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リアクション
第7章 パンティーの穴
とんたかとんたか……
森の前の森を、村雨焔のパートナーアリシア・ノース(ありしあ・のーす)が走り回って警備している。
「今みんなお風呂でくつろいでますからね。のぞいちゃダメですよー」
これを見てほくそ笑むのは、女子のぞき部員の風森望だ。
「あらあら。あんな子供たちだけに任せていいの……?」
感電パニックのドサクサにまぎれて森に出ていたのだ。森から中に入るのは大変だが、逆は簡単なのだ。
そして今、木の陰に隠れてレースのパンティーから女子をのぞこうとしている。
緋山政敏作成の罠MAPを手にして余裕綽々の望の目の前を、自身のパートナーノート・シュヴェルトライテが通り過ぎていく。
ノートはパンダ隊として、戦死者の赤月速人を捕縛して運んでいた。
「はあ重い。貴族も大変ですわ。そうだわ。望は何してるかしら」
ブッブッブッブッ。
望のケータイがブルった。
「なに?」
「望? お風呂は入りましたの?」
「お嬢様……。私、今忙しいんだから、早く用件を言って」
「今、パンダ隊ですの。それで、のぞき部の方を運んでるんですけど、重くって大変ですの」
「知ってるよ。それで何!」
「知ってる? い、いえ。別に……何かいい運び方を聞こうなんて思ってませんわよ?」
このとき、パートナーに連絡を取っているのはこの2人だけではなかった。
焔の機晶姫ルナ・エンシェント(るな・えんしぇんと)が連絡を取っていた。
「敵性データ捕捉。対応戦術立案完了。マスター、転送します」
アリシアは油断させるための囮で、望の行動はルナが追っていたのだ。
「了解。これは俺が出るまでもなかろう。頼んだ」
「ラジャ」
ガーーーーン!
『風森望、戦死』
空砲で気絶させられた望を見て、ノートは呆れて肩を落とした。
「あ、あなたって人は……!」
そのとき。望の手から罠MAPが落ちた。
「やっぱり」
闇から現れたパンダ隊隊長の白波理沙がそれを拾った。
罠MAPを作成した緋山政敏は、男子風呂で優雅にお湯を堪能していた。
のぞき部に罠MAPを渡したものの、それ以上の協力をするわけでもなく、まして自分がのぞくつもりは全然ないようだ。
「確かに、のぞきは男のロマン。でも見ろよ……」
1人、夜空を見上げて悦に入っている。
「天には星。そして月。大地には自然の恵み。山に川。この至福の時間こそ、人間のロマンだよ」
その通りである。この男、実にいいことを言う。
だが、1つ誤っていた。
それは、キリン隊とパンダ隊を甘く見過ぎていたことだ。
風祭優斗が、静かにポンポンと肩を叩いた。
「キリン隊です」
「おいおい。俺はのぞき部じゃないぜ」
「罠MAP横流しの罪は重いです。残念ですが、キリン隊とパンダ隊にのぞき部と認定されました」
「ええーーーっ。そんな!」
そして、有無を言わさず……捕縛。
戦わずして、『緋山政敏、戦死』
キリン隊であることを公言した優斗は、そのまま湯船を見張ることにした。
「まさか僕の目の前で堂々とのぞく輩はいないでしょう」
そして、森の前の森。
パンダ隊が望を捕縛してる隙に、レースのパンティーに迫る者がいた。
トライブ・ロックスターだ!
腹に突き刺さった木の枝を抜いて、赤い血をボタボタ垂らしながらここまでやって来たのだ。
おお、なんという執念! なんという気高きのぞき魂! ここに今キラキラッと輝く“のぞきスター”が誕生した!!!
が、しかし、いかんせん体が弱っていた。
ガランガランガランガランガランガランガラン!!!
理沙の張った鳴子の罠に足を引っかけてしまった。
「ぐおおお! こうなったら意地でものぞくぜッ!」
レースのパンティーまではあと少し。目立つのを承知で走り始める。
理沙も追いかけるが、こちらはかなり距離がある。
出血多量でなおも血を噴き出しながら走り出すのぞきスターが先か、パンダ隊隊長に就任してやる気まんまんの理沙が先か……!
そして、先にレースのパンティーに着いたのは……
のぞきスター!!
が、腹の負傷で体に力が入らないため、上ることもできず、簡単に開くはずの穴すらもあけられない。
「ううう……だ、だめか……」
そのとき!
ノートがうまく運べなくて放置していた速人が目を覚ました。
「トライブさん……! あと50センチ……右だ!」
「サンキューーーー」
のぞきスターは最後の力を振り絞り、足を引きずり、体を50センチズラした。
「あ」
穴がある!
速人が死ぬ間際にあけた穴が……あるッ!!!
ついに辿り着いたのだ。
瀕死ののぞきスターにはもうはっきり聞こえないが、とにかく女子風呂から声も聞こえる。
間違いなく、女子は……いるッ!!!!!
そして、のぞきスターはのぞき穴に目を……あてた。
ひゅん!
「うぎゃああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
バッタン。
のぞきスターはそのまま仰向けに倒れた。
女子風呂をのぞいたその目には…………矢が刺さっていた!!!
「ふう〜」
レイディスのパートナーフィーネ・ヴァンスレー(ふぃーね・う゛ぁんすれー)は、一仕事終えて弓と矢を女子風呂の隅に片付ける。
隣で見ていたベルナデッドは、叫び声がパートナーのトライブのような気がして、ぶるぶる震えていた。
「穴に人影が見えたとき、のぞいたら射る……と警告はしたさ」
フィーネはそう言い捨てると、悠々と湯船に入り、体を休めた。
「さてと、あとはゆっくり湯に浸かるさね」
警告が聞こえてなかったのぞきスターは、矢を射られた。
が、ここでくたばるようなら、のぞきスターではない。
気迫で矢を……引き抜く!
「ぐおおおおおおおお!」
スポン。
矢は目玉ごと取れた。
よく見たら、矢の先は吸盤で、目玉にくっついてるだけだった。
「あ……あ……え……なに……これ大丈夫なの?」
慌てて顔にはめ込み、落ち着いて吸盤を取った。助かった。
しかし、矢を射られたショックは大きく、よろよろよ歩き回る。
理沙はもう追いかけない。
ただ腕を組んで、……ニヤリ。
残念。のぞきスターは、……落とし穴に落ちた。しかも水が張ってある。
バッシャーン!
その水が真っ赤になるほど血反吐を吐くのぞきスターに、チェルシーがいつものように声をかける。
「嫌がってる女性の裸を見るなんてダメですわ。トライブさん。いっそわたくしとご一緒しませんかー?」
「ハイそこっ! ナンパしない!! 何度も言わせない!」
そもそも落とし穴からは容易に出て来られないようになっていて、チェルシーとデートなどできるわけがないのだ。
執念の男もついに断末魔の叫びをあげて、息絶えた。
「うおおおおおおおおお! ト・リ・モ・チ ごときぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
『トライブ・ロックスター、戦死』
「と、トリモチ?」
のぞきスターの叫び声は男子風呂まで響き渡り、1人の男を動揺させた。
冷静だったにゃん丸が、いきなり取り乱した。
「い、い、い、い、い、い、嫌な記憶が……そ、そうた……(ぶるんぶるん)いや、なんでもない。俺はのぞき部。真の勇者!」
トリモチに相当なトラウマがあったらしい。
「ははは早くしなくちゃ!」
「どうしたんです、にゃん丸さん。落ち着いてください。今はまだ危険ですよ」
クライスの制止も聞かず、にゃん丸はふらふらと立ち上がり、ケータイでパートナーのリリィに連絡する。
「リリリリリリリリィ。う、う、うまくいかなかったら、たたた助けてくれな」
「ううーん……ムリ!」
それでもにゃん丸は前に出る。
腰にタオルを巻いて、何やらもぞもぞしながら内股で湯船の中を壁に向かって歩き始める。
周囲の男子もざわざわし始め、キリン隊も、にゃん丸がのぞき部幹部だからか、様子が変だからか、とにかく敏感に反応した。隊長、副隊長、死んでるけど特攻隊長の間で一気に連絡が飛び交っている。
「にゃん丸さん……行くか。キリン隊は俺にまかせてくれ」
その頃ゴッド・アイでは、耳を澄まして男子風呂の様子を窺っていた者が1人、ゆっくりと立ち上がった……。
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