シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

少年探偵の失敗

リアクション公開中!

少年探偵の失敗

リアクション


16. 一日目 エーテル館 えつ子の部屋 午前九時二十八分

 地図に書かれた部屋にえつ子はいた。
 和室でちゃぶ台を囲んで、えつ子と捜査にきたメンバーが話をしている。
 えつ子は、割烹着にエプロンの穏やかな初老の女性だった。
「許してくださいね。私には、なにも言う権利はないんですよ」
「・・・・・・」
 全員にお茶とお菓子をだしたうえで、正座して丁寧に頭を下げるえつ子に、一同は言葉を失っている。
「わかった。俺は他をあたる。えつ子さん。邪魔して悪かったな。あんたの大事な麻美さんは、守ってみせるから安心しろ」
「クー兄。私も行くよ。えつ子さん、ごめんね。事件が終わったら、楽しくお話しようね。バイバイ」
 ジョウとあまねが部屋に着くのと、ほぼ同時に、クライブ・アイザックとパートナーのうさぎのぬいぐるみを手にした白いドレスの少女、ルナ・シルバーバーグが部屋をでて行った。
 姿を消したレキがいるのか、ミアは座布団に座って茶をすすっている。
 えつ子と正面から向き合うように、百合園女学院推理研究会のメンバー、宇佐木みらびが座り、その左右に、パートナーのセイ・グランドルと少女化した宇佐木煌著煌星の書がいる。セイの横では、セオボルト・フィッツジェラルドがあぐらをかき、持参した芋ケンピをかじっていた。
「・・・・・・」
 えつ子は話さない。
 捜査メンバーも様子をうかがっている。
 持久戦の様相だ。
「あまねちゃん。ここには、トライブは必要なさそうです。ボク、さっきの部屋へ戻って、トライブと別の場所へ捜査に行きます」
「あなた、あっさりしてるのね」
「ボクの人生でムダなのは、トライブだけで十分です。みなさん、また後で」
 ジョウは、一礼して部屋をでた。
「嫌な役目だがしかたがない。自分が引き受けよう」
 あぐらのまま、セオボルトが軽く手をあげる。
「家政婦さん。質問です。差し障りなければ、お答えください」
「・・・・・・」
「あなたは、麻美さんの育ての親だそうですね。麻美さんは、いくつの時からかわい家にいらっしゃるんですか?」
「麻美さんのご両親は誰ですか?」
 返事はなかった。
 セオボルトが芋ケンピをかじる音だけが、室内に響く。
「えつ子おばあちゃん。悲しい目をしてるですっ・・・・・・」
 えつ子を見つめる、みらびの瞳は潤んでいた。
「うさぎは、探偵としてえつ子おばあちゃんの役に立ちたいのに、これじゃあ、ひどいことしてるみたいで」
「宇佐木は、黙ってろ。俺がやってやらあ! えつ子。あんたも麻美を救いたいんだろ。秘密があるなら、教えろよ。宇佐木をみろ。こいつ、あんたを本気で心配してるんだよ。俺たちは、あんたの力になりたいんだ。わかんねぇのか」
「ぴよっ! セイくん。そんな乱暴な言い方しちゃあ、ダメですっ」
「宇佐木、泣いてんじゃねぇ」

V:うさぎちゃん、かわいそう。でも、えつ子さんは、すごく苦しそうな顔してる。このまま、追いつめられたら彼女は、もしかして。

「みらびも、セイも、人の家で取り乱したらだめじゃん」
 みらびの祖母の化身的存在である煌は、明るく二人を諭した。
「ボクはね。ここではこんな子供のなりをしてるけど、娘三人、孫が五人にいるお婆ちゃんなのよ。だからね、同じお婆ちゃんとして、大事な子供のために、秘密を抱え込んでるらしい、キミを説得しようと思ってここへきた。秘密を抱えることが、本当にキミや大事な子のために、なるのかってね。でも、キミとこうして会って、説得はやめにしたよ」
「煌おばあちゃん!」
「煌星!」
「みらび、セイ、それでいいんだよ。みらびも言ったように、この人の目を見ればわかるのさ。ボクらは、キミが秘密を抱えて墓場へ急ぐように、背中を押しにきたわけじゃないんだ。ボクは賛成しないけど、キミみたいな生き方の人もいるさ。重い荷物を抱えた人生だね。キミがそんなにイヤなら、しゃべらなくてもいいんじゃないかい」
 煌は、腰をあげかけた。
「ボクは別の道を探すよ。キミの大切な子のためにね」
 煌は一人、席を立ち、部屋をでようとする。
 みらびとセイも遅れてそれに従う。
 ちゃぶ台に目線を落とし、せつ子が、口を開いた。
「・・・・・・みなさん。私、いえ、麻美のためにかわい家へきてくださったのなら、私なんかの話よりも、エーテル館を調べてください」
「わかりました。エーテル館に、答えがあるのですな。ありがとうございました」
 しっかりとお辞儀をし、セオボルトは、立ち上がる。
「みなさんが知りたがっているものは、すべて、このエーテル館にあります」
「いいから、それ以上は、しゃべるんじゃないよ」
 振りむいた煌は、しぃーっと唇に指をあて、えつ子に笑顔をみせた。
「やれやれ。レキ。わらわも行くぞ。えつ子、そなたも苦労人じゃのう。あまね、小さな探偵、さあ、行くぞ」
 ミアも、あまねとくるとの背中を押しながら、部屋をでた。