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灰色の涙

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・届けるものは


 第二ブロック第三層。
「これを早くみんなに!」
 赤羽 美央(あかばね・みお)は、走っていた。彼女は遥達の目指した場所とは異なる武器庫を見つけ、そこで試作型兵器を発見していたのである。だが、そこにあった兵器は決して多くはなかった。
 あるだけのものをジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)と共に運び出す事に成功し、そのまま先の人へ合流すべく疾走する。
 だが、彼女達の目の前にも機甲化兵・改は否応なく立ち塞がる。
「これまでとはまた違うタイプですね。ですが……」
 自分にパワーブレスをかける美央。
「今の私の敵ではありません!」
 敵の攻撃が来るより早く、ライトニングランスを敵の両腕の関節に叩き込む。そこへ、ジョセフが雷術を重ねる。
「一回だけデハ、倒れませんカ!」
 そこはさすがに改良型、といったところだろうか。だが、彼女達はここで立ち止まっているわけにはいかない。
 即座に次の攻撃を繰り出し、機甲化兵・改の両腕を落すことに成功する。そのまま合流すべく彼女達は先を急いだ。

       * * *

「本当に、キリがありませんね」
 先を行くリヴァルト達は、まだ機甲化兵・改を完全に振り切れていなかった。
「先生、リヴァルト。早く!」
 エミカが機甲化兵・改に向かって紫電槍・改を構えた。
「ここは任せて! 決着、つけてきなさいよ!
 得意げに笑ってみせる彼女。とはいえ、いくら彼女が強くとも機甲化兵・改を何体も一人で相手にするのは難しい。
(足止めで精一杯、ってとこかな? 悔しいけど)
 自分一人の力は自覚している。ヒラニプラで機甲化兵相手に突っ込んで危ない目に遭った事を、彼女も忘れたわけではないのだ。
「起動、出力最大!」
 彼女の槍先が電撃を帯びる。
 跳躍、そのまま最も近い位置にいた機甲化兵・改を一閃する。だが、それと同時に射撃型の機銃が火を噴く。
「この程度……っ!」
 空中で回転しながら槍を勢いよく振るい、さらにその遠心力で槍先の電撃を壁にぶつけ、反射させる。それによって磁場を乱し、気休め程度ではあるが銃弾の軌道をそらす。
 そこへ、新たな人影が現れた。
「皆さん、これを!」
 試作型兵器を持った美央とジョセフだった。司城、リヴァルト一行にそれらを託し、機甲化兵・改に向き直る。
「倒し終え次第、合流します。第四層はもうそすぐこです、早く」
 美央は自分の槍型の魔力融合型デバイスを起動する。
「三体五デスカ、なかなか厳しそうデスネ」
 とはいえ、ジョセフがそれほど状況を危惧しているようには見えない。
「ですが、負ける気はしませんよ」
『研究所』の時から、彼女は幾度となく機甲化兵と戦ってきた。その中には雛型もいる。身をもって敵の強さを知っている美央にとっては、目の前にいるのがこれまでと異なるものだろうと、大した問題ではなかった。
 ジョセフが全体にサンダーブラストを放つ。その直後、美央がライトニングランスを放つ。今度は試作型兵器――しかも、何の因果か、またもや雷電属性を持つ紫電槍・改のオリジナルと同型のものだった。
 一瞬にして、機甲化兵・改の一体を薙ぎ払う。
「やるじゃない!」
 続いて、エミカが先ほどの銃撃型の銃口に向けて、紫電槍・改によるランスバレストを叩き込む。
 そのまま内部の人工機晶石までを貫き、思いっきり槍を斬り上げた。
「……あなたこそ!」
 二人の紫電の騎士が背を合わせるようにして、それぞれの敵を見据える。
 残りは三体。近接型二体、銃撃型一体だ。
「終わらせましょう」
 美央が飛び出した。近接型の槍が彼女に向かってくる。だが、同じ槍を使うものとして、ただの機械には負けられない。
 一閃。まずは敵の武器を破壊する。後方からはジョセフのサンダーブラストの援護。
「今デス!」
 構えを取り直し、ライトニングランスを繰り出す。今度は直接胸部装甲を狙った。魔力融合型デバイスの威力も相まって、二発で敵の胸部に巨大な風穴が開く。
 そこにはもう動力源の人工機晶石など跡形もなくなっていた。
「いーなー、その技」
 エミカが呟く。彼女もその技があれば、紫電槍・改に上乗せして威力を高められる事だろう。だが、そのためにはパラディンにならなくてはいけない。
「けど、あたしだって」
 エミカが眼前の敵に向かって、紫電槍・改を薙ぐ。美央よりも一撃の威力は低いが、そこは持ち前の戦闘センスでカバーする。
 とどめを刺す時はランスバレストによる強力な一撃をお見舞いする。それほどの時間をかけることもなく、敵は残り一体となった。
「これで最後、ですね」
 槍を構えた二人が、その一体をじっと見据える。
 敵の両腕に内臓された機銃が、それぞれに狙いを定めた。同時に、一歩踏み込む美央達。
「銃弾は、お任せヲ」
 ジョセフの雷術によって敵の銃弾が打ち落とされる。その間に美央は全身し、エミカは高く飛び上がる。
「いっけぇぇええええ!!!」
 紫電槍・改を投擲する。それは機甲化兵・改の喉元を貫き、そのまま壁へと敵を張りつけた。
 それをチャンスと、今度は美央が敵の銃口のある両腕を斬り落し、そのまま無防備となった敵にとどめを刺した。
「終わりましたね」
 彼女達の周りには、もはや機甲化兵・改の姿はなかった。他のフロアでは、倒した直後に新たな敵が召喚されたりもしていたのだが、今はその限りではないようだ。
 美央達は、さらなる強敵と戦っているだろう者達のため、最下層へ向けて進み出した。