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リアクション
一方。
シシー・ミュゼット(ししー・みゅぜっと)は崖の上に立って、それを待ち受けていた。
メシを食いにくるという、ドラゴン。
……相手にとって不足はない。
端正な顔に強い決意の表情を浮かべ、遠く北の空を見渡す。
冬枯れの山肌に点在する常緑樹の深い緑……その一部が、揺れているのが見えた。
風ではない。
「……来たか」
シシーは低くつぶやくと、おもむろに肩にかけた荷物を降ろした。
「……は、速いっ」
後を追うエレノアが思わず声を上げるほど、ドラゴンのスピードは凄まじかった。
さっきまでの怠い居眠り飛行とは比べ物にならない勢いで、一直線に飛んで行く。
魔法で足を止めようにも、これでは詠唱している間に射程外まで引き離されてしまう。
「いったい、どうして……」
訳がわからぬまま、せめて振り切られまいと加夜も全力でドラゴンを追って飛んだ。
「……えっ、嘘……」
不意に、飛空挺の佳奈子が小さく声を上げた。
「佳奈子?」
スピードを緩めずに、エレノアが聞き返す。
「え……ちょっと待って、今、確認を……」
佳奈子の焦っている様子が声からも伝わってくる。
僅かに間を置いて、佳奈子は叫んだ。
「前方、誰かいます! 崖の上ですっ!」
「ええっ」
慌てて、前方を飛ぶドラゴンの背中のさらに向こう、岩の露出した崖に視線を移す。
確かに人影のようなものがそこに見えた。
向かい風を堪えて目を凝らすと、天御柱学院の白い制服と、風になびく黒髪が見て取れた。
ドラゴンは明らかに、その姿を目指して飛行している。
「危険すぎるわ……佳奈子、離れるように伝えてっ」
「ダメです、チャンネル閉じてます……応答ありませんっ」
悲鳴のような佳奈子の声に被るように、さっきから頭の隅でざわめいていたドラゴンの意識が、はっきりと形を取って響き渡った。
『ごはんーーっ!』
そして、その人影に向けて一気に急降下した。
エレノアが小さく悲鳴を上げ、加夜は思わず目を閉じた……。
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