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枕返しをする妖怪座敷わらしを捕まえろ!

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枕返しをする妖怪座敷わらしを捕まえろ!

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第1章 不機嫌な座敷わらしのために・・・お供えもの探し

 夜な夜なまた1人、また1人と葦原の長屋に住んでいる村人が、突然姿を消す事件が発生した。
 眠気に耐え切れなくなった者たちが数人、頭に枕を乗せて寝てしまう。
 すると起きている者がいなくなった家の中へ、小さな子供が眠っている人の枕をこっそり忍び込み枕を返す。
 眠っている彼らは“うぅーっ・・・熱い焼け死にそうだ・・・”と、苦しみながらうなされ始める。
「わらしにお供え物くれない罰だよっ、プンプンだ!」
 そう怒りながら家の外へ出て行く。
 枕を返されてしまった者の家へ、近所の者が酒盛りをしようと村人がやってくると眠っている住人がうなされている。
 悪い夢でも見ているのかと、起こそうと近寄ったその時、眠っている住人たちが突然姿を消してしまう。
「か、神隠しだべかぁあ!?ぎゃぁああーっ!!」
 それをみた彼は恐ろしさのあまり、草履も履かずに外へ逃げ出す。
 枕返しの妖怪の仕業だと他の者たちに言うが、その妖怪はバカンスにいっているため、そんなことが出来るはずないと言われる。
 他にも枕返しがいる妖怪がいる、その妖怪の仕業だと騒ぐ。
 妖怪の名は座敷わらし、本来は幸せを運ぶ小さな子供の姿をした妖怪だ。
 なぜそんなことをしたのか考えてみると、住人たちが社にお供え物を去年と今年、あげていないせいだと気づいた。
 去年の分もまとめてあげれば、まだこんなことにはならなかったかもしれない。
 しかし今年、お供え物を誰もあげていなかったと、村人たちは大騒ぎする。
 探そうにも誰も座敷わらしの姿を見た者はなく、手がかりは1冊の本に書かれた絵だけで、そこに描かれているのは着物姿の小さな少女の絵だ。
 座敷わらしを怒らせてしまった村人たちは、今度は自分が消されてしまうのではと、恐怖のあまり眠れない夜が続く。
 困っている村人たちを助けてあげようと、各学園の生徒たちが葦原の長屋へ集まる。



「葛根が切れちゃったからここまで来たけど。なんだか大変なことになっているようだね」
 趣味の薬学研鑚で葛根が切れ、葦原にやってきた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、お供えものをくれない村人たちに座敷わらしが怒って枕返しをしている事件を噂を耳にする。
 どこからか“お腹が空いたよぅ”という悲しい声が聞こえた気がすると、仁科 響(にしな・ひびき)に聞き料理を作りに来たのだ。
「座敷わらしって・・・何が好きなのかな」
「調べてみるよ」
 座敷わらしの好物を響が資料検索する。
「小豆飯が好物らしいです。あくまでも一般的なものだから、絶対とは言えないけどね」
「そうかー・・・。でも他に何が好きか分からないから、それにしよう」
 米問屋や駄菓子屋に行って材料の買出しに行く。
「ふぅ・・・これで全部かな?」
「うん、そうだね」
「これで明日の準備は大丈夫だね」
 弥十郎は一晩小豆とテングサを水につけて戻す。
「どんな生態をしているのかなぁ。もの凄く楽しみだよね。ボクはここにいるね、じゃあお休み」
 装備に迷彩塗装をして響は部屋の隅に隠れる。
 時刻は深夜を回り、弥十郎が眠りかけているその時、スゥーと家のドアが開いた。
「やっぱり来たね。明日、来る時はちゃんと美味しいものを用意しておくから」
 枕を返そうとやってきた座敷わらしに、弥十郎がホワイトチョコをあげる。
「でも・・・それだけじゃ、わらしの機嫌は直らないよ!観察されるのも気に入らないもんっ」
 容姿を見て書いてる響の動作に気づき、座敷わらしはむっとした顔で睨んで、そう言い残して座敷わらしは去っていく。
「あぁっ、行っちゃった!」
 大まかな背丈しか分からず、響はしょんぼりとする。



「子供が喜びそうな甘いお菓子といったらこれでしょうね」
 甘いミルクアイスを座敷わらしにあげて、機嫌を直してもらおうとベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、ボウルに黄身を入れて泡立て器で溶きほぐす。
「長屋で台所を借りられてよかったです。どうせなら出来立てを食べさせてあげたいですし。混ぜている間にシャンバラ山羊のミルクを、鍋に入れて火にかけておかないと・・・」
 グラニュー糖を加えてなじむまですり混ぜる。
「ふぅ、やっとザラザラした感じがなくなりました。次は・・・ボウルにミルクを入れて混ぜて・・・・・・」
 鍋の縁がフツフツとしてきた頃合を見て火を止め、ボウルへミルクを加えて泡立て器でよく混ぜ合わせる。
 混ぜた材料を鍋に戻し、火加減を弱めの中火に調節して木べらで混ぜながら暖める。
「もう火を止めてもよさそうですね」
 ボウルに移し氷水に当てて、木べらで混ぜながら冷ます。
「十分冷えましたね。この泡だて器でよーく混ぜます!」
 冷ましたボウルを氷水からはずして泡だて器で混ぜる。
「これくらい混ぜれば大丈夫ですね。後は容器に移して・・・冷凍庫に入れて凍るのを待つだけです」
 容器を入れた後、椅子に座って1時間ほど待つ。
「そろそろ冷凍庫から出してもよさそうですね」
 完成したミルクアイスをクーラーボックスに入れる。
「お待たせしました美羽さん」
 後片付けを終え、和室で待っている小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と、家の外へ出る。
「それじゃあ座敷わらしちゃんを探しに行こう!」
 美羽とベアトリーチェは消えた村の人たちを、元の場所に戻してもらおうと座敷わらしを探し始める。



「ここの人たちに訊いてみたら、どうやらお供え物をあげるの忘れていたみたいだね」
 葦原に観光しにやってきた神和 綺人(かんなぎ・あやと)は怯えてる村の人たちの様子を見て、どうしたのか声をかけてみたら、沢山の村人が神隠しの被害に遭っていることを知った。
 座敷わらしの社にお供え物をあげ忘れ、住人たちはこの妖怪を怒らせてしまったのだ。
「お社にお供え物をあげて、機嫌を直してくれるといいんだけど。あげるにしても何をあげたらいいのかな・・・」
 子供の妖怪に何のお供え物をあげればいいのか考えてみる。
「綺人・・・その相手は子供の姿をしているんだろう?ならお菓子がいいと思うのだが」
 彼の傍にいるユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)が、容姿が子供なら相応のものが妥当だと言う。
「そうだね、どんなお菓子にしようか?」
「蒸しパンなんかどうだ?我が家の子どもは好きだし」
「うーん・・・他によさそうなの思いつかないし、それにしよう」
「材料を買いに行くか・・・」
 ユーリたちは八百屋でサツマイモや栗を探し、駄菓子屋でチョコとナッツなどを買う。
「後は台所を借りないとな。座敷わらしにやるお供え物を作りたいのだが、台所を貸してくれないか?」
 長屋の住人に台所が借りられないか交渉する。
「んだば家の奥にあるから使ってけれ」
 家主に貸してもらい、ユーリと綺人は材料を持って台所へ行く。
「まずはサツマイモを切らないとな」
 ユーリは買ってきたサツマイモを流し台でキレイに洗って皮を剥き、包丁で蒸しパン用に小さく切る。
「粉類をまとめて2回ふるっておいてくれないか」
 銀色のボールに卵を割って入れ、砂糖と水を加えて泡だて器で混ぜている間、役割分担をしようと綺人に粉をふるっておくように言う。
「うん分かった」
 軽く頷いた彼は薄力粉とベーキングパウダー、塩を一つまみとってふるい用意しておく。
「出来たよ」
「こっちに持って来てくれ」
「はい、こんな感じかな?」
「あぁ大丈夫だ。よし・・・次はこれを加えて、混ぜすぎないように混ぜなければ・・・」
 ふるってもらった粉をユーリは、材料を混ぜたボールへ加える。
「やはり種類は多い方がいいだろうな」
「手伝うよ。―・・・ちゃんと3等分だね」
 綺人は混ぜた材料が入っているボールの他に、2つ用意して3つに分けて均等になったかはかりで量る。
 切ったサツマイモ、皮を剥いた栗に抹茶と小豆を混ぜた生地、ココア生地にチョコとナッツを混ぜて型に流し入れる。
 それを蒸し器に入れて強火で蒸す。
「15分経ったな、火を止めるか。ちゃんと蒸し上がっているか確認しないとな・・・」
 火を止めたユーリは蒸しパンを爪楊枝で刺し、生地がついていないか見てみる。
「よし蒸しあがってるな」
 蒸し器から蒸しパンを取り出す。
「後片付けもしないとね」
 綺人はユーリと借りた道具を洗って片付ける。
「ありがとう。じゃあ暗くならないうちにお社へ行こうか」
 家主に礼を言い、綺人たちは日が沈んで道に迷ってしまわないように社へ行く。



「見てくださいミハエル、あれが屋根瓦ですよ」
 朱宮 満夜(あけみや・まよ)は葦原の長屋の屋根を指差し、ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)に教える。
「日本の家はこういう屋根なのか。その隣は?」
「玩具屋ですね。手毬や花札がありますよ」
「花札?」
 聞きなれない言葉にミハエルが首を傾げる。
「それぞれが絵柄がありますよね、それで遊ぶんです。カードゲームの一種ですよ」
「ふむ・・・トランプとはまったく違うな」
 見本用の札を手に取ってミハエルは珍しそうに見る。
「ミハエルが今持っているのは松の札です。カス札と呼ばれる1点札ですね」
「そっちのは?」
「芒の札ですね、月が描かれている芒の札は20点札です」
「なるほど・・・こっちのキレイな絵柄のやつは何点だ?」
 別の札を指差して満夜に聞く。
「紅葉に鹿が描かれているやつですか?それは10点札ですね。で・・・、短冊が描いてある札は5点です」
「カードは全部で何枚あるんだ?」
「48枚です、トランプより少ないですね」
「覚えるのに大変そうだな・・・」
「簡単ですよ、でも・・・いきなり勝つのは難しいかもしれませんけど」
「そうなのか。とりあえず棚に戻しておこう」
 満夜の説明を聞いた彼は、ちょっと難しそうだと思い、花札を棚に戻した。
「あれは?ガラス細工みたいだが」
「おはじきですね、花札より簡単に遊べますよ」
「ふむ・・・」
「例えばこのおはじきが私のだとして、こっちのがミハエルとします。私のおはじきをミハエルのおはじきに当てたら、私のものになるんです。最終的に当てて手に入れたおはじきの数が、どっちが多いか競う遊びです」
「ルールが単純で、初心者でも遊びやすいのだな」
 ミハエルがなるほどとこくりと頷く。
「(ただ、ルールが単純だと思っても、それだけ理解しても勝てませんけどね)」
 自分でもすぐに遊べそうだと思う彼を見て、満夜は心の中でクスッと笑う。
「一応、座敷わらしに手土産を持ってきましたけど。これだけじゃ来ないですよね」
 満夜は駄菓子屋を見ながら食べなれたものより、アップルパイの方が無難だろうと思って持ってきたが、無理かとため息をつく。
「女の子の遊びですけど、男の子もこれで遊ぶこともあるでしょうね」
「初めからこの形なのか?」
「形・・・というか、ガラス細工になったのは明治時代後期からですね。それまでは小石でした。他のところも見ませんか?」
 満夜はミハエルを別の店へ案内する。
「見慣れない服だな・・・」
「着物や浴衣を売っている呉服屋ですね。今も日本で着物を着ている人がいますけど、昔はあぁゆう服を着ていたんです」
「結構いい値段するのだな」
 値段を見たミハエルは思わず値札から視線を逸らす。
「手作りですからそれくらいしますよ。牡丹柄の着物・・・キレイですね・・・」
「ほ・・・他のところへ行かないか?」
 満夜にねだられて買わされると危機感を察知した彼は、別の場所へ行こうと言う。
「そうですね、じゃあ次は米問屋に行きましょうか」
「米はどこにあるんだ?」
 案内されたミハエルはどこに米があるのか聞く。
「藁を編んで作った袋の中にありますよ。あっ、触っちゃいけませんよ!米俵が落ちて中から米が出てしまったら、弁償しなきゃいけませんから」
「うっ・・・そうだな」
「そろそろどこかで一休みしますか」
 社の日陰に休める場所を探したがどこにもない。
「我輩の膝を貸してやろう・・・」
 仕方なくミハエルが満夜に膝枕をしてやる。
「歩き回ったから疲れましたね、一休み・・・・・・すやすや。むぎゃーっ!ちょっとミハエル、本気でつねらないでよ!」
 寝たふりをしようて本当に寝てしまった彼女は、ミハエルに頬をつねられてしまう。
「―・・・寝るな!」
 起こしてやったという風にいう彼だったが悪戯心からだ。
「・・・・・・え、本当に眠ってた? だったら・・・・・・なおさらいいじゃないですか。座敷わらしが来る可能性高いんですから」
 満夜は眉を吊り上げて言い、もう一度寝てしまう。



「子供の姿をしたようかいなら、お菓子でさそったほうが捕まえやすいですよね」
 葦原の長屋にやってきたヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、座敷わらしにあげるお菓子を探そうと駄菓子屋へ向かう。
「ここですね!むむ〜っ、いっぱいありますね。どれにしましょう」
 目当ての店にたどりついた少女は、お供え物のお菓子をどれにしようか迷う。
「ししょくひんがあるです、コレはこねてネンドみたいにあそべるんですね。むぐむぐ…きなこ味ですね!おいしいですっ」
 指に砂糖をつけてこねて、鳥の形を作り食べてみる。
「こっちのはグミでどうぶつさんのかたちですか〜」
 ライオンの形をした一口サイズのグミも味見してカゴの中に入れる。
「この粉は・・・口がパチパチするですか?むむむ〜トマト味と抹茶味どっちが好みでしょうか。うぅ〜ん、両方買っちゃうですっ、これください!」
 店のおばあさんに代金を渡す。
「ちょうどだね、はい落とさないようにね」
「ありがとうございます」
 駄菓子をまとめて袋に入れてもらって受け取る。
「同じ方向に行く人がいますね、声をかけてみるです。一緒に行きませんかーっ?」
 ヴァーナーは一緒に行こうと綺人たちに声をかける。
「いいよ、一緒に行こうヴァーナーさん」
「ありがとうございます!」
「いろは坂みたいにクネクネした道だね・・・。背の高い草もあるから逸れないように気をつけてね」
 綺人たちは社を目指して草むらの中を歩く。
「アヤ、あれじゃないですか?」
 クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)が指差す方向を見ると、小さな木造の社を見つけた。
「たぶんそれが座敷わらしのお社だね」
「いないみたいですね。どこかに行っているんでしょうか・・・」
 社の扉をそっと開けてユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)は、座敷わらしがいないか見る。
「それじゃあここでまつです」
 帰ってくるのを待とうと、ヴァーナーは社の傍に座り込む。
「では、私は皆さんが眠ってしまいそうになったら起こしますね」
「頼んだよクリス」
 クリスに不寝番をしてもらい、綺人たちは社の近くで待つことにした。