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第二章 瘴気の森で
「近くなってきているのか?」
「ああ。明らかに森の空気がおかしくなってきている。獣人の俺が感じているんだから間違いない」
 森の中を進みながら問いを投げた神崎 優(かんざき・ゆう)は、先頭にして進ませているパートナーの神代 聖夜(かみしろ・せいや)の返答を聞いて、緊張を露にした。
「さて……鬼が出るか蛇が出るか……」
「優、気をつけて! 禁猟区が反応してる!」
 周囲を警戒していた水無月 零(みなずき・れい)が、危険を知らせる。
「魔物か?」
「ええ。瘴気を伴った獣の気配があります」
 陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)が右横の道を視線で追う。そちらから魔物の脅威が迫っているということの意思表示だろう。
「来ました」
「めんどくさいけど……見つかった以上は仕方ないな……。ん?」
 魔物が来る。白と黒の模様を浮かべた表皮の、凶暴パンダだ。
 しかし、よく見ると、それは誰かを追いかけていた。
「た、助けてくださ〜い!」
 半べそのまま逃げるヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が叫びながら逃げていた。
「待ってろ! 助けるから。行くぞ。零、聖夜、刹那」
 四人は頷き合うと、凶暴パンダへと飛び出した。

 ――ガアアアッ!

 繰り出された鋭い爪をかわしながら、優は大きく跳躍する。
「行くぞ――ツインスラッシュ!」
 剣を振り上げ、頭頂部を切りつける。そして、着地した瞬間に膝のバネを使い、切り上げを放つ。
 的確かつ強力な一撃だったが、それでも凶暴パンダは怯むことは無かった。
「ほら、喰らえっ!」
 続けて、聖夜がショットガンを撃つ。確実に着弾しているが、ダメージはそんなに感じていないようだ。
 手加減しているとはいえ、両者とも的確な攻撃だった。しかし、それでも凶暴パンダは怯むことは無かった。
「瘴気の影響でしょう。凶暴化しているだけあって強くなってます」
 戦闘を分析していた刹那の言葉を受けて、前衛にいた優と聖夜の二人がうんざりしたような声を出す。
「だとよ。優。手を抜いてる場合じゃないっぽいぜ……」
「止むを得ないか……。先に謝っておくよ。ごめんな……」
 構えだした二人。対する凶暴パンダもかかってこいとばかりに喉を鳴らす。

 ――La la la

 いつもの目覚まし。朝が始まる。太陽キラキラ。風はフワフワ。さあ、世界へ飛び出そう――

 途端、朗らかな調べが耳に届いた。
「な、なんだ?」
 四人が振り返ると、そこには、歌っているヴァーナーの姿があった。
 スキル“幸せの歌”。
 ヴァーナーは、凶暴パンダの瘴気取り除こうとしていたのだ。

 ――さぁ、奏でよう。例え歩く道で転んだとしても、笑って歌えば幸せがやってくる。

 三時のおやつが無くたって、すぐそばに幸せはあるんだよ。だから顔上げて歩いていこう――

「み、見ろ……。瘴気が……」
「あ、ああ。消えていってるな……」
 ヴァーナー以外の四人が凶暴パンダに目を向けると、さっきまでの凶悪な面構えが、穏やかなそれに変わっていた。
「あはっ! だいせいこうです〜!」
 歌っていたヴァーナーは、とてとてと歩いていき、凶暴でなくなったパンダにハグする。
 一人と一匹は、笑いながら地面に倒れこんだ。


「それじゃあ、瘴気には気をつけてくださいね」
 回復を施した後、パンダと別れることになった。
 言葉は分からなかったが、自信満々に自分の胸を叩くその姿は、“機会があったら借りは必ず返す。他に困っているやつらがいたら助ける”とでも言っているようだった。
「さて……。優おにいちゃんたちは瘴気の原因を探しているんですか?」
「ああ。そうだけど……」
「ホントですか!? ならボクも付いていっていいでしょうか?」
「そうだな……また一人にして危険な目に遭われるのも寝覚めが悪いからな」
「連れて行きましょう。優。よろしくね。ヴァーナー」
「はい。よろしくおねがいします〜」
 五人は、再び歩き出した。