シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

五機精の目覚め ――紅榴――

リアクション公開中!

五機精の目覚め ――紅榴――

リアクション


・Master Of Puppets


「く……、な、何だ……?」
「だ、大丈夫ですか!?」
 地下二階の通路を歩いている時、突如ガーネットが苦しみだした。
 変化はそれだけではない。

 轟音。

 壁が吹き飛び、煙の奥に影が浮かび上がる。
「あいつは……!!」
 は即座にそれに気付いた。形こそ、かつて見たものとは異なる。だが、それは紛れもなく――機甲化兵だった。
「囲まれました、ね」
 が呟く。その二体は、ガーネットといた者達が逃げられないように挟み込んだ。

――そっちから来てくれるなんてね。やっと一体目、だよ。

 壊れた壁の奥から声が聞こえてきた。すぐにその正体は明らかになる。
「え、子供?」
 レミが目を見開く。そこにいたのは、探検隊のような格好――先遣隊が着ていたものと同じデザインであったのだが、に身を包んだ十二歳くらいの少年だった。
「さて、それじゃあ『それ』を回収させてもらうよ」
 少年はガーネットを見つめながら、言った。
「ガーナさんを?」
 エメが問いかける。
 ガーネットは膝を地面につき、苦痛の表情を浮かべている。その原因は、この少年にあるのだろうか。
「仕事でさ。ま、大人しく渡してくれれば君らは見逃してあげてもいいよ」
 彼が現れてから、機甲化兵は制止したままだった。まるで少年に従うかのように。
「……勝手なこと、言ってん……じゃねーよ!」
 睨むような視線を送るガーネット。
「こっちも仕事でやってるんだよ。五機精が一体、『ガーネット・ツヴァイ』」
「五機精、だと?」
 周が驚愕する。
「知らなかったんだ? おめでたい人達だね、ほんとに。こんな破壊兵器なんかと一緒にいるなんて、僕には出来ないなあ」
 呆れたように言い放つ。その目はガーネットの周囲の者を蔑んでいるかのようだった。
「人殺しの道具が意思を持って歩いているなんて、ぞっとしないかい? こんな人そっくりの姿で……」
「黙れ!!」
 叫んだのは、エメだった。身体を震わせ、少年の姿をキッと睨む。
「彼女達は、道具じゃありません――心を持った『人間』なんです」
 かつて見た、幼き少女の姿を思い起こす。彼女達に罪はない。強い力を持ってしまってはいても、自分達と変わらない存在なのだ。
「へえ、そう。ま、君達がそう言うなら仕方ないか」
 機甲化兵が動き出した。その一体の銃口が火を吹く。
「ガーナ!!」
「……へえ。よく動けたね」
 ガーネットがエメ達の前に躍り出て、その身体で銃弾を受け止めた。
「さすがは身体機能特化型。ただ、その状態でどれだけもつかな? まあ、完全に壊れない程度だったら、多少キズモノにするのもやむを得ないね」
「け、こんくらいで……あたいに勝てると……思うんじゃ、ねー……よ」
 服が破れたものの、身体に傷は負っていなかった。
「こいつの……狙いは……あたいだ。はあ、はあ……今のうちに……行け!」
「出来るかよ!!」
 機甲化兵の一体に飛び込み、轟雷閃を繰り出す周。
「目の前で女の子を置いて逃げれるわけねーだろ! 絶対に、守り抜く!!」
 彼の目には強い意志が宿っていた。
「周くん……」
 レミが彼にパワーブレスをかける。パートナーの決意を尊重しての事だ。
「蒼、行きますよ!」
 エメ、の二人も、ガーネットを庇う。エメもまた、蒼のパワーブレスを得て、轟雷閃を繰り出す。
 彼らには、『研究所』の出来事が強く焼き付いている。だからこそ、すぐに敵に立ち向かえたのだ。
「まずはここを切り抜けますか」
 遥もまた、機甲化兵に立ち向かう。一体につき二人。ガーネットを囲うようになっている。
「くらえ!!」
 轟雷閃、ライトニングウェポンと雷電属性の攻撃を浴びせ続ける。敵に攻撃の隙を与えない猛攻だった。全力で二体を破壊しにかかる。
「さあ、どうします?」
 少年の方を向き直る。
「へえ、少しはやるみたいだね。先遣隊の人達も、このくらい頑張ってくれればよかったのに……まあいいや」
 少年が指をパチン、と鳴らした。
 すると、砲撃のようなものが周囲の壁を綺麗に吹き飛ばした。瓦礫が舞い、そこはもはや通路とは呼べない空間になっていた。地下二階部分が崩落しなかったのは奇跡である。
「あれ、は……!?」
 その先に見えたのは、絶望だった。

――タイプの異なる六体の機甲化兵。
 
 保管室にあったそれらが、動き出したのだ。
「全部は無理、か。でも十分みたいだね」
 迫りくる六体の無機質な兵隊達。
 彼らの人数では、六体を同時に相手にするのは難しいだろう。だがそれでも、立ち向かわなければならない。
「……っ!!」
 だがそれは阻まれた。瓦礫を縫うように張り巡らされているのは、金属製の糸だ。
「下手に動くとバラバラになっちゃうよ。僕がただ人形遊びしか出来ないとでも?」
 絶体絶命の状況。

 その時だった。

「動きが鈍く……?」
 六体の機甲化兵の足元が凍りついていた。氷術である。
「まずは足止め、ってところか」
 藤原 和人(ふじわら・かずと)が氷術を使い、一時的に動きを封じたのだ。
「皆さん、無事ですか?」
 少年が張り巡らせた糸を、刀真リアトリス風天が切断する。
 壁が破られた事で、別の通路にいたリヴァルト達が早く合流出来たのである。
「へえ、思ってたよりも早かったな」
 少年は未だ平然としていた。
「リヴァルト、さっきの話に出ていた子供はあいつか?」
 リリエのパートナー、ジェラルド・レースヴィ(じぇらるど・れーすゔぃ)がリヴァルトに問いかける。
「姿は違いますが……おそらくそうでしょう。エミカさんの言っていた話とも合います」
 事件の調査をしていたエミカから、遺跡の中にその犯人がいると報告を彼は受けていた。
「おやおや、この前のメガネ君。まったく、あの人形気に入ってたのに、よくもダメにしてくれたじゃないか」
 言葉の後、機甲化兵の一体の砲撃が彼に向って飛んでくる。
「リヴァルトさん!」
 その彼の前に、が飛び出して庇護者の構え、女王の楯によって攻撃を受け止める。
「絶対、皆を守るって決めたんだから!」
 彼女は、機甲化兵の一群を睨む。
「エレン、黒子手伝って」
 パートナーのエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)フォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)の二人を見遣る。
「分かりました!」
「当然でしょう」
 エレンディラがパワーブレスを葵にかけ、無銘祭祀書が禁じられた言葉で魔力強化を行う。
「リヴァルトさん、あなたも敵の目標とされているであります。ここは自分達で守り抜くであります」
「まずはあの機械をなんとかしないとな」
 真紀と、パートナーのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)もまた、機甲化兵の一群を見据える。
「俺も騎士として、みんなを」
 尋人もまた、機甲化兵に立ち向かっていく。
「何人で足掻いたところで、結果は変わらないよ」
 機甲化兵を繰る少年が、見下すように呟いた。同時に、自らも構えをとる。
「あなたは何者ですか? ジェネシスに頼まれたのですか?」
 この遺跡に現れたのだから、ワーズワースの関係者かもしれないと考え、リリエが危険を承知で問う。
「さあ、依頼主の事は言えないな。僕は――『傀儡師』だよ」
 傀儡師が、再び鋼糸を繰り出す。だが、それは再び切断された。ガーネット共に行動していた者達が、斬り裂いたのだ。
「……仕方ない、もう少しだけ真面目にやるかな」
 その一言の後、機甲化兵の動きはまるで人間さながらのような柔軟なものへと変わった。動きも素早く、あっという間に円陣を組んで調査隊を取り囲んだ。
「この『マスター・オブ・パペッツ』の力を、見せてあげるよ!!」
 同時に、銃撃。機甲化兵のうち、中距離、長距離射撃型のものが動いたのだ。
「まずは、あれをどうにかしないといけませんね」
 刀真がHCに登録してある、PASDのデータを参照する。
「いくら操られていても、弱点は変わりません。リアトリス、あちらの一体をお願い出来ますか?」
「うん、わかった!」
 リアトリス、スプリングロンド森 乱丸(もり・らんまる)が向かったのは中距離型だ。とはいえ、この二体の位置を考えれば、両者の攻撃特性にそれほどの差は見られない。
 対し、長距離型の方は刀真、月夜、風天の三人だ。
 だが、これでもまだ劣勢だった。六体の機甲化兵と、鋼糸により、攻撃の手数の多い傀儡師を同時に相手にするにはまだ足りない。
 そこへ、さらなる救援が現れた。
 地下一階へ通じる階段の一つから、雷術が飛んできた。それが、一体の機甲化兵に直撃する。
 さらにその一体に、スプレーショットが浴びせられた。
 攻撃の主は、機甲化兵の一体を運んで戻ってきたランツェレットシャロットミーレスの三人だった。
「いきます!」
 ランツェレットがサンダーブラストで一時的に機甲化兵を麻痺させ、それに接近したシャロットとミーレスが轟雷閃を繰り出す。
 弱点である装甲の薄い関節部分を集中的に狙う事で、相手に隙を与えずに倒していく。

 まず一体。

(そろそろか。よし、チャンスは今だ)
 氷術と火術によって機甲化兵達に水分を付着させていた和人は、SP切れ覚悟で機甲化兵全体に氷術を施す。
(もって数十秒だろうけど、それだけあれば十分だろ)
 操るのが傀儡師でも、肝心の機甲化兵がろくに動かなければどうという事はない。
 このわずかな時間が、勝機を導けるかは、各々の強さにかかっている。

 
 対騎士型
「全く、目障りなのよ……だから壊してア・ゲ・ル」
 無銘祭祀書が雷術で機甲化兵の回路を焼こうとする。動きを止めている隙に、葵が轟雷閃で関節部を攻撃する。
「よし、いける!」
 動きは鈍っている。だが、それでも敵は剣で葵に斬りかかってきていた。
 そこへ、雷術。今度はエレンディラだった。
「葵ちゃんに危害を加えるなら完全消去(デリート)しますよ」
 彼女もまた、本気だった。
「これで、終わりよ!!」
 パートナーの二人の雷術が当たった直後に、葵が轟雷閃による渾身の一撃を直接機甲化兵の装甲内部にぶち込んだ。
 火花を上げ、内部から爆発音が響き、そのまま地に倒れ伏した。
 
 二体目。


 対槍士型
「ち、俺らの手には負えないか」
 クライブルナの二人は、機甲化兵に攻撃を試みるものの、まるで歯が立たなかった。
「クー兄、無理しちゃだめだよ。ここは他の人に任せよう」
 二人は機甲化兵から身を引いた。ただ、敵のリーチ圏内に入っている。そのため敵からの攻撃は止まなかった。
 だからこそ、離れつつ彼らは陽導をする事にした。その隙に、尋人が接近し、装甲へ一撃を叩きこむ。
「く、硬い!」
 尋人がチェインスマイトで機甲化兵を狙うものの、なかなか決定打とならない。
「尋人、援護しますよ」
 そこへ霧神が雷術を繰り出す。だが、これだけではまだ威力が足りない。
「これならば、どうでありますか!?」
 真紀がヴァニッシュを使う。だが、耐魔力を持つ機甲化兵にダメージはない。しかし彼女の狙いはそこにあったわけではない。
 弾幕援護。
 サイモンがその光に紛れて銃撃をする。その直後、雷術。撹乱した上で敵の弱点をつこうとしたのだ。
「さあ、今であります!」
 霧神、真紀、サイモンの三者が同箇所に雷術を繰り出し、装甲にはかなりのダメージが蓄積されていた。
「うぉぉぉおお!!!」
 そこへ尋人の渾身の一撃。それは装甲を突き破り、中の人工機晶石を砕いた。

 三体目。

 対中距離型。
 動きは鈍くなっているものの、重火器類は生きていた。リアトリスは敵の弾幕を、フラメンコを踊るような独特な戦闘スタイルでかわしていく。
「一番弱いのは、関節部でございます!」
 機甲化兵の関節部をチェインスマイト狙う蘭丸。射撃型は構造上、装甲の薄い箇所が多い事は、先の保管室で調べがついていた。
 それでも、頑丈である事に変わりはない。そこへ、続いてスプリングロンドが口にくわえた綾刀で斬りつける。まだ足りない。
 轟雷閃。避ける事に専念していたリアトリスが、隙を見て繰り出した。場所は同じ関節部である。
 体勢を立て直し、蘭丸、スプリングロンドが再び連続で斬りつける事で、ようやく装甲の内部が見えるようになった。そこへスプリングロンドが、尿をかける。中に水分を流しこんでショートさせようという魂胆だったのだろうか。
 しかし、轟雷閃の直後だった事もあり、感電してしまった。体内を電流が走り、黒コゲになってしまう。
「これで……!!」
 傷口に高周波ブレードの刃を突き立て、リアトリスが轟雷閃の電流を機甲化兵の体内に流し込む。これにより、完全に中枢回路がショートしたようだ。
 蘭丸が痙攣したスプリングロンドを抱きかかえ、一度戦線を離脱する。
 
 四体目。

 対長距離型。
「二人とも、気をつけて」
 月夜が刀真、風天にパワーブレスをかけた。その直後、敵からレーザーのような攻撃が来た。長距離型は、実弾とは異なる砲撃武器を備えているらしい。その銃口が開いた瞬間に、月夜がそこを銃撃し、軌道を逸らす。畳みかけるように、風天は接近しながら雷術を打ち込んでいった。
 刀真と風天が機甲化兵を挟み込む。
「刀真さん、いきますよ!」
 二人がそれぞれ轟雷閃を繰り出す。風天は花散里、ブライトシャムシールの二刀流で、刀真は光条兵器、黒の剣で。
 彼らは、それぞれ機甲化兵の両腕を捉えた。刀真の一撃は左肘に当たる部分を斬りつけ、風天の二撃は右肘を切断した。
 片腕を失った機甲化兵は、バランスを崩したようだった。一瞬よろけたがために、砲撃の軌道から三人全員の姿が外れる。
「終わりだ!」
 刀真が切断された右肘に黒の剣を突き刺し、轟雷閃による電撃を流しこんだ。その威力は、機甲化兵を行動不能にするには十分過ぎるものだった。

 五体目。

「まだやりますか?」
 残りは剣士型の機甲化兵が一体と、傀儡師だけだった。それぞれ機甲化兵を倒したところではあるが、今度は敵の方が袋のネズミ状態だ。
「さっき言わなかったっけ? 人形遊びだけが僕の全てじゃないんだよ!!」
 ひゅん、と広範囲を鋼糸が覆い始める。否、既に覆われているのかもしれない。薄暗い中では、細い糸を肉眼で確認するのは困難だ。
「さあ、ここからが本番だ。ほら、避けないと……死んじゃうよ」
 吹き抜ける風は、傀儡師の操る糸によるものだ。今、地下二階の一角が彼の支配領域となっている。
「みんな、伏せて!」
 葵が叫ぶ。同時に、彼女のパートナー、及び雷術が使える者達が同時にそれを繰り出した。
 雷の光が、室内を照らしだす。それだけではない、鋼糸の上を電流が駆け抜け――その電圧に耐えきれなかった傀儡師の鋼糸は黒く焼け焦げた。
 さらにその集中された雷電の力は、最後の機甲化兵を瞬時に炭化させるほどの力を持っていた。
「これであなたを守るものは無くなりました。まだ続けますか?」
 風天が傀儡師と対峙する。
「次からは素材を変えるとするかな。ま、せっかくだから」
 またもや袖口から鋼糸を伸ばしてくる。それを弾き、少年の姿をした敵の腕を斬り落とした。
「これが最後ですよ」
 傀儡師の首筋に剣を突き立てる。
「まったく、大変な仕事を引き受けちゃたな。これで三度目か……」
「三度目?」
 その言葉に反応したのは、リヴァルトだった。
「そう。この前のあの銀髪の魔女といい、黒ドレスの金髪女といい、どうにも相手が悪いんだよね。ああ、五機精の電気使いも入れれば四度目か」
「銀髪の魔女、だと!?」
「黒ドレスの金髪女ですか!?」
 周、エメがほぼ同時に反応する。
「……詳しく聞かせてもらえませんか?」
 リヴァルトが一歩前に出る。
「いいよ。だからもうちょっと近くに来てくれないかな」
 傀儡師の言葉に従い、前進するリヴァルト。
「って素直に話すかよっと」
 くい、と少年は残った左手を引いた。
「やはり、そうですか」
 リヴァルトが抜剣し、ギリギリのタイミングでそれを受け止める。
「あなたは、ここで斬るしかないようですね」
 一閃。
 風天が傀儡師に刀を振り下ろす。敵の身体は縦に真っ二つになる、と同時に爆発した。
「くっ……!!」
 その瞬間、傀儡師がにやりと笑った気がした。
「……終わった……のか?」
 ガーネットの苦痛は無くなったようだ。
「いえ……見て下さい」
 全員が、傀儡師の死体と思しきものを見た。
「機械の、人形?」
 そこにあったのは、真っ二つになり爆発で黒く焼け焦げた……人形だった。
「傀儡師――マスター・オブ・パペッツ。これは彼が操っていた身代わり、ではないでしょうか。リヴァルトさんの話でも、一度倒しているようですし」
 リリエが口にする。
「そうだとしたら、また現れるでしょう。身代わりを介して、あれだけの事をやってのけたんです。今度は、本人が直接来るかもしれません」
 リヴァルトの顔には不安の色があった。
 機晶石を操る力を持つ請負人。彼の雇い主がワーズワースなのか、それはまだ分からない。
 だが、彼らの知らないところで、何かが動き出しているのは確実となった。