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【2020七夕】七夜月七日のめぐりあい

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【2020七夕】七夜月七日のめぐりあい

リアクション

 
「豊美さんに言われたようにしてきましたが、大丈夫……ですよね?」
「ふむ……不思議だな、ルイが魔法少女をしていることに違和感というものを感じない。他の者も同じなのだろうか」
 七夕ということで賑わいを見せる通りを、これといった注目も浴びず歩いているルイ・フリード(るい・ふりーど)鬼崎 朔(きざき・さく)が実に不思議だといった顔をする。ちなみに豊美ちゃんがルイにかけた魔法は、『本人が魔法少女であると思っている限り、周りの人は魔法少女であることに納得してしまう』――「あ、魔法少女ね」だけで済んでしまう感じ――という、何とも都合のいい魔法だったりする。
「やっふぅ〜! 色んな食べ物屋が並んでいるであります! どれにしようか迷ってしまうであります!」
「スカサハ、迷ったら全部に突撃だよ!」
「おお! そうでありますセラ様! 唸るドリルの突撃をお見舞いするでありますよ!」
「ごーごー!!」
「ごーごー、じゃないだろう二人とも。あまり悪目立ちしてはルイに迷惑がかかるぞ」
 出店に突撃を目論んでいたスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)が、背後からリア・リム(りあ・りむ)に首根っこを掴まれてじたばた、と身悶える。手のかかる妹たちの面倒を見る姉、といった具合にうまく溶け込んでいるようであった。
「リアとセラには学校見学をさせてあげられましたし、友人も出来ました。朔さんも七夕を楽しまれているようで何よりです」
「……そう見えるのだろうか」
 言葉を漏らす朔は、出店で買い揃えた水ようかんに風鈴、うちわ装備とまさに完璧といった様相であった。
「いいことではないかと思いますよ。……さあ皆さん、そろそろ行きますよ」
 朔に頷いてルイが、出店アタックを敢行する三人――結局リアもノッた――を呼び戻す。
「む、ルイが呼んでいるか。さあ君たち、ルイの所に戻るぞ」
「ああっ、あと1軒でコンプリートでありましたのに〜」
「残念だったね〜」
 リアに引き摺られる形で戻って来たセラとスカサハを出迎えて、ルイと朔は笹飾りのある広場へと足を向ける。
「お帰りなさい、ルイさん、朔さん。楽しまれているみたいですね」
 笹飾りの前で、ミーミルが一行を出迎える。そこへすかさず、興味津々といった様子でセラが飛んでいった。
「セラエノ断章、魔道書だよ! セラって呼んでね! ……わ、すっごいおっきな胸! ねえねえ、ちょっと触ってもいい?」
「あ、はい、構いませんけど……皆さんそれほど触りたいものなのでしょうか」
「た、多分違うと思いますー。ミーミルさんも簡単に触らせちゃうのもどうかと思いますよー」
 やって来た豊美ちゃんが困った顔をしつつ、訪れたルイと朔、リアとセラとスカサハに短冊を渡していく。ちょうど空いていた机を確保して、それぞれが短冊と向かい合う。
『これからもずぅ〜っと楽しい事が尽きない毎日が送れますように!』うん、これで良し!」
『お友達がいっぱい出来ますように! であります!!』書けましたであります!!」
 いち早くセラとスカサハが短冊に願い事を書き終え、スカサハが高いところを狙って結び付けようとし、セラはルイとリアが書き上がるのを今か今かと待ちわびていた。
「ねえ、まだなの〜?」
「まあ待て、では……書くとするか」
 リアの視線が一瞬ルイを向き、そして直ぐに短冊に視線を落として、『ルイとセラ、アルフにプックル達皆これからも無事過ごせ』としたためる。
(まあ……これでいいか)
 セラに短冊を託し、ルイの持って来た緑茶で喉を潤しながら、リアが再び視線をルイへと向ける。
『アルフやプックル達キメラの未来に明るい世界が広がりますように』『リア、セラ、今まで出会ってきた方々がいつまでも健康でありますように』
 表と裏に願い事を書き込んだルイが、それを笹へ結び付ける。
『雪だるま王国が早くパラミタ大陸にその名を轟かす存在になりますように』『魔法少女隊スノーファイブの活躍と、スノーピンクの悩みが少しでも減りますように』『もっと雪だるまが増えますように』……」
「わー、朔さん欲張り過ぎですよー」
 その反対側では、一気に願い事を書き終えた朔が何枚も短冊を結び付けようとして、豊美ちゃんを慌てさせる。
 そんな朔の、一枚だけ人目に触れぬように仕舞われた短冊には、『大切な人達を護れる強さと心を。我が復讐の完遂を。そして、汚れた私にも許される祝福が続く事を』と刻まれていた――。

「ほ、本当に大きくなりました! やっぱり豊美さんはすごいです!」
 豊美ちゃんの渡した短冊に『子ども扱いされないように大きくなりたいです』と書いて結び付けたノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が、本当に大きくなった自分の身体を目の当たりにして感動しているようであった。
「……豊美ちゃん……なんてことをしてくれちゃうんですかぁ……ノルンちゃんが大きくなっちゃったじゃないですかぁ」
「だ、だってそう願われたんですから仕方ないですー。明日香さんも書いていいですから――あっ、ムチャクチャなのはダメですよー」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)に涙目で訴えられた豊美ちゃんがつい口走ってしまい、その直後キュピーン、と目を輝かせた明日香が即、短冊に『愛くるしいエリザベートちゃんが毎日見れますように♪』と書き上げる。
「ああっ、やっぱりムチャクチャですー。私ではどうにも出来ませんよー」
 頭を抱えて困った表情の豊美ちゃん、そこへ救いの手を差し伸べるかのように、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が姿を現した。
「アーデルハイト様、どうしたんですかぁ?」
「いやな、豊美の困っとる声が聞こえた気がしたものでな。……別に、折角の七夕をイルミンスールで暇してるのが嫌だったからというわけではないぞ?」
「うう、アーデルハイトさん、助かりましたー」
 ひしっ、と豊美ちゃんに抱きつかれた格好で、アーデルハイトが明日香を諭す。
「おまえ、本当にその願いでよいのか? おまえは分からぬかもしれぬが、エリザベートと毎日一緒というのは苦行にも等しいぞ。
 朝はベッドから蹴落とされ、
 食事はいつもおかずの奪い合い、
 雑用は押し付けられ、
 夜は眠るまで絵本の読み聞かせ、
 これでもおまえはそれを願うというのか!?」
「そんな夢のような日々が待っているなら、私は今すぐにでもエリザベートちゃんの傍に行きますぅ!」
 一瞬の間もなく言い放つ明日香、おそらく頭の中ではエリザベートとの蜜月な日々が妄想されていることだろう。
「……すまぬ豊美、私にはこれ以上何も言うことは出来ぬ」
 豊美ちゃんの肩をポンポン、と叩いて、そしてアーデルハイトが姿を消す。
「ああっ、アーデルハイトさーん……」
 目に涙を浮かばせた豊美ちゃんが、その場に崩れ落ちた。

「ふふ、飛鳥豊美、そのまま崩折れていてくれたまえ。その間にボクたちが願いを叶えてしまうからね」
「あ、まだ勝負やってたんだねー。もう忘れちゃってたかと思ったよー」
 豊美ちゃんの様子を、円と歩が陰から伺っていたところへ、閃光が二人を包む。
「ふむ、まずは二人確保といったところか」
 円と歩が振り返ると、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)が手にしたデジカメを覗き込み、先程撮影した二人の具合をチェックしていた。
「おや、さしずめパパラッチといったところかな。それにしても不意討ちとはいただけない。ちゃんと許可を得てからにしてほしいね」
「そうですよー、それに決めポーズを取ってません。もう一度やり直しでお願いしますー」
「おっと、これは済まなかった。では改めて撮影を願おうではないか」
 どうやら相手が乗り気なのを悟り、丁寧な態度で撮影を迫った大佐が、次々とポーズを取る二人を閃光に包んでいく。
「……ふむ、良質な素材が確保できた。協力感謝する」
 満足気に微笑んだ大佐がその場を立ち去ろうとしたところで、背中から円の声がかかる。
「どうやらキミは、魔法少女を撮影することを望んでいるようだね。幸い、ボクたちはここに来ている魔法少女の所在を知っている。それに、このようなことも出来る。……面白いことになると思うが」
 言って円、歩が光学迷彩で姿を消す。
「……なるほど。確かに面白いことになりそうだ」
 思わぬ協力者を得た大佐の瞳が、妖しく光った――。

「……ふむ。まさかこれほど集まるとは予想外だ」
 デジカメのデータを確認して、大佐がその成果に笑みを浮かべる。デジカメの中には豊美ちゃんとミーミルを除く33人の魔法少女プラス個人的な琴線に触れた生徒が、あれやこれやのポーズを取らされた格好で映っていた。
「これは即オンラインストレージに流さねばな。ふふ……皆、後でこの写真見たらどんな反応するんだろうね」
「喜んでくれたようで何よりだよ。ボクたちも願いを一つ叶えたことになるからね」
 微笑み合う円と大佐を横目に、歩は(うーん、ちょっとやり過ぎたかも?)と首をかしげるのであった。