シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

君が私で×私が君で

リアクション公開中!

君が私で×私が君で
君が私で×私が君で 君が私で×私が君で 君が私で×私が君で

リアクション

「どこに行くんですか? 虚雲さん」
 声を掛けられ振り向くと、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)が簡易休憩所でのんびりとお茶を飲んでいた。
「いや……これ、昨日食った果実が原因なんだろ。だからもう1度、大樹に行ってみようと思ってな」
「まともな行動を取る……ということですか」
 遙遠が言う。
「別に、ただの暇つぶしだ」
「それなら、わざわざ遠くの大樹まで行かなくても、あそこで元に戻るための薬を作っていますよ。参加したらどうですか?」
「俺には解毒剤を作る知識がないからな……第一、今まで実をつけてなかったのに突然実をつけたなんて出来すぎてないか? 何となく怪しいだろう」
「怪しい……ですか?」
「誰かが、成長を早める薬を発明して大樹にふりかけたのかもしれないな。食べたら中身が入れ替わる実とか聞いた事無いし」
 交互に問いかけてくる遙遠と遙遠に順番に答える。そういえば、普通に会話しているけれど、この2人は入れ替わっているのだろうか。どうも、よく判らない。
「パラミタは聞いた事が無いことで溢れていますよ?」
 微笑みながら遥遠が言う。遙遠が続く。
「でも、そう普通に過ごせますかね?」
「……どういうことだ?」
「他の人達はどうしてるのかと思いましたが、どうやらナンパに走る傾向があるようです。そこら中でナンパしたりされたり追いかけられたり粛清されたり説教されていたり忙しいですよ。虚雲さんも、誰かに誘われるんじゃありませんか? ほら、あそこでも……」
 指差された先を見ると、そこではピンク色の長い髪をポニーテールにした少女が、小学生と思しき少女に迫っている。迫られているのは、空京公園でホレグスリを配っていた少女だ。しかし、言葉遣いが――
「だから、それどこじゃねーって言ってんだろ!」
 ものすごく悪い。
「ん? あの子の双子の弟さんか何かか……?」
 所謂、男の娘であると結論づけ、射月はなんとなく感心した。小学生で、男で、既に男の娘に目覚めていて、でも口は悪い。
「凄い子だな……」
 入れ替わっていることなど露知らず、射月はそんな感想を漏らした。

 ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)は、蒼空学園の校内でとある機会を伺っていた。授業はほぼ壊滅状態で静かだが、至る所でちょこちょこと騒動が起きている。人目につかない所でそれを見物しながら、ドヴォルザーク作曲 ピアノ三重奏曲第四番(どう゛ぉるざーくさっきょく・ぴあのとりおだいよんばんほたんちょう)達が来るのを待つ。場所は、化学実験室のすぐ近く。
(ケイラも年を17重ねた男なのに枯れてしまって……自分の身体が可愛らしい女の子に迫る様でも見れば、何か来るものがあるかもしれないな)
 身体の持ち主について考える。先日は、服がはだけていた女性に照れ皆無で直しを促していて流石に呆れた。
 廊下の窓から、ドゥムカ達がやってくるのが見えた。ケイラは一緒にいるマラッタ・ナイフィード(まらった・ないふぃーど)の姿を目で追う。校舎に入ったところで、実験室に視線を移した。
(そろそろだな……どうせあの朴念仁は、気づいてないだろう)
 ピノを見つけ、実験室に入るのを確認してからまだそんなに経っていないが、出てくるだろうか? まあ、出てこなければ手伝いを装って中へ――
 出てきた。
 何か急いでいるのか、走ってくる。初対面を果たした昨日とは随分と動作が違っていた。思った通り、入れ替わっているらしい。
(さて、話には聞いているがどんな男なのか……)
 姿を見せると、ピノは自然と足を止めた。
「こんにちはピノさん、なんだか大変みたいだね」
「あ、ああ……でも、今はそれどころじゃ……」
「焦っても良い結果は出ないよ……ちょっと、こっちで休まない?」
 笑いかけて、近くにある休憩所にピノをいざなう。
「だから、それどこじゃねーって言ってんだろ! つーか、分かるだろ? 俺はピノじゃね……」
「話だったら、聞くよ?」
「?」
 膝に手を当てて上から目線を合わせると、ケイラは顔を近付けた。ポニーテールにした長い髪が落ちてきて、ピノの頬を掠める。吐息が掛かるほどに近く、ピノは慌てて後退した。廊下の壁に背中をぶつけ、逃げる方向を間違えた、と思うが時遅し。
「ななななな……何考えてっ……!」
 別の意味で誘われていると気付いたピノは、きょろきょろと逃げ道を探す。しかし、見事にそれは塞がれ――
(いやまて落ち着け。こいつは女の格好してるが男だし、俺はピノ……。何だ? この場合どうなるんだ? 小学生のガキに男が迫ってる……って構図でいいのか? いや、合ってるけど変だな……大体これでバレないわけねーのに……! バレてる、のか?)
「うん、そうやって怯えてるのも……可愛いね。目を反らさないで、こっち向いてくれるかな?」
 ケイラはピノの顎を片手で持つと、妖しい雰囲気を醸し出して言う。
「ほ、本気なのか……!?」
 最早、何に対してなのかも判らぬままに問いかける。そんな凡庸な反応をするピノに対し、ケイラはもう少しだけ踏み込んだ。
「……本気だよ。僕がこれまで、本気じゃなかったことがある?」
「そ、それは……」
「ドゥムカさん!」
 ドゥムカは、ピノに迫る自分を見てびっくりした。ひしひしと感じていた嫌な予感はこれだったのかと思う。一方、マラッタは、その光景を見て何か妙な感覚を覚える。
(……? なんだかざわっとしたな)
 それが何に起因しているのかは分からないが。
「ドゥムカ……?」
 まだ距離がある間に、ケイラはピノにネタばらしをした。
「私はケイラじゃない……しかし……意外とつまらん男だな、ラス・リージュン」
「!?」
 つまらんとか言われて少しばかりショックを受け、ピノは壁に張り付いたまま硬直した。一拍おいてから、近付いてくるドゥムカに助けを求める。
「お、おいケイラ! こいつ、何とかしてくれ!」
「ラスさん!?」
 その喋り方を聞いて入れ替わりに気付いたドゥムカは、急いで2人をひっぺがした。
「もう、駄目だよドゥムカさん! ラスさんだって大変なのに……」
「…………」
 駄目なのはそっちだろう、と『ドゥムカ』は思う。『ケイラ』は、2人の様子を見ても何も感じなかったらしい。それこそ、これっぽっちも。
「……自分から相手に迷惑かける訳にはいかないよ!」
 マイペースに歩いてきたマラッタも、ケイラに苦言を呈する。
「ドゥムカ、悪さが過ぎるんじゃないか。……何が目的でこんな事を」
 その彼に、ケイラはそっぽを向いて平板に言った。
「……私の目的など、君は興味ないだろう」
「…………」
 マラッタは何か複雑な表情をしたが、結局、何も言わなかった。
「ほ、本当にごめんね! ラスさん! 今こんな身体になってるけど、自分でよかったら何か手伝うからね」
「…………」
 3人を順番に見遣ってから、ピノは言う。
「……ピノ探すの、手伝ってくれるか?」
「……え……また?」

 射月は遙遠達と別れ、昇降口へと向かっていた。結局、あの2人が入れ替わっているかは不明のままだった。訊いてみたが、
『さあ、どうだと思いますか……?』
 とはぐらかされてしまったのだ。それにしても、確かにナンパに熱を上げる生徒は多いようで、歩いていると背中が痒くなるような言葉が勝手に耳に入ってくる。
 しかしあれ、元に戻ったら意味が無いんじゃないだろうか。
(にしても、迫られて校舎から出られないなんて、んな馬鹿な……)
 今は射月の身体だし、いつものようにはいかない――
「ね、俺と楽しいことしない……?」
 そう思っていた時期もありました。
(な……! どこから来た……!?)
 引き続き隠れ身を使って無差別にナンパをしてきたルークは、射月を見て、何かひらめくものを感じていた。正面から素早く、しかし官能的に抱き締める。
「今までの子より、楽しめそうだね……」
 挑戦的に、背の高い射月を見上げて首筋に手を伸ばす。ピンクのロリータ猫耳少女は、ボーイッシュな風貌ながら熱く潤った視線を向けてくる。
「な、何を……」
「感じる、タイプだろう? 俺の貞操、奪ってみない……?」
「だ、だめですよ……!」
 幸い女の子だけど、可愛いけど、なんだかさっきの双子の弟と通じるものがある気もするが……初対面でそんな……!
 ルークの手が、妖しく動いてベルトを――
「シリウス!」
 そこでシリウスが追いついてきて、ルークの背後で脚を振り上げた。かかと落としだ。封印解凍を使ったそれを、ルークはゆらりとした動作で避けた。振り下ろされたそれは、相手の脳天に当たることなく床を破壊する。
「……!」
 その威力に呆然とする射月の前に立ち、シリウスは言う。
「ご無事ですか? その、いろんな意味で……」
「ぎ、ぎりぎり無事です……」
 射月が言うと、シリウスはほっとして息を吐いた。その、いろんな意味で。
「では、早く逃げてください。こいつは僕が押さえます」
「あ、ありがとう……!」
 やがて、走って逃げ出す射月の後ろからもの凄い破壊音が聞こえてきた。
「消す……お前ごと僕の汚点を抹消してやる……!」
「…………だめだこれ、早く何とかしないと……! ……ん?」
「あれは、機晶姫と契約者のコンビですね」
 いつの間に来たのか、再び話しかけてくるヨウエンS。
「おまえ達、楽しんでるだろ……」
 3人の視界に入っていたのは、いかつい顔をした金色の物体だ。いや機晶姫だ。
「……しかし何でしょうね、あれは」

 肝心なものが収容されていて分かりにくかったが、ドリルである。装着型機晶姫 キングドリル(そうちゃくがたきしょうき・きんぐどりる)は、椅子に磔にされて震えていた。テーブルには、例の果実が山ほど乗っている。
「や、やめぬか九十九! そんなことをしても機晶姫とでは入れ替わることは不可能だと結果が出ているではないか!!」
 果実を齧って、神楽月 九十九(かぐらづき・つくも)は微笑んだ。穏やかに見えるが、そこから醸し出される雰囲気はどことなく怖い。
「機晶姫とだけ入れ替わらないなんて絶対におかしいですよね。あんまりです。私が思うに、食べた量が足りないのではないでしょうか? ……っと言うことで!」
 九十九はがしっと果実を掴み、実力行使のスキルを使ってキングドリルの口に無理矢理押し込んだ。キングドリルは口をもぐもぐさせるひまもなく、ごくんと飲み込む。……どこかに。
 1個、2個、3個、4個、個、個、コ、こ……
 右手でキングドリルの口に詰め込み、左手で自分の口にひたすら運ぶ。
「ふ、ふごぁ……や、やめ……」
 キングドリルの底部分から、徐々に尖った何かが出てくる。銀色のドリルだ。恐らくあの中には、果実がぎゅうぎゅうに詰まっているのだろう。
 ドリルは次第に回転を始め――
「ぶ、ぶるぁぁぁぁ!!!!!!!」
 速度を上げると、椅子を貫通して地面に穴を開け、どこかへと消えて行ってしまった。
 ドルンドルンガガガガガガガブルンブルンズガガガガガーーーーーー…………
「「「「「……………………」」」」」
 九十九は無残に壊れた椅子と大きな穴を覗き込み、自らの身体を見回して悔しそうに言った。
「はぁ……やっぱり機晶姫とは入れ替わることができないんですね……ガッカリです。折角、私自身がドリルとなって、好き放題『どりどり☆』できるチャンスだと思いましたのにー!!」

「ふっ、ある意味、仲間でござるな……」
「!?」
 いつの間に来ていたのか、射月達の隣にしゃがんで膝に頬杖をついていた椿 薫(つばき・かおる)がぼそりと言った。何だか哀愁漂う感じで立ち上がる。
「次は誰をのぞくでござるか……ナンパ祭りはなかなか面白かったでござるよ……」
 同じのぞきにしても、彼の場合は遙遠達と180度ベクトルが違うらしかった。
「……さて、俺も行くか……」
 さっさと校舎を脱出しようと、射月は今度こそ2人に別れを告げる。
 さっきのドリルと、九十九という少女を見て疑問に思ったことがあった。そもそも、何故機晶姫だけ効果が無いのか。機晶石はやはり、心臓とは異なるものだからだろうか。
 謎は深まる一方である。

 ダリルは説明を再開していた。
「機晶姫に効果がなかったのは、『機晶姫の精神が記憶と人格の二部分で構成されている』為と推察する。これは、先のファーシーの件で確認済だ。有機生物の精神とは根源的に異なる精神構造だな。カーナマヤなる成分が光エネルギーとぶつかりあっていたということだが……それは、出汁……いや抽出成分に含まれる機晶エネルギーが、記憶を守る為に行っていたのだろう。この2つが侵されなければ、機晶姫に入れ替わり現象が起こることはないのではないだろうか」