|
|
リアクション
第八章 桜下の再会3
「……扶桑が、他の世界樹と繋がるとでもいわはるんですか」
橘 柚子(たちばな・ゆず)は、武神 雅(たけがみ・みやび)による話を聞いてただ驚いていた。
「世界樹同士がもつコーラルネットワークを用いて、治癒することができないかということだ。世界樹の問題はマホロバだけでなく、パラミタ全土の問題でもある。だから、シャンバラ政府は認めることにしたんだと思う」
「認めるとは?」
「扶桑が世界樹イルミンスールにアクセスすること」
これには柚子も驚きを隠せなかった。
きけば、世界樹は序列があり、そのなかでもイルミンスールは最下位にあたる。
他の世界樹が妨害を仕掛けてくる可能性もある。
無事に成功したからといって、イルミンスール、扶桑ともに倒れる危険性もあった。
もし、そうなれば世界的な問題に発展するといっていいい。
マホロバはそこで責任が取れるのか?
それでも実行するというのか?
「問題はもう一つ、扶桑から接触しなければならないこと。最下位のイルミンスールにはアクセス権がないらしい。扶桑にその気がなければ、無駄だということだ。そこで……」
雅は扶桑の傷を見つめた。
「扶桑にそのことを伝えてほしいのだ。これができるのは、パートナーが扶桑に取り込まれている柚子しかできんだろう」
「……よろしおす。私にできるのなら」
柚子は、穢れを祓い身を清め、天子を自らの身体に神を宿すべく扶桑の前に立った。
祝詞を唱え、神遊(神楽)する。
高天原に神留座す。神魯伎神魯美の詔以て。
皇御祖神伊邪那岐大神。
筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に
御禊祓へ給ひし時に生座る祓戸の大神達。
諸々の枉事罪穢れを拂ひ賜へ清め賜へと申す事の由を
天津神国津神。
八百萬の神達共に聞食せと恐み恐み申す
柚子の神遊(神楽)を見守るように、安倍 晴明(あべの・せいめい)と天乙 貴人(てんおつ・きじん)がその警護をしていた。
「刀真様……」
秋葉 つかさ(あきば・つかさ)が、扶桑の下で横たわる刀真の手を取る。
傷の手当はされていたが、彼たっての希望でまだ扶桑のそばにいた。
「確かに成功するかはわかりませんね。もしかしたら、私たちはとんでもない過ちをおかそうとしているのかもしれません。それでも、私は白花様達の解放を願います。彼女たちを戻す事が貞継様を元に戻す事に繋がると信じて……」
柚子の祝詞は続いている。
つかさは扶桑の前に進み出た。
吸血鬼ヴァレリー・ウェイン(う゛ぁれりー・うぇいん)が、彼女の耳元に囁く。
「つかさ、お前が決めたことなのだな。俺様は何も言うまい、一緒にどこまでも付き合うぞ」
ヴァレリーが唇から白い牙をのぞかせる。
「伊達に長年吸血鬼をやっているわけではない。真の吸血とやらを教えてやろうぞ」
「は、魔鎧は護る為にあるものだ、貞継の馬鹿がお前を迎えに来るまで、俺がお前らを護る。ぜってぇ死なせはしねぇ! 何処までもいってやるぜえ。それが世界の果てでもなあ!」
魔鎧蝕装帯 バイアセート(しょくそうたい・ばいあせーと)はぐるぐるとつかさに巻きついていた。
「そうさ、いざとなったら俺達3人だけでやっていけばいいんだよ、所詮俺達は嫌われ者! 誰とも相容れないんだよ!」
つかさは小さくうなづいた。
そう、恐れることはないのだ。
たとえ他人に拒絶され、絶望し、世界から孤立しても、つかさは願い続けるだろう。
『誰かとつながっていたい』と。
彼女は扶桑に抱きつき、口付ける。
「天子様、あなたもそろそろ開放されるべきです。一度は托卵を身に受けた私に、そこまでの力はあるとは思えませんが、代われるものなら代わって差し上げます」
つかさの瞳に涙が滲んでいた
「……私には想ってくれる方も居ません、ですが他の方にはいる。覚悟は。出来ております。この私の魔力全て注ぎましょう……!」
【パラダイス・ロスト】
つかさの頬を涙が伝った。
彼女の想いは扶桑へと注がれる。
そして遠い森。
世界樹イルミンスールへと。
◆◆◆
「開耶……さん、今聞こえましたか?」
封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)は、扶桑の中で
木花 開耶(このはな・さくや)に尋ねる。
ややあって、開耶から返事が来た。
「ええ、祝詞がきこえる……柚子が唄うてんのやろか」
「外の世界と、世界樹と繋がるように……扶桑にと……」
「ほんまや。けど天子様は……ここには……」
天子はこのところ気配すら見せなくなった。
「もし、このままなら、私が残ります。白花はんや(SFL0003468)リース・バーロットはんだけでも、解放してください」
開耶は扶桑の中で祈り始めた。
しかし、白花もはっきりと答える。
「いいえ、私たちが扶桑からでるときは一緒です。扶桑の中の天子様を探しましょう……」
彼女たちが意識を集中していると、小さくうずくまっている人がいた。
その人はどんどん小さくなっていく。
まるで心が小さく削られていくように。
「天子様……?どうぞお心をひらいてください」
しかし、天子は逃げるように消えようをしている。
「いかないでおくれやす。どうかお手を……」
「手を……握ってください……!」
彼女たちが必死に伸ばす腕。
ためらいがちに差し出される指。
精神の絆――
急激に眩しい光に包まれていた。