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戦乱の絆 第二部 第四回

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戦乱の絆 第二部 第四回
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リアクション



■ウゲン


 ゾディアックを巡る想いが留まることなく、溢れていく。

 国頭 武尊(くにがみ・たける)――
『神楽崎のぱんつを手に入れる前に世界を終にされてたまるか!!』

 南 鮪(みなみ・まぐろ)――
『全宇宙のパンツが今俺の元に集まり始めたぜェ〜! ヒャッハァ〜!』

 藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)――
『首、首、首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首』


 ウゲンが契約者たちの攻撃から逃れ、上空へ出たタイミングを狙い、
「ウゲン……貴様は、やりすぎた」
 ジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)は、持てる技の全てを用いて魔力を限界まで上げたブリザードを解き放った。
「こう見えても俺はこの世界を愛しているのだ。
 そう簡単に滅ぼされては困るなあ!
 というわけで、やれ!
 シオン!!」
 ジークリードの合図で、壁棚に身を潜めていたシオン・ブランシュ(しおん・ぶらんしゅ)が綾刀片手に、ブリザードに捉えられたウゲンの背へ飛び掛かった。
 刃がウゲンの左肩を掠める。
「あははは、『世界』なんてさ。
 案外、簡単に壊れてしまうものなんだよね!
 それに別にいいことばかりじゃないでしょ?
 こんな世界で生きてくのなんてさ」
 ウゲンがシオンの頭を捉え、ねじ伏せるように地上へ叩きつけていく。


 ルディ・バークレオ(るでぃ・ばーくれお)――
『それでも私は、この世界で生きていたい』

 ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)――
『俺は、自分の娘に未来という可能性をあげたい』

 ハルディア・弥津波(はるでぃあ・やつなみ)――
『この世界には、まだ僕の知らない事が沢山ある。
 良い事も、悪い事もね。
 今なくなってしまったら、勿体無いと思うんだ』

 橘 恭司(たちばな・きょうじ)――
『戦争やら個人の企みなんぞで先の長い子供らの未来を奪わせてなるものか!』

 音井 博季(おとい・ひろき)――
『大好きなリンネさんと紡いでく明日だから。
 だから僕の手で…いえ、僕らの手で護らないといけないんだ!』

 関谷 未憂(せきや・みゆう)――
『イルミンスール魔法学校、若葉分校、絵本図書館ミルム……他にもたくさん。
 もう一度行きたい場所、会いたい人。
 まだ会ったことのない人、見たことのない景色。
 ……まだ見ぬ未来を諦めたくない』

 白砂 司(しらすな・つかさ)のパートナーサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)――
『大丈夫。物語は、絶対に終わらせません!』


「やれやれ……監視付きなんざめんどくせーねぇ」
 高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)は、ボリボリと後ろ頭を掻いた。
「すごい気持ち悪かった……」
 レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)が、げっそりとした調子で言う。
「悠司が自分から皆の役に立ちたいって言うなんて……。
 うう、それに悠司が自分で責任持つなら善いけど、こうやってボクも被害受けるからホント困る」
 レティシアが頭を抱えてあうあうと呻いた後で、キッと悠司を睨みやった。
「もうこうなったら、心入れ替えてきちんと働かなきゃダメだよ!」
「へいへい」
 嘆息混じりに言って返し、悠司はレティシアとウゲンの元へ向かった。
「よー、俺のサプライズは不評だったみたいだねぇ」
「殊勝だね。自分から殺されに来るなんて」
 レティシアのバニッシュに合わせて、自身のフラワシを放つ。
 それはアッサリとかわされてしまう。
「まあ、そりゃ想定の範囲ってことで」
 その間に、悠司はウゲンのそばへと距離を詰めていた。
 ウゲンへ嘲笑混じりに、ぽつ、と言う。
「失敗できねーよなぁ。
 また兄貴に負けちまうし」
 ゴゥ、と迫ったウゲンの拳に意識ごと殴り飛ばされる。

「ハ! 君はお兄さんに勝てはしないよ」
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が灼骨のカーマインの銃撃で牽制しながら、わざとウゲンを小馬鹿にしたような調子で悠司の挑発に重ねた。
「世界を壊す、なんて、作ったり、守ったりするよりもずっと簡単な事を自分の課題に選んでいる時点でね」
「作ったり、守ったりする必要を感じるそれこそが『枷』や『弱さ』だと知るべきだね」
 ウゲンが吐き捨てるように言ってトマスに迫る。
 トマスはそれでもウゲンを挑発する口を止めなかった。
「そうやって自分に出来ないことは否定して見下すんだ。
 自分を甘やかす簡単な生き方だよね。
 その分、お兄さんと比べられた時に、いじけるのも当然だ!」
「いじけたのはアイツの方さ。
 僕にまんまと騙されていたと知って帰ってきた時の顔は今でも笑えるよ!」
 トマスを打ち崩したウゲンの虚を突き、ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)がバーストダッシュで急接近する。
「では、その時、あなたはどんな顔をしていたのでしょうか?」
 そして、彼女のサイコキネシスがウゲンの動きをわずかに阻害する。
 そのわずかな隙に――
「つ〜かま〜えたぁ!」
 師王 アスカ(しおう・あすか)がウゲンにしがみ付いた。
 鬼神力などで肉体強化されたアスカの腕がウゲンを押さえ込もうとする。
「……っ」
「すまない……アスカ!」
 間髪入れずにルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)が氷術でアスカが捉えた部分を固める。
「捨て身で僕を押さえたつもり?
 こんなの――」
 ウゲンがアスカを振り解こうとするも、それが存外上手くいかない。
 それまでの戦いのダメージが蓄積されているためのようだった。
「くっ……このっ」
 ウゲンがアスカの顔面を思い切り殴りつける。
 何度も何度も繰り返され、その拳がアスカとウゲン自身の血を散らしていく。
「ッグゥ――ジェイダス様を苦しめる貴方を許す事はできないわ〜。
 美しくない戦法だけど、貴方を止めるにはこうするしかないでしょ?
 命を懸ける戦いに甘い理想や戦法は存在しないのよぉ!
 世界を終わらせなんてしないんだからぁ!」
「私だって同じ気持ちだ!」
 魔鎧リリウム・ホワイト(りりうむ・ほわいと)を纏ったミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)は大魔弾タルタロスの銃口をウゲンに向けていた。
「シャンバラで出会った色んな人たち――
 仲間、友人、強敵、恋人……皆大好きだ。
 だから、私もこの素晴らしい世界を救うためなら命を懸けられる。
 ウゲン!! お前を倒してシャンバラを守る!
 これが私の、正真正銘、全身全霊の一撃だぜ!!」
 ミューレリアの全てを込めたパラダイス・ロストが、ウゲンに向かって放たれる。
 ミカエラが、意識を失っているトマスを抱き、ウゲンを見据えながら呟く。
「如何に人並み優れた能力者であったとしても、あなたは根本のところで『ひとり』。
 戦い続けるにしても限界があるわ」
「言ってて鳥肌立たない? それ」
 そのウゲンの声には、虚勢が滲んでいるようだった。

 だが――

 その直後、ウゲンの執拗な攻撃でアスカの意識は失われ、彼は束縛を逃れた。
 パラダイス・ロストがウゲンを掠め、その後方の景色を砕き、崩壊させる。
 吹き上がる粉塵が雪の風景を覆っていく。
「は……あははははは!!!
 馬鹿みたいだね!
 あははははははははははは!」
 ウゲンはひとしきり笑った後、顔に歪んだ笑みを刻んだまま言った。
「限界だァ?
 お前ら、さっさと理解しろよ!
 お前らが幾ら束になっても、俺には勝てないってことを!
 確かに俺は『ひとり』だ!
 それで十分なんだ、全てが足りる!
 今、ゾディアックを止めたからって何になる?
 何度だって動かしてやるよ! 弄んで絶望させてやる! 俺にはそれが出来る!
 俺は誰よりも優秀なんだ! 全てを超越してる! 何にも制約されない!!
 俺は、ひとりで何だって出来る!
 あの兄貴を超えることだって――」
 と、彼は自身の足元に『線路』が敷かれていることに気付いた。
 振り返る。
 パラダイス・ロストが巻き上げていた粉塵煙の中を抜けて――
 この風景に似つかわしくない『高速車両』が、既に彼の目の前へと迫っていた。
 咄嗟に、ウゲンがそれを破壊するために渾身の力を放つ。
 突き出した拳が、突き出した先から砕けていく。
 彼が、もう一つのことに気付いた時には遅かった。
 車両の先に光学迷彩で潜んでいた横倉 右天(よこくら・うてん)の存在。
 自ら彼に貸し与えていたフラワシ、全ての攻撃を弾き返す超霊リフレション。
 跳ね返された力が、契約者たちの戦闘で疲弊しきっていた全身を砕いていく。
 そして、ウゲンの体は車両の先頭が向かうまま、谷壁へと押し潰されて行った。
 全ては一瞬の出来事だった。


「なんとか……上手く行ったのか」
 ルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)が呻くように言う。
 車両を具現化したのは、彼だった。
 彼はコトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)と共に、ウゲンを倒すための様々な装置を具現化しようと試みていた。
 その中で、唯一不完全ながらも具現化に成功したのが、先ほどの高速車両だった。
 そして。
「……愚かな右天様。
 ほとんどの記憶を失っていながらも、己の衝動の赴くまま本当に全てを――」
 地に倒れこんでいたアルカ・アグニッシュ(あるか・あぐにっしゅ)が呟く。
 右天の超霊は崩壊したようだった。
 それにより右天は致命的なダメージを受け、そのショックは彼女にも及んでいた。
 記憶を失い、己のフラワシによる破壊衝動しか持たない右天を、ウゲン討伐の捨て駒に使うべきだと提案したのはアルカだった。
 アルカにとって、それはかつて愛した哀れな主への最後の忠誠だった。



 装置に集められていた、想いが巡る。

 鬼院 尋人(きいん・ひろと)――
『ウゲン、もう一度、一緒に馬に乗らないか?』