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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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    ★    ★    ★
 
「司よ、このミイラを調べられるか?」
 ウォーデン・オーディルーロキが、月詠 司(つくよみ・つかさ)にサイコメトリを頼んだ。
「これを触るんですかあ。とりあえずやってみますか……」
 ちょっと躊躇しながらも、月詠司がミイラに近づいていった。
「できましたあ。さあ、疲れているのであれば、このスタミナカレーを」
 アーサー・レイスが、へたり込んでいるように見えたサツキ・シャルフリヒターにカレーを勧めた。
「ちょっと、今はそんな場合ではないでしょう」
 あわててサツキ・シャルフリヒターがカレーをはねのける。これでは、元気なのがもろ晴れだ。
「ああっ、我が輩のカレーが!」
 はねのけられたカレーが、カプセル横に放置されていたミイラにかかった。その衝撃からか、ミイラが粉々に砕け散る。
「ああ、なんと言うことを!」
 月詠司とアーサー・レイスが、別の意味で叫んだ。
「あちゃー、こりゃだめだわ」
 もうサイコメトリはできないと、シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が肩をすくめた。
「何をやっている!」
 土方 歳三(ひじかた・としぞう)が怒鳴った。あわてて、アーサー・レイスが逃げだして身を隠す。
 すぐさま、土方歳三が、フラワシの天国への扉の攻撃目標をアラバスターに定めた。
「なんだ!?」
 見えない攻撃を受けて、さすがにアラバスターが動きを止めた。止まっているレセプターの上に飛び乗って身構える。
 その一瞬を好機と考えた者が複数いた。
「もらいました」
 それまでずっと姿を隠して千載一遇のチャンスを狙っていた服部 保長(はっとり・やすなが)が、背後からブラインドナイブスをアラバスターの腕めがけて仕掛けた。
 同時に、さざれ石の短刀を持った源鉄心がバーストダッシュで突っ込んでいた。頭上に機晶爆弾を投げ、自らを巻き込みつつも敵の隙を作ろうとする。
「はわ……ぽちっ……なの!」
 源鉄心の機晶爆弾の爆発に驚いたエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァが、エシク・ジョーザ・ボルチェと共に起爆スイッチを押してしまった。
 アラバスターの足許でも機晶爆弾が爆発し、上下から一気に爆風がアラバスターとそこにむかった者たちを襲った。いくつかのレセプターが破壊されて倒れ、あと一歩であった服部保長と源鉄心もアラバスターとは別の方向に吹っ飛ばされて床に転がる。
「今です。封印ですわ!」
 イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が、アラバスターを封印呪縛しようと魔石を投げた。
「むっ」
 とっさに、アラバスターがけんちゃんで魔石を弾き返す。そのとき、わずかにけんちゃんの刃が欠けたようだ。
「あーん、ずるいですわ」
 イコナ・ユア・クックブックが、泣きながら転がってきた魔石を拾った。
『――今です、燕馬!』
 サツキ・シャルフリヒターが、天井近くに隠れて隙をうかがっていた新風 燕馬(にいかぜ・えんま)をテレパシーでうながした。
「もらった」
 迷彩防護服とブラックコートに身をつつんだ新風燕馬がトリガーを引く。だが、その瞬間、新風燕馬が背をつけていた壁が突然動いた。
「これは……くそ」
 身体を動かされ、狙撃が逸れる。あわてて移動すると、壁にぽっかりと空いた穴から、大量のサテライトセルがなだれ込んできた。
 無差別に投げ落とされてくるランサーに、レセプターの陰に狂血の黒影爪で潜んでアラバスターの死角に回り込もうとしていたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が、あわてて応戦しながら後退する。
 その隙に、アラバスターが体勢を立て直した。
「馬鹿め、大幅に施設を傷つけて修理細胞を呼び込んだか」
 自分にも襲いかかってきたサテライトセルをけんちゃんで叩き斬りながらアラバスターが言った。サテライトセルにとっては、アラバスターも異物である。
 新たな敵の登場に、戦いは混迷を極めた。集中攻撃を受けてアラバスターも満足に動けないでいたが、なにしろ魔導球とサテライトセルの数が多い。特にサテライトセルは、遺跡のコントロールシステムが一斉に各部のラボから呼び寄せたらしく、尋常ではなかった。それが邪魔となって、なかなかアラバスターに接近できなかった。
 だが、アラバスターの台座とカプセルに対する攻撃も弱まった。その間に動く者もいる。
「この台座にはどんな秘密が……。司よ、今度こそ調べられるか?」
「ええと、とにかくやってみましょう」
 ウォーデン・オーディルーロキに言われて、月詠司が台座に触ってサイコメトリを試した。今度は邪魔者がいないので成功する。
 多くの者たちがこの台座を設置している光景が浮かんでくる。近くにいる者の一人に見覚えが……。まさか、ストゥ伯爵だろうか。すでに大剣が突き立てられている場所が、台座で被われた。剣が力を増す。木が根を生やすように、大剣から何かが伸びて、その下にある物に入り込んでいく。だが、別の根がそれを邪魔しようとした。根同士が戦い、それが、えんえんと続いていく。
「これは……。剣がシステムを制圧していたのかな? であれば、策もあるかもしれぬ」
 テレパシーでその様子を感じたウォーデン・オーディルーロキは、そばに落ちていたレイナ・ライトフィードのレプリカデュエ・スパデを台座の穴に突き立てた。
「よし」
 満足そうにうなずくと、アラバスターにむかって大声で呼びかける。
「見よ、それは偽物じゃ。剣は元に戻したぞ!」
 ウォーデン・オーディルーロキの言葉に、アラバスターが思わず反応した。
「偽物を使って……」
 自ら持っている大剣を振って、アラバスターの一人が鼻でせせら笑う。
「おぬしが本物か!」
 その瞬間、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が飛び出した。呼応して、ソア・ウェンボリスも別の方向から飛び出す。
左右から、古代シャンバラ式杖術で二人がアラバスターに襲いかかった。だが、その間に多数の魔導球が飛び込んできて邪魔をする。
「どこからこれだけの魔導球が……」
 襲い来る魔導球を必死に杖で弾き返しながら、悠久ノカナタとソア・ウェンボリスが後退した。
「なあに、ちょっとした手土産だよ」
 その声に、緋桜ケイたちが驚いて上を見あげた。
 サテライトセルたちの現れた穴の一つから、大きな魔導球に乗った男がゆっくりと降下してくる。
「オプシディアンか。よけいなことを」
 アラバスターがつぶやく。
「オプシディアン、なんでここに!?」
 予想もしなかった者の登場に、緋桜ケイが叫んだ。
「別に、誰にも邪魔されなかったのでな。ちょっと様子を見に来ただけだ」
 黒曜石の仮面の奧で、オプシディアンが軽く笑ったようだ。
 他のカスタムイコンがマークされる間に、ノーマークだった彼は、遺跡上部にイツパパロトルをステルスマントで隠し、遺跡内部に侵入してきたのである。
「魔導球とは、本来こう使うものだ。ゆけ」
 オプシディアンが命じると、魔導球が複雑なフォーメーションを組んで襲いかかってきた。
「コントロールに集中している今なら……」
 オプシディアンを狙撃しようとした新風燕馬の手で、魔銃カルネイジが白熱した。
「あちちちち」
 あわてて新風燕馬が銃を取り落とす。周囲に、三基の魔導球が浮いている。マイクロウェーブで銃を加熱されたのだ。
『――移動して!』
 サツキ・シャルフリヒターの警告に、あわてて移動して身体を焼かれるのをまぬがれる。
「敵の動きが予測できない……。まさか、全部バラバラに動いている?」
 攻撃パターンを読もうとしたサツキ・シャルフリヒターが、困惑した。
「我が魔導球を甘く見てほしくないな。これらは、小型の機晶姫と同じだ。コントロールなど必要ない。命じればよいのだ。ただ、倒せとな!」
 激しく舞い踊る魔導球に、一同が翻弄される。
「ここで守らなくちゃ、なんのための私だ。急いで、もっと!」
 なんとかカプセルを守りながら、ココ・カンパーニュが叫んだ。まだ、アルディミアク・ミトゥナは無防備だ。
 もはや、周囲の者たちが壁となってカプセルを守っている状態だった。
「破壊しろ」
 淡々とオプシディアンが魔導球に命じた。
 そのとき、ようやっとカプセルのフードが開いた。
 ローザマリア・クライツァールと緋山政敏がアルディミアク・ミトゥナを急ぎカプセルの中から引っ張り出す。
 直後に、真上から落ちてきた魔導球が、カプセルを貫いた。床まで貫通する穴が空き、千切れた回路からスパークと煙があがる。
 同時に、台座の周囲にも、円環状に多数の魔導球が床に穴を開けて激突していた。表面上は穴が空いただけであるが、内部はどうなっているのかは分からない。
「シェリル!」
 助け出したアルディミアク・ミトゥナをそのままお姫様だっこに移動しようとした緋山政敏を突き飛ばして、ココ・カンパーニュが妹を奪い取った。
「よかった」
「お姉ちゃん? 私はいったい……」
 だきしめるココ・カンパーニュの腕の中で、アルディミアク・ミトゥナが目を覚ました。その瞳に、思いもかけない人の姿が映る。
「アラザルク!? アラザルクなの!」
 ココ・カンパーニュの腕を飛び出したアルディミアク・ミトゥナが、アラザルク・ミトゥナにだきついた。
「もはや、シトゥラリを止めることはできまい」
 ココ・カンパーニュたちは無視して、オプシディアンがほくそ笑んだ。
 壁際にまで後退していたアラバスターが、フンと鼻を鳴らす。
 そのとき、突然激しく遺跡がゆれた。アイランド・イーリらによる砲撃が始まったのだ。
「なんだと!?」
 サテライトセルが侵入してきた小型通路から、爆風が炎と共に室内に流れ込んでくる。それにあおられて、アラバスターがややバランスを崩した。
「もらったんだもん!」
 その一瞬の隙を突いて、ユノ・フェティダ(ゆの・ふぇてぃだ)がアラバスターの手からけんちゃんを奪い取った。
「よくやったのだ、ユノ!」
 リリ・スノーウォーカーが歓声をあげる。
「えへへっ、えっ!?」
 自慢げにけんちゃんを高く掲げたユノ・フェティダが突然頭を誰かにわしづかみにされて引きつった。
「まったく。本当にお前たちというものは、油断も隙もあったものではないな」
 ユノ・フェティダの頭をわしづかみにしたオプシディアンが、ぎりぎりと手に力を込めた。
「痛い痛い痛い!」
 ユノ・フェティダが悲鳴をあげてけんちゃんを取り落とした。
 そこへ、キノコマンが自分を身代わりにしてくれと言わんばかりに飛び出していった。
「邪魔だ!」
 煩わしげに、オプシディアンがユノ・フェティダを投げ捨ててキノコマンを薙ぎ倒した。
「渡すものかよ!」
 閃崎静麻が、ワイヤークローを投げてけんちゃんを引っ掛けた。そのまま引き寄せようとするのを、アラバスターがリターニングダガーでワイヤーを切断する。
「甘いな」
「だめだよ!!」
 剣を拾おうとするオプシディアンに、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)がエンペラースタッフを投げつけた。一瞬オプシディアンが手を引いたわずかな隙に、コハク・ソーロッドがテレキネシスでけんちゃんを引き寄せる。そこへ迫るアラバスターの前に、ローゼンクライネがスカートの裾を回転で広げながら、大きく回し蹴りを放って牽制した。
 けんちゃんを手にしたコハク・ソーロッドは、迷うことなく元の台座に突き立てた。
「外の攻撃が激しくなったようだ。退くぞ、ミクトランテクウトリ」
 砲撃らしい振動を気にしてオプシディアンが言った。どうやら、外においてきているイツパパロトルが心配なようだ。
「仕方ない。とりあえずは従うとするがな、テスカトリポカよ」
 しぶしぶ、アラバスターが答えた。
 すでに破壊されていたと思われたメイドロボが、突然黒煙を上げて爆発する。爆発自体は大した物ではなかったが、黒煙は室内では充分な煙幕となり、オプシディアンたちが撤退するまで二人の姿を隠したのだった。