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・翠玉


 一方、こちらはエメラルド一行。
 前面に出ていたルイが敵の数を確認した。四体だ。
「先に進むには、倒すしかありませんね」
 第三層を進む面々は、司城一行と五機精それぞれで別のルートをとっている。ガーネットだけは上層でザコを掃討するのを手伝っているが。
 艦の構造上、中央制御室の前でどちらにせよ合流出来るようになっている。ならば、少しでも機甲化兵・改を分散させながら進んだ方がいい。
「エメラルドさん、下がってて下さい!」
 機甲化兵・改に向かってルイが軽身功を使って駆け出す。
「ルイ、援護するよ!」
 彼に合わせ、シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)がサンダーブラストを四体の敵に向かって放つ。
「確実に倒すぞ!」
 ルイと同じく前方へと踊りでたリア・リム(りあ・りむ)が機晶姫用レールガンにさらに轟雷閃を纏わせて撃ち出す。電撃を浴びせ続けて敵を麻痺させ、動きを封じたところにルイが鳳凰の拳を繰り出した。
「さすがに一回では無理ですかッ!」
 拳を叩き込んだ後、ルイが一歩退く。
 そのタイミングで今度は敵の一体の銃口から一筋の光条が発射される。レーザーだ。
「――ッ!!」
 がエメラルドの前に出て、ラスターエスクードでそれを受け止める。どうにか盾を破壊される事なく防ぎきる。
「行くであります!」
 レーザーと入れ替わりで、、スカサハが加速ブースターでレーザーを放った敵に向かって突貫していく。
 腕には戦闘用ドリルが装備され、さらにライトニングウェポンで帯電処理がなされている。
 勢いのままに、彼女が発射口にドリルを突っ込んだ。
 そして、轟雷閃を放つ。
 敵のレーザーの発射口が轟音とともに爆ぜた。
「まずは一体、であります」
 攻撃手段を失った敵は、それ以上の反撃が出来ない。その隙に彼女はメモリープロジェクターで仲間の姿を投影する。
 敵のセンサーは、視覚と熱感知で異なり、混乱を起こす。
「皆さん、援護するです!」
 由宇が怒りの歌を歌い、仲間の士気を高める。特技の演奏を生かし、エレキギターをかき鳴らしながら。
「遠距離からの攻撃は厄介ですね」
 ルイがもう一体の遠距離攻撃型に向かって、神速で駆け寄る。その状態のまま、鳳凰の拳を敵の銃口のある腕部関節に向けて叩き込んだ。雷光の鬼気による雷電属性付与も相まって、敵に与えるダメージも大きく、そのまま腕が吹き飛ぶ。
「今です!」
 続いて、リアによる機晶姫用レールガンの砲撃、そしてセラエノ断章によるサンダーブラストが、攻撃手段を失った二体の銃撃型機甲化兵を飲み込んだ。
 残るは近接型二体。
「アインちゃんにはこれ以上近づけさせないよ」
 アレンが紅の魔眼で魔力を強化し、雷術を放つ。敵を麻痺させようとするが、動きが完全に停止はしない。
 続いて封印解凍を行い、ルーンの剣で応戦する。基本的な攻撃は、雷術でダメージを与えた箇所に、剣を撃ち込むというものだ。
 近接型の剣がアレンや、他の面々を薙ごうとする。パワーこそあれ、決して受け止めきれないものではない。
「……なんのこれしきのこと!」
 朔が槍で敵の攻撃を受け流し、即座にライトニングランスで応戦する。そのまま機甲化兵・改の武器を弾き飛ばし、後はもう、機甲化兵の動力を潰すだけだ。
 だが、敵の腕による殴打も十分危惧すべきものだ。黒檀の砂時計を使い、彼女は加速する。
「おおぉぉおおおお!!」
 全力を持って、機甲化兵・改の胸部にライトニングランスを繰り出す。二回目の攻撃が、装甲を破り機体内部の人工機晶石を破壊した。
 残りは一体。
 この人数と戦力で、もはや勝負は見えていた。
「これで、最後です!」
 ルイが神速で駆け寄り、拳を胸部装甲へと叩き込む。そして砕けた瞬間に、朔がそこに槍を突き立てる。
 そのまま彼女は機甲化兵・改を勢いよく薙ぎ払った。
「……大丈夫か?」
 朔がえエメラルドを見遣る。
「うん、大丈夫だよ」
「よかった、怪我もなくて何よりです」
 ルイがエメラルドに駆け寄る。
 すると、今度はエメラルドが心配そうに彼らを見つめている事に気付く。
「だけど、みんなが怪我してる」
 いくら彼女を護るためとはいえ、エメラルド自身は他の違って相手を「倒す」力を持ってはない。それが不甲斐なかったのだろう。
 実際、彼女の「再生」が本領を発揮すれば、細胞や分子結合といったものを過剰に活性化させ、機械なら老朽化、生物なら急速に老化させる事も出来る。再構築、活性化という彼女の再生に内包される能力には、そういう一面もあるのだ。
「私達なら心配しなくていいですよ」
 に、っとルイが笑う。
「だけど、せめてボクに出来る事はさせてよ」
 エメラルドが、一人ずつそっと手を添えていく。それだけで、彼らの身体にあった傷が癒え、しかも体力や精神力までが戦う以前にまで戻った。
「すごい、みんな元通りですぅ」
 エメラルドが治せるのは、傷だけではない。消耗した武器をも、元通りの状態にまで復元した。金属を原子レベルで再構成することも、彼女には可能なのである。
「これでよし、と……っととっ!」
 エメラルドがよろけた。
「エメラルドさん!」
「ん、このくらいなら大丈夫だよ」
 力を使うと、エネルギーを消費する。それは五機精全員に共通するようだ。エメラルドの場合、能力が能力なので一定時間経てば自然に回復するようだが、一気に消費すれば多少はこたえるらしい。
 なるべく彼女に力を使わせないように、最深部を目指して一行は進み出した。