなかナオランナを見つけられないラルクは、そばにいたヴィナに何気なく話しかけた。
「やっぱり夜にやることじゃねえよな。夜は素直に寝た方がいいような気がしてきたぜ。どう思う?」
「あなた。ダメよ、こんなところでどうするつもり。やーん!」
 恥ずかしそうに、全裸のラルクにビンタをかます。
 バッチーン!
「いっ。いったああああ!」
 若奥様とはいえ、歴とした男。ラルクはぶっとんで木に激突した。
「おお、いてえ。この俺をビンタ一発でぶっ飛ばすとは、なんて奴だ。けど、おかげで目が醒めた。やる気が出てきた……ぜ?」
 ギヤース! ギヤース!
 ちんちんをぶらぶらさせているからだろうか、ついにパラワシが現れ、ラルク目指して突っ込んでいく。
「な、なにっ!」
 不意をつかれたラルクがやられる瞬間――
「どりゃあああ!」
 パラワシの低空飛行を待っていたかのように、原始人が木の上から飛び降りてきた。
 ギヤーーース!
 原始人はそのままパラワシに乗ると、首を絞める。
 が……ガッツーーン!
 パラワシは原始人を木にぶつけて落っことした。
 ギャッギャ♪ ギャッギャ♪
 パラワシは原始人に糞をたれて去っていった。
「うぐおおお〜」
 片方の肩にかけた毛皮をまとう原始人は、パラワシの糞を頭に乗せたままゆらりと立ち上がった。
「きゃああああ」
「みんな見ろ! 原始人だ!」
「原始人が襲ってくるぞー!!!」
 だが、英希だけは彼が原始人でないことがわかっていた。
「あれは……吉永竜司! やばい。歌を聴かされたら、つい舎弟になってしまう!」
 吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は船の中で舎弟を作ったことをすっかり忘れているようで、英希の顔を見ても何も言わなかった。
 そして、みんなに「違う違う」と首を振ると、
「原始人ではない証拠を見せてやるぜ!」
 と大きな声で歌い始めた。

『♪俺はリュウジ〜。トロールリュウジ〜。イケメン美声の大男〜』

 奇行発症中でない竜司は、酷い歌声で超音痴だった。
「やめろー!」
「バカー! もう原始人でもなんでもいい!」
「二度と歌うんじゃねええええ!!!」
 ギヤースギヤース!
 パラワシが再び糞を頭にかけて去っていった。
「ぬおおお。やい! てめえら笑ってねえで舎弟になれい!」
 ――もしかして。竜司は人付き合いがヘタで、どうしても「友だちになって」と言えないのではないか。だからつい「舎弟になれ」と言ってしまうのではないか。
 英希はパラワシの糞のかかったピエロな竜司の姿を見て、そんなことを考えた。
 そして、竜司の前に出ると言った。
「友だちなら、いいんだけど……?」
「え?」
 そのとき、パラワシが英希に向かって飛んできた。
 ギヤーーース!!!
「うぎゃああああ!」
 英希は猛ダッシュで逃げて、ジャングルに消えた。
「……」
 竜司は「友だち」を作る機会を失った。


 ミレイユは、わりと低い位置にあるナオランナを見つけた。
「ケイラさん。あれだったらケイラさんが手を伸ばせば届きそうだよ〜」
「どれどれ。よっ。ほっ。むおっ……ダメだ。惜しいなー」
 木が密集しているので、別の木を蹴ってジャンプしてみたりするが、それでもギリギリで届かなかった。
「じゃあ、ケイラさん肩車してよ〜」
「え? カタグルマ?」
 ケイラは一見女性だが、歴とした男。ミレイユのむちっとした太股やらあそこやらを首に巻き付けていいものか、躊躇ってしまった。
「あ、ああ。うん。いいよ……」
「よいしょっと」
 むちむちっ。もわ〜ん。
 ケイラはなんとも不思議な気分になりながら、ミレイユを肩車していた。
 と、その時トツゼン――
 ケイラの瞳孔が開いて、
「ツァンダー体操第2! ツァンダー体操第2!」
 腰に手を当てて上半身をあっちへこっちへぐわんぐわん回しまくる。
「きゃああああ! やめてええええ! おろしてえええええ!!!」
 ガッツンゴッツンガッツンゴッツン。
 上に乗ってるミレイユは木にぶつかりまくって、血だらけだ。
「んぱー」
「はっ。……血?」
 目が醒めたケイラの目の前に血が垂れてくる。
 すっかり肩車していることを忘れたケイラは、垂れ続ける血に戦慄!
「うわああああああ! ンカポカの呪いだああああ!!!」
 ミレイユを肩車したまま後退り。
 しかし、後ろにいくら下がっても、目の前には血がポタポタ。
 ケイラはついに恐怖のあまり脳みそがトコロテンになってしまった。
「んぱーんぱー」
 こうして史上初の肩車トコロテンが誕生した。
「あらあら、うふふ」
 一部始終を影から見ていたのは、貝殻ビキニの巫丞 伊月(ふじょう・いつき)だ。
 ブルー・エンジェル号組だが、船でも隅っこからみんなの奇行っぷりをこっそり見て楽しんでいるだけだったので、同乗していることに気がついていない者も多いだろう。
 砂浜で目が醒めると、真っ先にせっかく着ていた着物を脱いで貝殻ビキニに着替えるようなぶっとんだ思考回路だが、パラ実生がトコロテンになるとこんなものなのかもしれない。
 そして、伊月がここに来ている理由も、他の者とは大きく異なっていた。
「こんな楽しい病気が治ってしまうなんて、もったいないよねぇ〜。うんふふふ〜♪」
 ナオランナの効能を確かめ、本当に効くのなら隠してしまおうと考えていた。みんなの敵はンカポカ一味だけではなく、身内にもいたのだ。
「あらあら。イモムシちゃんがあと少しねぇ〜。がんばって〜」
 ヴァーナーが手を伸ばして……ナオランナを掴むが、失敗。落っことしてしまった。
 が、それは伊月がしっかりキャッチ!
 ヴァーナーは同じ木になっているもう1つのナオランナに手を伸ばす。
「今度はしっかり掴みますよー。えいいっ」
 ナオランナを掴んだそのとき!
 ギヤース! ギヤース!
 パラワシがナオランナを横取りしに飛んでくる。
「きゃああああ」
 と言いながらも、ヴァーナーはトツゼン、
「あなただいすき。まるかじりっ!」
 ガブッ!
 パラワシの頭にかじりついた。
「あらあらまあ♪」
 伊月はこれを見て大喜びしながらも、
「あら。見物してる暇なかったわ」
 伊月は自分が掴んだナオランナを木の下に埋めてせっせと隠した。そして、かんざしで木に印を刻んで、後でわかるようにした。
 もし自分が奇行症になってたら、それを飲んでみようと思っているのだ。
 と、そのときトツゼン、伊月の瞳孔が開いて――
「あららら。うふふふ。あららら。うふふふ」
 かんざしを振り回す。
 たまたまそばにいた恭司は突然の攻撃を避けられるわけがなく、首から血がドッバーーーーッ!
「な、なんで俺があ……!!!」
 もう一度言うが、たまたまそばにいたからだ。
「まだ何も……やってねえのに……んっぱー」
 おっしゃる通り何もやってないうちに、脳みそがトコロテンになってしまった。
「んぱーんぱー。俺は……んぱー。まだ何も……んぱーんぱー……やってねえええええ!!!」
 ついに、意地でトコロテンを回避する男が現れた。
「はあはあはあ……そろそろ乾いただろう」
 ポケットから煙草を取り出すと、火を点けた。
「ふう〜。なんとしても、パラワシを捕まえて食べてやるぜ〜」
 血は出続けているので、おそらくこの煙草が最期の一服となるだろう。味わっていただきたいものだ。
 伊月は自分が奇行症を発症したことに気がつかないままなので、当然そこら中の木に印が刻まれてしまったことにも気がついていなかった。
「うんふふふ〜♪」
「おい。ナオランナを隠しただろう」
 恭司は見ていた。自分の奇行のせいだろうか、隠すことに関してはちょっとこだわりがあったのだ。
 煙草をプッと吐き捨てると、問いつめた。
「俺にはわかる。あれは、何かを隠すときの目だ」
「どうかしら。知らないねぇ〜」
 と姿を消した。
 首から血を噴き出してトコロテン寸前の恭司は素速く追うことができなかった。
「くっそう……」
 ゼエハアゼエハア言いながら追いかけると、目の前には見たことのない人間がいた。
 身長は1メートル少々で、顔中が泥まみれだ。
「お、おまえ。……ンカポカの仲間か!」
「んぽかくふぃじゅほぢご」
 泥人間の言葉は聞いたことのない言語だった。
「なんだって?」
「んぽかくふぃじゅほぢご」
 恭司は叫んだ。
「みんな! ンカポカの仲間がいるぞ!」
「うぇいふぉぃあおぢそいあをうぃういうりよづふぃうおうぃひえうん」
 泥人間が走り回り、パニックになった。
 恭司とラルクは、必死に追った。
「待てえええええええ!!!」
 泥人間はどこまでも逃げ、恭司とラルクもどこまでも追った。
 パラワシの頭にかじりついたヴァーナーは、気がつけば上空を飛んでいた。
 逆にパラワシの怒りを買い、大きく鋭い足のツメで掴まれていたのだ。
「たすけて〜〜〜」
 ギヤースギヤース!
 だが、誰もヴァーナーが連れてかれることに気がつかなかった。
 泥人間のパニックで、なにがなんだかわからなくなっていたのだ。
 唯一頭上をしっかり見ていた若奥様のヴィナは、必死にナオランナの数を数えていた。
「きゃあっ。たいへんっ! あと3つ。3つしかないわー!」
 木に登っていたもう1人サレンは、流石はヒロインだ。そのうちの1つをゲットして降りてきた。
 みんながサレンを称えて木の下で待っていると……
 ギヤース! ギヤース!
 今度はまた別のパラワシがやってきた。
「ううう。来るッスかー!」
 サレンは戦おうとするが、木にしがみついてナオランナを持った状態での戦闘は難しい。
 このままでは危ない!
 貴重なナオランナを失ってしまう。
 そのとき、木の下で大声を張り上げる男がいた。
「てめえこのワシ野郎! こっちに来いッ! ツメでもクチバシでもかかってきやがれッ! 俺が相手だぁあああ!」
 比賀一がパラワシに声で喧嘩を売ってみた。
 腹が減りすぎて、まともな手段が思いつかないのだろう。
 が、なんと!
 パラワシはナオランナから一に標的を変更。一気に下降してくる。
 ギヤーーース!!
「うおっ。マジかよ!? でも、やってやる。これに勝てば、みんなが助かる。負けるわけにはいかねえ!!」
 と、そのときトツゼン。
「みみ毛ええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
 どこかに行ってしまった。
 そして、パラワシの目の前には風天が立っていた。
「ハッ!」
 薫の作った貝殻ナイフで、一閃。
 パラワシの首に傷をつけた。
 ギヤース!
 パラワシは首から七色の血を噴き出して、ふらふらと飛行した。
「風天さん。ナイスッス!」
 サレンは油断した。
 実は、パラワシはもう1羽いたのだ。
 隠れて狙っていた狡い“ズルワシ”が迫っていた。
 ギヤーーース!
 ズルワシはまんまとサレンからナオランナを奪うと、そのままパラワシ仲間を置いてどこかに飛んでいってしまった。
「くっそー。狡いッス!」
「簡単な採り方がわかったよ」
 今まで何度も溺れた後遺症で脳みそがトコロテン気味だったエースが、ようやく目が醒めてきたようだ。
「みんなその木の下に集まって……いくよ? えいっ」
 エースは奈落の鉄鎖で、ナオランナを落とした。
 何故今までこのやり方に気がつかなかったのだろうか。みんな、自分たちのアフォさ加減に呆れてしまった。
 ぽかーん。
「ああ! ちゃんと取ってよ!」
 グチャッ!
 ナオランナが割れてしまった。
 が……ぺろぺろぺろ。
 地面にこぼれたナオランナの汁を平気で舌をつけて飲んでしまう者がいた。
「ぺろぺろぺろ……わんっ」
 わんこしいなだ。
 みんなはナオランナの効果があるのかどうか、わんこしいなの様子をじっくり観察した。
「くうん。くううーん……」
 夜ももう遅いため眠いのか、甘えんぼになっている。
 ただ、特に変わった様子は見られない。奇行のにゃんこしいなになる様子もない。
 判断が難しいところだ。
 その間にも、最後のナオランナを奈落の鉄鎖で落っことして、今度は見事にキャッチした。
 パカッとあけて、大の甘党党首である梓がニオイを嗅ぐと……
「うわっ! なにこれー。変なニオイ! 捨てるぞー」
 と躊躇いもなく捨てる――
 のを、みんなで止めた。
「待て待て待て!」
「バカかお前は!!!」
「味もニオイも関係ねえだろがっ!」
 みんなはなんとかナオランナを甘党から奪い返すと、少しずつ回し飲みした。
 梓は不味そうなもんをわざわざ飲むみんなの気が知れず、わんこしいなと一緒にその場を離れた。
 と、トツゼン。
 アメリカンクラッカーでダウジング。カチカチカチッ。
 そして、わんこしいながここ掘れわんわん……と、掘る前にもう地表に出ていた。というより、落ちていただけだ。
 奇行に気づいてない梓は、そのまま行ってしまいそうになるが……
「!」
 虫の知らせか甘党の勘か、振り向いた。
「こ、これは……!!」
 ショウがポケットから落としたチョコレートだった。
「おいしくて栄養たっぷりの世界一スバラシイ食べ物じゃないかーッ!」
「わんっ。わんわんわんっ!」
 わんこしいなが何かを訴えるように吠えていたが、チョコを前にした梓には無駄だ。
「なんだよー。欲しいの? だめだめー。わんこだって虫歯になるんだから、やめた方がいいよ」
「わんわんわんわんわんわんわんわんわんわんっ!」
 パクッ。もぐもぐもぐ……。
「ああ、おいしい。最高だ……!!」
 梓は1人で食べてしまった。
 わんこしいなが動物的直感で教えてくれていたのに、食べてしまった。毒入りのテロルチョコを。
 ナオランナを飲んだ面々は、お互いに様子を確認し合った。
 誰も奇行を発症しなくなったが、それだけではたまたまかもしれないのでわからない。しかし、奇行が通常時に汚染してるヴィナを見れば一目瞭然だ。
「おい、ヴィナ! ヴィナ? どこ行った!!」
 ヴィナを捜した。
 その頃、ヴィナは毒に苦しむ梓を抱きかかえて、わんこしいなとともに浜辺に向かっていた。危険なジャングルではなく、浜辺で休ませようと思っていた。
「大丈夫っ???」
「し、死ぬ〜〜〜。死ぬ前に……お……お……」
「なにっ? 死ぬ前に何っ!!!」
「お……しるこ……食べたい〜」
 梓は全然こりてなかった。
 そしてヴィナは立ち止まった。
「ていうか、ここ……どこ?」
「わんっ!」
 別の場所で、ラルクと恭司も立ち止まった。
 真っ暗な夜のジャングルで、背の低い泥人間を追いかけるのは難しかった。
 泥人間は2人をまいて、高笑いしながら闇に消えた。
「うんふふふ〜♪」