空京

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戦乱の絆 第二部 第四回

リアクション公開中!

戦乱の絆 第二部 第四回
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リアクション



■七曜 ゲドー・ジャドウ

 そこは、海上に浮かぶ古い船の甲板だった。
 まるで海賊映画から抜け出してきたような風景。

「――こちらに協力したいだと?」
 イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)の訝しげな問いかけに、
 背から墓石を生やした七曜、ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)が頷く。
 彼一人でゾディアック内部に連れてこられたのか、パートナーのジェンド・レイノート(じぇんど・れいのーと)の姿は無い。
 ゲドーがイーオンの後ろから興味深そうに、彼を見ているセレスティアーナの方へ視線を向け。
「ウゲンちゃんに忠誠を誓って力を貰ってみたものの……女王があんまりにも可哀想でねぇ。
 それに、こんな俺だけど真っ当な暮らしに憧れてんのよ。
 そこの代王にロイヤルガードに指名なんてしてもらえりゃ、人生ちょっとはマシになりそうだろ?」
「つまり、こちらに協力する見返りとして、セレスにロイヤルガードに指名しろということか」
「怪しいですね」
 アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)が警戒心をあらわに、太刀の柄を握ったまま言う。
 ゲドーはそれをチラリと見やった後、再び、セレスへ視線を戻した。
「俺はウゲンちゃんのフラワシのおかげで女王器に対して耐性がある。
 女王救出で何かの役に立ちそうだろ?
 ウゲンちゃんの監視が薄くなってる、今がチャンス。今しかない。超お得! ね?
 どうよ、ここはドーンと代王の懐の深さを見せて――」
「私は反対です。
 彼を見逃し、戦闘を回避するまでは良いですが……
 共に女王を探すのは、危険です」
 アルゲオの言葉に、セレスティアーナが、むむ、と考えるような仕草をして。
「確かに……」
 と彼女が呟いた瞬間、イーオンは明確なディテクトエビルの反応を感じた。
 セレスティアーナの呟きが続く。
「……出会ったばかりであるし、最初はお友達ぐらいからが良いのか……」
 その頃にはディテクトエビルの反応は消えていたが、イーオンは確信を持ってゲドーへ問いかけた。
「断られたら、どうするつもりなんだ?」
 ゲドーが、ありゃ、と顔を崩す。
「そりゃーもちろん……ドカン、だ」
 瞬間――彼らは爆発に飲み込まれた。


「大丈夫か?」
 イーオンは、爆発から庇ったセレスティアーナの上からズルリと体を退けた。
 ゲドーはあらかじめ機晶爆弾を仕掛けていたようだった。
「……セレスに協力を断る気配が見られるまで邪念を感じ無かった。
 こちらへ寝返るのは本気だったのかもしれないが、断られた時に備えて爆弾を仕掛けておくような者は、友達でも止めておけ」
「そそそそれは分かったが、お前! ものすごい怪我だぞ!!」
 イーオンはセレスの頭にポンと手を置いた。
「落ち着け。
 お前が無事なら大したことはない」
「イオ」
 自身も負傷しているアルゲオに呼ばれ、イーオンはそちらへ顔を上げた。
「先ほどの七曜が居ません」
「爆発に巻き込まれて海まで吹っ飛ばされたか。
 まさか、自爆のようなことをしてくるとはな……」
 嘆息して、イーオンはセレスティアーナと彼女を守る仲間たちへ。
「セレスを頼む。
 俺はこの体だ。共に行っても足手まといだろう。
 一応、先ほどの七曜を探し、発見次第拘束しておこう」


 そして、セレスティアーナたちは彼らを残して先へ進んだ。
 その後、ゲドーが発見されることはなかった。

 ゲドーは『蘇り』、自力で逃亡していたのだった。


■ウゲン


「……斬!」
 闘神の書がウゲンの足元を斬り払い、相手の動きから選択肢を奪う。
 それに合わせてラルクが神速の動きで鳳凰の拳を叩き込んでいく。
「どう足掻いたって僕には勝てないよ」
「たとえどんなに強くても……お前だけには負けられねぇんだ!!
 パルメーラが世話になったってのもあるが――
 俺はこの世界で大切な奴ともっと歩いていきてぇからな!」
 機を見て、ラルクは閻魔の拳でウゲンを狙った。
 その腕を打ち弾かれる。。
「躊躇いもなく物騒な事してくるね、まったく」
「禁じ手だろうが、お前相手にはためらわねぇよ」
 そして、二人は再び拳を交わし始めた。


 想いがゾディアックを巡っていく。

 水橋 エリス(みずばし・えりす)――
『まだ……好きになった人もいません、将来の目標も定まっていません…そんなままで終わりたくなんか、ありません!!
 だから………だから、止まりなさいゾディアック!!』

 健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)――
『まだ遊んでいないゲームがたくさんあるぜ!
 俺の夢も叶っていない!
 大好きな人ともっと思い出を作りたい!
 こう簡単に死んでたまるか!』

 狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)――
『あんなふざけた野郎に好き放題されて、悔しくねえのかよ。
 ざけんじゃねえ! クソガキはきっちりシメてやらあ!!』

 七枷 陣(ななかせ・じん)――
『パラミタがあったから皆と出逢う事が出来たんや。
 それを無くすだと?
 ふざけんなクソガキ!
 そんなに何もかも壊してぇなら……てめぇ自身だけを壊して独りで死んどけ!』

 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)――
『まだボクが出会った事の無いワクワクする物がこの世界には沢山あるんだ!
 それを消させやしないよ!』

 久世 沙幸(くぜ・さゆき)――
『いろんな人たちと素敵な絆を結ぶことが出来たこのすばらしい世界を終わらすわけにはいかないんだもん!』

 蓮見 朱里(はすみ・しゅり)――
『地球とパラミタ、今日まで沢山の出会いがあった。
 愛する人たちのいるこの世界を、未来への希望を、絶対に守りたいの!』

 姫宮 和希(ひめみや・かずき)――
『一緒にみんなが笑って過ごせる未来を作ろうぜ!』

 蔵部 食人(くらべ・はみと)――
 魔装侵攻 シャインヴェイダー(まそうしんこう・しゃいんう゛ぇいだー)――
『『世界の滅亡など<俺・ボク>達がさせない!』』


 セルフィーナ・クレセント(せるふぃーな・くれせんと)は仲間たちのために力を持った歌を歌い続けていた。
 その歌の合間にウゲンへ訴えかける。
「何故、全てを一人でやろうとしたのですか?
 貴方の抱えるものは私たちには理解出来ない事なのかもしれません。
 でも、周囲が貴方から見て力不足だと思えたとしても、信じ、真の想いを語ることが出来れば、もっといい結果があったのかもしれないのに!」
「にゃっにゃー!
 難しい事はよくわかんないけど……みんなでにっこり笑って笑顔になればきっといい事あるんだよー」
 セルフィーナの横ではエルフィ・フェアリーム(えるふぃ・ふぇありーむ)が同じく歌で仲間たちを支援していた。
 彼女もまたウゲンに向け、時折り、語りかけていた。
「笑顔をわすれちゃったら……ううん、みんなの笑顔をわすれちゃって自分の笑顔だけしか思い浮かばなくなったら、悲しい事がいっぱい起きるんだよ。
 だから、笑おう?
 誰かの事を……みんなのためを思って笑おう?
 一人だけじゃ悲しいんだよ……何も無いんだよ……」
 二人の歌声が雪の降る谷底へ響いていく。
 そして、周囲に横たわっていた致命傷者たちがガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)の魔法によって身を起こし始める。
「ドージェの弟だか知りませんが――」
「世界を滅ぼすとか詰まらん奴じゃのう!
 積み木崩しがしたいなら、もうちっと大人しく隅っこで遊んどれ!」
 シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)がハーレックを狙う吸血鬼を抜刀術で斬り捨て、ハンッと鼻を鳴らす。
 周囲に残っていた吸血鬼は今ので最後。
 ハーレックの紡ぎ出した命のうねりが契約者たちの傷を癒していく。
「この世界、滅ぼさせる訳にはいきません」
 その向こうでは、
「どうか……生き延びて」
 南條 琴乃(なんじょう・ことの)もまた川原 龍矢(かわはら・たつや)と共に、契約者たちの救護に当たっていた。
「ウゲンを倒せてもあなたたちが倒れたら……倒れちゃ、ダメだよ……」
「……んなことぁ、分かってんだよ」
 日向 朗(ひゅうが・あきら)が自身の顔面の血を拭い捨てながら立ち上がる。
「正直、俺如きじゃあ話になんねーかもしれねぇ。
 だが、それでも黙っていられねぇ、譲れねぇモンがあるんだ。
 あいつを一発ぶん殴ってやらなきゃ気がすまねぇんだ!」
 そして、朗はウゲンへと何度目か駆けた。
 零・チーコ(ぜろ・ちーこ)が続く。
「ウゲンには、ドージェという並外れたカリスマを持った兄が居たのだ。
 その為にウゲンは、人知れず悩みを抱え、歪みを育ててしまったのかもしれないのだ。
 ……だが、だからといって、それに俺たちが巻き込まれる理由はない!」
「ったりめぇだ。
 そもそも世界を滅ぼすだのなんだの……ガキかっつーの!
 男だったらもうちょっとマシな夢の一つでも持ってみやがれ!」
 朗がウゲンへと距離を詰めながら拳を打ち鳴らす。
 彼は一切の武器を持たず、素手だった。
 多くの者がウゲンに立ち向かい、吹っ飛ばされていくのを横に、朗は何度目かウゲンの元へ特攻していった。
 チーコが他の契約者の攻撃に合わせ、ウゲンを炎で牽制する。
 そして、朗は再びウゲンに体を貫かれながらも、その頬を全力でぶん殴っていた。


■アイシャへと続く道

「……こん中の空間のどれか、か」
 五条 武(ごじょう・たける)が頭を掻く。
「おう、間違いないぞ! このどれかの先にアイシャは必ず居る!」
 セレスティアーナが自信満々に言い放つ。霧深い森の中、幾つもの扉が山のように積み上がっているのを指さしながら。
 ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)は軽く嘆息した。
「さすがにこの全てを探索している時間は無いでしょうね」
「アイシャは今、ほとんどの自我を失った状態にある……」
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が顎に指を当てながら、呟くのが聞こえる。
 彼女は扉の山を見据えながら続けた。
「異空間に人の記憶が関係しているというなら、アイシャのところへ繋がる空間は、不安定、あるいは希薄――そういったものではないか?
 最も安定しない空間。
 それを探し出せば……」
「なるほど、一理ありますね」
 イビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)が感嘆を零す。
「なら、とっととその空間ってのを見つけて先を急いでくれ」
 武がパシッと拳を打ち鳴らしながら言う。
 彼は扉でもセレスティアーナたちでもなく、木々の方を向いていた。
 クレアも同じ方を見やり、視線を強めた。
「……多いな」
「そんだけ連中も本気だってことだな。
 本当なら、ウゲン本人が出張っておきたいくらいのとこだったのかもな」
「私たちで押さえます。
 セレスのためなら、私も武も――」
「あァ?」
 イビーの言葉に、武が声を上げる。
「ンなもんロイガの仕事だからにキマってんだろ!
 べッ、別にセレスがどーとかじゃねーよバカ!」
 そんな二人の様子をセレスティアーナはキョトンと眺めていた。
 イビーがそんな彼女の方へ。
「では……セレス、どうかご無理はなさらないで下さい。
 名付け親からの、願いです」
「来るぞ!!」
 武の声に呼応するかのように、木々の影に身を潜めていた吸血鬼たちが襲い掛かってくる。
「お、お、お、おおおっ!?」
「こちらへ」
 クレアとハンスたちは状況について行けていないセレスティアーナを連れて扉の方へと駆けた。
 武とイビーを中心にセレスティアーナを守る契約者たちが展開する。

 やがて始まった激しい戦闘音を背にクレアたちは、次々に扉を開いていった。
「違う――これも――これも――」
「セレスティアーナ様、私から離れないでください」
「だだ、だが、私も手伝った方がいいんじゃないか!?
 こー見えて、やってやれる方だと思うぞ!」
「扉の先が安全とは限りません」
「セレス! いいから今は大人しく守られてろ!」
 武が吸血鬼をはっ倒しながら叫んだ声。
「絶対ェ、生きて帰るんだ!
 でもって、うんめェ飯でも、一緒に食いに行こうぜェ!」
「――旨い飯!! わかった! よくわからんが、絶対ェ、生きて帰って、うんめェ飯を食うぞ!」
「……ややこしい返事だな」
 クレアはひっそりと呟きながら、扉を開いた。
「これは……」
 その先にあったのは、奇妙な空間だった。
 暗がりの中に、時折り、何かが形を成そうとして、しかし、それに成り切れず崩れる。
 まるで、失った記憶を必死でかき集めようとしているみたいだった。
「間違いない。ここだ」
 そして、セレスティアーナたちは、その空間へと飛び込んでいった。

「……行ったか」
 武は後方を軽く確認し、呟いた。
「後はここを守り通しゃいいわけだ」
 ヘッ、と一つ笑って吸血鬼たちを見やる。
「どうしたテメェ等、掛かって来いよ。
 俺はまだここに立っている。
 全力でブチ殺しに来てみろ。
 俺を認めてくれる、愛すべきバカ共とセレスの為に、俺ァ死ねねェンだよ!」