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灰色の涙

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灰色の涙

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碧玉、緑柱、金紅


 有機型機晶姫を連れた者達の先行く通路にも、機甲化兵・改が迫っていた。
「まーた一杯出てきたわねぇ」
 オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が呟く。敵の数は八体。ちょうど彼女達を囲うようにして、じりじりと近付いてくる。
 彼女達には知る由はないが、アントウォールトはこちらの数に合わせて機甲化兵・改を送り込むよう全能の書に指示を出している。
 艦内は彼の体内のようなものだ。どこに何人くらいいて、どこへ向かっているのかくらいは把握している。
 とはいえ、分かるのは数だけであって、強さまでは分からないらしい。各所で機甲化兵・改が次々と倒せれているのがそれを証明している。
「……これを倒せば、いいのかな?」
 ヘリオドールが機甲化兵・改を見る。
 前方からいくつもの炎が迫ってくる火炎放射だ。
「おっと!」
 ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)がそれをラスターエスクードで受け止める。炎は盾で防がれ、逸れていく。
 ミネルバの背後から跳躍する影があった。ヘリオドールだ。
 壁を蹴り、勢いをつけて一番手前にいた機甲化兵・改を吹き飛ばす。が、さすがに量産型とは違い、後ろへスライドしてはいくものの、倒れはしなかった。
 彼女は他の敵から迫る銃弾をかわしながら、後退して態勢を立て直す。銃撃型の攻撃は、ヘリオドールに集中し始める。
 そこへ雷が閃く。後方からオリヴィアがサンダーブラストを放ったのである。
「ヘリオドールくんを狙わせるわけにはいかないよ」
 さらに、が陽動射撃を行い、機甲化兵達の注意を引く。彼女の姿は光学迷彩で見えなくなっているが、敵のセンサーは銃の軌道と熱源反応から彼女の位置を特定しようとしていた。
 が、しかし牽制、陽動を行うのは彼女だけではない。
「いくですよっ、ジャスパー!」
「うん、ひなちゃん!」
 ひなが遠当てを行うと同時に敵の一体に接近し、轟雷閃を叩き込む。そうして注意を引いたところで、敵の上方からジャスパーが機甲化兵・改にかかと落としを食らわせる。
「こんな時のために、『空手の極意』とかいう本を読んどいてよかった」
 どうやらひな達がいない間に本で戦い方を身につけていたようだ。『狂気』のジャスパーではないために、戦い方自体も忘れていたのだろう。
 が、持ち前の身体能力を生かし、独学で得た戦い方を実践する。ひなと協力しながら。事前知識と、今の実戦を通して段々と身のこなし方を覚えていく。
「関節を狙うのじゃ。そこは装甲が薄くなっておる」
 ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)が彼女達に指示をし、アドバイスを送る。機晶技術で目の前の機甲化兵や、これまでのPASDの戦闘データを分析した上で、これまでの機甲化兵と若干姿は違えど、基本構造は同じだと判断した。
 それはほとんど正解だった。
 轟雷閃やサンダーブブラストが関節部に命中すれば、高確率で敵の動きが鈍る。
「ルチルさん、どっちが多く倒せるか勝負です」
「望むところだ、緋音っち!」
 緋音がライトニングブラストを機甲化兵・改に向けて繰り出す。ルチルは縦横無尽に駆け回り、攻撃を誘導しながら敵へと接近していく。
「てぇい!!」
 ルチルが回し蹴りで近接型の装備していた槍をへし折る。そのまま敵の腕を掴みにかかり、回転の勢いを利用して機甲化兵・改の腕をねじ切った。
 今度はその腕をバットのように構え、敵に向かってフルスイングだ。機甲化兵・改の装甲はそれ自体がかなりの強度を誇る。それ同士がぶつかり、いとも簡単に胸部装甲がひしゃげた。亀裂も入り、そこから人工機晶石が覗いてる。
 そこへ、緋音がライトニングブラストを放つ。動力源はそのエネルギーで、消し炭となった。
「ずるいよー、もう少しだったのにー」
「隙を見せるからですよ。これで私が一です」
 すぐさまルチルは次のターゲットを決め、勢いよく突っ込んでいく。有機型機晶姫の中で一番俊敏なのは、この戦いをあくまでも遊びと考え、楽しんでいるからだ。
「もう少し、近づかないとね」
 炎や銃弾を盾で防ぎながら、ミネルバは機甲化兵・改に接近する。彼女後ろにはヘリオドールが戻り、ミネルバの合図待ちだ。
 ミネルバが敵の間合いに入り、即座にライトニングランスを胸部に叩き込む。
「今だよ、ヘリオドールちゃん!」
 彼女の攻撃で破損した装甲めがけ、ヘリオドールが跳ぶ。手には短刀が握られている。
「やぁぁあああ!!!」
 ヘリオドールが叫びながら、短刀を敵の急所に突き立てた。武器は彼女の勢いに耐え切れず破損したが、同時に敵の動力源である人工機晶石も砕け散った。
 残りは六体。
「とにかく、正面の道をまずは確保しないとね」
 挟み撃ちされた状態というのも、分が悪い。円が前方の残り三体に対して、スプレーショットを行い、そこから陽動射撃に切り替えつつ、光学迷彩で移動する。それもまた、敵のセンサーを自分に引き付けるためだ。
 彼女が銃撃した対象には、オリヴィアも魔道銃で攻撃を仕掛ける。近接型の場合、同時に二箇所から攻撃が来ても、距離が遠ければ満足に対処出来ない。どちらか一方を機械的に狙わざるを得ないのだ。
 その間に、ミネルバとヘリオドールが接近し、それぞれ攻撃を行う。ヘリオドールが機甲化兵・改を力任せに薙ぎ倒し、そこにミネルバがライトニングランスを叩き込む。
 そうして、三体のうちの二体を即座に破壊した。
 残るは一体。
「やぁあああ!!」
 ジャスパーがその機体に接近し、正拳突きを食らわせる。装甲に空いた風穴に、ひなが即天去私を叩き込んだ。
 前方通路、確保完了だ。
「あとは、後ろのを一掃するだけだね」
 射撃目標を後方に変更、牽制するように狙い打つ円。
 あとは、接近戦を得意とする者達が残る三体の機甲化兵・改を倒すために、距離を詰める。
 縦横無尽にルチルが駆け回り、ヘリオドールが慎重に動きを見極め、ジャスパーが敵の気を引き付ける。
 連携する三人の有機型機晶姫に対し、緋音がライトニングブラストで敵の関節部を狙う。さらに、ひなが轟雷閃でまた別の機体に対し電気を流し込む。
 それぞれの役割を決め、一丸となって戦う事により、機甲化兵・改を一気に破壊する。
「何とか……終わりましたね」
 残ったのは機甲化兵・改の残骸だった。
「だけど、この先にもまだこんなのがいるんだろうね」
 この場は切り抜けたが、まだ戦いは終わったわけではない。
「ちょっと、疲れたかな」
 ジャスパーの顔には疲労の色が見えた。今の彼女としては、戦うのは初めてなのだから仕方がないのだろう。まだ一切疲れていないのはルチルくらいのものだった。
「進む前に、少しは回復しておかないとねぇ〜」
 このわずかな時間のうちに、一行は回復を済ませようとする。オリヴィアがSPタブレットを取り出した。同様に、ひなもそれを使う。
 緋音はヒールをかけて回る。こうして、戦う前の状態とまではいかないが、消耗した分を取り戻す事が出来た。
「これでよし……ん、むぐっ!」
 タブレットを使った後、オリヴィアが口付けを急にされた。アリスキッスである。
「妾を舐めてもらったら困るのじゃ」
 犯人はナリュキだった。いきなりではあったが、それによってオリヴィアの精神力をも回復させた。
 そうして、こちらの一行もまた、先へと進み出した。