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たっゆんカプリチオ

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たっゆんカプリチオ
たっゆんカプリチオ たっゆんカプリチオ

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「こばっ!」
「そ、それは……」
 小ババ様からの報告を聞いたアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)は、アイスクリームを食べながら小銭を数える手を止めて引きつりました。
「あの明倫館のたっゆんめ、この私をたばかりおったなあ!」
 なんのことかといいますと、ついこの間購買に転売したお中元の話です。
 葦原明倫館のハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)から届いたたっゆんサプリメントで、胸が大きくなるというふれこみの怪しい薬だったわけです。ところが、大ババ様はたっゆんな胸になど微塵も興味がなかったので、さっさと売り払ってしまいました。おかげでお小遣いがたっぷり入りましたので、さっそく好物のアイスクリームを買い占めようとしていたのですが。
「こばー。こば、こばー」
「ううむ、確かに、それはこばった……いや、洒落を言っている場合ではない」
「こば?」
 勝手にセルフツッコミをしている大ババ様の意図が分からず、小ババ様がかわゆく小首をかしげました。
「まさか、男の胸だけがたっゆんになるとはな。蒼空学園からたっゆんの逆襲があるとは予想していたが、まさか明倫館からとは……。おのれ、やはりたっゆんは撲滅せねば……。いや、今はそれどころではない。逃げるぞ、我が分身よ」
 唐草模様の風呂敷で小銭をつつみますと、大ババ様はそれを背中に担ぎました。
「購買の奴らが文句を言ってくる前に、この金でシャンバラ山羊のミルクアイスを買い占めるのじゃ」
 シャンバラ山羊のアイスクリームを買い占めると聞いたとたんに、小ババ様がジュルリとよだれをこぼしかけます。思わず大ババ様もつられて、とろんとした顔になりました。
「はっ、こうしてはいられん。騒ぎが大きくなれば、風紀委員やエリザベートたちも動くじゃろう。叱られる前にばっくれるのじゃ。行くぞ!」
「こばー!」
 すんでのところで我に返ると、二人はそそくさと校長室を抜け出していきました。
 
    ★    ★    ★
 
「すんませーん、大ババ……いえ、アーデルハイト様はこちらにおいででしょうか」
 一言一言絞り出すように言葉を選びながら、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が、校長室の扉をノックしました。さすがに他校の校長室です、つまみ出されないためにも、最低限の礼は尽くさなければなりません。
「もしもーし……。もしもし? おーい。誰かいませんかー。返事してくださーい。返事しろー。おい、なんとか言いやがれ。えーい、中に小ババ様いるんだろ。蒼学の俺がこんなことを言うのはおかしいかもしれねぇけど……好きなんだ、愛しているといっても過言ではない! だから小ババ様に会わせてくれ! えーい、出せ、出しやがれ。小ババ様ー!!」
 校長室の扉をどんどんと叩き、しまいにはげしげしと蹴っ飛ばしながらトライブ・ロックスターは叫びました。いったい何事かと、近くを通った学生がなだめるほどです。
「小ババ様が大好きなんだぁぁぁ!」
 お土産に持ってきた光条石を振り回しながらトライブ・ロックスターは叫びました。そこに、いつものワイルドな姿は微塵もありません。
「そうだ、きっとまだ世界樹のどこかにいるに違いねえ。待ってろ、小ババ様。今、俺が行くぜ!!」
 突然そう叫ぶと、トライブ・ロックスターは、駆けだしていきました。
「なんだ、なんだ、今のは!?」
 もの凄いスピードで通路を走ってくるトライブ・ロックスターを見て、月崎 羽純(つきざき・はすみ)はあわてて身を翻して避けました。
「まったく、もうちょっとで、このりっぱな胸がぶつかるところだったぜ」
 そう言うと、手に入れたばかりのたっゆんな胸を、これ見よがしに両手で持ちあげて見せました。
「あー、だから、私が責任持ってなんとかするんだもん」
 半べそで叫びながら、遠野 歌菜(とおの・かな)が小走りに走ってきます。
「うん、そうだな。きっちりと責任はとってもらおう」
 どこかこの状況を楽しむかのように、月崎羽純は遠野歌菜に言いました。状況は笑い事ではないのですが、なってしまったものはしかたがないと、月崎羽純はすでに割り切ってます。
 元はといえば、風邪気味だったので、テーブルの上にあった風邪薬を飲もうとしただけなのですが、そこはイルミンスールのこと、そこら中に怪しい薬が無造作においてあります。薬事法も何もないものです。
 たまさか、テーブルの上に出されていたピルケースに、見るからにお手製らしい丸薬があったのでした。風邪気味だった月崎羽純は、ぼうっとする頭で、そういえば遠野歌菜が薬を作ってあげると言っていたことを思い出したのです。そういうわけで、迷わずそれを飲んでしまったわけですが、まさかそれが今を騒がすたっゆんサプリメントの丸薬だったとは……。
「だだのサプリメントだって聞いてたんだよ、ほんとなんだもん」
「まあ、歌菜が変な薬飲まなくて幸いだったが……」
 おろおろする遠野歌菜に、月崎羽純が言いました。
「えーっと、ほんとは飲みたかったけれど……」
 たっゆんになった月崎羽純の胸を、ちょっとうらやましそうに見つめながら遠野歌菜が言いました。
「とにかく、なんとしても元に戻さなくっちゃ。早く、アーデルハイト様の所に行こっ。きっと、大ババ様ならこんな状況だってなんとかしてくれるんだもん」
 まさかその大ババ様が元凶だとは露ほども思わず、遠野歌菜は月崎羽純の手を引っぱって先を急ぎました。
 とはいえ、すでにトライブ・ロックスターが玉砕したように、大ババ様たちは逃避行の真っ最中です。
「捜します。絶対。だめだったら責任とるから……」
「やれやれ」
 少し呆れながらも、月崎羽純は、いっぱいいっぱいの遠野歌菜を少し嬉しそうに見つめました。こんなに自分のために一所懸命になっている恋人を見るのは、そんなに悪くない気分です。どうせ、いつものパターンなら、大ババ様かエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)校長がなんとかしてくれるでしょう。月崎羽純は、それまでこの状況を楽しむことにしました。