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リアクション
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「へぇ、どんな本だろう」
ゲドー達が本のありかを見つけたほんの数分前、雪住 六花(ゆきすみ・ろっか)はあの場所から黒い魔本の回収を完了していた。周囲に誰もいないことを確認し、彼女は本に手をかける。
「では、さっそく」
「独り占めはよくないなぁ?」
開けようとした本を外側から閉じたのは、火村 加夜(ひむら・かや)。六花とは別に、《歴戦の獲得術》でここまで辿りついたのだ。
「私にも見せてくれる、雪住さん♪」
屈託の無い笑顔に折れ、仕方無いと言いながらも六花は本を出す。
「わかりました、二人で見……あっ」
ぱしり、と今度は本がはたき落とされる。二人はその犯人を見やるが。
「《右銀翼の髪飾り》……?」
居るはずのそこにあったのは翼の形をした髪飾り。飛び跳ねながら移動する所を見ると《式神》になっているようだった。落ちた魔本は《サイコキネシス》で移動して……。
「やった♪」
式神の主人、アニス・パラス(あにす・ぱらす)の手に収まった。手に入れた魔本をアニスはパートナー、佐野 和輝(さの・かずき)に渡す。
「悪いね、前提となる知識量が多い者が読んだ方がいいだろう?長い時を生きた魔道書に」
そう言うと更に禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)の書に手渡した。欲張りな行動に、加夜が苦言を呈する。
「そんな、独り占めは―――」
「見つけた!」
さらにその場へ駆け足でやって来るのはルカルカを先頭に、ゲドー、椿達だ。その必死の形相に、和輝達は分が悪いと逃げようとするのだが。
「おっと、こっちは行き止まりだぜ」
立ち塞がるのはカシス・リリットと犬養 進一。後方にはイコナ・ユア・クックブックとティー・ティー、トゥトゥ・アンクアメン。
「考えてることは一緒、か」
此処に居る殆どの者は本の独占が目当てだろう。互いを警戒し合いながらもじりじりと距離を詰めてくる。
「……どーするの?和輝」
「争奪戦になるかな」
仕方なしに、と覚悟して和輝が構えた瞬間だった。
「……はは、ハハハ」
乾いた笑い声が反響し、一同は唖然とする。本を開いたダンタリオンは苦笑いの表情から徐々に怒りを露わにし、魔本を床に叩きつけ……ようとした所で六花があわててキャッチ。
「何だこれは、何が黒い魔本だ!」
ダンタリオンの叫びが反響する中、六花は皆の前でそっと開いてみたあ。
「これ……」
そこにあったのは本とは呼べない代物だ。ページの下半分は繰り抜かれて貯蔵タンクのような小型の装置が設置されている。本の厚さと合わない、突き出したスイッチを見るに本を開くと作動するのだろう。そして分厚い本の上半分の内容は……。
「召喚の……いや、転送の魔方陣かな?」
《博識》を披露した和輝が補足する。一回限り、一方通行で転送可能範囲も短い、単純かつ魔方陣の知識をかじっていれば誰でも出来るような簡素なものだ。
六花はさらに何枚かページを捲ってみる。同じ。バラバラと流すように確認。同じ。全く同じ魔方陣がずらっと数百ページに渡って書かれ……いや、描かれていた。
「これだけ……?」
多分、此処に居る皆の代弁になっているだろう言葉を椿が漏らした。貴重な魔法の本どころか、本ですら無いモノ。あらかじめ近くに用意したピクシーを転送し、多数の被害を与えるための兵器――。
「……ブービートラップ、か」
進一の一言に、皆は肩を落とす。
「リストに無い本に偽装、無用心に本を開くと魔力を保存した機器が作動、魔方陣が発動してピクシーが出てくると……単純なのか複雑なのかイマイチ分からないな」
カシス・リリットが冷静に、しかし顔は笑わずに解析。
「本来の、ゲリラの置き土産って由来とは違うけど確かにbooby trap(間抜けへの罠)だ」
「ついでに本に惹かれた俺達もboobyって?」
自嘲気味に皮肉るカルキノス・シュトロエンデをルカルカが諌める。
「上手いこと言ったねカルキノス……けど、虚しくなるからやめて」
……が、その一言が火種になった。皆、肩を震わせ、拳を握りしめ、表情に怒りを露わにしてくる。
ある者は―――
「おちょくってくれたな、クソッ」
「折角の奇っ怪な本が……!」
「和輝?リオン?」
「成程、犯人は喧嘩を売るのが好きそうだ……!」
「ええっと、カシスだったっけ?戻ってこーい」
「トゥトゥよ、とっときの呪いを教えるんだ」
「は、早まるなシンイチ!怖いぞ!?」
―――貴重な魔本を手に入れようとして、鼻面を折られた者。
またある者は―――
「こんな……こんなモノのために、綺麗な活字が……!」
「か、カリグラフィーさん、落ち着いて」
「必ず犯人を見つけて、仇はとって見せますわ……」
「イコナちゃんが、燃えてる……」
―――こんなトラップを使って本達を傷付けられた怒り。
またある者は―――
「み、皆さん、どうか冷静に……」
「あわわわわ……どうしましょう」
―――この醸し出る怒りと悲しみの渦に慌てる者。
そんな状況下で、ゲドー・ジャドウはフハ、ハハハと高笑いを始める。
「一つだけミスったなぁ、犯人よ」
「何がだ?」
執念の輪から一歩外に居たカルキノスが聞くと、満面にして狂気の笑みが返ってきた。
「魔本を手に入れようとした者、全員から酷く恨まれたのだよ。無論、俺様からもだ!」
生きて帰れるかな?と、彼はもう一度高笑いをした。
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