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少年探偵の失敗

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少年探偵の失敗

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13. 一日目 稽古場 午後二時二十四分

 僕くらいの年の子にしては、十二分に親離れしてると思うけど、それでも、やっぱり親は心配だよね。
 くるとと一緒にきた人たちは、みんな揃って僕の不安を増幅させる一方なんですが、名探偵としては、それってどうなんだろ。
 副長と竹丸さん、ヴァーナーちゃんは、捜査してるから、僕は一人で稽古場を回ります。まだ、会ってない人もいるし。
 ソーマくんを発見。
「ソーマくん。さっき稽古で見ました。僕、維新です」
「よう。かわい維新か。おまえも、苦労多そうだな。しかし、会ってさっそくなんだが、この麻美ってやつは、いつもこうなのか」
「うん」
 迷う余地なしで、即答。
 ソーマくんの横には、麻美くんがほわあーと座ってて、黒の羽織袴の優しそうな男の子が、無反応の麻美くんに、せっせと話しかけてた。
 麻美くんは、ぼんやりが普通で正常なんだ。
「ソーマくん。でも、気になるのはさ」
「なんだよ」
「くると御一行のメンバーには、麻美くん保護観察班、っていうか、麻美くんを警護したいって人がいっぱいいたと思うんだけど、麻美くん、こんなとこで手薄な保護で、お芝居してていいわけ?」
「俺がついてるんだから、手薄とか言うなよ。それは事情があってだな。くわしくは、そっちにいる改造人間に聞いてくれ。それと、いま、麻美に話しかけてるのが、俺のパートナーの清泉北都だ」
 麻美くんの隣の、人のよさそうな北都くんはいいとして、ついに、改造人間まで登場か。
 ソーマくんが示したそっちの方向では、たしかに片手が石で、片足の膝から下が木で、ピエロの格好した危なそうな人が、大げさな身振り手振りをまじえて、なにかを話している最中だ。
 むこうは、こっちに気づいてなさそうなので、すぐに視線をそらして、北都くんに目を戻して、心を癒す。
 まったく、ドキドキが止まりませんよ。
 ふう。
「北都くん。こんにちは。維新です」
「こんにちは。維新ちゃん。麻美くんに、お芝居なんかさせて大丈夫かな」
「僕がママならさせませんが、ママはさせるみたいですね」
「僕は心配だよ。もし、彼が本物の麻美くんでなかったら、化けてる人は、二重の演技で、ほんと、ごくろうさまって感じ」
 本物? ニセ物?
「維新ちゃんは、彼が本物の麻美くんか、わかるかい。ずっと一緒に暮らしてるから、わかるよね。あ、そっか、でも、継承式までは、いまのままでいいから、教えないでね」
「僕、麻美くんをちゃんと見たことないんで、ニセ物でもわかんないです」
「それってひどくない」
「家族に、麻美くん的な人がいて、一挙一動をじいーっと見てる方がひどいと思う」
「ははは。ソーマ。維新ちゃんの方が、僕よりきっと頭いいよ。そんな感じがする」
 僕も、北都くんが麻美くんの側にいてもOKな人なのが、よくわかりました。
 じゃあ、そろそろ撮影場に戻るかな。
「あれ。維新ちゃん。ナガンさんとは、まだ話してないよね。いいの? ナガンさーん。イレブンさん、英希くん、維新ちゃんがあいさつにきてますよ」
 ・・・北都くん。キライだ。
「やあ、私は、パラミタミステリー調査班。PMRのイレブン・オーヴィルだ。突然だが、かわい家のお家騒動は、世界滅亡の危機とつながってるんだ!」
「な、なんだってえー!!」
 頭に局長のハチマキをしめ、羽織袴がやたらさまになっているイレブンくんの横で、赤い着物の可愛らしい女の子が叫んだ。
「世界滅亡がなんなんですか。今日はもうずっと、あんたたちのおかげで、僕の自我は、崩壊の危機ですよ」
「維新ちゃん、ごめんね。いじめたわけじゃないからね。あたしは、カッティ・スタードロップ。イレブンがなにか言ったら、な、なんだってえー! って言うのは、決まりなんだよ。きみも今度やってごらんよ」
「な、なんだってえー!」
「そういう感じ。がんばってね」
「かわい維新くん。まだみんなには公開していないが、かわい家を覆う闇の正体は、だいたい掴めたから安心してくれ。我々、PMRがきみたち一族を救う」
「な、なんだってえー!」
「違う。ここは、ちょっと違うよ。でも、くじけないで、前に進めぇ!」
 難しいな、PMR。
「そういうわけで、俺は城定英希。PMRの一員だよ。君の家に関する俺の推理を聞いてくれるかな」
「そういうわけなら、しかたないですね」
 ぼさぼさの金髪頭をかきながら、賢そうな英希ちゃんってば、なげやりモードの僕の返事を待たずに、推理を語りはじめるし。
「この家にいる、かわいの姓を持つものは九人。みのる氏の元妻の薫さんも仲間に入れると十人。
 これは、元々は旧約聖書にでてきた、エデンの園の生命の樹のセフィラと同じ数なので、それぞれのセフィラに各人を当てはめる。生命の樹は、カバラの図版なんかで君も見たことあるだろ」
 セフィラに当てはめられたらしい僕には、すでに意味がわからない。
「すると、ちょうど擬似家系図が完成する。ツリーの最上部と最下部はつながっていて、上を目指しても、下に落ちても延々と同じ図の繰り返しになっている。
 これは、かわい家が続く限り、滅びと再生の輪廻が運命づけられているのを示してる、とも思う。
 でね。
 俺は気づいたんだけど、生命の樹には、十のセフィラの他に、隠された十一個めのセフィラ、知識、神の真意の意味を持つダートが存在する。
 かわい家では、これが、麻美さんに当たるんじゃないのかな。
 と、なると、神の真意である彼にとって神とは誰なんだろうね」
 いまが、ちゃんす。
「な、なんだってえー!」
「維新ちゃん。それでいいんだよっ」
 カッティちゃんに誉められました。
「他にも俺の推理はあるから、楽しみにしておいてね」
 英希ちゃんは、不敵に笑った。
 正直、どこがすごいのかも、すごくないのかもわからない。
 かわい家は、神秘なんだなあ。
 叫んで疲れたんで、そろそろ撮影現場に、
「ナガン。ナガン。ナガン。こっちの水はあーまいぞうー」
 おかしな幻聴までするし、もう稽古場をでて、
「ねえ、ねえ、そこのキュートで愛らしくて、スイーツなお姫様」
 誰かが、僕を呼んでるのかな。
「ナガン。ナガン。ナガン」
 赤と緑の二色が交互にはいってる道化師服を着た、白塗り、白目、白い三つ編みのピエロが、キャンディの包みを手に僕のところに寄ってきた。
「おまえ、かわい維新。ナガン ウェルロッドだな」
「だな。ですか。語尾がおかしいです」
「だぜ。ナガン」
 順序が逆。
「弓月くるとに拒否された飴玉やるよ」
 怖くて、とても。
 でも、僕、子供なんでいただきます。
「ナガンが、かわい維新をさらいにきたと思ったら、大間違いだぞ」
 なんて自己紹介だ。こんな人にも僕はちゃんとあいさつしよう。
「こんにちは。はじめまして。飴をありがとう。ナガンちゃん。残念にも捕まっちゃったから、お話しするけど、麻美くんのニセ物をナガンちゃんが、どっかから連れてきたの?」
「その話か。ナガンは今回、弓月くるとのエージェントをしてるんだぜ」
「うん」
「あいつの探偵活動を撮影していてだな。本を書いたり、ドキュメンタリーとしてパラミタで売りに出す」
「うん」
「かわい維新。素直だぜ」
「僕、自分の手に負えない人には、面とむかって口ごたえしないんです」
「へへへ。口の減らないガキだ。ナガンの撮った映像をみせてやるぜ」
 ナガンちゃんは、稽古場の壁に映像を映しだした。