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リアクション
19:35
かれこれ十分以上、膠着状態が続いていた。
「うーん、連絡、取れませんねえ」
パティが頬を掻きながら嘆息した。
「大尉も交戦中なのかもしれない」
と敬一。
「だったらぁ、私たちの作戦もうまくいったわけですねぇ」
動き回って、敵をクレアたちの待つ職員室へ誘導するのがパティたちの役目だった。もちろん、襲ってきた場合に撃退できるよう、人数をこうして多めにしてある。
これまでのところ、誰とも出会わず戦えず、敬一などは半ば落胆していたのだが、購買部まで来たところで鬼組を見つけて狂喜した。
「倒そう!」
囁くような声で、しかし力強く敬一は言った。
でもぉ、と渋るパティに敬一は尚も続ける。
「これはサバイバルゲームなんだぞ! 一度も戦わないなんて、そんなのありえない!」
そう言われればそんな気もする。
結局、白竜の「豆撒きしますか」と羅儀の「本物の戦闘じゃないし」という一言で、相手はたった二人だし、やってみるかとなった。ちなみにパティの【子守唄】は猛反対にあった。楽なのに、とパティはちょっと凹んだ。
購買部の前で駄々を捏ねているのは、マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)だった。
「カオルのうそつき」
「いや、そんなこと言われても」
困ったなあ、と橘 カオル(たちばな・かおる)は頭を掻いた。
「お豆たくさんたべれるってきいてきたよ。でも、全然だしっ、食堂はおばちゃんいないし、ここもたべるものないし!」
本物の校舎ではないから、それは仕方がない。
敵に遇わなかったのは運――幸か不かはともかく――としか言いようがない。一度アンデッドを見かけたが、放送で関わらないほうがいいと知っていたので、それはさすがに避けた。
「豆豆豆―っ!」
マリーアの駄々は酷くなっている。
カオルだって敵を倒したいのだ。状況がどうなっているかは分からないし、焦燥感ばかりが募る。彼には列記とした恋人がいて、バレンタイン廃止はともかく、もし恋愛禁止ともなれば非常に困るのだ。それに、命に関わる仕事があると考えればこそ、今この時を共に過ごしたいと思うのは自然なことだ。
困ったなあ、とまた呟くカオルの【殺気看破】に敬一の敵意が引っ掛かったのは、その時である。
「マリーア!」
カオルが指差すのと、敬一、白竜、羅儀が一斉射撃をするのが同時だった。
マリーアの反応は速かった。
「わわっお豆がいっぱい飛んで来る!?」
大きな口をあんぐり開け、飛んでくる豆のほとんどを受け止め、むしゃむしゃと食べてしまう。
敬一たちもぽかんと口を開け、その様子を呆然と見つめた。
今だ、とばかりにカオルが【その身を蝕む妄執】を発動しかけると、歌声が聴こえてきた。【子守唄】だ。カオルの意識が一瞬、遠のく。
その隙に敬一、白竜、羅儀は隠れた。ほら役に立った、とパティは胸を張る。
それから十分。
時たま豆を撃ち込むが、マリーアが全て食べてしまう。
カオルもまた、【子守唄】を警戒して下手な手は打てない。そんなわけで、膠着状態が続いていた。
「こうしましょう」
と白竜が言った。「三船、君は弾幕を張って下さい」
「あのチビに全部食われるぞ?」
「構いません。我々の標的は、橘です。パティ、あなたは橘の前に姿を現して下さい」
「【子守唄】はなしだぞ」
「だが、橘はそうは考えない。おそらく、パティを倒そうとするはず。眠らされたら困りますからね」
「パティはオレが守るよ」
と羅儀。
「あの様子ではマリーアは攻撃してこないでしょう。その時、全員で橘を攻撃します」
「それしかない、か」
敬一は頷いた。
「ゲームですからね。殺さないよう、手加減するのも訓練だと思いますよ」
敬一の【弾幕援護】が発動する。
予想通り、マリーアは豆を食べに食べまくった。パティが姿を現し、それを見つけたカオルも飛び出してきた。
今だ、と敬一、白竜、羅儀はカオルに向けて一斉射撃をした。
ところが、カオルはマリーアを盾にしていた。豆鉄砲が相手だからこそ出来る人間の盾だ。マリーアは嬉しそうに、カオルに向かってくる豆を口にどんどん入れた。
――が。
カオルの足元が凍りつき、見事にすってんと転んだ。
審判の永谷が現れる。
「マリーア・プフィルズィヒ、さっきから弾が当たっている。申告しなきゃ駄目だ」
「あたし全部食べてるよ!」
永谷はマリーアの服に手を伸ばし、豆を摘んだ。
「橘さんが君を盾にしたとき、当たったんだ。気づかなかっただけ。橘さんも気づかなかっただけだろうから、失格にはしない。ゲームは続行」
だが、四対一で勝てるとは思わない。カオルはやむを得ず、そこから逃亡した。
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