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君が私で×私が君で

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君が私で×私が君で
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リアクション

「せんせーい、補習に集中できませーん」
 黒くて大きくて柔らかい元気なズッキーニに注目する生徒達の中、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が手を上げた。
「そうだね、じゃあこうしよう。そっちも誰か頼むよ」
 教師のバリー・ニコラスが、端に寄せていた遮光カーテンを引き始める。
「分かりました! あんなモノは無視して早く薬を作りましょう!」
 ヌイ・トスプ(ぬい・とすぷ)(中身、今井 卓也(いまい・たくや))が駆け寄り、一生懸命に下からカーテンを引っ張った。それをセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が手伝い、無事にズッキーニをシャットアウトする。
「まったく、世話が焼けるのお」
 活発な少女の外見に反して老成な喋り方をする。セルファの中には名も無き 白き詩篇(なもなき・しろきしへん)が入っていた。暗くなった実験室の電気を、影野 陽太(かげの・ようた)が順に点けていく。
「ところで、それ……出汁って言ってたよな」
 ロートラウトの持ってきた大きなヤカンを示し、ピノ・リージュンが言った。
「ボクで出汁とってみたんだ。機晶石のエネルギーが他の物に影響したりすることもあるみたいだし。部屋に戻れば、まだまだあるよー?」
「それは……風呂の上がり湯ということですね? ロートラウト嬢」
 卓也の外見をしているフェリックス・ルーメイ(ふぇりっくす・るーめい)が紳士的な笑みをもって確認すると、彼女はあっさりと頷いた。
「うん、そうだよー」
「…………」
 実験室に集っていた面々は、それぞれ顔を見合わせた。完成した薬は……一応、経口投与するつもりなのだが。
「いや、しかし良い案かもしれないぞ」
 アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)が言う。
「機晶姫にだけ人格交換が起こらなかった。となれば、機晶石に解決の糸口があるとは考えられないだろうか。『生物学的な意味での脳の有無』が原因かとも思ったが、それでは魔道書にも人格交換が起こる説明がつかない。『機晶姫にあって他の種族にないもの』或いは『他の種族にあって機晶姫だけにないもの』。このいずれかに鍵があるのだろう」
 アインは全員を見回してから、続ける。
「僕たち機晶姫のみが持つ物といえば、機晶石だ。もしかしたら機晶石には、果実中の精神に作用する成分を忌避、もしくは中和する特性があるのかもしれない。機晶姫の出汁が何らかの効果を出す可能性がある」
「温泉に行ってそのお湯を飲むようなものだね。うん、じゃあそれを薬の元にしてみようか」
「…………!」
 それでいいのか化学教師……!

 その頃、見事にシャットアウトされてショックを受けたイオマンテは、めげずに隣の教室にターゲットを移してズッキーニを披露していた。それ目掛けて、屋上から寛太が声をかける。
「イオマンテさーん、変熊さんが見当たらないんですけど知りませんかー?」
「寛太君! 私はここだ、イオマンテだ! 見ての通り入れ替わってしまった!」
 それを聞いて、カーラ・シルバ(かーら・しるば)は表情を変えずに淡々と言う。
「入れ替わっている? ……あなた何言ってるんです? 大丈夫ですか? 寛太さんの通っているメンタルクリニック紹介しましょうか? まだ入ってませんよね?」
「先生は私の師だ、お気遣い無用!」
 そしてまた変な動きをするイオマンテ。
「……これは変熊さんですね。変熊さーん、どうしますかー? ここで打ち合わせしますかー? 元に戻るまで待ちますかー?」
「元に戻る必要などない! あのカーテンを閉めた不届きな部屋では何やら薬を作るつもりらしいが、私はイオマンテとして生きるのだ!」
「薬……? 他のみなさんも入れ替わってるんですか?」
 寛太はその事実を知ると、何か思いついたのか目を光らせた。
「解決するには、色々試してみないといけませんね! とりあえず、記録を取りましょう!」
「メモリーに記憶しました」
 言われるまでもない、というようにカーラがメモリープロジェクターでイオマンテを撮影する。
「よし、行きましょう!」

 真人は果実を台の上に持ってきて、ディテクトエビルをかけていた。
「特に何も感じませんね。あの大樹は、邪念をもってこの実を生み出したわけではなさそうです」
 そうして、実の皮を剥いて切り分けていく。
「薬を作るならまずは実の成分分析をするべきでしょうね。果汁と果肉を別々に……にしても、実はこれだけで足りるでしょうか」
「そうですね……あーーーーーーっ!」
 真人の提案に、ヌイが用意していた果実を振り返る。そこで彼女は声を上げた。実験室にある実はあと2つだけ。それを、金髪美青年のフェリックス(の身体)が子供っぽい仕草で美味しそうに食べている。
「この実、まだあったデス。おいしいデス」
「ヌイ、それは食べちゃダメです!」
「なんでデス?」
「紅茶はいかがですか?」
「ヌイちゃん、バナナだよー」
「みかんもあるよ!」
 こぼした紅茶を拭いて新しく淹れ直した環菜と、ファーシー・ラドレクト(ふぁーしー・らどれくと)ピュリア・アルブム(ぴゅりあ・あるぶむ)(中身、蓮見 朱里(はすみ・しゅり))が別の食べ物でフェリックスを釣ってみる。ピュリアはみかんをフェリックスに渡してから言う。
「果実、補充しないといけないよね。果実だけでなく、出来れば葉や樹皮、樹液なども採取した方がいいかも。今は翼があるから、高い木の上まででも飛んでいけるし、私が取ってくるよ」
「それなら僕も行こう」
「ピュリアも行くよー!」
 アインにくっついて離れないながら、朱里も立候補する。
「ママの身体だと、翼で空が飛べなくて不便だし、パパとママもこのままだといつもみたいに『ちゅー』できなくて困ってるみたいだし……」
「お、おい! ピュリア!」
「みんなの前でなんてこと……!」
 赤面して慌てるアインとピュリアに気付いているのかいないのか。
「ピュリアもパパやママや先生たちの薬作りのお手伝いするね!」
 朱里は元気な声で言った。諸葛亮著 『兵法二十四編』(しょかつりょうちょ・ひょうほうにじゅうよんへん)(以下リョーコ)が、薬草を集めて数を確かめる。
「実が調達出来るまでは、他の薬草の準備などをしていましょうか。えっと……」
「ピノさんといいましたよね? これからまだ生徒も増えるでしょうし、小さいあなたでは出来ることも少ないでしょう。どうです、僕と遊びませんか?」
「は? お前、何言って……」
「あっ、何してるんですか!」
 リョーコは、入れ替わってしまった自分――風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)がピノに迫っているのを見て驚いた。
「ああすみません。リョーコさんは忙しそうですけど僕は少し暇だったもので。うーん、この子はまだ異性に興味が無いようですね。ラブセンサーが全く反応しません」
 自分の話し方を踏襲して言う優斗に、リョーコは頭痛を覚えながら真実を告げた。
「その子の中身は男性ですよ……」
 優斗はへ? という顔を一瞬見せてから、柔らかく笑った。
「あ、そうなんですか。どうりで言葉遣いが悪いと思いました」
「よけーなお世話だ……つーか、分かったなら離れろ!」
「でも女の子の身体になったなら、何か感じませんか? ほら……、あれ? センサーが0の先に行きたがっているような……」
「き、気色悪いぞ、お前……」
 それを見ていたルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)は、付き合ってられないとばかりに実験室を出て行こうとする。
「会長! どこに行くんですか!?」
 陽太が声を掛ける。廊下から戸を閉める前に、ルミーナは言った。
「校長室に戻るのよ。陽太、定期的に状況を報告してきなさい」
「は、はい! そして、必ず治療薬を完成させます!」
 背筋を伸ばして答える陽太。実験室に来る前、ルミーナの姿を一目見た瞬間から、彼は中身が環菜であることを看破していた。環菜への気持ちはだてではない。
(でも……俺はやっぱり、会長本来の姿の環菜会長のことが世界で1番大好きなんです!!)
 環菜(と入れ替わった人々)の為に薬を作ろうと、陽太は空京大学で発行している「医学部の教科書」、「薬学部の教科書」、「農学部の教科書」、「理学部の教科書」を台の上に広げた。事前にトレジャーセンスや特技の捜索で見つけてきた有効そうな材料もその脇に置く。
「あ、そうだ、向こうで何かあった時の為に連絡先を教えていただけませんか?」
 アイン達にも積極的に交渉して、話を先に進めていく。自分の身体に対して、リョーコは言った。
「暇なら適当にどこかで遊んできてください。その間に、薬を作っておきますから」
「あらそう? じゃあそうしようかしら」
 リョーコにだけ聞こえるように口調を戻すと、優斗も実験室を出て行った。自分の身体を追い出した所で、1つ息を吐く。これで、薬作りの手伝いに専念できるといものだ。
「ところで、ファーシーさん……いや、今はラドレクトさんと呼ばなければ失礼か。あれから調子はどうだ?」
「うん、大丈夫! こうして授業にも出られるしね!」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が訊くと、ファーシーは彼を見上げて明るく言った。その様子に安心しつつも、エヴァルトはすっきりとしたファーシーのフォルムに、残念感も抱いてしまう。
(……非戦闘用だから仕方ないが……戦闘用だったなら、そしてアニメなら、修理ついでに新兵器装備して復活、なのにな……)
 ちなみに、彼は果実の被害を受けていない。早々にこの補習への参加が決定していた彼は、図書室で勉強していたおかげで難を逃れていた。その間にロートラウトとミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)に全て食べられてしまったのだ。
 機晶技師としての修行の甲斐あり、物理はそこそこ得意だが……化学は苦手だ。
「よし、薬を作ろう」
 そうして選び出された薬草をすりばちで潰しながら、エヴァルトが果物を食べなくて本当に良かった、とミュリエルは思っていた。入れ替わっていたらやっぱり恥ずかしい。
(でも昨日、お兄ちゃんの勉強が一段落して、学生寮の自室に戻ってきた時の表情……ちょっと忘れられないですね。ごめんなさい、って思いましたけど、あんまり驚いていたので、ちょっぴり面白かったです……ところで、ファーシーさんはさっきから何をしているのでしょう?)
 ファーシーは、残った果実を食べつくしたフェリックスの仕草をじーっと見詰めていた。卓也にべったりとくっついているその仕草は、どう見ても幼い子のそれである。
「うーん……元に戻らないものねー。実を食べたら、また逆に入れ替わるかもー、とか思ったんだけど……」
(それを言ったら面白くないだろうラドレクトさん!)
(面白いから、と黙っておいた事をさらっと言ったな……)
 エヴァルトとフェリックス(中身)がほぼ同時に思う。2人は、翌日になったら戻ってるかも、というアドバイスはあえてしなかった。

 アイン達が果実の確保の為に大樹へ出発した頃。
 神楽月 九十九(かぐらづき・つくも)が大きな袋を抱えて蒼空学園に入っていく。
「まだ沢山ありましたね。これだけあれば、きっと……!」
「その大量の果実……どうするつもりなのだ? 九十九」
 九十九の右手に装着された装着型機晶姫 キングドリル(そうちゃくがたきしょうき・きんぐどりる)が訊く。
「フルーツといえば、やることは1つでしょう?」
「……?」
 今ここにいるのは、九十九と自分だけ。食べても効果は無い筈だが――
(誰かに食べさせるのであろうか?)