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【2020七夕】七夜月七日のめぐりあい

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【2020七夕】七夜月七日のめぐりあい

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「トヨミちゃんせんせー!」
 豊美ちゃんを見つけたヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)クレシダ・ビトツェフ(くれしだ・びとつぇふ)サリス・ペラレア(さりす・ぺられあ)と共に浴衣姿で挨拶を交わす。
「わー、皆さん浴衣が似合ってますー。ヴァーナーさんは菖蒲、セツカさんは苺、クレシダさんは蓬菊、サリスさんは雛芥子ですねー」
 豊美ちゃんが、それぞれの浴衣に咲いていた花を一つずつ言っていく。ちょっと強引に和名にしてしまう辺りが豊美ちゃんらしかった。
「これが七夕ですか。日本には色々なお祭りがあるのですわね」
 セツカが、既に多くの短冊が結び付けられた笹を見上げて呟く。
「皆さんもどうですかー。提げられなくなると困るので一人一枚ですけど、願い事は一つじゃなくてもいいですよー」
 豊美ちゃんがヴァーナー一行に一枚ずつ短冊を渡していく。使い方のいまいち分からない様子のパートナーに、ヴァーナーが説明していく。
「トヨミちゃんせんせー、ありがとうです! この紙はタンザクっていって、ここにおねがいをかいてこのササにつるしたらおねがいがかなうんです!」
「かもしれない、ですからねー……ああ、行っちゃいました」
 空きの机を見つけ、まずお手本とばかりにヴァーナーが短冊に願い事を書き込む。
『トヨミちゃんせんせーみたいにやさしくてつよいステキな人になりたいです!』こんなかんじでやってみましょー」
 そしてそれぞれが思いを馳せながら、短冊に願い事を書き込んでいく。
「クレシダちゃん、ひとりでちゃんとかけるですか?」
「大丈夫よ。自分の手で書かなきゃ、叶うお願いも叶わないと思うわ」
 グーで握ったペンをたどたどしく動かし、そしてクレシダが短冊に願い事を書き終える。
「出来たわ。『ヴァーナーとセツカとサリスともっとあそびたい』
「わー、クレシダちゃんえらいですー」
 ぱちぱち、と拍手するヴァーナーに、さも当然と言わんばかりにクレシダが胸を張る。
「できた! 『歌がもっとじょうずになりたいもん』。……あれ? この字でよかったんだっけ?」
「他に唄、詩とありますけど、それで合ってますわ」
「そっか、ありがと、セツカおねえちゃん!」
 サリスも自分の短冊に願い事を書き終え、ヴァーナーに合流する。三人からは、どこに結び付けるだのといった話が聞こえてきた。
「セツカさんも行かないんですかー?」
「少し離れていた方が、みんなの様子がよく見えるのですわ」
 微笑んで告げるセツカの手には、『ヴァーナーが幸せになりますように』としたためられた短冊が握られていた。
「皆さんの願い事は、私が叶えてしまってはもったいない願い事なんでしょうねー。だから私も、セツカさんみたいに皆さんを見守ってることにしますー。……勝負には負けちゃうかもしれませんけど
 呟く豊美ちゃんとセツカが見守る中、短冊を結び付け終えたヴァーナーとクレシダ、サリスが瀬蓮やミーミルにも挨拶をしに行き、大きくなった胸に興味津々といった様子であった。

「わぁ……大きな笹ですねぇ」
 エミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)ルイン・スパーダ(るいん・すぱーだ)と共にやって来た稲場 繭(いなば・まゆ)が、飾り付けられた笹を見上げて感嘆の声をあげる。
「こうして、笹に願い事を書いた短冊を飾れば願い事がかなう、って話なんですよ」
「なるほど……では早速――む、エミリアの姿が見えないな」
 繭から説明を受けていたルインが辺りを振り返ると、確かにエミリアの姿がない。
「ねーねー何書いたー? 見せて見せてー短冊見せてー短冊以外も見せてー♪」
 その頃エミリアは欲のままに、テーブルの一つに腰を下ろしていたミーミルに突撃していた。
「……わ、ちょっと何この胸、噂に聞いたのと全然違うじゃなーい。もしかしてあのうるさい剣士より大きいんじゃないかしら……
「えっと、あの、それほど触りたいのでしたら、直接――」
「ダメですー!! アルツールさんに頼まれた以上、ミーミルさんを危険な道に行かせませんよー!」
 不思議顔のミーミルが服の裾に手をかけた所で、豊美ちゃんが止めに入る。ほぼ同時にルインと繭が追い付き、エミリアの首根っこがルインに掴まれる。
「貴様、少し目を離した隙に不届きな真似を……!」
……チッ、うるさい剣士さん来ちゃったよ。やーねー、ちょっとしたスキンシップよー」
「む、胸を触るという行為のどこがスキンシップなのだこのあーぱー吸血鬼がー!」
「ふ、二人とも止めてください、皆さん迷惑してますよー」
 繭が間に入ると、いがみ合っていたエミリアとルインがすっ、と矛を収める。
「ま、繭がそう言うなら、ね」
「私としたことが……失礼した」
 反省の態度を見せる二人に、繭が安心したように笑顔を見せる。
「はい、仲直りしたところで、皆さんで短冊に願い事を書きましょー」
 豊美ちゃんが三人に短冊を渡し、それぞれが思い思いに願い事を書き込んでいく。
「ワタシはやっぱりこれ! 『かわいい女の子!』
「私はこれだな。『繭を守れるだけの力。後あの吸血鬼の成敗』
「あら、随分と敵にしている吸血鬼がいるのねー」
「……貴様、わざと言っているな!?」
 再び火花を散らせるエミリアとルインを横目に、こっそりと『いつまでもこんな楽しい時間が続きますように』としたためた短冊を結び付けた繭が、二人の所へ戻る。
「願いが叶うといいですねー」
「……ああ、提げなければ意味が無いのだったな。ちなみに繭は何を?」
「私ですか? えっと……内緒、です」
「えー、ちょっと繭、ワタシに隠し事して後で――」
「ええいやかましい、行くぞ宿敵吸血鬼め」
 エミリアを強引に引いて笹へと向かっていくルインを、繭が微笑みを浮かべながら見送っていた。

「ループのおねがいはこれー! 『とよみみたいな かっこいい まほうしょうじょに なれますように』!」
「わー、ありがとうございますー。じゃあ、私と一緒に百合園の平和を守りましょー」
「おー!」
 いち早く短冊を笹に結び付け終え、ループ・ポイニクス(るーぷ・ぽいにくす)が豊美ちゃんに連れられて百合園の見回りに向かっていく。
「おやおや、あの調子では賑やかなことになりそうじゃのう」
「豊美さんとループ、意外といいコンビになったりするかもね」
 豊美ちゃんとループを見送った鷹野 栗(たかの・まろん)羽入 綾香(はにゅう・あやか)が微笑み合い、ふっ、と空を見上げる。無数の光精がダンスを踊っているかのような星空を、こうしてちゃんと見たのはいつのことだったか――。
(……今日のマロン、いつもと少し違う。息抜き、してる感じがする。やっぱり、冒険続きだと疲れるのかな……)
 レテリア・エクスシアイ(れてりあ・えくすしあい)の目には、普段あまり見ない雰囲気の栗が映し出されていた。
(……僕は今まで、お願い、ってしたことない。けど……今日は七夕だから。だから、お願いしても、いいよね?)
 『マロンが楽しく過ごせますように』、とそっと口にしたレテリアの願いを聞き入れたかのように、星が一つ煌いて光跡を残す。
「あっ、そうだよ羽入、私たちまだ短冊を結んでないよ」
「そうであったな。あまりの美しさに、見惚れてしまっていたぞ」
 星空から視線を戻し、人工的な光に包まれて煌く笹の空いている場所に、栗と綾香それぞれが自らしたためた短冊を結び付ける。
『これからも生命との素敵な出会いがありますように』
 気持ちを込めながら短冊を結び付ける栗を横目に、綾香が『魔女術の修行が捗りますように』としたためられた短冊を結び付ける。
(日々鍛錬を積めば、何時の日かきっと……)
 二人揃ってレテリアの待つ場所へ戻ろうとした時、ちょうど見回りを終えた豊美ちゃんとループが戻ってきた。
「うーん、たのしかったー! とよみ、ありがとねー!」
「はいー、魔法少女として出られる時はよろしくお願いしますー。あ、栗さんに綾香さん。ごめんなさい、ループさんを勝手にお借りしてしまいましたー」
「ううん、大丈夫。お帰り、ループ。楽しかった?」
「うん、ただいま、鷹野! すっごくたのしかった!」
 途中でもらったと思しきかき氷を手にやって来たループが満面の笑みを浮かべて答え、つられるように栗も笑顔を浮かべる。
「どれ、これほど綺麗な星空、その力を借りて一つ本格的な占いでもしてみようかの。どうじゃ、栗?」
「うん、じゃあお願いしようかな」
「ループはレテリアのほしのはなしきくー! とよみもいっしょにきくー?」
「わー、どんな話なのか興味ありますー。ご一緒してもいいですかー?」
 豊美ちゃんを加えた栗たち一行は、会話に花を咲かせながらレテリアの待つ場所へと戻る。道具を揃え、真剣な表情で占いをする綾香、結果をじっと待つ栗、レテリアの紡ぐ星にまつわる神話を、興味津々な表情で聞き入るループと豊美ちゃん。
 思い思いに楽しく過ごす時間が、過ぎていく――。

「……瀬織、多分大丈夫だとは思うが、もしも綺人とクリスが暴走するようなことがあれば、全力で止めてくれ。俺が行かない以上瀬織だけが頼りだ」

(ユーリにはあのように言われましたが、大丈夫そうですよ。尤も、いざ暴走されたら、わたくしだけでは無理です)
 百合園の七夕に出かける前、自宅待機と相成ったユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)から言われた言葉を思い返して、神和 瀬織(かんなぎ・せお)が先を行く神和 綺人(かんなぎ・あやと)クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)に視線を向ける。綺人は紺色、クリスは白、そして瀬織はピンクの紫陽花が咲いた浴衣に身を包んだ三人は、まるで仲の良い姉妹にしか見えない。
「大丈夫ですよ! と勧めたのは確かに私ですけど……こんなにあっさりと入れたりするとそれはそれで不安になりませんか?」
「そうだね。う〜ん、途中でバレたりしなきゃいいけど……」
 綺人の心配をよそに、すれ違う人は誰も綺人のことを気付かぬまま通り過ぎていく。むしろ、「あの可愛い子は誰?」的なノリで振り返る生徒たちがいるほどであった。
「……わ、クリスさん、瀬織さん、今日は可愛らしい方を連れてきたんですねー」
 さらには笹飾りの前に辿り着いたところで、一行を出迎えた豊美ちゃんにまで勘違いされる綺人であった。
「わわ、ご、ごめんなさいー。綺人さんだとは気付きませんでしたー」
「ううん、大丈夫だよ。多分、何回も着てるからその影響もあるんじゃないかな」
 ペコペコと頭を下げる豊美ちゃんを宥めて、綺人とクリス、瀬織が受け取った短冊に願い事をしたためていく。
「じゃあ、まずはユーリの分から書いちゃおうか。えっと……『綺人やクリスが、危険な出来事に首を突っ込まなくなりますように』? 失礼しちゃうなあ、僕はそんなつもりはないよ」
「私もです。ユーリは何故このようなことを願ったのでしょうか」
 首を傾げる綺人とクリスの背後で、『家族が健康に過ごせますように』――一瞬心に思った『背が伸びますように』は結局書かなかった――としたため終えた瀬織がため息をついていた。
「次は僕のだね。う〜ん……『兄さんに剣術の手合わせで勝てますように』にしようかな? ……いや、あの人に勝つことより、神様を倒す方が簡単だよね、うん」
「そ、それほどお強い方なのですか?」
「うん、とにかく強い。厳しいけど、でも……優しい人」
 そう言い切る綺人の背中を見つめて瀬織が、ユーリが綺人のことをブラコンと称していた理由が何となく分かったような気がしていた。
「クリスは願い事、何にしたの?」
「私ですか? 私はもちろん、アヤとけ……」
 そこまで言って、クリスの口はおろか全身が硬直する。
「……け?」
 首を傾げる綺人から逃げ出すように飛び出したクリスが、瀬織の前までやって来てその両肩をがしっ、と掴んで揺さぶる。
「ど、どうしましょう! アヤの目の前で『アヤと結婚できますように』なんて恥ずかしくて書けません!」
「や、やめて下さいクリス、世界が、世界が揺れてます」
 危うく首が外れそうになるところで解放された瀬織が、クリスを睨むようにしながら口を開く。
「でしたら、ここで書いて、わたくしに提げるのを頼むなりすればいいではありませんか」
「そ、それはダメです! 私が書いて私が提げないと、願いが叶わない気がします!」
「……でしたらさっさと書けばいいではありませんか」
「だから恥ずかしいです!」
 その後も押し問答が続いた後、ようやく決心を固めたクリスが短冊に願い事を書き込み、既に『みんな一緒に、いつまでも過ごせますように』と綺人がしたためた短冊の隣に結び付けたのであった。