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 第七章「図書室 二」

 V:図書室にて調査続行中のミレイユです。輸血パックの血液をストローでちゅぱちゅぱしながら、本を読んでるよ。さっきからシェイドは、黙り込んでて、どうもおもしろくないんだよね。年代ものの魔道書がたくさんあるんだけど、読んでてもおもしろくはないしさ。呪われそうで、怖いよ。ん?

「しまったあ」
「どうしました」
「あ、あ、ああ。なんでもないよ」
「どうしたのですか。ミレイユ」
「ごめんなさい。本に血をこぼしちゃった。でも、いいよね。これだけ、たくさんあるんだし、ゲイン家のだもんね」
 シェイドは、ミレイユの手元の本を引き寄せ、血で汚れたページをじっと眺めた。
「ねえ、弁償はないよね。いくら、なんでもさ」
「よくできてはいますが、やっぱり」
「へ」
「そもそも十五世紀以前の本に活版印刷が使われているのは、いくらゲイン家でもありえないですね」
 シェイドは、ミレイユに同意を求めるようにささやいた。
「どういう意味なの?」
「この紙にしてもそうですが、出版年代にくらべて質が良すぎです。おそらく、この図書室にある稀稿本、禁書はほぼすべて偽書ですね。ゲイン家の私家版のものもふくめて」
「全部、偽物なの」
「ええ。私が感じた違和感の正体はこれです。私はこれらの本の本物をいくらかは、知ってますから」
「こんなに偽物を集めて、どうする気なんだろう?」
「本物のフリをして、虚栄心を満足させたい、というところでしょうかね」
「この、ゲイン家は偽物なの・・・・・・」
 シェイドは、小さく首を縦に振った。
 突然、図書室のドアが荒々しく開く。
 血まみれのエル・ウィンドが転がり込んできた。
 全身で庇うようにして、ヴァーナー・ヴォネガットを抱きしめている。
「お兄ちゃん。どうしたの?」
 駆け寄るミレイユに、エルは笑みをみせた。
「屋根裏部屋を見つけたんで、蜘蛛男に捕まってた、この子を助けてきたぜ。うっ」
「ひどいケガ。やんちゃしちゃだめだよ〜」
「ありがと」
 黒いメイド服のヴァーナーが弱々しく礼をつぶやく。
 エルは、ヴァーナーを抱いた腕に力を込めた。
「誰かきたようですね」
 シェイドは、エル、ミレイユ、ヴァーナーを守るように前にでる。
「僕の娘を返せよ。金髪のメガネ野郎!」
 エルにヴァーナーを奪われた人形遣いが、怒りに駆られ、屋根裏をおりて、図書室までやってきたのだ。

 V:な、なんだって!? PMRの比賀だ。トイレに行ったはずのエルが、血まみれで女連れで帰ってきた。
 しかも、その後には、腕が何本もあるクモ男と、メイド軍団が攻めてきて、図書室は大騒ぎだ。多勢に無勢はわかっちゃいるが、仲間を捨てて逃げる気はないぜ。いいよ。やってやるよ。

「派手に爆発する? それとも蜂の巣になるのが望みか?」
 二丁拳銃で撃ちまくる比賀だが、メイドたちに致命傷を与えるわけにもいかず、あくまで威嚇射撃しかできないため、徐々に追いつめられ、戦況は不利になってゆく。
「やばいよう。やられちゃうかも」
「ミレイユ。そういうこと言うと、おやつ抜きにしますよ?」
「みんな、すまない」
 必死の抵抗を続けるPMRとエルの耳に、廊下を走る足音と怒声が届く。
「人形遣い、どこだあー」
 間もなく、「明日を見ぬ身」にいた一団が、図書室に突入してきた。