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小ババ様の一日

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小ババ様の一日

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「むにゃむにゃむにゃ……こばあぁぁぁふぅ」
 朝です。
 小ババ様が目を覚ましました。
 大ババ様の部屋にある専用のミニベッドの上で上半身を起こしますが、まだまだ眠そうです。
 ここ最近は、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)こと大ババ様が留守なので、ちょっとお寝坊です。
「おや、起きてきたようですねぇ」
 校長室では、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が、手にフォークとナイフを持って襟元にはナプキンをつけて何やら待っていました。
 どうも朝食のようです。
 神代 明日香(かみしろ・あすか)が、校長室に続く小さなキッチンで、鼻歌交じりに朝食を作っています。
「小ババも食べていくですかぁ?」
「こばー♪」
 もちろん元気よく答えると、小ババ様は一緒に朝食をいただきました。
 さて、いよいよ自由気ままな小ババ様の一日の始まりです。
 
    ★    ★    ★
 
 校長室を出たら、いつも通り気のむくままに世界樹の中を散策します。
 愛用のちっちゃな空飛ぶ箒にまたがると、小ババ様はふよふよと世界樹の中を飛んでいきました。
「おや、小ババ様ではないか。おはよう」
「こばこばー、アーデちゃん」
 中央階段の所々にある踊り場の休憩所では、テーブルでくつろいでいるアーシュ・タルト(あーしゅ・たると)ナーサリー・ライムズ 『マザー・グース』(なーさりーらいむず・まざーぐーす)に出会いました。
「こばー♪ ……アーデ?」
 元気よく御挨拶した小ババ様ですが、なじめない呼ばれ方に小首をかしげます。
「ほら、イナンナが大ババ様のことをアーデと呼んでいたでしょう。ならば、そなたは小アーデではないのかと思ってな」
「こば……、ハイジー!」
 小ババ様が、ちゃんとした愛称に訂正します。もっとも、アーデルハイト・ワルプルギスをこの愛称で呼んだ者は、いつの間にか行方不明になるという都市伝説があります。サルヴィン川には蓋がないのです。「七不思議、悲惨、蓋なき川底から響くヨーデル」というらしいのですが、七不思議ですから、実体は誰にも分かりません。
「こばこばこばー」
 ナーサリー・ライムズ『マザー・グース』が、小ババ様語で小ババ様に話しかけました。よく見ると、小ババ様や大ババ様がよく着ている魔女の短衣と似たデザインのちっちゃな服を着ています。
「こばこば」
「こばばー」
 ナーサリー・ライムズ『マザー・グース』は、蒼空学園での小ババ様騒動のときにも、増殖した小ババ様と仲良くしたことがあるので、小ババ様とはすぐに打ち解けられるようです。もっとも、そのときにお友達になった小ババ様は光になってしまいましたが、すべての小ババ様はわずかながらでも記憶を共有していたようですから、今の小ババ様も微かに覚えているのかもしれません。
「あっ、小ババ様がいたー。それも二人も! こばー」
 のんびりとこばこば会話をしていると、世界樹を見学に来ている他校の生徒たちがその姿を見つけて、珍しそうに集まってきました。
「小ババ様が二人いるなんて、聞いてなかったけど……。あれ? ちょっと違う? こば、こばばばはば」
 志方 綾乃(しかた・あやの)が、小ババ様とナーサリー・ライムズ『マザー・グース』を見比べてちょっと不思議そうに人差し指を自分の下唇にあてて考え込みました。でもすぐに、小ババ様語で二人に質問をします。彼女の目的は小ババ様とお話しすることだったので、これはもう願ったり叶ったりです。
「おやおや、こんな所で小ババ様語を聞くとは。いったい何があったんだ? いや、ただの散歩かな。やあ、こばー」
 こばこば言う会話に引き寄せられてきたアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が、小ババ様語の会話に加わってきました。
「こばー、こばー、こばばばばばば――それにしても、こっちの小ババ様は誰なんだ?」
「そうですねえ」
 今さらになって、アキラ・セイルーンと志方綾乃がナーサリー・ライムズ『マザー・グース』を見ます。
「マザー・グースは、非公式小ババ様グッズ製作委員会に入っているから、こんなコスプレもできるのだよ」
「それは……。少し詳しいお話を……」
 ちょっと自慢そうに言うアーシュ・タルトに、志方綾乃が目をキランと輝かせました。
「こばー」
「こばー」
 アーシュ・タルトと志方綾乃が話し込んでいる間に、小ババ様とナーサリー・ライムズ『マザー・グース』の会話は一区切りついたようです。挨拶をして、小ババ様が歩き出そうとします。
「おっ、もうどこか行くのか。それじゃ、小ババ様、変な奴にさらわれたり、轢かれたりしないように気をつけろよ〜」
 アキラ・セイルーンに頭をなでられてバイバイすると、小ババ様は中央階段を下へとむかいました。
 
    ★    ★    ★
 
「こ、こばあ!?」
「うおっと、小ババ様か、こんにちは」
 突然階段を駆け下りてきた神和 綺人(かんなぎ・あやと)に追突されそうになって、あわてて小ババ様は箒で上に上がって回避しました。そこへ、神和綺人の鬼火が飛んできたので、あわててこれも回避します。
「こば、こばこばこばあ!」
「ご、ごめん。今それどころじゃないんだ。
 さすがに抗議する小ババ様に、神和綺人は短く謝るとそのままあわてて逃げて行きました。いったい、何から逃げているというのでしょう。
 ちょっとぷんすかして降りていくと、今度は下から駆けあがってくる者たちがいます。
「うわっ、やめてやめて、無理だから、無理無理っ!」
 必死に逃げているのはアンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)です。その後ろから、アヴドーチカ・ハイドランジア(あう゛どーちか・はいどらんじあ)が、持っているバールをブンブンと振り回しながら追いかけてきます。ときおり追いつかれそうになったアンネ・アンネ三号が、必死のジャンプで階段を数段駆けあがったりしながら、危機一髪で生きのびていました。
「うおっ、小ババ様!? お願いです、アヴドーチカを止めてください。足止めだけでもいいです。その間に僕は隠れますから。お願いしまっす!」
 無理矢理頼み込むと、アンネ・アンネ三号は小ババ様の横を通りすぎていきました。
「待つのだよ。せっかく、お前の記憶喪失を治してやると言っているのに。人の好意は、素直に受けとめるものなのだよ」
 自分のショック治療法に絶大の自信を持っているアヴドーチカ・ハイドランジアが、ブンブンと空気を切る音を響かせながらバールを振り回しました。
「こばばい……」
 さすがに危ないので、小ババ様も安全な距離に避難します。
「古今到来、機械という物は軽く叩いてやれば直ると決まっているのだ。機晶姫も然り。だから、おとなしく私の治療を受けるのだ。お前だって、記憶を取り戻したいだろうが。とにかく、私の治療成功者一号になれ。これは誉れなのだぞ!」
 つまりは、まだ実績がないようです。
 もの凄く危ないので、小ババ様は近づかないことにしました。