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リアクション
【5】
「グランツミレニアム。何故、ここに私達がいるのか……」
第8地区の中央にある広場に続く大通り。鋼鉄の勇者コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)と高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)博士は、その喧噪の中、取り残されたように立っていた。
「記憶回路に問題が発生しているようだ。記録が再生できん」
「私もどうしても思い出せないわ。ただ、持ち物を見る限り、データ収集を行うつもりだったのは間違いないわね……」
鈿女は、とりあえずインプロコンピューターで人々や町の様子を記録してみた。何のためにデータを集める必要があるのか、それは思い出せないが、もしかしたらこの記録が必要になる時が来るかもしれない。
「もうじきここにクルセイダーが来るようだ。まずはここを離れよう。人目をひくのは危険だと、私のセンサーが反応している。東にある港で情報収集を……」
ハーティオンは、妖精のラブ・リトル(らぶ・りとる)がいないことに気付いた。
「鈿女博士、ラブがいないようなのだが?」
「中央広場で面白そうな事やってるから見てくるって言ってたわ」
「な、なんだって。彼女も不用意な行動はとらないと思うが……心配だ。すぐに連れ戻そう。ラブを回収してすぐにここから離れるんだ」
「むしろあなたを隠すなら、広場のお祭り騒ぎのほうが目立たないと思うけど」
「わ、私は見せ物ではないっ!」
中央広場には、超国家神の巨大ホログラフィがあった。
楽器を持った有志の、賛美歌のアレンジバージョンに合わせ、教団ローブにサイリウムを持った信者達は、全身から溢れる生命力を、表現に、”祈芸”に変え、超国家神に奉納している。その様子はさながら、アイドルのライブ会場のようだ。
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は、何だかスゴイ事になってるなーと思いつつ、ボーッとその様子を眺めている。
「あのホログラフィの女の人。超国家神様って言うんだ。とってもかわいい……」
「うん。それに、凄く優しそうだよね。世界を平和にしてくれそうな雰囲気……」
意識は戻ったものの、まだ意識が曖昧で、ぼんやりしてるようだ。
「超国家神様最高!」
「L・O・V・E! 神様最高!」
「超絶カワイイ! クイーン!」
まわりから聞こえる声に、だんだんと二人もその気になってきた。
「よし。私、行ってくる!」
「え?」
美羽は、おもむろに信者達の輪に飛び込んだ。
茅野 茉莉(ちの・まつり)とダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)は、元気に突っ込んでいく美羽を横目に、同じくボーッと信者の輪を見ていた。
二人の記憶障害は、更に重症で自分のことすらすっかり忘れてしまっていた。
「えーと、あたしは……。ううん。ええと、ここ、どこだっけ……?」
「ここはどこ? 我は誰? そこの愚民。どうなってる、説明し……だっ!」
茉莉は、ダミアンの頬をつねった。
「痛がってる……てことは、夢じゃないのか」
「そ、その確認は自分の頬でしろ。いででででっ」
「黙れ。誰だか知んないけど、あたしを愚民呼ばわりとは何様だ、こら」
「いだだだだだだっ!」
状況を整理すると、自分達は広場にいて、そして広場ではなんだか知らないけどお祭りが催されている。なら、ここにいる理由は一つ。自分達もお祭りに参加しに来たのだ、と二人は結論に至った。
信者達に、教団ローブとサイリウムを貸してもらい、見よう見まねで祈芸をしてみる。
「……ちょっと楽しいな、これ」
「ああ」
その時、ワーッと歓声が上がった。
信者が見つめるその先では、美羽が、電光石火の速さでオタ芸を打っていた。
「ふふふ。これでも学園のアイドルと呼ばれた美少女よ。オタ芸のなんたるかは熟知してるんだからっ。応援してくれたみんな、技を借りるわーーっ!」
嵐のように、マワリ、ロマンス、PPPH、ケチャを繰り出す。
「……おもしろい。その華麗な技の数々、あたしへの挑戦と受け取った!」
喝采を浴びる美羽の姿は、茉莉とダミアンの闘志に火を点けた。
記憶こそ失ってしまったが、二人は某教徒。神に祈りを捧げるという行為が、記憶を呼び覚ましたのか、二人は、両手に構えたサイリウムで十字架を作ると、祈りの言葉を叫びながら、祈芸を捧げ始めた。
しかしこれ、グランツ教にしてみれば、完全なる異端行為である。
「……大丈夫なのか、あれ?」
「おもくそ異端の言葉使ってるけど、あいつらあの宗教の奴だよな」
「どうする? 異端審問にかける?」
動揺する信者だったが、しかし、彼らのざわめきは一人の男によって鎮められた。
「……わかっとらんな、同志諸君」
男の名は、コルテロ。
彫刻のごとく鍛え上げられた肉体に、ズタボロの教団ローブを纏った、険しい表情の青年だ。彼は、聖人と呼ばれ、信者の間で一目置かれている存在だ。
「あれこそ全てを包み込む超国家神様への挑戦。スイカに塩をかけることで甘さが引き立つように、あえて異教徒を演じる事で、超国家神様の寛容さを引き立てる高度な祈芸だ! マーベラス!」
「おおおおっ! そ、そうだったのか!」
コルテロの解説により、茉莉とダミアンに拍手が浴びせられた。
「どうだ、パンチラ小娘。見たか、あたし達の実力を」
「ふふふ。愚民ごとき、我の敵ではないわ」
「誰がパンチラ小娘よっ。見てなさいよぉーっ」
グギギとなった美羽は、6本6色のサイリウムを装着。それをジャグリングのように回しながら、笑顔で踊った。広場を縦横無尽に、アクロバティックに駆け回り、ひらひらスカートをはためかせて、信者達の視線を独り占めにする。
「あ、あれは教会剣術の秘技、剣の黄金律と幸福の黄金鳥ではないか。神のために捧げた剣を祈芸に取り入れる発想力。なんというあっぱれな小娘よ! マーベラス!」
「ま、マジすか、コルテロさん! す、すげえや、あの子!!」
美羽に、再び歓声が上がった。
「……シリウス。それがオレの名前……だよな?」
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)の記憶障害は重傷だった。
名前をおぼろげに覚えている程度で、あと思い出せたのは、単語の断片のようなものだけ。ミルザム、バイナリスタ、リーブラ、超国家神。記憶の闇から泡のように、言葉が浮かび上がってくるが、それが何を意味するのか、わからない。
「バイナリスタは”伴星”だから……オレの名前はシリウス・ミルザム? ええと、超国家神ってのが、リーブラ……って奴なのか?」
紡ごうとすればするほど、記憶の糸はもつれ、こんがらがっていく。
ただなんとなく、誰かに会わなくてはならない気がした。それが誰なのか検討もつかないが、もしかしたらそれが自分がここにいる理由なのかもしれない。
「その、超国家神リーブラ……に会うつもりだったのかな。ああくそ。とりあえず、それを目的に行動するっきゃねぇよな」
ふと、シリウスは、広場から聞こえる賑やかな声に気付いた。
ホログラフィの女性を”超国家神”と呼んで崇める声が聞こえる。
「……あれが、リーブラ?」
何か違う気もする。けれど、これも大事な手がかりだ。
超国家神を崇拝する彼らと親しくなって、更なる手がかりを得なくては。
「オレも混ぜてくれ!」
信者達と一緒に、”超国家神をたたえる踊り”を踊った。
必死で踊っていると気分が高揚して、無意識に古代の力・熾が発動してしまった。
出現した光の分身……光り輝くバックダンサー達は、シリウスのダンスに合わせ、一糸乱れぬ動きで踊る。
「おおおっ!? なんだこりゃ、すげえ!!」
圧巻のステージに、信者から拍手が巻き起こった。
「この統率されたダンスパフォーマンス。超国家神様のお力により、規則正しく陰陽が循環する平和な世界を見ているようだ。そして驚愕すべきは、この存在感。たった一人でこれほどのステージを作り上げるとは、実にマーベラスだ!」
コルテロも、賞賛の拍手を送った。しかし。
「……てんでなってないわ」
「ん?」
コルテロの横で、不満まるだしなのは、ラブ・リトルだった。
「何がダメだと言うのだ。見事な祈芸ではないか」
「一人一人はともかく、全体が全然揃ってないの! さっぱり面白くないっ!」
自分が目立ちたいと思うあまり、全体の統一感が損なわれてしまっているのだ。
こういうことは、アイドル現場にありがちなことだが、それは崇拝すべき対象を持つここでも同じことのようだ。
ラブは、いても立ってもいられなくなり、指示を出し始めた。
「こういうのはね、こーするのっ!」
ラブ・ミュージックを奏で、幸せの歌を歌う。
「そこのバンドマン! 音合わせる!」
「は、はいっ」
「よし、ダンサーズ! 力いっぱい好きに踊る!」
「はいっ」
「サビではまず、茉莉とダミアンよ! 異端芸の見せ所よ!」
「おお! 偉大なる主よ!」
「次は、美羽! サイリウムジャグリング……じゃなかった幸福の黄金鳥よ!」
「はーい♪ 超国家神様って最高♪ それそれそれ〜〜♪」
「間奏は、シリウス&シャイニングバックダンサーズの出番!」
「おおっ! 捧げるぜ、捧げまくるぜ、このダンスを! 超国家神リーブラに!」
それぞれの祈芸が大きなうねりとなって、超国家神のホログラフィを包み込む。
「そうそう。やれば出来るじゃん♪ 一人一人は好きなことをやりながら全体で一つの調和を奏でる! これでこそ、お祭りってやつよね♪」
ラブは満足気に頷く。
「……で、何のお祭りなのかしら、これ?」
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