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少年探偵、墨死館(ぼくしかん)へゆく

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少年探偵、墨死館(ぼくしかん)へゆく

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 第六章「流血の檻」

「春美さん。マングローブの儀式は御存知ですわよね。熱帯の森林? なんですかそれは。
 あなたは、シャイロックの熱狂的なファンなのでしょう。えっ、シェイクスピアではなくて、コナン・ドイル? あなた、どちらが有名だと思ってますの。
 まあ、いまはいいですわ。マングローブです。は。ホームズのマスグレーヴ家の儀式なら、知ってる、ですって。最近では、そうとも言うらしいですわね。少々、お持ちください」
 携帯を使っているのは、百合園女学院推理研究会会員イルマ・レスト。
 通話の相手は、同じ推理研の霧島春美である。「ホームズの話なら、わかると思う。ちょっと、代わってもいいかな」
「はい。お任せしますわ。私、民間探偵のホームズよりも、警察出身のポアロの方を認めてますの」
 イルマは、ホームズファンのクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)に携帯を渡した。
「電話、代わりました。春美さんが、シャーロキアンだってきいてね。
 確認したいんだけど、ボクらはいま「流血の檻」にいる。ここの状況が、ホームズのマスグレーヴ家の儀式によく似てるんだ。
 あの話の内容を話して欲しい。もう、ずいぶん前に読んだんで、ボクは忘れてて」

 V:マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)だよ。俺の人殺し人生の大先輩が、楽しい館に住んでる、ときいて遊びにきたのさ。
 パートナーのシャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)さんも、行ってこい、ってすすめてくれたしね。とにもかくにもゲイン家。人間家具や生き血一気飲みパーティーの話は、誰でも知ってるよね。
 俺の選んだ部屋は、「流血の檻」。いまはまだシケてるけど、この後、ガンガンくると思うよ。景気づけに一丁やっとこう!

 マッシュは、高周波ブレードで壁を切りつけ、自分のボスであり、尊敬する人物シャノン・マレフィキウムのイニシャルSMを壁に刻み込んだ。
「ヒャハハ。怪物でも殺人鬼でも、早く出てきなよ!」

 V:イルマのパートナーの朝倉千歳よ。
「流血の檻」は、部屋自体はまともだわ。案内したメイドの話だと、この館の執事夫妻の部屋なんですって。
 テーブルとイス、天蓋つきのダブルベット、キッチン、トイレ、シャワールーム。壁のない4LDKのマンションといったところ。
 食卓には、私たちのための料理が並んでいて、料理は、メイド服を着た彼女がいまもここのキッチンで作っては、運んでくるの。さっきから独り言を言い続けている彼女は、明らかに普通ではないわ。どうやら執事の奥さんらしいけど、執事はここにはいない。
 そして、この部屋の一番の特長は、窓。南側の壁一面がガラス張りで、そこからは、館の中庭にでられるようになってる。
 芝生が植えられ、木や大きな池もある、なかなか広い庭園よ。隠し部屋でも探してるのか、いきなり、壁を傷つけた危ない人が、調査メンバーの中にいて、怖いわ。

 室内を撮影している千歳の隣にきた一乗谷燕は、千歳に、一冊の日記帳を見せた。
「撮影中でっしゃろか。ほんなら、これ、ウチが読みましょか? 重要書類どす。はい。読ませていただきますぇ。
 ああ、そうやった。説明せんと、見とる人は、わけがわかりまへんなあ。執事のブラントンはんの日記帳、ウチがこの部屋で見つけたんどす。
 ポンと書き物机の上に置いてありはりました。当然、読ませてもろうたんですけど、これがまた、わけのわからんことがつらつら書いてあるんでござんす。詩というか、暗号でっしゃろか?

 たがものなりしか?
 さりししとのものでありんす。
 たがものたるべきやろか?
 きたるべきおしとや。
 にちりんはいずこでっしゃろ?
 かしのきのうえやろ。
 かげはいずこや?
 にれのきのしたやろか。
 いかにあゆむんや?
 西に五の五倍。
 北に二の二倍。六の六倍。
 ほんで、そのしたやろう。
 そがためになにをささげますのん?
 ウチらのすべてを。
 なにゆえにや?
 しんぎつらぬかして、もらいますえ。

「京都弁だと、違ってきこえるわ」
「臨場感があってよろしゅうおます」
「しかし、この詩をノーマンから、長年の奉公の褒美として、もらったってとこが鍵だと思うな」
「日記も、ここで終わってしもうて、この後、どうなりはられたんでっしゃろ」
 二人が話していると、クリスティーとイルマが電話を終え、
「マングローブの儀式。暗号の意味がおおよそ掴めましたわ。みなさんに、庭にでて宝探しをしていただきます」

 V:あーめんどい。パラ実の高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)だ。「流血の檻」は、頭のおかしな女が料理を作ってるだけで、だるかったな。どこに単純な答えがあんのか、さっぱりわかんねぇや。
 いまはみんなで中庭にでて、宝探しの最中だ。わけわかんないよな。ついさっき、マッシュとかってやつが、庭の樫の木を切り倒しちまった。あいつは、危ねぇよ。だって、ヒャハハハハだぜ。

 月あかりに照らされた夜の庭園にでてきたのは、悠司、レン・オズワルド(れん・おずわるど)、クリスティとパートナーのクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)、それにマッシュと燕である。
 イルマが暗所恐怖症のため、千歳とイルマは部屋に残って、執事の妻レイチェルと話をしようと努力中だ。
 高周波ブレードを振り回し、木でも芝生でも気のむくまま、笑いながら切りまくるマッシュを回避する格好で、他のメンツは暗号に従って庭を探索していた。
「暗号自体は、簡単なものなんだよ。まずは、樫の木の上の日輪だから、樫の木を探して」
「そんなら、マッシュが切っちまったぜ」
「・・・・・・」
 クリスティが方針をだし、悠司がそれにこたえ、燕とレンがたまに口を挟む。
「樫の木がないと始まらないな。樫のてっぺんに太陽が重なる時に、楡の木の影がどう伸びてるかを知りたいんだ。他に樫はないのか」
「歯ごたえのないまんまの暗号どすなあ」
「だいたい四方を館の建物に囲まれた、この中庭の樫の真上に太陽は重なんないだろ」
「だねぇ」
 悠司の反論に、クリスティは納得する。
「俺は、思うんだがこれは十九世紀の小説に、書かれていた暗号をノーマンが、執事に与えて遊んだわけだよな。
 と、いうことは、暗号も、解答も用意したうえで、ノーマンは執事の行動を楽しんでいたわけだ。すると、樫は別にあれでもいいだろう」
 レンは、墨死館の屋根に立っている樫の木の形をした金属の屋根飾りを指さした。
「ほんに。樫は、あれでっしゃろ」
「あれなら、太陽も重なるし、ここに影もさすね。次は、楡を探すか」
「それも、たぶんマッシュがもう切り倒したぜ」
 ヒャハハハハ。
 人工的なこの庭を破壊しつくそうとしているのか、マッシュは、すでに大きな樹木は、ほとんど切り倒してしまっていた。
「あいつも、この墨死館ツアーを楽しくするアトラクションの一つかもな。みんなも一〇〇P分は、楽しもうぜ」
 レンが乾いた笑いをあげる。
「そなこと言わはって、楽屋オチはかんにんどす。アトラクションもなにも、危のうて、あのしとには、近寄れまへんわ」
「暗号が解けたんなら、その通りに動かなくても、示す答えは、わかるだろ」
「この庭のどこかに、地下への入り口があるんだよ。そこで、執事は死んでると思う」
 クリスティは、シャーロック・ホームズの冒険譚「マスグレーヴ家の儀式」の内容を簡単に説明した。
「名家の執事がその家に代々伝わる暗号を解いて、隠されていた地下室で秘宝を見つけるんだ。けど元恋人のメイドの裏切りで、地下に閉じ込められて、死んでしまう」
「執事はブラントン。メイドは、レイチェル。この部屋にいる二人と職業も名前も同じだぜ。小説でもレイチェルは狂女だし、ブラントンの最期も、ノーマンは小説に忠実に再現してる方に俺は、賭けるよ」
 クリスティのパートナーのクリストファー・モーガンが、補足した。
 クリストファーもまたホームズの愛読者だ。
「わざわざ暗号通りに探さなくても、そのうち、マッシュくんがここにあるものを全部、ブチ壊して、地下への入り口も見つけてくれそうだよね。ふう」
 クリスティーのため息の後、みんなで頷きあった。
「地下室への入り口が見つかりましたわ。みなさん、こちらへお戻りになって」
 部屋から、イルマが顔をだし、呼んだ。
 一同は、急いで部屋へと戻る。マッシュも一緒だ。

 V:千歳よ。レイチェルが教えてくれた秘密の入り口から、地下への階段を降りることになったの。ただレンさんは、なにか思うところがあるそうで上に残っているわ。
 入り口は、クローゼットの裏に隠されていた。私とイルマは、レイチェルと話をしようと努力してたんだけれど、あんまりうまくいかなくて、そのうちイルマが怒っちゃって、メイドとしての心得を説教しはじめたのよ。
 そうしたら、レイチェルはイルマを無視して、部屋の掃除をはじめたわけ。イルマはさらに怒って自分で箒を持って、掃除の仕方をコーチしだして、気がついたら、私たち三人は、お料理のある部屋で大掃除をしてて。
 それで、クローゼットまで動かして、えっちらやっていたら、レイチェルが壁の秘密の扉を開けて、「ブラントン。お客様がきてるわ。あなたあ」って叫んだの。

「あの暗号通りにやると、この入り口にたどりつけたのかな?」
「クリスティーさん。愚問ですわ。推理は、事実を見つけるための手段にすぎません。結果がでている以上、手段、うんぬんは二の次です」
「それでは、ミステリーの愉しみが」
「現実は、甘くはないのです」
 入り口を見つけたのがうれしいらしく、イルマはクリスティーと並んで、元気よく先頭を歩いていた。
 千歳とクリストファーは、パートナーたちの後ろにいる。
「なにがコワいって、マッシュはんが後におるんが、ウチは恐ろしゅうて」
「俺もだよ。マジ怖い」
 燕と悠司は、背後のマッシュに注意しながら、慎重に階段を降りている。
 マッシュが列の最後にいるのは、もちろん、己の安全を確保するためと・・・。
 低い天井には電灯がついていて、階段は意外に明るかった。
「誰だ。階段にいるのはアアアア!」
 階下から声がする。
「誰だあああああ」
 男のわめき声だった。
「皆、立ち止まらないで、早く進んでよ~」
 最後尾のマッシュが、立ち止まった全員に、命令した。
「それとも、ここで俺に斬られたいのかな♪」
 隊列は、ゆっくりと進みだす。
「ひょっとして、レイチェルの言っていたお客様かい?」
「なら、歓迎いたしますよ。私は執事のブラントン。上までお呼びに行けず失礼いたしました。当館の主人とともに、地下で皆様をお待ちしております。ささ、足元にお気をつけて、お越しくださいませ」
 急に、わざとらしい猫なで声になり、男は語りかけてきた。
 魚の腐ったような生臭い風が、下から吹いてきた。
 誰も言葉は返さない。
 黙って階段を降り続ける。


 V:おねーちゃんが迷子になって困ってるリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)です。
 おねーちゃんは、私のパートナーでアリス・レティーシア(ありす・れてぃーしあ)って名前です。おねーちゃんは、「絶対ダメ方向感覚」の持ち主で、一人でいると必ず道に迷います。勝手にどこかへフラフラ歩いていく、おねーちゃんを追っかけてたら、私も、迷っちゃった。どうしよう?

「リース、こっちよ」
「あっ、おねーちゃん。探したよ。ここは怖い館なんだから、一人じゃ危ないよ」
「あたしは、大丈夫よ。それより、すごいところ、見つけちゃった。ほら」
 アリスは、窓から見える中庭を指さす。
 満月の下の庭園は、幻想的な雰囲気があった。
「木が折れて転がってるし、芝生もムチャクチャになってるよ。あの大きな池に、怪物が住んでるかもしれないね」
「行ってみよう!」
「ええっ」
 アリスは窓を開け、庭へ。リースもそれを追いかけた。
「アハハハ」
 両腕をのばし、アリスは、その場で楽しそうにくるくる回った。
「この館は、厄っぽいけど、庭は違うね。気持ちいいよ」
「うん。空気がきれいだね」
「あ、雨」
 銀色の細い線が、天から降りそそぐ。
「ああ、あれ。なに」
 空をむいたリースの視界に、黒い塊が。
 塊はどんどん大きくなり、人間の形になり、そして、リースたちの目の前を通って、池に墜落。
 !
 盛大な水しぶきが上がり、リースも、アリスもびしょ濡れになった。
「人が、人が、落ちたよ。助けないと」
「うん。あたしが」
「おねーちゃん。飛び込んだら、危ない!」
 リースが止める間もなく、アリスは、池に飛び込む。そして、
「なにこれ、普通の水じゃない。きゃっ」
 悲鳴をあげ、あがきながら、アリスは水中に沈んでいった。
「えー。誰か、誰かいませんか。手を貸して」
「おいおい。なにしてんだ。いくら遊園地でも、ルールを守らないと危ないぞ」
 部屋に残って調べていたレンが騒ぎをききつけ、庭にでてきた。
「上から、人が落ちてきて。おねーちゃんも。あ」
 何者かに背中を押され、リースも池に落ちた。
 ふいをつかれたレンも、振りむく間もなく池へと落ちる。
「ドッキリにしちゃ、やりすぎだろ」
 陸に上がろうとするが、粘度を持った水が体にまとわりつき、池へと沈んでいく。
 沈みかけたレンの上に、さらにもう一人が放り込まれた。
 モヒカン刈りの男、南鮪だ。
 五人を飲み込んだ池の水面からは、すぐに波紋も消え、庭はまた静かになった。


 階下からの要求、
「ここで靴をお脱ぎください」
「服をお脱ぎください」
「武器をお持ちでしたら、ここに置いてきてください」
「浴室がございますので、洗髪、洗顔、洗身をしてください」
「お部屋には、そのまま裸でお入りください」
 全部無視して一同は、そのドアにたどり着いた。
 マッシュに目配せされ、悠司がドアを蹴り開ける。
「お疲れ様でございます。お早いお着きで。ううん。なんだ、貴様ら、俺の言葉がきこえなかったのか。武器も、服も着ている。どういうつもりだ!」
 執事服の背の高い男、ブラントンは、激昂し、唇の端からよだれを垂らしながら、一行を罵った。
 声の調子がおかしい。高さが安定していないのだ。
 マッシュは前にでて、ブラントンに高周波ブレードを突きつけた。
「フフッ、あんたイカレてるね。ここには、あんたしかいないよ。せっかく来たんだ。殺してあげるよ」

 V:悠司だ。ヤバイ状況になってる。姿は、見えないけど、この地下には絶対になんかいるぜ。俺も、他のみんなも感じてる。ここからでたくてしかたがない。猛獣の檻に入れられたような感覚だ。すごく血生臭い。なんだよ、これは。

 地下室は、洞窟だった。
 館の地下の自然の空洞を改造し、地下室として利用しているのだ。
 幅広く、天井も高い。
 壁面には、巨大な水槽が埋め込まれている。
 あとはなにもない。ガランとした空間にブラントンが一人でいた。
 マッシュに刃を突きつけられても、ブラントンはいっこうに悪びれない。
 刃を気にしない素振りで普通に歩き、にやけた笑みを浮かべ、クリストファーに近づく。
「君は、私の好みだよ。仲良くしよう。御主人様も祝福してくださるよ」
「おじさん。さすがに、それは」
 クリストファーが、顔の前で手を振ると、ブラントンの表情が、一変した。
「俺が下手にでてやりゃあ、てめぇ」
 懐からナイフをだし、構えたブラントンの腕が、消えた。
 床に転がる腕と、肩口から噴出する血。
「それはこっちのセリフだよ。シカトしないでよね」
 悲鳴をあげ、倒れるブラントンをマッシュは、冷徹な目で見下ろした。
「ン・・・・・」
 マッシュはその気配を感じ、宙をにらむ。
「ご主人さッまああ、オレは、エサではああ」
 ブラントンの体が宙に浮き、頭から見えないなにかに食われてゆく。
 赤黒い血がこぼれ落ちる。
「ちっ」
 ブラントンの最期を眺め、マッシュは舌打ちした。

 V:不可視か。シャノンさんに言われてるんだよね。もし、不可視の化け物を飼っているようなら、そこはゲイン家でも、墨死館でもないから、それ以上、首をつっこまずに帰って来いってね。
「ゲイン家は、初代が失敗してから、あのものたちの召喚や交配からは、手を引いたはずだ。もし、それをしているのなら、彼らはゲイン家を騙る偽者なのだよ。彼らのものをマッシュが殺してやる必要もないだろう」シャノンさんの言葉には、従わないとね。じゃ、俺は、帰るよ~。

「つまんな~い!」
 高周波ブレードを振り回し、壁面の水槽のガラスを切り裂くと、マッシュは、そのまま階段を上り、地下室から去った。
 割れた水槽から大量の水が流れだす。
 ジャジラッド、アリス、リース、レン、南の五人も、室内へ流されてきた。
 中庭の池は、この水槽につながっていたのだ。ブラントンの「御主人様」のエサを入れておくためのものだったのだろう。
「殺す気か、バカ野郎!」
 ガラスの雨に打たれ、十数メートルの高さから落下してきた、三メートル、百五十キロの巨漢ジャジラッド・ボゴルは、起き上がり、吠えた。
「ヒャッハアッ。てめぇら、俺をどうする気だ」
 モヒカン刈りの南鮪は、意識が戻ると同時に怒鳴り、横にいたボゴルに張り倒された。
「リース。大丈夫?」
「おねーちゃん、こそ。生きててよかったあ」
 アリスとリースは、手を合わせ、無事を喜びあっている。
「ハードだったな。お。みんな、今度はどんなアトラクションだ」
 他のメンバーに近づこうとしたレンの前に、

 V:地下に降りてから、まとめていろいろあったんで、私は悪い夢の中にいるような感じになっていたの。現実感がなくなってた。なにかがここにいて、私たちが危険にさらされている。それは、わかっているのに、動きだせなかった。
 レンさんの前に、上から人が落ちてきて、それがノーマン・ゲインだって、みんながわかった時、イルマが叫んだわ。
「悪役が死んだのですから、終りがきますわ。早くここから逃げないと、炎上に巻き込まれますわよ。千歳、しっかりしてください」って。私、イルマがいなかったら、どうなってたんだろ。

「こいつが落ちてきたってことは、この上が貴賓室なのか」
 レンは、天井を眺め、
「上に光が見える。壁の梯子で上れるぞ!」
 その言葉がきっかけになって、室内の全員は、梯子へ走った。
 背後から、見えないなにかが、自分たちに這い寄ってくるのを感じながら。