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【2020七夕】七夜月七日のめぐりあい

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【2020七夕】七夜月七日のめぐりあい

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●「星は、空にだけあるものじゃないよ」

「わーい! 瀬蓮、空を飛んでるよー!」
「痛かったりしたら言ってくださいね、瀬蓮さん」
 七夕も終わりに差しかかろうとしていた頃、月の光を受けて空の旅を満喫する一団があった。一団の中心を飛ぶのはミーミルと、ミーミルに抱きかかえられるようにしてご満悦といった表情の瀬蓮。
「豊美の手伝いしてて、ゆっくり過ごせなくてゴメンな」
「ううん、いいです。こうしてケイお兄ちゃんと近いところで星が見られて、ボク嬉しいです」
 先頭を、緋桜 ケイ(ひおう・けい)とヴァーナーの二人が仲睦まじい様子で飛ぶ。
「ケイさんもカナタさんもお疲れさまですー。おかげさまで何とか七夕を無事に終えられそうですー」
「なに、近頃魔法少女が増えていると聞く。豊美認定魔法少女一期生として、若い魔法少女の手本になればと思ったまでよ。……ところで豊美よ、わらわたちもこの期に呼び名を一新してみようと思うのじゃ。わらわたちの成長を認めてはもらえんかの?」
 一団の後方で、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が豊美ちゃんに新たな魔法少女な呼び名の案を口にする。
「【悠久魔法少女】に、【紅蓮の魔法少女】ですねー。……あ、カナタさん、紅蓮の魔法少女はウィローさんという生徒さんが既に持ってますよー」
「ウィロー? 豊美、その者は誰であろう?」
「あれ? イルミンスールの生徒さんですから、カナタさん知ってるかと思いましたー。可愛らしい女の子ですよー」
「ふむ……覚えがないのう」
 カナタが覚えがないのも無理はない、豊美ちゃんが言うウィローとは、とある生徒が『ちぎのたくらみ』で変身した姿だったからである。
「うーん、被っちゃうのもよくないですよねー。うーんうーん……私センスなくてごめんなさいなんですけどー、【真紅の魔法少女】なんてどうでしょうー」
 カナタと豊美ちゃんの話が続く中、最後方には男性のための七夕の場所を片付け、豊美ちゃんに合流した馬宿と立川 るる(たちかわ・るる)が飛んでいた。
「へぇ、そんなことがあったんだ。じゃあ、お疲れさま、だね」
「うむ、その言葉は有り難く受け取っておこう。それにしてもおば上はいつもこう――む、何か聞こえるな」
 ため息をつきかけた馬宿の耳に、誰かの声が届く。他愛ない話であれば無視していたであろうが、内容が少々深刻であったせいか、馬宿が神経を集中させて言葉を聞き取る。

「……何か、もう、疲れちゃった。……星、綺麗だな。もしここから飛び降りたら……あたしもあの中に入れるのかな……」
 校舎の屋上で、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が目に涙を浮かべて、滲む星を掴もうと手を伸ばす。が、もちろん星が掴めるようなことはなく、ゆっくりと手を降ろしたミルディアが深くため息をつく。

「た、大変! 事情はよく分からないけど、折角の七夕を楽しめないなんてかわいそうだよ! ねえ、何とかできないかな!?」
 馬宿から彼女の言葉を耳にしたるるが、皆に訴える。るるにとって七夕は特別なもの。その七夕の日に泣いている子を見つけて、黙っているはずもなかった。
「トヨミちゃんせんせー、ボクからもおねがいです」
「瀬蓮からもお願いっ! 瀬蓮の分使っちゃってもいいから!」
 ヴァーナーと瀬蓮も、豊美ちゃんに訴える。皆の笑顔を望む二人にとっても、この問題は無視できるはずもなかった。
「うーんうーん……あっ! いい案が思いつきましたー。その前に……ウマヤド、ちょっといいですかー」
「はい何でしょうおば……豊美ちゃん。……ふむ、なるほど。ええ、大丈夫です、その者の気配はすぐ傍にあります」
 豊美ちゃんに問いかけられた馬宿が安心させるように答えると、豊美ちゃんは大きく頷いて皆に呼びかける。
「皆さん、折角のところごめんなさいー。私に少しだけ力を貸してくださいー」
「おう! 魔法少女たるもの、みんなの夢を守って願いを叶えてやらなきゃな! 俺は協力するぜ、豊美!」
「わらわももちろん力を貸すぞ。さあ、思いついた案とやらを言うがよい」
 ケイ、カナタに続いて、ヴァーナー、ミーミルと瀬蓮、馬宿、るるが頷く。
「……ありがとうございますー。皆さんには、これをできるだけ多くの人に配って欲しいのですー」
 言って豊美ちゃんが『ヒノ』を光らせる――。

(……あれ、あたし、眠ってたのかな)
 ミルディアが起き上がり、涙の乾いた目を擦って、そして現れた光景にしばし呆然とする。

「わー、綺麗だねー」
「ふふ、ちょっとカワイイかも」

 掌大ほどの球体が光を発しながら、生徒たちの周りをふよふよ、と回り、時折吹く風に舞うように飛ぶ。入り口から広場、繁華街や住宅街へ抜ける道のそこかしこを、煌々と光る球体が彩る。

「何をするかと思えば、なるほど。これはこれで七夕らしいと言えるね。……済んだかい?」
「はい、終わりましたー。……ごめんなさいっ、あたしと円ちゃんのだけは残しておきますからっ」
 球体に手をかざす円の背後で、不意討ちを食らってきゅう、と伸びている大佐のデジカメから、自分たち以外の魔法少女のデータを消去した歩が謝りながらデジカメを大佐に返す。

 夜空の天の川と対になるように、地上にも天の川が流れていた。
 
「ミルディ」
 ふと名前を呼ばれ、振り返ったミルディアは、すぐ傍に飛んできた球体に一瞬おののき、やがてゆっくりと手を伸ばす。触れたそれは、まるで人の温もりのように、ほのかに暖かかった。
「あったかいなあ……」
 ぽつり、と呟いたミルディアの下に、さらに球体が飛んでいく。それぞれが独自の光を放つそれらに囲まれるミルディアに、姿を見せた和泉 真奈(いずみ・まな)の声が届く。
「皆さんが、ミルディに、とのことです」
 豊美ちゃん、ミーミル、瀬蓮、その他生徒たちから託された球体の一つ一つに触れていく度、ミルディアは球体を託した者の声が聞こえてくるような気がしていた。
 
 ――ミルディアさんの中にも、空に瞬く星と同じ、そして皆さんと同じ、光る何かがきっとありますよ。
 
「こっそりと様子を見ていたことは謝ります。……ですが、私はあなたのパートナーです。あなたが抱えている悩みや苦しみをありのまま受け止めるだけの懐は、持ち合わせていますわ。……あなたは既に知っていますわよね?」
 傍にやって来た真奈の言葉が、ミルディアの心に染み渡っていく。直ぐにミルディアの顔が歪み、視界に映った真奈の姿がぼやけていく。
「……ゴメン。ちょっと……だけ……泣かせて……おねがい……」
 無言のまま頷いた真奈の胸に、ミルディアが飛び込んでいく。
 
 そのまま、七夕の終わる時まで、二つの天の川は生徒たちを見守っていた――。
 
「最後、とっても綺麗だったなー。コハクにも見せてあげたかったな」
 楽しい一時も終わりを迎え、美羽は迎えに来たコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の後ろで、もらった球体を大事そうに抱える。既に光を失ってしまった球体だが、美羽の中にはあの時の幻想的な光景が今も残っていた。
「僕は、美羽が楽しんでくれたなら、それで十分だよ。……こんなに綺麗な星空も見れたしね」
 無数に瞬く星の群れを見上げて、コハクが飛空艇の操縦桿を握る。ふわり、と浮き上がる飛空艇、直後美羽がコハクの背中にすっ、と身を寄せる。
「み、美羽?」
 どきり、としたコハクが美羽に問いかけるが、表情も見えなければ言葉も聞こえてこない。
「…………」
 高鳴る鼓動を美羽に聞かれていないかな、そんなことを思いながら、コハクは蒼空学園への道程を飛んでいく。

「ミーミル、豊美さん、今日は楽しかったよ、ありがとー!」
「こちらこそ、お邪魔したのにおもてなししてもらっちゃって、ありがとうございますー」
「また遊びに行きますね、瀬蓮さん」
 手を振って見送る瀬蓮に振り返って、ミーミルと豊美ちゃん、馬宿が百合園を後にする。
「あっ、お父さん♪ ごめんなさい豊美さん、私はここで」
 すぐ先にアルツールの姿を認めたミーミルが駆け寄ろうとしたところで、豊美ちゃんがはたと思い返して引き止める。
「ま、待ってくださいミーミルさん、そのままだと私が問い詰められてしまいますー」
「? ……ああ、そうでした」
 豊美ちゃんが『ヒノ』をミーミルに向けると、ぽん、と音がして、大きかったミーミルの胸が元のサイズに戻った。
「豊美さん、今日はありがとうございました。とっても楽しかったです♪」
 お礼を言って、そしてミーミルが迎えに来たアルツールと共にイルミンスールへ戻っていく。
「さ、私たちも行きましょうかー。ウマヤド、乗っていきますかー?」
「珍しいですね、おば……豊美ちゃんがそのようなことを言うとは。……私も疲れたことですし、その言葉、有り難く受け取らせてもらいますか」
 馬宿が豊美ちゃんの後ろに跨り、二人の身体がふわり、と宙に飛び上がっていく。流れる星空を視界いっぱいに見て、イルミンスールへの帰路を進む豊美ちゃんに、馬宿がふと思いついたように尋ねる。
「そういえば、あの時何故あのような真似をなされたのです? 豊美ちゃん自ら声をかけられてもよろしかったのではないですか?」
「うーん……やっぱり、一番傍にいてあげられるのはパートナーさんですから。私はいつまでも皆さんの傍にいられるとは限りませんし」
「……そうですな。ついこの生活が当たり前のように思えてしまいますが」
 今この時も、世界は激変している。来年の今日、また同じ楽しい日々を過ごせるという保証は、決してない。
「……それでも、やっぱり願ってしまいますね。『皆さんとの楽しい日々が、これからもずっと続きますように』、と」
「豊美ちゃんの心中、お察しします。……あ、後これは噂で耳にしただけなのですが、何やら魔法少女な勝負をなされていたと」
「な、何のことですかー!? 私そんな勝負受けてませんよー、受けてたとしても私の勝ちです! ……多分」
「そうですか。もし負けていれば面白いことになったのかもしれぬな
「ウマヤド、聞こえてますよー。振り落としちゃいますよー」
「な、おば上、それは流石に――あっ」
 
 
 
 七夕は終わり、織姫と彦星はまた離れ離れの日々を送る。
 二人はおそらく、今年も同じ願い事をしたであろう。
 
『来年もまた、会うことができますように』
 

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

 
 ●__←きれいな猫宮さんの抜け殻
 
 いつもの猫宮・烈です。
 ……きれいなのを維持するのはキツイですね!
 
 というわけで、七夕の一時、いかがでしたでしょうか。
 最初の方で瀬蓮とミーミルの胸が大きくなったりしてる時点で、もう普通じゃなくなってましたが(汗
 その割には最後は意外な方向で終わったような気がします。
 
 馬宿の懸念の通り、百合園の外に男性のための場所を設けるのもアリといえばアリでした。わざわざ参加いただいた男性の皆様、申し訳ございませんでいた。
 
 豊美ちゃんの言う通り、来年もみんな揃って七夕を迎えられるといいですね。
 
 それでは、次の機会がありましたら、よろしくお願いいたします。