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リアクション
第7章 美味しい手料理で妖怪の少女を宥めよう
「2時間もかかるけど、気持ちを込めて作るならこれくらいやらなきゃね」
 弥十郎は夕暮れからお供えものの用意を初め、鍋にお湯を沸かして水を加えながらテングサを煮る。
「もうそろそろかな。すぐ使うから今回は冷やして固める必要はないね」
 お湯の中に出てきたテングサ液を、さらしを敷いたザルでボウルにこす。
「この液に餡子と・・・それとお砂糖を入れて・・・」
 沸騰するまで、杓文字で混ぜる。
「荒熱を取っている間、お米を洗ってこうかな。炊飯器じゃなくて釜なんだね」
 釜の中に米を入れ、流し台で米を手早く洗い小豆を混ぜる。
「もういいかな?これをトレイに流してっと」
 トレイを冷蔵庫に入れて冷やす。
 数十分後、飯が炊け杓文字で、釜のそこからもう一度よく混ぜる。
「いい炊き具合だねぇ。あの子が喜ぶといいねぇ」
 そう思いながら小豆飯を器によそう。
「ようかんもキレイに出来たかな」
 食べやすいように包丁で切り分け、お皿に盛りつけてお盆に載せる。
「いつまでも落ち込んでないで行くよ」
 しょんぼりとしている響の肩をポンポンと叩く。
「うん・・・分かったよ・・・」
 座敷わらしを怒らせたことに、まだへこんでいる響は弥十郎と一緒に社へ向かう。
「兄さまがお子様ランチを作るのであれば、わたくしはデザートを作りましょう」
 エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)はふやかした寒天を細かく千切り、水気を絞って水の入った鍋の中に入れて溶かす。
「完全に煮溶けるまで、この木杓子で混ぜるのですわ」
 弱火にかけて寒天が煮溶けるまで混ぜる。
「そしてこの餡子とお砂糖を入れて・・・。いい香りがしてきましたわ!」
 甘い香りを楽しみながら沸騰する待つ。
「もう火を消してもよそうですわね」
 氷水を入れたボウルに鍋の底をつけ、荒熱を取ろうとしゃもじで混ぜる。
「容器は持ってきたコレを使いますわ」
 鍋から水で濡らした容器へ移し、冷凍庫に入れて冷やす。
「葦原なら今回は和風テイストの料理だな」
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は丁度いい味になったか出汁巻き卵を1つ味見する。
「次は肉団子をにしよう。蒸している間、他のを作れるからな」
 戻しておいた干し椎茸と干し海老を微塵切りにし、豚ミンチをボウルへ入れて混ぜ合わせる。
 微塵切りにしたやつをボウルに入れ、調味料の青ネギと土ショウガの絞り汁を少々加えてゴマ油や片栗粉、そして塩と胡椒で味を調える。
「子供用にだから一口サイズにしておこう」
 食べやすいように小さく丸め、洗ってひと晩水につけていた餅米をまぶし付けて20分ほど蒸す。
「その間に他のを作るか」
 腸を取り腹側に包丁目を入れ伸ばし、衣につけて海老の尾を持ち、175度の油で3分ほど揚げる。
「えっと油きりのトレイは」
 揚がった天ぷらを油受けトレイで油をきる。
「野菜もちゃんと食べさせないとな。トマトが嫌いな子供もいるが、すっぱくないミニトマトを選んでおいたから大丈夫だろう・・・」
 八百屋で買っておいた新鮮なレタスときゅうり、ミニトマトを流し台で洗う。
 きゅうりは斜め切りにし、レタスは食べやすいサイズに切り、トマトは半分に切っておく。
「天ぷらとサラダはこれで大丈夫だな」
 真ん中にトマトを乗せて、見栄え良くサラダ用の皿に盛りつけ、小さなカゴの中に天ぷらを乗せる。
「そうだ、汁物を忘れていたな」
 鍋に水と昆布を入れ、中火にかける。
 その間に肉団子が蒸し上がり、トマトソースを絡め、菜箸で摘んで皿へ盛りつける。
「鍋の方は・・・よし煮立ってきた」
 昆布をかつお節に乗せ、ふた状にして弱火で2分くらい煮る。
 ボウルにザルを重ねてキッチンペーパーを乗せ、昆布とかつお節を取りだしてキッチンペーパーでこす。
「こうやって強く絞らず、軽く押さえて・・・。豆腐は1cm角くらいだったな」
 火傷しないよう弱火に調節し、角切りに切った豆腐を鍋に入れる。
「このだし汁を鍋に入れて、調味料を加えるんだ」
 計量スプーンで酒と塩、薄口醤油とみりんの順番に加えていく。
「よしこれくらいでいいだろう」
 スプーンですくい薄すぎないか味見をして確認し、器によそいで切った三つ葉を散らす。
「ご飯が炊けたようだな。3口くらいのサイズしておこう」
 釜の炊き上がったご飯で、塩とおかかの小さな俵結びを作る。
「おっとスイカを切らなければ。やっぱりお子様ランチにはデザートが必要だからな」
 冷やしておいたスイカを切り皿に乗せる。
 出来上がった料理をお盆の上へ、キレイに並べて完成させる。
「わぁ、さすがお兄さまですわ!とても美味しそう・・・」
 水ようかんを完成させたエイボンが彼の料理を見に来た。
「そうか?ありがとう」
「ちょっと長屋の人に試食してもらってきますわ」
 座敷わらしに食べさせる前に、お供えもの用になるか聞きに行く。
「夜分すみません、ちょっとよろしいでしょうか」
 水ようかんを持ってエイボンが民家のドアを叩く。
「なんだべ、こんな時間に」
「あのー・・・座敷わらし様に食べてもらう前に、これでお供えものになるか聞きたくて、試食していただけませんかしら?」
 上手く出来てなかったら出せないかもしれないと村人に食べてもらう。
「どう・・・ですの?」
「これくらいなら出しても、問題ないっぺ」
「よかったですわ・・・。夜分、ご協力していただきありがとうございます」
 エイボンは軽く礼を言い涼介のところへ戻る。
「大丈夫でしたわ、お兄さま」
「ふむ・・・なら社へ行くとするか」
 涼介はエイボンと一緒に座敷わらしの社へ向かう。
 葦原の長屋の人々に座敷わらしが迷惑をかけているというように聞き、玉藻 御前(たまも・ごぜん)は一緒になんとかしてほしいとセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)と共にやってきた。
「座敷わらしは小豆飯が好きかもしれぬ。あぁついでに稲荷寿司も作るのじゃぞ。それも好きかもしれぬ」
「かもしれない・・・か」
 小豆飯の他に彼女の好物の稲荷寿司まで作らされる。
「まずは小豆を洗うんだったな。それで次は・・・・・・鍋で煮るのか」
 小豆を洗って鍋でひと煮立ちさせて汁気をきる。
「研いだ米に杓文字で混ぜ、釜で炊くのか。ここは炊飯器がないから・・・手間がかかるな・・・・・・」
「酢飯ようの飯はどうしたのじゃ?1品だけでは気にも止まらぬかもしれんのじゃぞ!」
 本当は自分が食べたい一心で、御前はセリスを急かす。
「ふぅ・・・分かった分かった。今、米を研ぐから待っていろ・・・」
 セリスはやれやれとため息をつきながらも、米を研ぎ別の釜で飯を炊いてやる。
 炊ける間に油揚げを用意しようと、お湯を沸かす。
「それで油抜きをするのじゃな」
「あぁそうだ・・・」
 沸いた熱湯をかけて油抜きをする。
 油揚げをまな板に乗せ、半分に切って袋にひらく。
「稲荷寿司はそれだけじゃいけないのじゃぞ。分かっておるな?セリス」
「大丈夫だ・・・。(たぶんな・・・)」
 鍋に水と油揚げ、そして砂糖と醤油、みりんの順番に加えて数分間煮詰める。
「じぃーっ・・・」
「そんなに見なくてもちゃんと作る・・・心配するな・・・・・・」
 彼女の視線が気になりながらも、器の中に砂糖と塩、酢を加えてすし酢を作る。
「もういいだろう」
 火を止め余熱でそれ以上煮詰まらないよう、鍋から皿へ移しておく。
 数分後、飯がようたく炊け、もう1度杓文字で軽く混ぜて小豆飯をタッパに移す。
「次は稲荷寿司か・・・」
 炊き上がったほかほかの飯に、すし酢を加えて切るように混ぜてすし飯を作る。
「たしか・・・これを油揚げに詰めるんだったな。出来たぞ・・・」
「おぉっ出来たのか!ならばわらわが味見をしてやるのじゃ。味が気に入らず、ヘソを曲げられては困るからのう」
 御前は目を輝かせて、セリスが作った出来立ての稲荷寿司を食べる。
「んーっ、美味いのぅ」
「―・・・これなら大丈夫そうか?」
「うむ、きっとばっちりじゃ!」
「そうか・・・それならいいんだが」
 稲荷寿司をタッパに詰めて、すでに詰めた小豆飯を持ち、座敷わらしを探しにいく。
 
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