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【2020七夕】七夜月七日のめぐりあい

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【2020七夕】七夜月七日のめぐりあい

リアクション

 
「夢見殿、どうですか! 夢見殿と同じになりましたよ! ああ、ありったけの念を込めた甲斐がありました……!」
 『大きくなりたい』と力強くしたためた短冊を笹の高いところへ吊るしたメモリカード 『イ・ティエン』(めもりかーど・いてぃえん)が、地上に降りた途端に夏野 夢見(なつの・ゆめみ)と同じくらいの背丈になったことに感動を覚えながら、アーシャ・クリエック(あーしゃ・くりえっく)や他の人に喜びをいっぱいにしながら自分の姿を見せつけていく。
「まあ、一日限りですけど、このくらいでしたら問題ないですよねー。……で、夢見さんの願い事なんですけど」
「うん、最初『二足歩行の巨大ロボに乗りたい』にしようかなって思ったんだけど、努力すれば叶いそうだったし、『空を飛んでみたい』ってのも、空飛ぶ乗り物に乗っておしまい、って事になりそうだって思って」
「それで、『背が高くて格好いい男性になってみたい』ですかー。ですけど、ここで叶えちゃったらいられなくなっちゃいますよ? あくまで七夕の一夜だけのお楽しみ、みたいにやってるのでー、七夕が終わってから叶えるってことは出来ないんですよー。私が見てる間くらいなら大丈夫でしょうかねー」
「あっ、そうなんだ。うん、なれるのならそれでもいいよ。格好はTシャツにジーンズ姿でお願いね」
「分かりましたー」
 豊美ちゃんが『ヒノ』を夢見に向けると、夢見の身体が光に包まれ、次の瞬間には髪や目の色は同じながら、引き締まった身体つきのTシャツジーンズ姿な夢見がいた。
「夢見殿、男性になられたのでありますか!? と、隣に並んでもよろしいでありますか?」
 頷いた夢見の隣に倚天が並ぶ。男性化した夢見と人間サイズになった倚天、もはや立派なカップルである。
「夢見……ああ、なんということ……!」
 そして、その光景を目の当たりにしたアーシャが目眩を覚えてその場にしゃがみ込む。見つめ合う二人に夢見と『あの男』の影を重ねたようであった。
「うーん、人の恋路を邪魔して蹴られるのは痛いので、ごめんなさい、アーシャさんの願い事はそのままにしておきますねー」
 アーシャのしたためた短冊には、『夢見、早く目覚めてください』とあった。
「……いえ、変に叶ってしまってもそれはそれで困りますわ。夢見は直ぐに戻られるのですわよね?」
「はいー、あまり騒ぎになっても瀬蓮さんに迷惑かかりますからねー。夢見さん、そろそろ戻しますよー。倚天さんはもう少し楽しんでてくださいー」
 再び『ヒノ』を豊美ちゃんがかざすと、夢見が元の女性の姿に戻る。
「ふふ、少しの間だけど面白い体験が出来たね」
「ああ夢見、もう、心配させないでくださいな」
 ご満悦といった表情の夢見にアーシャが駆け寄り、そして倚天を加えた三人は夜闇に消えていった。

「……というか祥子、何故この歳で魔法少女なんてものしてるわけ?」
「なんて、とは失礼だわ、魔法少女に年齢は関係ありませんっ」
 庭園でのんびりとした時間を過ごしていた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、金魚と朝顔が散りばめられた藍色の浴衣を翻し、金の刺繍が施された赤色の浴衣に身を包んだ崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)に反論する。
「そんなの幻想よ。人である以上、時が経てば成長するもの。少女も幼女も永遠の存在じゃないのよ」
「関係あるのは気持ち! 心意気! 志! それを見失わない限り魔法少女は魔法少女であり続けるわ」
「えっとあの、亜璃珠さんも祥子さんもそのくらいに」
 紺色と白の花が咲いた黒地の浴衣姿の冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)の仲介もあって、一時の言い争いは終息を迎える。
「……まあ、祥子が満足なら、それ以上は聞かないわ。今日は七夕、楽しく過ごしましょ。折角だから二人の願い事でも聞いておこうかしら」
 亜璃珠に話を振られて、小夜子が短冊にしたためた願い事を口にする。
「私は、『素敵な恋人が出来ますように』と書きました」
「ふうん、小夜子は素敵な女の人が欲しいの。……ふふ、それは私のような、ということでいいのかしらね?」
 妖艶に微笑みながら、すっ、と亜璃珠が小夜子に身を寄せてくる。
「あの、どうしてそのような結論に」
「だってあなた、さっきからチラチラと私を見てるんだもの。それとも何? 恋焦がれる異性でも出来たのかしら?」
「……言われてみれば、最近異性に魅力を感じたことが無いですね。……亜璃珠御姉様が一番魅力的、です
「あらん、そう言ってくれるなんて嬉しいわ」
 さらに亜璃珠が身を寄せ、小夜子はなすがままにされる。
「んっ……でも、御姉様には想ってる方がいると……」
「んー、いるにはいるけど、そういうのってちょっと分からないわ。一緒にいたい、みたいなのはあるんだけど、好きだとかそういう事は言い出しづらいのようね。それより一時の欲望に身を任せてもいいじゃない。例えば今みたいに……ね」
「御姉様、お戯れを……ああっ」
 段々と二人の絡みが激しくなっていくのを横目に、祥子がふぅ、とため息をつく。
「亜璃珠と小夜子がイイヒト同士、ってところね。私は…………釣り上げた相手がなかなか逢ってくれなくて絶賛放置プレイ中とかね……別に、そういうわけだから今日お邪魔してるわけじゃないわよ!?」
 二人に背を向けてしまう祥子、そのどこか寂しげな背中にすっ、と今度は小夜子が身を寄せる。
「相手の事情は私には分かりませんけど……その内良い事ありますよ。祥子さんはこんなに魅力的なんですから」
「……ありがとう、小夜子。ふふ、いっそ抱き枕にしてお持ち帰りしたくなるわ」
 言うが早いか、振り返った祥子が小夜子の身体を抱きしめ、そのままごろん、と横になる。
「今日は『織姫だけの七夕』よ。彦星には邪魔させないわ」
「あら、独り占めはよくないわ。それに祥子、あなたの願い事をまだ聞いてないわよ」
「私の願い事は『友人や仲間たちが無事息災でありますように』よ」
「また、優等生サンな願い事ね。空京大学に編入した結果、なのかしらね」
「それとこれとは別よ。じゃあ聞くけど、亜璃珠は何をお願いしたの?」
「願い事は心にそっとしまっておくものよ」
「何よ、人に聞いておいて自分は言わないなんて。というわけだから小夜子は私のものね」
「祥子さん、お戯れを……んんっ」
 今度は祥子と小夜子が絡みを激しくする。それを横目に、亜璃珠はふっ、と自嘲気味に微笑んだ。
『皆が笑って過ごせる日々を』ねえ……おかしすぎるわ、私じゃないみたい。最近の情勢にやられたかしらね……)
 見上げた空には、天の川がはっきりと浮かび、今だけは幸せな時間を過ごす三人を静かに見守っていた。

「……まさか、書いて提げて直ぐに願いが叶うなんて思いませんでしたよ」
「なるほど、これは美央ちゃんが願った結果ってわけね」
 同じ目線で話しかけてくる赤羽 美央(あかばね・みお)に、四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)が納得したように頷く。『唯乃さんの身長が伸びますように』としたためた短冊を美央が笹に提げた直後、唯乃の身長が頭一つ分ほど伸び、美央と同じくらいになったのであった。
「イルミンスールのチビッ子が一人減ってしまいましたね……で、どうして私は美央にもふもふされているのでしょう」
「だってフィアちゃんかわいいし。もふもふ」
 腰をつけて足を伸ばした美央にすっぽりと収まる形で、フィア・ケレブノア(ふぃあ・けれぶのあ)が美央に可愛がられていた。
「ま、ずっとってわけじゃないだろうし、これはこれで新鮮ね。いっそ胸まで大きくなってたら面白かったのに」
「もしそうなったら、見てしまった私が凹みそうですよ」
「イルミンスールに対する冒涜ですね」
「随分な言い様ね。まぁいいわ、今日は星もおっきく見えるかしらね。……そういえば、美央ちゃんは他に何をお願いしたの?」
 唯乃の分の短冊は、本人が書くフリをして美央にあげていたため、美央は2枚の短冊を持っていることになっていた。
「……まあ、私の夢はもう叶ってますから。私を大切に思ってくれる人達と一緒に楽しく生きる、みんなのお陰で、もう十二分に叶ってます!」(『どうかこの楽しい日々が永遠に続きますように』……これは、自分の手で守っていくべき願いですからね)
 数々の苦楽を共にしてきた者たちの顔を思い浮かべながら、美央が言い切る。その回答に、唯乃も深く尋ねること無く頷いて、空に光る星を眺める。
「フィアちゃんは何をお願いしたの?」
「私ですか? 私は――あ、すいませんエルにお土産頼まれていたのを思い出しました。お二人でのんびりしていてください」
 何やら唐突な流れでフィアがその場を後にし、唯乃と美央が二人きり、という事態になる。雪の結晶の模様の入ったうちわをパタパタとやる美央、その風を受けて涼しそうに目を細める唯乃、とてもほのぼのとした雰囲気に包まれる二人。
(むむむ、面白そうな展開と思いましたのに、中々進展しませんね……『イルミンが今後もチビッ子で溢れますように』とした私の願い事の行方も気になりますし――)
 そこへ、たびたび聞こえてきてはフィアに謎な言葉や行動を取らせてきたデンパが、今回もフィアに届く。
『いやですね、どうやら運営が今のイルミンスールの状況に危機感を抱いたらしく、今度新しくイルミンスールに入ってくる生徒が男性なのもそれを受けてのことだとか』
(な、なんですと……!? それではイルミンはどうなってしまうのですか!?)
『さあ、展開次第では『ヘタレ受け』『ヘタレ攻め』が横行することになってしまうかもしれませんねえ』
(ああ、そんな……で、ではせめてここであの二人を情熱的にさせる手段を! ゆりゆりな展開を!)
『分かりました、少々お待ち――』
 直後、デンパにノイズが混じり、プツン、と音がしてそれ以降何も聞こえなくなる。
「今、良からぬ気配がしたので軽く攻撃してみたんですけど……消えたみたいですね、よかったですー」
 すぐ傍で豊美ちゃんの声が聞こえてきた。どうやらデンパの発信元は、豊美ちゃんの攻撃を受けて戦闘不能に陥ったようである――。