リアクション
卍卍卍 鬼崎 朔(きざき・さく)は、扶桑の都にある高台から都を見下ろしていた。 そこで、馬を引いた一陣と出会う。 「朔様、間違いないであります! スカサハのデータと一致するであります! 同一人物に間違いないであります!」 スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が、テクノコンピューターから顔を上げた。 朔は頷く。 「日数谷! 探したよ、おとなしくしろ!」 彼女が投げた鉤爪のついた縄が飛んでくる。 現示はとっさに刀を構え、鉤爪が柄に巻きついた。 「……ッ! 何だ、てめえは?エリュシオンの奴らか?!」 「ご名答。第四龍騎士団の鬼崎 朔だ、覚えてほしいな」 朔が鉤爪を引き、縄がピンと張った。 「瑞穂藩主様の命で、俺たちを追ってきたのか」と、現示。 「いや、それは違うね。私は、貴方に幕府を頼れと言いに来たのだから」 「どういうことだ?」 「能力があるなら活かしてやるべきだ。例え、敵であろうとね。それに……何も償わせないまま逃げまわる臆病者を、そのまま殺すという『理不尽』も許せない」 「……臆病者だと? それは俺のことか? てめぇ、ケンカ売ってんなら買ってやるぞ」 現示は片手で脇差を抜き、縄を打った切った。 反動で朔がバランスを崩す。 魔道書アンドラス・アルス・ゴエティア(あんどらす・あるすごえてぃあ)が、氷術を唱え、彼女の使い魔たちが一斉に非難した。 「クククっ! 忠義や誇りも大事だが、大切なのは『信念』だ。己自身から逃げたら、それこそ『侍』失格だろう?」 周囲の空気が一気に冷える。 馬が驚いて立ち上がった。 現示は馬から飛び降り、刀を抜いて飛び掛ってきた。 「第四龍騎士団の人間が何をふざけてやがる。若殿様に何を言われた?」 「正識は現示を利用してるんだ。彼は本気を出すわけでもなく、現示たちを適当に泳がせて、その間にマホロバをどう乗っ取るか調べてたんだよ」 「そんなこと……!」 現示は手を止め、朔を睨みつける。 「あんたには率先して幕府に付いて欲しいさね。あんたが動けば、未だ迷っている瑞穂藩士の連中も幕府に付く可能性が高いさ」 茨木 香澄(いばらき・かすみ)はそう言って、説得を試みる。 煙幕を撒き散らし、外からの視界を遮った。 「他の龍騎士がどこから見てるかわからないからさ。この煙が晴れるまでに、進退を決めてほしいさ。あんただってやり方は違えど、マホロバの事を想って行動したんだろ?」 「まったく、どいつもこいつも」 煙はどんどん濃くなり、やがて現示の姿の判別しづらくなった。 彼の声のみが聞こえる。 「てめえら、今度会ったときは敵同士だかんな! 覚悟しておけよ!」 「日数谷……」 朔が言った。 「ああ、そうだな! 瑞穂藩主には……あの黄金の天秤には気を付けろよ。何の力があるのかはしらないが、嘘発見器の様な物に違いない……!」 再び朔らの視界が戻ったとき、現示たちの姿は消えていた。 「行ったか……私たちも西へ戻るぞ」 彼女たちは移動を開始する。 卍卍卍 「――日数谷が寝返った? そうか」 正識は、穴の開いたパラミタ地図から目を離さずに言った。 「ならばこちらも大義ができたな。藩内には、彼らに同情する声もあったから」 正識は城から眼下を眺めた。 整然とした隊列を組んだエリュシオン第四龍騎士団と、帝国式装備の瑞穂藩士の姿がある。 「これまで日数谷たちを追いながら、マホロバの現状を見てきた。惨憺たるものだ! この状況からマホロバを『救う』のは我らしかいない。人々を惑わせる『天子』などこの地には不要なのだ」 正識の熱っぽい鼓舞が続く。 「聖樹ユグドラシルに祝福を受けしものたちよ。今こそ我らが鬼を追い払い、マホロバの地を清浄するときである――我らが光へ導くのだ!」 正識の掛け声に一斉に歓声が起こった。 |
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