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少年探偵、墨死館(ぼくしかん)へゆく

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第三章「明日を見ぬ身」

 V:蒼空学園の春日井 茜(かすがい・あかね)だ。
 私が選択したのは、「明日を見ぬ身」。
 メイドの説明によると、どうやら誰かが捕らわれているらしい。それが人であれ、なんであれ、明日を見られないなんて、そんな悲しい事はないだろう。
 私は、それを助けるつもりだ。願わくば、話の通じる相手だといいのだが。

「こう言っては失礼かもしれませんが、茜殿は、正義漢の強そうな方ですね。
 どうやら、この部屋を選んだ理由は、我と同じようです」
 メイドの案内で部屋へむかう途中、茜と言葉を交した藍澤 黎(あいざわ・れい)は、そう微笑んだ。
「思うのですが、明日を見る=明日が来る、と考えれば、明日を見ぬ=明日が来ない、となります。
 つまり、この部屋では、いつまでも翌日にならない、終わらない晩餐会が続いているのではなかろうか、と」
「終わらないなら、私が終わらせるぞ」
「我も右に同じ、というところです」
「お待たせいたしました。こちらでございます」
 メイドがドアを開けると、そこは、シャンデリアがきらめき、クラッシックが流れる、赤い絨毯の敷かれた、大広間だった。
 いくつものテーブルが並べられ、パーティの用意がすでに整っている。
「それでは、世話係が不慣れな者ゆえ、いたらぬ点ばかりかと思われますが、ごゆっくり、お楽しみくださいませ」
 一行が部屋に入ると、メイドは頭を下げ、ドアを閉じた。
 黎は、メイドがドアの鍵をロックするのか確認していたが、ロックはされないまま、足音は遠くなっていった。
「用心に越したことはないが、このドアならいつでも壊せそうだし、大丈夫であろう」
 黎は、脱出経路を確保するために、出入り口に、仕掛けをしておくつもりでいたが、この両開きの木製のドアには、それは必要ないと判断した。


 V:インスミールのリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)です。
 わたくしが以前、聞いた噂によると、ゲイン家までお使いに行った商家の小僧さんが、血、内臓をすべて抜かれて、空っぽになって帰ってきたのだそうです。
 店に帰り着くと、すぐに倒れて死んでしまったらしいのですけれど、不思議と体に外傷は一つもなかったという話です。
 ゲイン家にまつわる噂は、星の数ほどあるのに、それでもその家系が絶えないのは、証拠を隠すのが上手だからでしょうね。
 おや、今日のこのパーティにも、先客がいらっしゃるようですわ。なんだか、ほっとしてしまいますわね。

 広間には、一行が到着した時点で、すでに先客が何人かいた。
 リリィに近づいてきたのは、ワイシャツの両袖を捲くりあげ、刺青のはいった二の腕をだしたまま、グラスを片手に陽気に歌っている若い男。
「よう姉ちゃん。いらっしゃい。あんた、ノーマンが派遣してくれた接待係かい」
 いきなり、リリィの体にさわろとした男の手をリリィのパートナーのカセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)が払いのけた。
「この子は、両家のお嬢さんだ。おまえとは、生きる世界が違うよ。ちょっかいだすな」
「はん。なんだ、三下。オレを知らねぇのか」
「知らんね。ノーマンに飼われたゴロツキってとこだろ」
「あーあ、無知は恐ろしいよな、コワいもんがない。オレは、フランクリン。フランクでいい、いや、フランク様だ。地球には、居場所のない、金目当ての人殺しさ」
 刺青の男は、ワイシャツの胸をあけ、腹の傷跡をみせた。銃で撃たれたらしい傷が、五つもある。
「あんた、’死にぞこないのフランク’」か。ああ。聞いたことある気もするな」
「ま、そういうことだ。ちなみにあっちにいるハゲは、最近、景気の悪い’麻薬王’さんで、あのスケベくさい女は’生きた死体と寝る貴婦人’だぜ。青少年。ここじゃ、楽しくやろうぜ」
 フランクは、リトルグレイに無理矢理グラスを渡し、勝手に乾杯すると、他へ行ってしまった。
「リリィ。あいつ以外の他の客も、俺が地球でワルをやってた頃に、どっかで見た気のするやつばっかりだ。裏の世界のスターどもさ。おまえ、俺から離れるなよ」
「わかったわ」
 リリィは、リトルグレイと一緒に、先客たちの動向に注意しながら、室内を探索を開始した。


「きゃああああ」
 悲鳴の後には、ガラスの割れる音がした。
 メイドがしゃがみ込んで、半ベソをかいている。
 姿かたちは、館内の他のメイドと同じだが、雰囲気が、人形めいたメイドたちと比べると、ずっと普通の人間っぽい感じがした。
 どうやら、グラスを運んでいて、転んでしまったらしい。彼女は、黒のゴシック・ロリータファッションではなく、紫の普通のメイド服を着ていた。
「うう・・・ううう・・・・・・ごめんなさい。糸くずが落ちていたのを、虫がいるかと思っちゃったんです。ひっく」
 尻餅をついたまま、泣いている彼女のところへ、宇佐木みらびとパートナーのセイ・グランドルが歩みよる。
「大丈夫ですか。はじめまして、宇佐木みらびです。うさぎって呼んでくださいねっ。うさぎも、よく失敗するんですよう」
 みらびは、割れたしまったグラスの後片付けを自分から手伝いだした。
「ど、ど、どうも、すいません。あ、あたし、くるみです。このパーティーのお世話係をさせてもらっています。よろしく、お願いしますっ。うさぎさん、悪いですよ。あたしにやらせてください」
「みらび、手を切るなよ。俺も手伝うよ。こんなに広い部屋で、しかも宴会をしてるのに、メイドさんは、きみしかいないなんて、不思議だね」
「みなさん、きっと、忙しいんですよ。ここは、あたしが任されていますから、自信はないですけど、頑張りますっ」
 セイの質問に、くるみは胸を張ってこたえた。
「くるみさんって、胸、大きい・・・・・・」
 グラスの破片を拾いながら、くるみの胸に目を奪われたみらびは、バランスを崩し、顔から絨毯へ、
「はわわわわ。へ」
 セイは、とっさにみらびを庇おうとして、倒れかけたみらびを抱きとめた。が、自分も転びそうになり、気がつくと二人は、抱き合い、息がふれあう距離で見つめあっていた。
「・・・・・・」
「・・・みやびが、転ぶと思ったから、俺」
 一瞬後、二人は体を離し、背中をむけあった。互いに顔は真っ赤だ。
「だ、だから、さ。そんなんじゃねえよ・・・・・・」
 みやびは耳まで赤くして、照れた様子で下をむいている。
「うわあ。ごめんなさい。あたし、お二人にご迷惑をかけてしまって、メイドなのにぃ」
 くるみがまた泣きはじめる。
「・・・セイくん、ありがとう。う、うさぎは、くるみちゃんを手伝いますっ」
 くるみとみらび、セイは片付けを再開した。
 みらびもセイも、それぞれ、さっきの急接近に違和感を覚え、首を傾げ、こっそりつぶやく。
「セイくんの顔、あんなに近くで見たのはじめてなのに、そうじゃない気がする。なんで」
「前にもあったか、あんなこと。ねぇよな。だけど」

 
 雪だるま王国国民の椎堂紗月は、パートナーのラスティ・フィリクスと、少女にしかみえない外見はともかくとして性別は男である紗月を姉! と慕う雪だるま王国女王、赤羽美央の推理に従って、美央のパートナーのジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)と二人で、広間内で犯罪の証拠を探していた。
「紗月。ミーは、見つけてしまいマシタ。間違いないデース。
 華やかな広間の片隅に誰にも気づかれず、ひっそりと存在する隠し部屋デース。
 ここには、きっと、ああ。吸血鬼のミーが想像しても、おそろしいデース・・・・・・」
「おいおい。カーテンの裏にあって、たしかに誰も気にしてないけど、きっと普通の部屋だぜ。
 ドアにも、’くるみ’ってプレートがついてるし、もしかして、ここは、あのメイドさんの私室じゃないのか?
 あの子、ここに住み込んでるのかもな」
「真相はここにあるデース」
「えっ。入っちゃうの。
 気が引けるな。
 俺たち、女の子の部屋に忍び込んでるだけじゃん。違う意味でやばいぞ。こっちが、犯罪者になっちまう。
 こら。ジョセフ。突入するな!」
 紗月が止めるのもきかずに、ジョセフはドアを開けた。
 そして、二人は、それを見つけた。

 V:ふむ。噂にたぐわず、墨死館の住人たちは、なかなか珍しい趣味趣向の持ち主らしいな。
 私、ラスティ・フィリクス(らすてぃ・ふぃりくす)は、おもしろいものは、大歓迎だ。
 しかし、この機械群はなんなのだろう。たぶん、寝台部分に横になった人間を先端の針で刺したり、ベルトで締めたりして、コードとつなぎ、機械からの電気だの電波だのを流すように見える。
 つまり、大掛かりな電気椅子のようなものか。
 ジョセフが試しに使ってみてくれないか。

 V:雪だるま王国女王、赤羽美央です。
 私は、今回の事件の実行犯は、ノーマンさんで、動機は、彼のパートナーさんにあるのかな、と推測しています。
 大切なパートナーさんを傷つけた人たちにノーマンさんが、復讐したという感じです。
 だから、この「明日を見ぬ身」にいる、かわいそうな子が、ノーマンさんのパートナーさんかも知れないと思って会いにきました。
 そして、お姉ちゃんとジョセフが見つけたくれた、この部屋にある装置は、まるで。

「フランケンシュタインです」
「ミーは、そんな人造人間は、知りませーん」
「ジョセフ。人造人間って知ってるじゃん。じゃ、美央はここでフランケンシュタインほ怪物が、作られてるって言いたいのか?」
 紗月は、室内のところ狭しと置かれたアナログチックな機械装置をあらためて眺めて、アナクロのホラー映画を連想し、美央の推理もありえる、と思った。
「禁断の研究の一つだが、それがここで、行われているということは、つまり、この部屋にいるメイドが、あれ、なのか」
「ラスティは、フランケンさんに会ったことは、ありますか?」
「私は、まだない。」
「ミーも初対面デース」
「俺も」
「私もありません。けど、一度死んで甦ったフランケンさんには、本当の意味での明日は、ずっと来ないのでは、ないでしょうか。もう、死んでしまっているのだから」
 その時、ゆっくりとドアが開いた。
 雪だるま王国のメンバーが、語りあっているところに、部屋の主が戻ってきたのだ。


 ちくりとしたわずか痛みに、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、顔をしかめた。
「サービスだ。すぐに気持ちよくなるから、気にするな」
 アリアの腕に注射器を突きたてたのは、パーティの先客の一人で、目の下に濃い隈がある、坊主頭の太った男だ。
 横にいる毛皮コートを着た金髪の女が、アリアの髪を撫で、ささやいた。
「クスリから始まる愛もあるのよ。これから、一生、彼にしゃぶられなさい」
 女の顔は一見、美しく見えるが、よく見るとほとんどが化粧で描かれたものであり、素顔がまるでわからないのに、気づく。
「な、何なのこれは・・・・・・!?」
「俺様に興味があるんだろ。おまえも仲間にしてやるよ。俺の帝国の女王にな」
「あんたの帝国なんてとっくに終わってるってば。ギャハハハ」
「黙れ。保険金太りの人殺しの年増ババアが」
「なんですってえ。この売人風情が偉そうな口ききやがって」
 地球にはもはや居場所のない犯罪者たちが、罵り合っている隣で、アリアは力を失い、絨毯に倒れ込んだ。
 過去に自分を傷つけた犯罪者を探し、墨死館を訪れたアリアは、坊主頭の男の顔に見覚えがある気がして、彼に近づき、話をしようとしたところをいきなり、注射器で刺されたのだった。
 早くも薬が効いてきたのか、意識がもうろうとして、助けを呼ぶことも、体を動かすこともできない。
 視界が暗くなった。
 胴を抱えられて、体が宙に浮くのを感じる。
 銃声がきこえた。
「静かにしろ! 俺は、こんなところでちんたらしてるヒマは、ねぇんだ。ノーマンの野郎と話をつけに行かさせてもらう。おいしい話があるんでな。ビジネスだよ。この女は、もらっていく。邪魔するな。どけ。今度は、天井じゃなく、この女の頭ぶち抜くぞ」
(いやっ。誰か、助けて。いやあ)
 アリアの心の叫びは誰にも届かない。
「じゃあな、あばよ」
 やがて、アリアの意識は完全に消えた。


 V:氷雨君に、危ないから玄関ホールにいたほうがいいよ、って言ったのに、聞いてくれないんだもん。
 私たち、迷子になっちゃいました。
 私、鏡氷雨君のパートナーの竹中 姫華(たけなか・ひめか)です。あ、氷雨君。そっちは違うと思うよ。

「OK。姫ちゃん。こっち、行ってみよー!」
「だから、そっちはダメだよ」
 鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)は姫華の手を引っ張って、なぜか人気のない方、ない方へと進んで行く。
「ねえ。他の人もメイドさんも、誰もいなくなっちゃったし、このままじゃ、事件が解決しても、私たちだけ、ここで、ぐるぐる迷い続けてるかもしれないよ。なんで、私が・・・」
「あれっ。人がいるよ」
「ほっ」

 V:氷雨君は知らないけど、私はすっごく安心した。たくさん人がいて、メイドさんに案内してもらってる。この人たちと一緒にいれば、とりあえず迷うことは、なさそうね。
 でも、なんか、この人たち、みんな、すごく怖い顔してる。どうかしたのかしら。

 氷雨と姫華が出会ったのは、「人形遣い」の屋根裏部屋からきた、ヴォルフリート、菫、パビェーダ、侘助、火藍、雪華、礼香、永太たちだった。
 捕らわれのヴァーナーを救うために、「明日を見ぬ身」にむかっている途中である。
「君たち、この屋敷の中は、勝手に歩きまわらない方がいいと思いますよ」
「俺たちといた方が安全だ」
 ヴォルフリートと永太に声をかけられ、氷雨と姫華は、一行に加わり、「明日を見ぬ身」へ。
「どうぞ。こちらです」
 メイドが開けたドアに元気よく入っていった氷雨と、氷雨に袖を引かれた姫華は、室内にいる者たちに射抜くような鋭い視線をむけられた。
「アリアは、どうした?」
「・・・私は、なにも」
 険しい表情の春日井茜にきかれ、それだけで姫華は涙がこぼれそうになった。
「誰それ。ボクは知らないよー」
 氷雨は明るくこたえる。
「それは、おかしいですね。貴殿らが入ってくるほんの数秒前に、ここから少女を抱えて出ていった男がいたはずです。廊下ですれ違うか、姿を見ていると思うのですが」
 藍澤黎は、物思いに沈むように目線を落とした。
「とにかく、私はアリアを助けに行く」
 部屋をでようとする茜を、黎は腕をのばし、制した。
「待ってください。出られないかもしれません。この部屋に一度、踏み入れてしまった時点で、我々は、この時間に囚われてしまっているやもしれぬ」

 具合が悪いと言う、くるみとともに彼女の私室へきた、みらびとセイは、そこにいる雪だるま王国の面々に驚いた。
「ぴよっ! みなさん、なにをしるんですかっ。ここは、くるみさんのお部屋ですよね」
「フランケンが三人も帰ってきて、ミーもびっくりデース」
「おまえら、どけよ。この子、調子が悪いんだ」
 くるみに肩を貸しているセイは、くるみを寝台へと連れてゆき、横にさせようとする。
「あのう、あたし、服を脱ぎたいんですけど・・・みなさん」
「あ、ああ。ごめん。外にでてるよ。ほら、みんなもでようぜ」
 外へ行こうとするセイの手をくるみは掴み、
「みなさん、手伝ってくれませんか。あたし、体が弱くって、この機械で定期的に電気ショックを受けないとダメなんです。
 あたしの体に、そこにたくさんあるコードをつないでくれますか?」
「コードって。くるみさん、あなたはっ」
 くるみは、みらびに弱々しい笑顔をむけた。
「あたし、この機械がなかったら、とっくに死んじゃってる弱い子なんです。
 御主人様が、優しくしてくださって、この機械と、それとあたしにしかできない特別なお仕事を用意してくださいました。
 あたしは、このお部屋でパーティーのお世話をしながら、特別なお仕事のお呼びがかかるのを待ってるんですよ」


 横になって機械とつながり、休んでいるくるみと、勝手に飲み続けている先客たちを除いて、「明日を見ぬ身」にいる者は、全員、出入り口のドアの前に集まり、今後の対策について話しあっていた。
「生きてようが、死んでようが、そのメイドのお姉さんをマスターのところに、連れていけばいいんでしょ」
 菫はこともなげに言う。
「俺は、西洋の儀式魔法には、ちったあ詳しいんだがな。この部屋からでたら、あの子の命は数分ともたないぜ。装置を見せてもらったが、あれは魔法と旧式の科学のでたらめな結合だ。
 あの子は、この部屋にいる限りは、あれの力もあって、普通にしていられるが、ここからでたら、おしまいだ」
 カセイノ・リトルグレイの話の後は、座を沈黙が支配した。
「俺と火藍がここでくるみさんを守ってるから、みんなで、マスターとノーマンを倒してきてくれないかな」
「あんたは、またそんなものぐさなことを言って。みなさん、俺は思うんですが、マスターは、この部屋のメイドさんが、墨死館の真の主人の母親で、すべてのメイドさんの元だって言ってましたよね。変な話ですが、あの子の特別な仕事ってのは、その主人を産んだり、メイドさんたちのモデルになることだったんじゃ、ないんですか」
「だったら、あの子はもう用済みっちゅうこっちゃ。いらない子や。あんた、ひどいこと言うなあ。って、言っとんのは、私かい」
 久途侘助と春住火藍、桜井雪華のやりとりの後、氷雨が口を開いた。
「どんなわけかは、よくわかんないけど、とにかく、あの子がかわいそうだよ。ボクは、あの子と仲良くする」
「みなさん、すいません。館からでる時には、あたしたちも呼んでください。ううっ。なんで、私が・・・」
 氷雨は姫華を引き連れ、一同から離れて、くるみの部屋へ。
「話していても、まとまりませんね。くるみは、氷雨たちに任せて、この部屋をでるとしましょうか。この人数なら、作戦次第で、人形遣いは、倒せると思います」
 篠北礼香の提案に、異論はあがらず、一同はドアへとむかう。
「しかし、「明日を見ぬ身」の意味が、くるみ殿の体のことだけとは、思えぬが」
 黎は、納得のいかない表情で、最後に部屋からでてドアを閉めた。


 久途侘助と春住火藍、桜井雪華のやりとりの後、氷雨が口を開いた。
「どんなわけかは、よくわかんないけど、とにかく、あの子がかわいそうだよ。ボクは、あの子と仲良くする」
「みなさん、すいません。館からでる時には、あたしたちも呼んでください。ううっ。なんで、私が・・・」
 氷雨は姫華を連れ、一同から離れて、くるみの部屋へ。
「話していても、まとまりませんね。くるみは、氷雨たちに任せて、この部屋をでるとしましょうか。この人数なら、作戦次第で「人形遣い」は、倒せると思います」
 篠北礼香の提案に、異論はあがらず、一同はドアへとむかう。
「しかし、「明日を見ぬ身」の意味が、くるみ殿の体のことだけとは、思えぬが」
「私もそうは思いますが、いまだこの罠の全容が把握できません」
 黎とウィング・ヴォルフリートは、揃って納得のいかない表情で、部屋からでてドアを閉めた。


 氷雨は姫華を連れ、一同から離れて、くるみの部屋へ。
「話していても、まとまりませんね。くるみは、氷雨たちに任せて、この部屋をでるとしましょうか。この人数なら、作戦次第で「人形遣い」は、倒せると思います」
 篠北礼香の提案に、異論はあがらず、一同はドアへとむかう。
「しかし、「明日を見ぬ身」の意味が、くるみ殿の体のことだけとは、思えぬが」
「私もそうは思いますが、いまだこの罠の全容が把握できません」
 黎とヴォルフリートは、納得のいかない表情で、最後に部屋をでようとした。が、
「うさぎは、なんかおかしいと思いますっ。あの、あの、みんなで部屋に戻りませんか。絶対にヘンですよ。みなさん、うさぎの話をきいてくださいっ!」
 宇佐木みらびのお願いで、一同は部屋に戻った。
 みらびは全身を真っ赤にしながら、セイと顔を近づけた時に感じた違和感を語り、他の者にも、そんな感覚を味わっていないか、尋ねた。
 何度も同じ時間を繰り返している、誰もが心のどこかで、そう感じていた。
 みんなの返事をきき、みやびは、ぴょんと跳ねた。
「ぴよっ! って、ことは、みなさんもなんですねっ」
「これが、「明日を見ぬ身」の罠の正体だとして、そうすると、突破するためには、やはり」
 茜は、一度、言葉を切り、
「くるみ君を連れて、ここをでるしかない」
 その行為が、正解であるらしいことは、全員にわかっていた。
 部屋をでることが、くるみにとって、なにを意味するのかも。
「すべてが解決するまで、お薬でも飲んで、くるみさんに安静にしていただいて、その間に」
「そんな都合のよい薬が、いまここですぐに用意できるとは、思えぬが。どなたか、薬でも魔法でも、なにか手立てはないのか」
 リリィ・クロウもラスティ・フィリクスも、真剣にくるみの身を案じていた。
「誰も言えないようだから、あたしが言うわ。あの子をここからだしてやるのが、あの子にとっても一番いいの。生きてるか、死んでるかわかんない状態で、ずっとここにいるよりもね。あたしも、あんたたちも結局、ここからでるしかないんだし」
 内心の葛藤をみせず、菫はさらりと普通に言うと、パートナーのパビェーダ・フィヴラーリとくるみの部屋へ歩きだす。
 二人を止められる者は、誰もいなかった。

 体調を崩してしまったくるみは、氷雨と姫華に両脇を抱えられて、どうにか広間へとでてきた。
 部屋のループを終わらせるには、部屋にいる全員の退去が必要だと判断した一同は、まず、嫌がる先客たちを外へとだし、自分たちも一人ずつ部屋をでていった。
 最後は、氷雨、姫華、くるみと黎である。
「あたしは、ここで、特別なお仕事に呼ばれるまで、がんばらないといけないんですう」
「くぅちゃん。ボクがついてるから、ね」
「私もいますよ」
 氷雨と姫華が、くるみをなだめる。
「くるみ殿。貴殿は、じゅうぶんに働かれたと思う。一休みされたほうがいい。我が校のカフェはグルメも唸らせるコーヒーを出すのです。貴殿にも味わっていただきたい。我が招待いたしますので、ご一緒願えますか?」
「ええっ。おいしいコーヒーですかぁ。じゃあ、今度のお休みにでも」
「ボクもくぅちゃんと行くよ」
「私も行くもん」
「みなさん、是非に、です」
 四人が部屋をでて、「明日を見ぬ身」のドアは閉じられた。

 そして。
「終わったようですね」
 黎はつぶやいた。
 一同は先客もふくめ全員、廊下にいた。
「くうちゃん。あれっ」
 氷雨は周囲を見回すが、くるみの姿はない。
「中かな」
「ダメっ」
 姫華が止めるのもきかず、氷雨はドアを開ける。
 そこには、あかりの消えた、静まりかえった暗い大広間があった。
 さっきまでの宴の様子は、微塵もない。
「・・・・・・それでも、私たちはくるみさんを助けてあげた、と思いたいです」
「うん。助けた、さ」
 美央の言葉に、紗月は優しくこたえた。
「おそらく、くるみさんは、お仕事が終わった後も、自分が産んだ子が心配で、想いだけがここに残っていたようですね。・・・・・・怖くない幽霊もいるのね・・・・・・ノーマン・ゲイン。人形遣い。てめら、待ってやがれ!」
 タンカを切って歩きだした礼香を先頭に、一行は屋根裏部屋へとむかう。