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リアクション
【2】
月詠 司(つくよみ・つかさ)が気が付いた時、記憶がごっそり抜け落ちていた。
覚えているのは、自分の名前と、横のシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)の名前と顔。クルセイダーがとても面倒な敵であること。その三つだけだった。
「私は一体誰なんでしょう……。何も思い出せないなんて……」
「どうしたの?」
「あ、あなたはシオンくん……ですよね、確か。あなたの事は知ってる……ということは、あなたなら私の事をご存知ではないですか?」
「何の話……?」
シオンは、司の状態がわかると、イタズラを思いついた子どものように笑った。
ように、と言うか、子どもでないことを除けばその通りなのだが。
「……自分の事を忘れるなんてしょうがないわね。仕方ないから教えてあげるわ。ツカサはオカマの花妖精よ」
「お、オカマ!? 本当ですか!?」
「ワタシが嘘をつくわけないでしょ♪」
「……記憶の片隅で、何かが警鐘を鳴らしている気がします……」
「そんなに疑うなら、自分の心の声に耳を傾けてみて。聞こえるはずよ、本当のアナタの声が」
司に寄生する花妖精ミステル・ヴァルド・ナハトメーア(みすてるう゛ぁるど・なはとめーあ)は、シオンの魂胆に気付き、便乗することに決めた。まこと身近にいて欲しくない二人だ。
『……アタシィ、オカマなの。オカマバーでぇ、魔法装女とかぁ巫女の格好して働いてるわぁ。特技のモノマネも馬鹿ウケなのよぉ〜マジで〜。ちなみにィ、タイプは、毛むくじゃらの熊男なんだよねぇ〜。どっかにいないかな、そんな彼ぇ』
「き、聞こえます。内なる声が……凄く嫌なことをべらべら話してます……」
ミステルの本体である薔薇が、司の頭からポンと生えた。
「あう……。どうやら本当に花妖精なんですね……いえ、なのねぇ〜……」
「自分の事がわかったところで、仕事よ、ツカサ」
後にからかうためにスパイカメラを回しながら、シオンは言った。
現状についての記憶がないのは、シオンもミステルも同じ。情報を集めなくては。
司は、まわりにある樹に、人の心、草の心で、話しかけてみた。ミステルと同じ口調で。
「私たちがぁどんな風にィここに来たのかぁ、何か知らないかしら〜?」
『いきなり現れたよ?』
『うん。急に。パッて』
「急に……。放送で言ってた時空震と関係あるのかしら〜……」
「時空震と言えば、手の甲の数字も気になるわね☆ きっと何かの形で繋がってるはずよ♪ 例えば、コレが死の宣告的な一種のカウンターで、数字が0になったらそこでゲームオーバーになっちゃうとか★」
「え、縁起でもないこと言わないでぇ、シオンくん〜」
花屋に場所を移し、店先の花に時空震と手の甲の数字のことを訊いてみる。
『数字? なにそれ?』
『じくうしん?』
花達は何も知らなかった。と言うか、知らないでしょう、花が時空震なんて……。
海京のエリートとの合コンを夢見る雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は、清楚なお嬢様のフリをして、合コンメンバー集めに熱を注いでいた。
けれど、気が付けば見知らぬ土地。ここしばらくの記憶ない。合コンという目的が、だるま落としの如くスコーンとなくなり、お嬢様のフリがフリであることを忘れてしまっていた。
「こちらはどこなのかしら?」
今のリナは、ビッチとは真逆のお嬢様だった。
「……わかりません。我々の身に一体何が……」
執事の真似をしてメンバー集めに付き合っていたベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)も、記憶が欠落してしまった。
とりわけ”性癖”の部分である。ベファーナの好みのタイプは”男”……けれど、その部分が欠落してしまったため、ただの素敵な男装の麗人になってしまったのだ。
……って書くと何の問題もない気がするな……。
「はっ! あれは寿子様!」
リナは、通りを行く遠藤 寿子(えんどう・ひさこ)を見つけた。
「あ、リナさん……」
「良かった……知っている方に出会えて。見知らぬ土地で不安でしたの」
「わ、私も。アイリちゃんがどこにもいなくて……」
「そうでしたか……。大丈夫ですわ。アイリ様はきっと近くにいらっしゃいます。一緒にがんばりましょう」
「寿子さん……。おお、我が麗しの君よ。僕も貴方をお守りします。だから、そんな顔はしないで」
ベファーナは跪くと、彼女の手にキスをした。
「あ!」
「まぁ。ベファーナったら。寿子様がお困りじゃありませんの」
「ご婦人の戸惑う姿は、僕の大好物ですので。ふふ……」
そこに、桐生 理知(きりゅう・りち)と北月 智緒(きげつ・ちお)も現れた。
「寿子ちゃーん!」
「あ! 理知ちゃん、智緒ちゃん!」
三人は抱き合って再会を喜んだ。
理知は、既に商店を幾つか回って、必要な道具を揃えていた。目立たない着替え、日持ちしそうな食料。それからこの地区の地図だ。地図の上には赤ペンで印が描き込まれている。
「これは?」
「さっき見たクルセイダーの配置だよ。どんな風に包囲されてるのか、確認しようと思ったの」
「警戒が手薄になる時間がわかれば、ここから脱出もしやすくなるだろうし」
理知と智緒は言った。
「それは素晴らしい思いつきですね、麗しの君たち」
そう言うと、ベファーナは、二人の手にキスをした。
「わっ!」
「え、そ、その……!」
「またそんなことをして。ごめんなさいね。お二人とも。害はありませんから……」
リナが謝ると、二人は慌てて首を振った。
「ううん。気にしてないよ。ちょっとびっくりしちゃって……」
その時、リナは、彼女の手の甲にある数字に気付いた。そう言えば、自分の手にもある。寿子の手にも。
ふと思い立ち、サイコメトリで触れてみる。
「……………………」
しかし、手がかりになるようなものは何も見えなかった。
「……何か手がかりを得られるかと思いましたが。直接、聞き込みをするしかなさそうですわね……」
五人は、中央広場に移動した。信者の輪に入り、それぞれ聞き込みをしてみる。
理知と智緒が、クルセイダーの事を尋ねると、信者は怪訝な顔を返した。
「変な質問をする奴らだな。司教様直属の治安維持隊だろ。都市の警備は大抵、テンプルナイツの仕事だが、このグランツミレニアムは司教様の影響力が強いからな。重要な任務は彼らが担ってるのさ。まぁ滅多に表に出てくる人たちではないが……」
「そうなんだ。やっぱりさっきの時空震の所為かな?」
「だろうな」
「あなたは、人が増えた時に何が起こったのか見てなかった?」
智緒の言葉に、信者はますます怪訝な顔になった。
ここに来るまでの記憶がないので、智緒は自分たちがいきなりこの都市に現れたと思ったのだ。ただ、実際のところは不明だ。そしていきなり出現したとして、彼らが認識しているかどうかはわからない。
と言うか、信者のリアクションからすると、知らない様子だ。誰も知らない事を知っているのは、とても怪しい事である。
「はぁ? 人が増えた?」
「あ、あの……。し、失礼しましたっ」
リナとベファーナは、この”第8地区”とその周辺について聞き込みをしてみた。
「ごきげんよう。私、先程の時空震に吃驚して転んでしまって、頭をぶつけてどうも記憶が曖昧なんですの」
よよよ、と倒れ込む小芝居に、ベファーナも付き合う。
「……はぁ? そら、病院に行ったほうがいいんじゃねぇのか?」
「結構、重傷だと思うぜ?」
心配な顔をしつつも、信者たちは教えてくれた。
と言っても、第8地区、第7地区、第9地区に関しては、案内図に表記されている内容のこと以上は得られなかったが。
ただ、案内図にない。北の区画のことでは収穫があった。
「……北? ああ、あそこは”第6地区”だろ?」
第6地区は、教団関係施設が密集するエリアで、一般市民の立ち入りは厳重に禁止されているとのことだ。
「……そうでしたか。あ、いえ。そうでしたわね。記憶もだんだん戻ってきましたわ。ホホホ」
リナは、広場に見える超国家神のホログラフィを指差す。
「ちなみに、超国家神様はどちらにいらっしゃるのかしら? 第6地区の先にあるあの”大神殿”だったかしら?」
「お前さん、あたま本当に大丈夫か? 超国家神様がいらっしゃるのは”グランツテンプルム”だろ?」
「て、てんぷるむ……?」
「あの大神殿は、”メルキオール大神殿”だろ。しっかりしろよな」
そこに、寿子と理知と智緒が戻ってきた。
「メルキオール大神殿……怪しさ大爆発だよ!」
理知は言った。
「決めた! 私、北に行く。ここにいても仕方がないし。皆も一緒に行かない?」
「だ、大丈夫かな……。不吉な名前だけど……」
寿子は不安そうながらも、残されるのが嫌で、一緒に行く事に。
「寿子様が行かれるのでしたら、私たちもお供いたしますわ」
リナ達も同行することになった。
「決まり! じゃあクルセイダーに見つかる前に……」
「理知……!」
智緒が声を上げた。
先ほど理知と智緒が声をかけた信者が、こちらを指差しながら、クルセイダーと何か話している。
「たぶん、良い話ではなさそう……」
「に、逃げなくちゃ!」
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