リアクション
卍卍卍 「……驚いた。正直、この世にそんな方法があるとは思いもよらなかった。この時代の者もなかなかやるにゃ!」 マホロバ城西の丸で鬼城 貞康(きじょう・さだやす)は夜中、ごりごりと野草を石鉢で磨っていた。 影月 銀(かげつき・しろがね)とミシェル・ジェレシード(みしぇる・じぇれしーど)がそれを手伝っている。 貞康(さだやす)の目となったというミシェルは、扶桑の都で自分が見てきたことを話した。 「世界樹イルミンスールの力を借りて、扶桑を回復させたみたいですよ。そのために、イルミンスールの樹があやうく枯れかけたっていう情報もあるわ」 「ふむ、問題は三つだにゃ。一つは、世界樹同士でもおそらく禁じ手だったのだろう。同じ手は使えまいな。二つに、これでマホロバはシャンバラ……とくにイルミンスールに借りを作ったということになる。攘夷派が黙っていないかもしれん。三つめは、天子様は今まで、こんな方法があるとはおっしゃっていなかったはず。つまり、天子様にとっても望んでいなかった、もしくは、ギリギリまで避けたかった事情があったのだろうな」 「それはどういうこと? 貞康様は天子様のことをよく知っているんでしょう?」 貞康は自らが煎じた薬草を水とともに口に流し込んだ。 自作の強壮剤という。 口をぬぐいながら苦そうな顔をした。 「わしが存じ上げているあの方は、二千五百年前のお姿だからな。あの時は乱世で、マホロバが荒れていた。あの方もボロボロに傷ついていた。マホロバの姿は、あの方ご自身であった……」 貞康は湯のみを放り上げ、刀を持って庭に出た。 「わしはマホロバを戦のない、平和な御世にすると。そのためにいかなる手段を持っても、何かを犠牲にしてでも、全力で泰平のための社会を築き上げ、栄えさせると誓ったのだ。天子様に『人間』にしていただいた瞬間から……!」 月下の明かりを頼りに、貞康が刀を振っている。 銀は良い太刀筋だと思った。 「所詮、噴花は誰にも止められん……誰にもな!」 「それで、あなたは、その噴花をみたんだな? 人々が沢山死んでいくのも。それでもなお、マホロバには、扶桑には噴花しかないと言うのか?」 「……ない。人が生まれ、死んでいくのは理。国もまた同じ」と、貞康。 「だが、わしはそのための復興にあらゆる手を尽くしたつもりだ。そして二千年経って栄えたこの地を見て、それは誤りではなかったのだと思うておる」 「じゃあ、貞康様は昔の人なのに、とっくに亡くなってるはずなのに、何で、今ここにいるんですか?」 ミシェルが聞いてみたいと思っていた事を口にする。 貞康は冷笑した。 「わしはただの……貞康公の『記憶の一部』にすぎん。予備のためのな。そしてこの身体も借り物……」 「え、記憶って? 予備って?」 「天子様にお願いして、鬼の力と記憶の欠片をいくつかに分散しておいた。万が一の時のために。しかし、あの瑞穂藩主は、いったいどこでそれを知ったのやら!」 貞康は大きく息をしながら、刀を振りあげた。 「貞継(さだつぐ)の身体、若くて軽いのはいいんだが、力がないな。もっと鍛えてやるか……!」 |
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