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ンカポカ計画 第3話

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ンカポカ計画 第3話

リアクション


第3章 

「ロウンチガワハ、アチラデス。デモ……セイカクノワルイヒトハ、イカナイホウガ、イイ……ヨ!」
 ボカンッ!
 プルプルガーは蹴飛ばされて、倒れた。
「余計なお世話だぜ、ったく」
 飢えというものは恐ろしい。パラ実生をよりパラ実生らしくしてしまう。
 国頭 武尊(くにがみ・たける)は1人でロウンチ川に向かった。
 そのそばで、ラーフィンは迷っていた。
「えーっと、陣さんはもういいのかな〜」
 陣のナオラーナ計画に協力を頼まれたが、その陣はいまだに砂浜に埋まってトコロテン状態なのだ。
「でも、いいよね。ボクの他にもマシな奇行の人いると思う。うん」
 ロウンチ川を目指して、武尊の後を追った。
 自分自身が魚である荒巻 さけ(あらまき・さけ)も、ナオランギョを釣るようだ。
 だが釣り道具がないため、手段はカミナリと決めていた。
「この中に、カミナリを扱える方はいらっしゃいませんか! 雷術や轟雷閃を扱える方はいらっしゃいませんか!」
 同じことを考えてる釣り人が集まってきた。
「ひゅ〜。さけちゃん。今日はバカにセクシーだね!」
 バカに軽薄な鈴木 周(すずき・しゅう)だ。
 だが、確かにさけはセクシーだった。服が破れ、大きな葉っぱをつけてるだけなのだ。
「キンピカッ!」
「ぐおおおおおっ」
 周はエルのカンチョーに倒れた。
 エルもカミナリで釣るつもりだ。
「はっ。のぞき部の先輩が倒れてる! 大丈夫!?」
「きんぴかぱー。きんぴかぱー」
 周は早くもトコロテンになっていた。
 轟雷閃を使える樹月 刀真(きづき・とうま)もやってきたが、予めさけに断りを入れた。
「一緒に行きましょうか。ただ、俺は轟雷閃の前に試したい漁法があります」
「それは……どんな?」
「ふっ。見てのお楽しみですよ。ブラックナイフ漁法とでも言っておきましょうか」
「はあ〜」
 さけはあまり期待してなかった。いざとなったら、自分にはもっとすごい釣り方があると思っていた。
(わたくしのは、そうですね……“さけと愉快な仲間たち漁法”とでもしておきましょうかしら。ふふふ)
 ロウンチ川を目指す中で冷静な判断能力のある者は、せいぜいこの男くらいだろうか。
 神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)だ。
 ピンク・フラミンゴ号に乗り合わせた神楽坂は、乱れてはいるもののスーツにコート。鞄も持っていた。
『ラルクさん、特大。大和さん、極小。つかささん、特大』
 神楽坂はぶつぶつ言いながら、砂浜で見たことを日記に書き込んでいた。
「おや? これは……?」
 鞄から出てきた謎の女性用パンツを見て、しばし固まった。
 おそらく久世沙幸のパンツだろう。留美が落として、それを恭司がマネーロンダリング奇行でここに隠したのだろう。
『パンツ1枚』
 鞄に戻して日記に書き添えると、ロウンチ川を目指して歩いていった。
「待ってくださーい!」
 もう1人、遅れてロウンチ川に向かうのは、ルイ・フリード(るい・ふりーど)だ。
 目が醒めてスマイルの練習をしていたら、出遅れてしまったようだ。
「ワタシを置いてかないでくださーい」
 ルイは極度の方向音痴のため、1人ではロウンチ川まで行けない。彼らについていかなかったら、大変なことになるのだ。
 やっと追いついたそのとき、トツゼン。
「スマイルめくり! スマイルめくり!」
 ジャングルの大きな葉っぱを夢中でめくっていた。残念だ……。


 ロウンチ川には、飲み水を求めて四条輪廻が来ていた。
「この濁り方は尋常じゃないな。飲めやしないぞ……しかし、凶暴な魚もいるらしい。研究対象としては面白そうだ」
 と、そのときトツゼン――
「見える! 見えるぞ!」
 メガネをくいくいやりながら川を見ると、まったく濁りのない透明な川になっていた。
「これは実に美しい川だ!!」
 喉が渇いている輪廻は、がむしゃらに水を飲んでしまった。
「はっ。……俺は何を? まさか……この唇が濡れてるのは何故だ? うおおおおおお」
 残念だ。
 まずは自分の奇行症をしっかり研究するべきだった。
 このあと輪廻は腹をくだし、何度も何度も原っぱに入ってぼっとんをすることになってしまった。
「ううううう……」
 そして、ナオランギョ釣りに挑もうとしている者もいた。
 翔だ。
「よいしょ……むうーー。重いですね」
 翔は大きな石を持ち上げている。
 これを川岸の岩にぶつけて、ショックで周囲の魚が全部気絶するという現象を利用した通称“ガチンコ漁法”を試そうとしていた。
 しかし、これは生態系を破壊するので禁じられている幻の漁法である。
「ちょーーーっと待って下さい。その漁法はいけません!」
 お茶の間のヒーロークロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)がところどころ破けてしまった黒マントをはためかせてやってきた。
「魚釣りにも、ルールがあります。それだけはいけません。人間らしく、技術で対処しましょう」
 こう見えても、クロセルは川釣りの技術を持っているのだ。
「そうですね。クロセル様、教えていただけますか」
「はい……嫌です。人の世話をしている暇はありませんので失礼っ!」
 クロセルは最近(むだに)くろい部に入ったことからもわかるように、かなり腹黒いヒーローだった。
 だが、仕方ない。どれだけ魚がいてどれだけ釣れるかわからない以上、まずは自分の分を確実に釣るのが一番。それが生き残るための最善の策なのだ。
 クロセルは慎重に月の位置を確認しながら移動した。川の魚は神経質なため、悟られないように自分の動きの影が水面に映らないように注意しているのだ。
 そして、狙いは岩陰や流れが緩やかになっている場所だ。
「よし……いきますか!」
 そこでクロセルは釣り糸を垂らす……のではなく、手にはバリバリと稲妻がまとっていた。
 雷術で魚を気絶させて捕るつもりで、翔のガチンコ漁法と何も変わらなかった。
「ちょっ! クロセル様? 私には禁じておいて、いくらなんでもそれは――」
「酷いですか? ふっ。生きるか死ぬかってときに、きれい事を言うのはやめましょうよ。さ、そこに立ってると稲妻が当たりますよ?」
 クロセル・ラインツァート、なんてくろい奴。
 しかし、まだ甘かった。
「むむむ? これは?」
 ぐるぐるぐるぐるぐるぐる……。
 クロセルの両足がいつのまにかツタでぐるぐる巻きにされていた。
「プール処刑人改め、ロウンチ処刑人……閃崎 静麻(せんざき・しずま)だ。あんた、さっき俺にも言ったよな。ガチンコ漁法は禁止だって」
「まだいたんですか……」
「反省してちゃんとミミズを探したりしてたんだが、まさかこんなオチだとはな」
 と、クロセルがトツゼン。
 どこからともなく藁人形を出して、岩に打ち付ける。
「堕ちろ堕ちろ堕ちろ……」
「いーや。落ちるのはあんただ。このロウンチ川とやらにな!」
 クロセルの足を持ってぶるんぶるん。ジャイアントスイングで勢いをつけて、
 ひゅーーーーーーーーーー。
 どっぼーーーん。
 バシャバシャバシャバシャッ!!!
 一気にパラニアの大群が集まって跳ねている。
 そこに、遅れて武尊がやってきた。
「おお! これはいいぜ。利用させてもらおう」
 血も涙もない。
 武尊は軽身功で川面を駆け抜けると、クロセルに食い付いているパラニアをライトブレードで一突き!
「あーーーらよっと!」
「堕ちろ。堕ちろ。落ちろ。落ちろ……」
 そのとき、クロセルが武尊の足に藁人形をコンコンコン。
「うぎゃああああ! いってえええ!」
 武尊はバランスを崩して……
 バッシャーーーン。
 川に落ちた。
 バシャバシャバシャバシャッ!!!
 武尊にもパラニアの大群が群がる。
「うおおおお! 俺を食ってんのか。ちくしょう! こうなったらやってやる。食いたかったら食いやがれ。……こまけぇこたあいいんだよっ!!!」
 武尊は手足をパラニアに食われながら、さらに潜った。
(こんだけ間近で見られりゃよく見えるってもんだぜ。パラニアの大群の下に……ナオランギョ、見つけたぜッ!!)
 ライトブレードを一突き!
「だりゃああああ! 南無八幡!!!」
 見事、ナオランギョをゲット。
 が、そのとき――
 バリバリバリバリバリバリ!
 エルが大量のパラニアを捕まえようと雷術をぶちかましていた。
「あれ? 誰かいたの? ごめーん」
 体力がなく、腹も減っていて判断力がかなり鈍っているのだから、仕方ないだろう。
 ぷかあ。
 クロセルと武尊、そして大量のパラニアが川面に浮かんだ。
「キミたち、運が悪かったね。ボクにはね、魚を待ってる人がいるんだ」
 と自ら川に入って、一匹ずつパラニアを取る。
「これは蒼ちゃんの分。これはケイラの分。これはミレイユの分……よしっと」
 そのとき――
 バーーーリバリバリバリバリバリ!
 エルも感電し、川面に浮かんだ。
 周が跳ねる魚を見て直感的に轟雷閃を放ってしまったのだ。
「あれれー。みんないたのかよ。全然気づかなかったぜー。悪い悪い」
 体力の限界というのは本当に恐ろしいことだ。
 彼らには判断力の欠片もないようだ。そしてまた、周も魚を捕るべくズブズブと川に入っていく。
「おお。エルもいたのか。ごめんなー。はいこれ。さっきもらった分。キンピカッ!」
 ズボッ。
 先程の仕返しに、カンチョーをしてやった。
「はっはっは。部の先輩を舐めんなよ、なんてね。冗談だよ冗談」
 エルは脳みそがトコロテンになっていた。
 そのとき、周の視界に黒い何かが入った。
「ん? 今のはなんだ?」
 改めて振り向くと、そこには全裸の刀真が“黒い刀身の剣”を構えていた。
「ナオランギョ……あと少しの命ですよ。ふふっ」
「刀真……それは……もしかして?」
「黒い刀身の剣ですが、何か?」
「く……くろいちんちんだよな?」
 と、そのとき刀真がナオランギョを発見。
「そこだああああ! 我がブラックナイフ漁法の前にひれ伏すのだッ!」
 ズバーッ!
 股間に構えた“黒い刀身の剣”をバッシャーン!
 がぶっ。
「がぶっ?」
 “黒い刀身の剣”は、ナオランギョに噛まれた。
「いっっっっったあああああああああいぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいい!!!!!」
 刀真は脳みそがトコロテンになってしまった。
「信じがたいバカだな。なんでいっつも刀真だけのぞきが成功するのか、ぜんぜん納得できねえよ……お。あぶねえ!」
 周は感電したパラニアが生気を取り戻すのを感じ、慌てて岸に上がった。
 静麻はクロセルを川岸にあげようとツタを引っ張っていた。
「おりゃあああ。はあはあ、重いな……」
「お手伝いさせていただきます」
 翔も手伝って、2人でなんとか引っ張り上げた。
 しかし、傷だらけのクロセルに魚は一匹もついてなかった。
「残念でございますね」
「ああ。餌が悪かったのかな。腹黒いから」
 と、そのとき。
「おわっ。なんだ?」
 今度は静麻の足がぐるぐる巻きにされていた。
「餌が悪いのなら、他の餌で試すしかありませんね……」
「え……なんであんたがここに?」
 静麻が振り向くと、今“島で最も飢えた男”リュースが立っていた。ロープという名の釣り糸を握って。
「や、やめろ! 慌てるな。一緒に釣りを楽しもうじゃないか。一匹目はあんたにやってもいい。なかなかの条件だろ?」
「ははは。食糧のためです。生きるためです。あきらめてください」
 リュースはまったく聞く耳を持たず、釣り糸を引っ張ってぐるんぐるん回して勢いをつける。
 と、今度は黒いちんちんにナオランギョが噛み付いたままの刀真が声をあげた。
「ま、待て! そ、それ、俺の服じゃねえかっ!!」
 その通り。リュースは刀真がきれいに畳んでおいた服をつないで釣り糸にしていたのだ。
 が、何人たりともリュースを止めることは出来ないのだ。
「うわあああああ。やめろおおおおおおおおおおお!!!」
 ひゅーーーーーーーーーー。
 どっぼーーーん。
 飢えたリュースに容赦なし。諸行無常の響きあり。
 ――ロウンチ処刑人の静麻は、川に沈んだ。
 バシャバシャバシャバシャッ!
 パラニアの大群が群がるのを見て、リュースは満足そうにニヤリと笑うと、静麻を引き上げた。
 と、そのときリュースがトツゼン。
「ワンツッ。ワンツッ。ワンツッ」
 釣り糸を持ったままエアロビを始めてしまった。
 岸で踊るリュース、川を右へ左へ流される静麻、それに合わせて跳ねるパラニア……。
「なんて嘆かわしい……!」
 さけは葉っぱで水着を作りながら、リュースの様子をじっくり観察していた。
 引き上げても何も釣れず、ただ静麻が傷だらけになっているだけ。
 リュースはすっかり脳みそがトコロテンになっていた。
「んぱーんぱー」
「わたくしの漁法は完璧ですわ。名付けて、“さけと愉快な仲間たち漁法”。行きます」
 さけは川岸の岩に座禅を組み、瞑想。
 精神を統一し、自分に宿るおさかなフェロモンを漂わせている……つもりだ。
 そして、いよいよ自分の守護霊である三崎まぐろの美咲まぐろ君を呼び出す。
「まーぐーまーぐー。まーぐーぐー。美咲まぐろ様、美咲まぐろ様。我にナオランギョを捕まえるお力をお貸しくださいー。まーぐーまーぐーまーーーぐーーーーーーーぐーーーーーーーー」
 そのまま瞑想を続けると……ぐーぐー。
 疲れていたのだろう。さけはうっかり眠ってしまった。
 さけに期待して見ていたラーフィンは、背中をポンと押してやった。
「寝てないで、捕ってきてね!」
 ざっぶーーーん。
 パラニアは例の如く凄まじい勢いで集まってきたが、さけも目を覚ました。
「こうなったら……」
 脇の下をガバッと開いて、おさかなフェロモンをぷおーんと出した。
「たかが川魚に、わたくしが食べられるとお思いですのっ! さけの一生を舐めないでいただきたいわっ!」
 作戦成功か、パラニアは退散した。
 ただ、さけは具体的にナオランギョを捕まえる方法は考えていなかった。
「うう。わたくしとしたことが……まぐろさ〜ん! お助けを〜。お力を〜」
 しかし、まぐろは現れることなく、さけは仕方なく岸にあがった。
「さけちゃーん。げんき〜?」
「まぐろさん?」
 確かに美咲まぐろの口調は非常に軽薄で、こんな感じなのだ。
 が、待っていたのはスケベブラッドをだらだら垂らしてる周だった。
「濡れた女の子って、ほんと……へへ。へへへ……ああ! せ、背中に!」
 と手を回した。
 さけは、スケベ行為をされるに決まっているので全力で引っぱたいてやった。
 バッチーーーーン!
「わたくしはそんなに甘くありませんわよ」
 ぼとっ。
 そのとき、背中から何かが落ちた。
「これは……?」
 さけの背中の葉っぱに引っかかっていたのだろう、ナオランギョだ。
「まさか、まぐろさんが……?」
 このとき、川原で写生していた白菊 珂慧(しらぎく・かけい)は、不思議な抽象画を描いていた。
「僕。また変な絵描いちゃったなあー」
 美しく泳ぐ荒巻さけと、それを見た周のスケベブラッドが画面いっぱいに飛んでいる。その真っ赤な血の中に、何故か宙に浮く大きなマグロの姿があった。
「どうかしてるよね……はは」
 さすらいの画家は、また別の写生スポットをめざして去っていった。
 そして、どこからともなく聖が現れた。
 岸に打ち上げられた黒いちんちんに噛み付いてるナオランギョを観察して、
「なるほど。これがナオランギョですか。サケにそっくりでございますね」
 バシッ!
 一瞬にして拓をとり、刀真がようやくトコロテンから醒めた。
「んぱ? 魚拓を?」
「いえ、あくまでもちん拓でございます」
 聖はにっこり微笑むと去っていった。
 結局ナオランギョを捕まえたのは黒いちんちんの刀真と、感電しながら意地の一突きで刺した武尊と、何故か背中にひっかかっていて捕れた荒巻さけ。この3人だけだった。