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【2020七夕】七夜月七日のめぐりあい

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【2020七夕】七夜月七日のめぐりあい

リアクション

 
「豊美ちゃん、私とねーさまの分、ちょうだいっ!」
「はい、どうぞー。……美海さん、変なこと書いちゃダメですよ?」
「あら、失礼ですわ。わたくしにとっては普通の願い事ですわよ」
 ふふ、と微笑んで、久世 沙幸(くぜ・さゆき)に続いて藍玉 美海(あいだま・みうみ)が豊美ちゃんから短冊を受け取り、迷いなく『沙幸さんがもう少し素直になって身体を許してくれますように』としたためる。
「えーっと、こういうのってあんまり欲張らないほうがいいよね? それに、自分本位のお願いっていうのもどうかと思うんだもん」
 隣に、思い切り自分本位の願いを書いているパートナーがいるとも知らず、沙幸が願い事に頭を悩ませる。
「『パラミタと世界の平和』……こんなのば漠然としすぎちゃってる。『無病息災』……これも何か違う気がするなー。うーん……そうだっ! 『これからもこのパラミタで出会ったみんなやねーさまと素敵な時間が過ごせますように』。うん、これで決まりだねっ」
 願い事が決まった沙幸が短冊にしたため、既に終えていた美海に振り返る。
「ねーさま、豊美ちゃんにも注意されてたけど、おかしな願いを考えてないよね?」
「おかしいことなんて何一つありませんわ。例え叶ったとしてもまったく問題ない願いですもの」
「? とりあえず、一緒に吊るしに行こう、ねーさま♪」
 美海の発言に首をかしげつつ、沙幸が美海と共に笹へ短冊を結び付ける。自分のを結び付け終え、沙幸が美海へと振り向くと、美海はわざと自分の短冊を沙幸に見えるように笹へ吊るしていた。
「もー、やっぱりねーさま、おかしな願い事してるー! あんまり変なことばっかりやってると、豊美ちゃんにお仕置きされちゃうんだからね……」
 そこまで言った沙幸が、頬を染め、どこかもじもじするような仕草を取り始める。
「……でも、ねーさまがそこまで私のことを思ってくれてるのは、嬉しいな。……ちょ、ちょっとだけなら、ねーさまにいぢられても……」
 くたっ、と沙幸が美海に身を寄せる。
(……あら、期待していませんでしたけど、案外効果はあったようですわね。ふふふ、例え今日限りだとしても、忘れられない味を沙幸さんに刻んであげますわ)
 美海の顔が、妖艶に微笑む――。

「そう、そんなことがあったんですね。驚きましたよ、ミーミルがミーミルじゃなく見えちゃいました」
 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が、胸の大きくなったミーミルから事情を聞いて、納得したような表情を浮かべる。
「ソアお姉ちゃんも、可愛い服で普段と違って見えます。それは何の服なんですか?」
「えっと、これは……その、ま、魔法少女、です……」
 フリフリな魔法少女衣装を恥ずかしがるように、ソアがぎゅっ、と自分の身体を抱きしめる。
「ご主人は魔法少女衣装くらいで恥ずかしがり過ぎくまー。既に子供の純粋さを失ってしまっているくまー」
「がーん!? そ、そんなことないです!」
 本人は頑張って可愛いマスコットのつもりの雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)に突っ込まれて、ソアが必死に反論する。
「じゃあ、今から言う言葉に合わせてポーズを取ってみるくまー。魔法少女なら出来るくまー」
「い、いいですよ!? 今日の私は魔法少女ストレイ☆ソアですっ!」
 
「『迷走系魔法少女ストレイ☆ソア』七夕スペシャル、はじまるくまー!」
「七夕の平和は、私が守っちゃうぞっ☆」

「わー、ソアお姉ちゃん可愛いです。私も同じ魔法少女として見習いたいです」
「……あぅ、ミーミルぅ……私やっぱり、純粋さを失ってしまっている気がします……」
「す、すまねぇご主人……俺様も少し言い過ぎた気がするぜ……」
「? えっと、ソアお姉ちゃん、どうして泣くんですか?」
 ソアが涙を流し、ベアが申し訳なさそうに俯くのを、ミーミルはさっぱり理解出来ないまま、慰めようとソアを自らの胸に誘う。
「……何か、とても不思議な気持ちです。まるでミーミルがお母さんみたいです」
「? 私はお母さんじゃないですよ?」
 ミーミルにとってはお母さん=エリザベートなので、ソアの言葉がいまいち理解出来ないようであった。
「優しく包みこんでくれる人、それがお母さんなの。ミーミルもエリザベートさんに撫でられたりする時、優しい気持ちになりますよね?」
「……はい。お母さんに撫でられてると、あったかい気持ちになります。……お母さんの他にも、お母さんがいるのですね。勉強になりました」
「うーん、多分合ってます……よね? それじゃミーミル、一緒に短冊書きに行きませんか?」
 ミーミルから顔を離してソアが告げ、はい、とミーミルが笑顔を見せる。
 そして、笹には新たな願い事が、『ミーミルや友達や先生みんなとこれからも仲良く過ごしたいです』としたためられた短冊が結び付けられていた。

「ミルフィのばかっ、もう知りませんっ!」
 目にうっすらと涙を浮かべて、神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)が一人学院内を歩いていた。折角の七夕をパートナーと過ごそうとしたものの、予定が合わなくなってしまったのだ。
「はぁ、疲れましたー。私もかき氷いただいていいですかー?」
「はい、どうぞ。豊美さん、うちわで扇ぎましょうか?」
「瀬蓮もやる! はい、ぱたぱた、ぱたぱた〜」
 笹の飾られた広場まで有栖が歩いてきたところで、かき氷を美味しそうに口にする豊美ちゃん、団扇で風を起こしているミーミルと瀬蓮が視界に映る。
「瀬蓮先輩、ミーミルちゃん、豊美ちゃん先生、こんばんは……あれ? 瀬蓮先輩、その……胸が……」
 近寄った有栖が一行に挨拶をしたところで、瀬蓮の胸が大きくなっていることに気付く。
「あっ、有栖。これね、豊美さんの短冊のおかげなの! 有栖も願い事を書いたら、叶っちゃうかもしれないよ?」
「瀬蓮さん、今日だけって話を忘れないでくださいー。明日私のところに押しかけられても困ります……いたたたた」
「と、豊美さん、大丈夫ですか?」
 瀬蓮が豊満な胸を揺らして答え、注意を促そうとした豊美ちゃんがかき氷の影響で頭を抱え、ミーミルに介抱される。
(そうですか……私の、お願い事は……)
 豊美ちゃんから短冊を受け取った有栖が、丁寧な字で『みんなと、ずっと仲良く出来ますように』としたためた後、裏に『ミルフィとも、仲直りできますように』と書き添える。
「あらら、ケンカしちゃったんですかー?」
「実はですね……」
 有栖が、ミルフィとの事情を皆に説明する。
「うーん、どっちの気持ちも分かるだけに、判断難しいな〜」
「私はその方を存じないのですが、きっと何かあったんだと思います」
「ともかく、有栖さんとミルフィさんが早く仲直り出来るように、私たちも願ってますねー。これは私がどうのこうのというよりも、お二人の歩み寄りが大切だと思いますー」
「……そうですよね。私、ミルフィに会ったら謝りたいと思います。ヒドイこと言っちゃったと思いますし」
「それが一番だと思いますー。素直に謝れる人はきっといい人ですー」
 三人の心遣いに気を持ち直した有栖が、そうです、と呟いて傍らのバスケットから手作りのお菓子を振る舞う。
「えっと、私が作った七夕のお菓子『索餅』です。ハチミツや砂糖をかけて召し上がってください♪」
「わぁ、ありがとう、有栖! さっそくみんなで食べようよ」
 そして、有栖を交えた四人は、楽しいお茶会の一時を過ごしたのであった。

「ビックリしたな〜、瀬蓮を見た時一体何が起きたの!? って思っちゃったよ」
「あははっ、私も最初は美羽とおんなじように驚いたよ。今はもう慣れたけどね」
「本物なんだよね? パッドとかじゃないんだよね? ……えいっ」
「やんっ! もう、いきなり触らないでよぉ」
「……わ、本物の感触だ! えいっ、えいえいっ」
「やだ、もう、止めてったら〜」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と瀬蓮の微笑ましいやり取りが交わされる。
「ねえねえ、瀬蓮は短冊にどんな願い事を書いたの?」
 美羽が手を止めて瀬蓮に尋ねれば、瀬蓮はうーん、と考えた後、そっと口を開く。
「色々考えたんだけど、『今まで仲良くなったお友達と、これからもいっぱい遊びたい』『新しいお友達と仲良くなりたい』かなぁ。……あ、2つになっちゃってる、どうしよぉ」
「もういっそ2つとも願っちゃえばいいんじゃないかな? 私は、これっ」
 言って美羽が、『コハクともっと仲良くなれますように』と書かれた短冊を瀬蓮に見せる。
「七夕が終わって、一緒に帰る時にぎゅっ、って抱きついてみるの!」
「わ〜、頑張ってね、美羽! 瀬蓮も応援してるよ!」
 美羽と瀬蓮が、その後も終始微笑みを交わし合いながら、楽しげな会話の一時を過ごす。

「うん、ロウソク36本、挿し終わったね! それじゃ火をつけよう!」
 言って カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が掌をかざすと、炎が巻き上がり、ケーキに挿されたロウソク全てに火が灯る。
「大雑把にもほどがあるぞカレン……一歩間違えれば折角の祝いのケーキが台無しではないか」
「ちゃんと無事だったから問題なしだよ! ほらジュレ、一緒に火消すよ!」
 ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)がやれやれとため息をつきつつ、せーの、のタイミングでカレンと共に息を吹きかけ、ロウソクの火を消す。
「ジュレ、お誕生日おめでとう!」
「カレンもな。こうして誕生日を祝ってくれるのは、単純に嬉しいぞ。……ああ待てカレン、ケーキを切り分けるのは我がやる」
 大胆にナイフを突き入れたカレンを制して、ジュレールが均等にケーキを切り分けていく。

「はぁ〜、お腹いっぱいだよ〜。豊美ちゃんも美味しく食べてくれたかな?」
「この前はカレンの所為とはいえ、迷惑をかけてしまったからな。あの喜びようを見るに、もう気にしてないようだったが」
 ケーキを平らげ、見事な天の川を望めるカフェテラスで、二人が余韻に浸る。
「ジュレ、こっちこっち」
「む、何だカレン……むぅ」
 カレンの手招きに応じて傍にやって来たジュレールは、突然抱きかかえられてカレンの膝の上に載せられる。
「……これはどういうつもりだ、カレン」
「ん〜、たまには静かに過ごす時間もいいかなぁ、って」
「それは我も同意だが、何故我が子供のように扱われねばならぬのだ」
「イヤなら退いてもいいんだよ?」
「……別に、嫌というわけではない。精神も安定している以上、退く理由もない」
「じゃあこのままでいいよね♪ あっそうだ、豊美ちゃんからもらった短冊に願い事書かないとね!」
 ジュレールの分の短冊を渡し、カレンが短冊に『これからも、みんなともっともっと楽しい日々が過ごせますように』としたためる。そこへジュレールの手が伸び、カレンの名の横に自らの名を刻む。
「……我も同じだ。ならば、この方がよかろう」
「……うん、そうだね」
 二人で書き上げた短冊を手に、カレンとジュレールが互いに笑みを浮かべる。
 
「キラキラしてて綺麗だな〜。日奈々にも見せてあげたいくらいだよ」
「はい……でもぉ、飾り物のキラキラしてるのとか、笹の葉っぱがそよそよ、ってしてるのとかは、分かりますぅ。綺麗、なんですよね」
 生徒の提げた短冊や飾り物を風に舞わせる笹を遠くに見て、如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)が肩を並べて腰を下ろしていた。
「ちゆりちゃんは……願い事、なに、書いたんですかぁ〜?」
 日奈々が、先程千百合と一緒に書いて、千百合に吊るしてもらった短冊のことを話題に上げる。
「あたし? ……笑わない?」
「笑いませんよぉ〜」
 微笑む日奈々に、千百合が何度か口を開け閉めした後、短冊に書いた願い事を口にする。
「……『日奈々を守りきれるくらい強くなりたい』。……あたしの力が足りなくて、そのせいで日奈々に心配かけちゃったりしたから」
 言い終えて、恥ずかしさからか千百合が日奈々から視線を逸らす。
 直後、何かが肩に当たる感触に千百合が振り返ると、日奈々が自らの頭を千百合の肩に押し当てていた。
「……ちゆりちゃんは、今でも、強いですよぉ。ちゆりちゃんが自分を責めること、ないんですよぉ」
「日奈々……」
 千百合が自らの胸に日奈々を抱き寄せる。ほぅ、と安心したような息をついた日奈々の口から、短冊に書いた願い事が呟かれる。
『ちゆりちゃんとこれからも……ずっと、ずーっといっしょにいられますように』……」
「……あたしは、どこにも行かないよ。これからもずっと日奈々の傍にいて、日奈々を守る」
 伝わってくる体温を、温もりを離さないように、しっかりと日奈々を抱きしめて、千百合が決意の言葉を口にする。
 そんな二人を、天の川はそっと見守っていた――。