First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
18:30
ごろりと寝転がっていたゲドーは、起き上がった。
「んんー。なかなか騒ぎが起きねぇな。しょうがねぇ、もういっちょいくか!」
次に召還されたのは、スケルトンだ。白骨死体は、カタカタ音を立てながら、建物に入っていく。
「さぁ〜て、どいつが最初の犠牲者かなぁ? ひゃはははは!」
18:35
ケーニッヒと美悠脱落の知らせは、クレーメックの元へも届いていた。
「やはりこの戦いは、積極的な攻撃は不利だな」
「とはいえ、こっちの方が人数は少ないのですから、やらなければ負けなのでは?」
クレーメックはかぶりを振った。
「危険を冒す必要は無い。要は負けなければ良いのだ。もっとも、敵の方から攻めてきた場合には、相応の代償を支払って貰うことになるがな」
扉がそっと開いた。クレーメックと麗子は気づかない。
銃口が隙間から差し込まれる。狙撃主――戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は、【スナイプ】を使ってクレーメックの頭部を狙った。
ちょうどその時、廊下の方で叫び声が上がった。何だ、とクレーメックが振り返った瞬間、頬を豆が掠めていった。
「誰だ!」
扉が音を立てて閉まる。
「私が行きますわ!」
机を飛び越え、麗子が音楽室を飛び出していく。あの叫び声、近くにいる仲間に何かあったのだろうか――と顔色を変えたクレーメックは、ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)が心配そうに自分を見ているのに気づき、すっと背筋を伸ばした。
配下の者に心の内を見透かされるようではまだまだだ、とクレーメックは己を戒めた。
それより少し前、音楽室近く。
「教官が廃止と言ったのに、いいんでしょうか……?」
誰もいない廊下で、女性の声がする。
「気にすんな。向こうが提案した内容だ、文句言うわけねえだろ」
教室側から、返事をする者がいる。
ええなあ、と離れたところで【光学迷彩】を使って二人を見張っている鬼組のニコラス・エリスン(にこらす・えりすん)――ゆる族だがキモカワイイを狙って外した何とも言えない姿をしている――は思った。
ニーナ・イェーガー(にーな・いぇーがー)も【光学迷彩】を使って姿を消しているし、ニコラスと同じパートナーのスタンリー・スペンサー(すたんりー・すぺんさー)は【隠れ身】で教室側を歩いているが、二人は手を伸ばせば届く距離にいる。ぼそぼそと何やら会話もしている。羨ましい。
大体、この作戦自体、おかしいやんか、とニコラスは思う。
ニーナは優しいし色っぽいし、強気のようで頼りなく、そんなところがたまらなく可愛いのだが、なぜか料理が苦手らしく、このバレンタインを機会にチョコを手作りさせる、とスタンリーは説得したものらしい。
もしバレンタインが廃止になれば、ニーナは喜ぶだろうが、せっかくの苦労が水の泡だ。スタンリーはそれが面白くない。そしてニコラスも、貰えるものならニーナのチョコを貰いたい。そこまでは賛成だ。
だがどうして、自分だけ離れていなければならないのか、納得がいかない。
ぶつくさ呟いていたニコラスは、目の前を行くニーナの足が止まったことにしばらく気づかなかった。
「んん? どないしたんや?」
インカムから、怯えたようなニーナの声が聞こえてくる。
『スタンリー、あれ、何ですか……?』
それに答えるスタンリーの声も、微かに震えている。
『信じられねえ……。ありゃ、ゾンビじゃねえか!』
「ゾンビやて!?」
ニーナとスタンリーの前に、確かに奇妙な、不気味な、生きているとは思えないモノがいる。腐臭を漂わせ、二人に近づく。ずるり、ずるぅりと足を引きずりながら。
「おいおい、こんなの相手に豆鉄砲でどうにかなるのか?」
スタンリーは吸血鬼だけあって、ニーナやニコラスほどにはゾンビを恐れてはいない。だが、なぜここに、という疑問が浮かぶ。そしてこいつを倒すのは、エアガンはおろか普通の武器でも難しいだろう。生憎今は、殺傷能力のある武器はなかったが。
ならば手段は一つ。
「ニーナ!」
「了解です!」
ニーナの手から火の塊が、スタンリーの手からは眩いばかりの光が飛び出し、二人は同時にゾンビに叩きつけた。衝撃で周囲の窓ガラスが砕け散る。
動きののろいゾンビはまともに攻撃を食らい、呆気なく消滅した。
「ふぅ……一体、どうしてこんなのが」
とニーナが呟いた時だった。
パシッ、パシッ。
「……え?」
ニーナとスタンリーの頭に何かが当たった。ぽとんと落ちたそれは、大豆だった。
「あ」
ニコラスは割れた窓から外を見た。渡り廊下に、誰かの姿があった。
「こなくそ!」
【シャープシューター】を使い、その何者か――大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)を狙うが、剛太郎は撃ち終わるや否や、【カモフラージュ】で姿を消してしまった。
麗子が通りかかったとき、廊下はゾンビの肉片の前で呆然としているニーナとニコラス、やたら不機嫌なスタンリーがいるだけだった。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last