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枕返しをする妖怪座敷わらしを捕まえろ!

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枕返しをする妖怪座敷わらしを捕まえろ!

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第4章 捕まえる?はぐする?いえ鬼ごっこです

「やっと着いたね、社の後ろの方で待っていようか」
 由宇とアレンの2人が座敷わらしを追いかけて社を離れた頃、草むらを掻き分けながらようやく綺人たちは社へたどり着いた。
「眠ってしまったら私が起こしますね」
 皆眠ってしまい座敷わらしに枕返しされたら、それではせっかく来た意味がないとクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)が不寝番をする。
「私たちの姿が見えてしまっては、警戒されそうです。社の裏側に隠れましょう」
「もう夜か・・・」
 満夜を背負って社の裏側へ移ったミハエルは夜空を見上げて呟く。
「何にしろ蒸しパンだけ取られてしまわないように気をつけましょう。消えた人たちを戻してもらえないままになってしまうかもしれません」
 せっかくユーリと綺人が作った蒸しパンだけ奪われ、逃げられてしまわないように神和 瀬織(かんなぎ・せお)が注意するように言う。
「村人の他に、犠牲になってしまった人もいますし・・・」
 コトノハを悪夢の中に送られてしまい、呆然とするルシオンへ視線を移す。
「俺とルカルカも社の裏側へ移っておくか。見えるところにいては、座敷わらしが戻って来ないかもしれないからな」
 ダリルは眠っているルカルカを抱えて移動する。



「仕掛けを作ったのはいいですけど。ここに来なきゃ意味がありませんよね・・・」
 肉屋と温泉がある塀と塀の間へ檻を仕掛けた陽太は、座敷わらしをどうやって誘い込もうか考える。
 玩具を作っても肝心の相手が来なければ意味がないからだ。
「仕方ありませんね。ちょっと恥ずかしいですけど、これも誘うための手段です」
 おもちゃの車の中に置いてある作った玩具を適当に掴み遊び始める。
「広場から子供が来ます!あれがもしかして例の妖怪でしょうか。暗くてよく見えませんね・・・」
 陽太は広場からやってくる人影を、目を凝らして見る。
「こうやって紐を巻いて・・・それ!昔の独楽って難しいですねーっ」
 人影の気をひこうとわざとらしく声を上げ、台の上へ独楽を回す。
「1人より2人でやったらもっと楽しいのに。誰か遊び相手になってくれないでしょうか〜?(気になってくれたでしょうか)・・・」
 橋の前でピタッと足を止めた相手へ、ちらりと視線を移してみる。
「あれ?人の声が聞こえると思ったら陽太さんじゃないですか」
 座敷わらしを探しているベアトリーチェが彼に声をかけてきた。
「独楽で遊んでいるの?」
 美羽は台の上で回っている独楽を見つめる。
「そんなところで、1人で何やってるんですか?」
「今からいう方を振り向かないで聞いてくださいね。そこの橋の前に、子供がいるんです」
 捕縛ターゲットの位置を彼女たちに陽太がヒソヒソ声で教える。
「もしかして座敷わらし!?」
「しーっ!」
「あっ、ごめんね」
 思わず大きな声を出してしまった美羽は片手で口を押さえる。
「なるほどね・・・それでこんなことをやっているのことが分かったわ」
 傍にいる陽太へ聞こえる程度に声音のボリュームを下げて言う。
「そうです。陽太の遊び相手になってくれる誰かがここに来てくれたら、美味しいアイスを上げましょうか」
 ベアトリーチェは人影にクーラーボックスが見えるように持ち上げる。
「アイス・・・?」
 その言葉を耳にしたもう1つ人影が八百屋の方から現れた。
「あっ、あれ?どっちが座敷わらしなんでしょう」
 2つの影のうちどちらが妖怪なのかまったく分からず、ベアトリーチェは混乱してしまう。
「くれるならちょうだーい♪」
 手に持っているおやつを食べながら、後から現れた人影が彼女の方へ走りよってくる。
「来たわ。えいっ、確保ーっ!」
「うわぁあっ、何するんだよー!?」
 美羽に捕まえられてしまった人影がじたばたと暴れる。
「着物じゃないわね・・・。たしか座敷わらしは着物姿の女の子のはずだけど」
「チガウよ!オイラこんなに可愛い10歳!10歳!」
「えぇえ!?」
 逃れようとする相手から手を離す。
 この暗闇では姿がよく見えず見間違えてしまい、まったく別の相手を捕まえてしまったのだ。
 座敷わらしと美間違わられたクマラは民家の方へ走り去っていく。
「気を取り直して・・・もう1人の方がこっちに来るようにしないと」
「俺に任せてください」
 最初に現れた人影の気をひこうと陽太は、おもちゃの車から別の玩具を取り出す。
「こんなに面白い玩具がいっぱいありますよ〜。こぉんな面白いの、1人だけで遊ぶのもったいないですねーっ」
 竹とんぼや剣玉で遊んでみせるが、まったく興味がない様子の相手はそこから離れて行こうとする。
「(あわわっ、まずい。このままでは何も役に立てない!)」
 もう1つの手を使おうと、おもちゃの車を思念で動かす。
「凄いですね〜この車。進めと思うだけで動いちゃうんですよ。俺だけで使うなんてもったいないですし、遊んでくれる相手に貸してあげましょうか〜?」
 必死にアピールする陽太のところに、下駄の音が近づいてくる。
「(こっちに来ているようですね。よし・・・後もう一押し!)」
 気づいていないふりをし、振り向かずにゲーム機を手にして遊び始める。
「それ、なぁに?」
 見たことがない玩具に興味を惹かれた座敷わらしが陽太へ近寄る。
「こういうゲーム知らないんですか?」
「知らない〜」
「ゲーム機についているボタンを操作して遊ぶんです」
「へぇ〜」
「対戦も出来ますよ、やってみますか?」
「面白そうっ、やってみたい♪」
「はい、どうぞ」
 2つのゲーム機をケーブルにつなぎ、片方を彼女に手渡す。
「むーっ、負けちゃった〜もう1回っ。―・・・うわぁんっ、もうよく分からない!」
 何度やっても勝てず、少女が怒り始めた頃、ゲーム機のボタンが2台とも壊れてしまった。
「あれ?ボッボタンがぁあっ」
 ボタンを連打したせいで壊れてしまったのだ。
「なぁんだ、壊れちゃったんだ。もう飽きたしいいや」
 壊れたゲーム機を陽太へ、ぽんっと投げる。
「(あわわ、このままでは逃げられてしまいますっ)」
 慌てて檻へ押し込めようとするが、捕まえようとする彼の手から少女が逃げてしまう。
「すっ、すみません。逃げられてしまいました・・・」
 捕縛に失敗してしまい、陽太はがっくりと肩を落とす。
「誘い出してくれただけでも十分よ。ありがとうね」
「美羽さんこれをっ」
「じゃあちょっと行ってくるわ。どこかに隠れられちゃうかもしれないから、早く追いかけなきゃ」
 陽太に礼を言い、美羽はクーラーボックスをベアトリーチェから受け取り、バーストダッシュのスピードで座敷わらしを追いかけていく。



「エースがこの長屋に、お友達になれそうな可愛い子がいるって聞いて来たけど、ぜーんぜん会えないよ・・・。でもお菓子もらったし、もうちょっと頑張って探してみよう!」
 クマラはお菓子を持ちながら広場を歩く。
「(―・・・来た!お菓子満載のクマラ作戦、第1シーン成功っ)」
 思った通り座敷わらしがやってきたと、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は嬉しそうにぐっと拳を握る。
 黒髪の少女は袋小路からじーっとクラマが持っているお菓子を見つめている。
「もしかして座敷わらしちゃん?いーっぱいおやつ持ってきたから、そんなところにいないで一緒に食べようよ」
 何の裏もない笑顔で少女へ駆け寄っていくが、追われてばかりの彼女は彼も警戒してしまいさっと離れる。
「どうして逃げるのさ。こっちにおいでよ」
「やだっ。どうせわらしを捕まえて、無理やり村のやつらを悪夢から開放させようとしてるって、分かってるんだから!」
「オイラそんなことしないよー」
「(まずいな。座敷わらしちゃん、もの凄く警戒してる!)」
 このままではどこかへ逃げてしまうと思い、エースは怒っている妖怪の少女へ駆け寄る。
「こんばんは座敷わらしちゃん」
 花の代わりに彼女へペロキャン1本を差し出して挨拶する。
「捕まえようだなんて、クマラはそんなことしないよ。もちろん俺もね」
「―・・・」
 言動に裏がないか少女はエースをじーっと見つめる。
「お名前なんて言うのかな?もしなかったら・・・」
「フフフッお待ちなさぁ〜い♪」
 仲良くなろうとするエースの言葉を遮り、座敷わらしを見つけた望が爆走してくる。
「うわぁーんっ、怖いお姉ちゃんが来たー!」
「あっ、ちょっと待って!座敷わらしちゃーんっ!!」
 エースは少女を呼び止めようとするが、望から逃げようと彼女は走り去っていってしまう。
「捕まえようとするから座敷わらしちゃんが逃げちゃた〜」
 せっかく仲良くなれると思ったクマラが悲しそうな顔をする。
「あら捕まえるんじゃありません。ただの鬼ごっこですよ、鬼ごっこ♪」
「え・・・そうなの?」
 ただ遊んでいるだけだという望の言葉にクマラは首を傾げる。
「(なるほど鬼ごっこね)」
 近くで聞いていた美羽は、いいことを聞いたとニコッと笑う。
「じゃあ俺も参加しようかな。(機嫌を直してもらうにしても、まず話せないと仕方ないしな)」
 逃げていく座敷わらしを、エースたちは鬼ごっこの鬼役として追いかけていく。



「事情は分かりました。・・・あまり気が進みませんが、解決に協力させて頂きましょう」
 鬼怒川 或人(きぬがわ・あると)は長屋の住人から、座敷わらしの容姿が分かる手掛かりの本を見せもらい、消えた村人の索を行う。
 彼はパラミタで失踪した兄の手掛かりになるかもしれないと調べにやってきたのだ。
「僕は消えた方々の捜索に向かいます。では」
 それだけ言うと民家がある通りを歩き始める。
「―・・・それにしても今回の事件は、妖怪の・・・・・・ざ・・・座敷わらしの仕業ですか。べっ別に怖い分けではありませんっ。妖怪を捕まえようとする生徒たちが沢山いそうですから、僕は消えた人達の捜索に向かっているだけです!」
 無表情だがその言葉は傍から見れば、ただ強がっているように思え、さらに彼の顔から汗が流れ出ている。
「この“情報サイト”によりますと・・・。一般的な座敷わらしのことしか書いていませんね」
 携帯電話で資料検索してみるが葦原にいるこの妖怪と悪夢の中について、そしてそこへ送られてしまった人がどうなるかなど、何も知ることは出来なかった。
「それにしても消えた人たちが全員、悪夢の中へ身体ごと送られているなんて・・・。ん・・・悪夢?ということは・・・」
 人々が送られた先を思い出すように呟き、橋の上で足を止めて考え込む。
「やっぱり・・・さすがに消えた人の夢の中なんてどうやって行くのか分かりませんし、捜索しようがないですよね・・・」
 気の抜けた炭酸のように深くため息をつき、がっくりと肩を落とす。
「もし行けるとしても座敷わらしに頼むしかありませんし。いや・・・それ以前に、素直にそこへ送ってくれるとは思えません・・・」
 探す手段を思いつかず、あっけなく捜索終了となってしまう。
「はっ!?あれは・・・っ」
 屋根から飛び降りた座敷わらしが或人の目の前に現れ、彼は思わず一歩後退りする。
 突然現れた妖怪に驚いた或人は冷や汗を流す。
「お兄さんは捕まえようとしないの?」
 じーっと見上げられている或人は首をぶんぶんと左右に振る。
「追いかけている人たちは皆・・・、捕まえようとしてくるのかな?」
「ううん、そうじゃない人もいるよ。よく分からないけど、鬼ごっこしてる人もいるみたい。お兄さんも一緒に鬼ごっこする?さっきから鬼の人に追いかけられてるから、わらしも鬼やりたい」
「いいよ、追いかけておいでっ」
 何人もの鬼に追いかけられてばかりじゃつまらないという少女のために、或人は逃げる役になってやる。
「待て待て〜」
「はははっ、捕まえてごらーん。(子供の姿というだけあって、中身も子供のようですね)」
 そう思うのも束の間、座敷わらしが追いかけてくるスピードに驚愕する。
「足早いなー!(何ですかっ、あの足の速さは!?)」
 屋根から屋根へ飛び移りながら追いかけてくる妖怪の足の速さに、或人はまたもや冷や汗を流す。
「きゃははっ、待て待てぇえ〜♪」
「よ、妖怪め!僕を食べようとしているな!?そうはいかない!―・・・うぁあぁあーっ!!」
 冗談交じりにそう言った瞬間、本当に腕をかじられてしまう。
「大げさだなぁお兄ちゃん。食べようとしているって言ったから、ちょっとかじってみただけなのに」
「うっ腕がぁあっ、って・・・ちゃんとある・・・」
 座敷わらしに噛まれたところを見てみるが特に外傷はない。
「なぁんだ、おちゃめさんだな、はっははは。あれ・・・?座敷わらしちゃんは・・・」
 腕から座敷わらしがいた方へ視線を移すが、すでに少女の姿はなかった。