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『古代文明探求機構』の調査員を護衛せよ!

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『古代文明探求機構』の調査員を護衛せよ!

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第一章 第1班行動開始縲恷ヨの次は?縲鰀

 護衛団の第1班に組み込まれた和原 樹(なぎはら・いつき)は、警戒しつつ進めていた足を止め、首を右に向けて言葉を発した。
「よし。特に危険はないようだな」
「では、研究者たちを呼ぶのだな?」
 隣で光術を使って周囲を明るくしている樹のパートナー、フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が尋ねる。
「罠や魔物の気配がしない。大丈夫だよ」
「わかった。待っていろ」
 微笑を浮かべると、フォルクスは研究者たちを呼びに、今来た道を戻った。
 やがて、彼に導かれて研究者と仲間がやってくる。
「問題なさそうでよかったです。あの、ところでマスター、私の本体持ってないみたいですが、どこに置いてきたんですか?」
 後ろの集団の先頭にいた、セーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)が自分のマスターのもとへやって来ると、弱々しく訊いた。
「えっ、ああ、そのことなら心配するな。ちゃんとショコラちゃんに預けてきた」
 胸を反らして堂々と答える樹。留守番中のパートナー、ショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)の名前を聞いた瞬間、セーフェルは顔色を驚愕と不安が入り混じったものへと変化させた。
「預けっ……!? だ、大事なものなんですからちゃんと持っててくださいよ! 確かに持ち歩くよりイルミンスールに置いて来た方が安全かもしれませんけど……でも、私の持ち主はあなたなんですから」
「わかったわかった俺が悪かった縲怐B反省してまーす」
「棒読みでしたよね? しかも最後のって……10年前のスノーボード選手じゃないですか。絶対聞き流してますよね? ね?」
「チッ、うっせーな」
「ああっ、結局モノマネでごまかそうとしたっ! ひどいっ! あなたって人は――」
 なおも抗議の追撃を続けようとしたセーフェルであったが、
「おいおい、セーフェル。我の樹をそんなにいじめるな」
 樹の前に立ちふさがったフォルクスの言葉によってさえぎられた。
「樹をいじめていいのは……この世で我だけだ」
「な、何言ってんだよ!」
 訳のわからない庇い方をされて、樹はギョッとする。
「ふふっ、いずれは我の伴侶となり、人生のパートナーとなるのだぞ。他の人間にお前を傷物にされてたまるか」
 いつの間にか、フォルクスの指は樹の前髪を撫でていた。細くしなやかな指が触れるたび、樹の金髪が小さく揺れる。
「なっ、やめろって!」
「ふっ、お前のものは我のもの、いいや、お前の全ては――我のものだ」
 艶やかな声で樹への独占欲を吐露すると、樹をギュッと引き寄せ、顔を思いっきり近づける。吐息が当たるのを肌で感じれるくらいだ。
「ちょ、やめ、フォルクス……ホ、ホントに」
 混乱した様子でフォルクスから離れようとも腕の中でもがくも、離れられない。
 遠慮も配慮も無視して、フォルクスの唇が近づいてきた、その時――
「やめろって言ってんだろおおおおおぉぉぉ!!」
 怒号と共に繰り出された樹の頭突きが、フォルクスの鼻っ先を捉えた。二人には身長差があったが、フォルクスが少ししゃがんでいたため、ジャストミートだった。
「ふごふっ!!」
 漫画に出てくるザコ悪役のような声を出して、そのまま彼は吹き飛んだ。
「ったく、大勢の人がいる前で恥ずかしいことするなよ!」
「ああ、樹……そんな照れ屋なところも可愛いぞ。というか、『大勢の人がいる前で』ということは、二人っきりならいいのか? ふふっ、このロマンチストめ」
「まだ言うかっ!」
 ドガッ、ドガッ、と反撃を受けてもめげずに求愛するフォルクスを蹴りまくる。
「あれー。私の話は……」
 いつの間にかセーフェルは蚊帳の外に追い払われていた。
「あらあら、楽しそうでいいですねぇ縲怐v
 三人の様子を見ていたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)がおっとりとした口調でセーフェルに声を掛けてきた。
「そんな……騒がしくて申し訳ないくらいですよ」
「いえいえ。こんな洞窟だからこそ、楽しく行くべきだと思うんです。油断さえしなければ、どうってことないでしょうから」
「そ、そうですね」


 場の雰囲気に合わない雰囲気で進み続けていると、左右に横道のある大部屋にたどり着いた。と、その両方から、明らかに人のものではない影が伸びていた。
「……っ!」
大岡 永谷(おおおか・とと)がその二つの影に気がつき、前へと躍り出る。
「魔物だ! みんな下がれ!」
装備していた高周波ブレードを構え、眼前の敵を見据える。
「グルルルル……」
 永谷の敵意に反応したのか、威嚇するように喉を鳴らしながら二匹の魔物が全身を晒す。
 体面は白い獣毛で覆われており、鋭い目と牙は獲物を狙うかのようにギラギラしている。頭部には三角形の耳が二つある、いわゆる狼だった。
 しかし、目の前にいる狼たちは二つの点において通常のそれと違う。
 一つ、狼は人間のように二足歩行はしない。
 二つ、狼は――数メートルもの体長は有さない。
「人狼――ワーウルフか。相手にとって不足なし!」
「ま、魔物だぁ!」
気炎を上げる永谷とは裏腹に、後ろにいた研究員たちは足を震わせて下がっていく。
「ほらほら、非戦闘員は下がれ」
 さっきまでふざけていた樹も、真剣な表情で敵に向き直る。
「さて――大岡さん、準備はいいか?」
「ばっちりだ。樹さん!」
「いい返事だな。いくぞ! はぁぁぁっ!」
 樹は激しく呼気を放ち、パワーブレスを使うと、魔物のほうへと向かっていった。目で捉えることが困難なほど素早いダッシュの後に繰り出されるメイスの一撃は、ワーウルフの脇腹をえぐった。
「ギィッ!」
 身体をくの字に曲げて苦しそうな声を出す。
 樹の攻撃は終わらない。一撃を加えた直後に旋転し、地に伏しそうになったワーウルフに対してその後頭部にメイスの鉄球を叩き付けた。
 ワーウルフの頭が砕ける音と共に、ドゴォ、と地面が窪んだ。
 パワーブレスによる強化を行ってから、わずか5秒の出来事であった。
「すごいな。俺も負けてられないぜ! うおおおっ!」
 永谷は高周波ブレードの切っ先を横に向けて、もう一匹のワーウルフへと飛び込んでいく。同胞が辿った末路を見て、魔物の目には恐慌と怯懦が浮かんでいた。
(戦意喪失か。なら、たやすいぜ――!)
 横薙ぎに一閃、剣を振るう。ブォン、という高周波というにふさわしい斬音が起きる。しかし、仕留めたという手応えは感じなかった。
 永谷は気配を感じて視線を上に移すと、跳躍しているワーウルフの姿があった。
(来るかっ!)
 反撃を予想して構えるも、思惑とは違い、そのまま永谷の後ろへと向かっていった。
 もちろん、後ろにいるのは、研究者――非戦闘員。
「まずいっ!」
 永谷は追いかけるが、間に合わない。
 ワーウルフが、鋭い爪の生えた五指を振り上げる。その先には、腰を抜かしている研究者と、メイベルの姿が。
「逃げろっ!」
 永谷の声もむなしく、固まったように動かないメイベルたち。断頭台のように振り下ろされた爪が彼女の身体を八つ裂きに――出来なかった。
「あらあら、狼さん。おイタはいけませんわよ」
 メイベルのパートナーフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、瞬間移動でもしたかのように間に割り込み、ワーウルフの手首を掴んだのだ。
「わたくしのスキル、ガーターの誓いは、淑女を魔の手から守るもの。あなたでは決してメイベル様に触れることは出来ませんわ」
「今だっ! うおりゃあああああ!」
 全くの隙だらけだった背中に向かって、永谷はブレードを切り下ろした。
「ギッ、ガアアアアアッ!」
 低音の断末魔と激しい血飛沫を上げて、ワーウルフはドサリと倒れた。
「ふう、フィリッパさん助かったぜ。すげー力だな!」
「いやですわ。乙女に向かって、すげー力だなんて。お姉さん、困っちゃうわ」
「助けてくれて、ありがとうですぅ」
「メイベルちゃん、ケガはない?」
 メイベルのもう一人のパートナーセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が心配そうに駆け寄ってくる。
「うん。この通り、ピンピンしてますぅ」
「よかった……」


 魔物を退け、再び歩き出す。すると、大きな扉に突き当たった。罠がないことを確認してから開けようとするが、ビクともしない。
「おかしいわねぇ……」
 フィリッパが調べていると、
「この、文字とか関係しているのではないでしょうか?」
 セーフェルが指で扉の表面をこする。そこには、文字と思わしき文章が刻まれていた。
「あらホント。どれどれ、『鼠、牛、虎、兎、竜、蛇、羊、猿、酉、犬、猪』ですって。ですがよく見ると、蛇と羊の間がかすれてよく見えませんわね」
「おそらく、この蛇と羊に入るものを答えればいいのでしょう。う縲怩A一体何でしょう……」
「特に規則性があるわけでもないですし……わかりませんわねぇ」
「私、わかるかもしれないですぅ」
悩んでいる二人の後ろから、メイベルが声をかける。
「これは、干支じゃないでしょうか」
「エト?」
「ええ。昔、日本の文化について詳しい、お父様の知人の方から聞いたことがあるんですぅ。日本には年に相当する動物がいるって。その動物の言葉のリズムが面白くて、いつの間にか覚えてしまったんですぅ。」
「そうなんですか。それで、答えのほうは?」
「えっとですね、『馬』ですぅ」
 メイベルが馬、と発言すると、観音開きの扉がゴゴゴ、と震音を上げて開いた。
「おお! すごい。ホントに開きましたよ」
 感嘆の声を上げるセーフェル。
「よし、先に進もうぜ!」
 永谷が先を促して進んでいった。


 扉をくぐると、広い空間に出た。魔物や罠の気配はなく、一息出来そうな場所だった。
「一旦、この辺で休憩にしようぜ。研究員さんたちも大変だったろうから」
 永谷が皆に提案する。反対はなかった。
「いや縲怐A皆、ありがとう。護衛はしばらく解いて、ちょっと自由時間にしてもいいよ」
「そうだね。あまり無理されてもこちらが申し訳ないから」
 護衛してくれたメンバーに労いの言葉をかける研究員たち。
「やった。僕お腹空いちゃったよ。あ、サンドイッチがあったっけ。メイベルちゃん。フィリッパちゃん、一緒に食べよ縲怐v
 セシリアが三人と一緒に軽食を取り始める。


「ほら、そんなに脅えないで。ゴーストが出ても俺がいるから大丈夫だよ」
「なっ! てめー、誰が脅えてるだとコラ!」
「あははっ、ムキになっちゃって。可愛な雲雀は」
 洞窟に入ってからというもの、護衛中、必要以上にキョロキョロと見回していた土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)を、彼女のパートナー、エルザルド・マーマン(えるざるど・まーまん)が茶化す。
「だ、大体あたしは遺跡なんて興味ねえのに……。てめーが来たかっただけだろうがよ」
「でも、ゴーストは気になるんでしょ?」
「べ、別に怖いわけじゃないからなっ!」
 文句を零しながら捜索をする雲雀と、彼女の文句を受け流すエルザルド。
 そこに、
「あの縲怐v
「うえひゃっ!!」
 突然声がかかったため、つい声を上げてしまった。
「大丈夫だよ。雲雀。俺たちの仲間だ」
「えっ、あ、ああ。ヴァーナー殿、申し訳ないであります!」
 即座に言葉遣いを直す。
「あっ、いえいえ。ボクこそ急に話しかけてごめんなさい」
 ペコリ、と可愛らしく頭を下げたのは、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)である。
「雲雀おねえちゃんもゴーストさんを探しているんですか?」
「ええ。そうであります」
「やっぱり! ボクもなんですよ。見つけられるといいですよね縲怐Bいろいろお話したいなぁ」
 ウキウキといった感じで、辺りを歩き回っている。
「同じゴースト捜索でも、全然違うな」
「うっ、うるせえよっ!」
「はいはい、強がってる所も可愛いよ。――ん、雲雀、後ろっ!」
「あ? 何だよ? どうせ驚かそうって魂胆なんだろ? 無駄だぞ」
「いや、ホントに、ゴーストが」
「えっ?」
 雲雀が振り返ると、そこには、爽やかな笑顔を浮かべている半透明の中年男性が立っていた。視線を下に移すが、もちろん、両足はない。
「で、出た……」
 青ざめた雲雀が驚きすぎて悲鳴も出せなくなっていると、
「ああっ、ゴーストさんだ!」
 ヴァーナーがすぐに駆け寄ってきた。
「君たち、もしかして僕を探してる?」
「はい。お話とかしてみたいです。あと、もし何か問題があるんだったら、かいけつしてあげたいです!」
 ヴァーナーの言葉を聞いて、そうかい、と少し寂しそうな笑顔を浮かべると、
「じゃあ、僕についておいで。まだ先はあるんだ。あっ、自己紹介が遅れたね、僕の名前はロンクス。よろしく」
 そう言って、洞窟の奥へと来るように促した。
 休憩が終わった後、ゴーストのことを班の全員に話し、奥へと移動を開始した。