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はじめてのおつかい(ペット編)

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はじめてのおつかい(ペット編)

リアクション

 
 
スタート
 
 
「位置につくですぅ!」
 実行委員長であるアーデルハイト・ワルプルギスが、本部前で片手を挙げた。その声が、スタート地点のスピーカーから流れる。
「位置についてくださいですぅ」
 大谷文美が、ペットたちに呼びかけた。
 スタートラインの手前では、たくさんのペットたちがひしめき合い、ごろごろしたり、じゃれあったり、威嚇しあったりしている。にゃあにゃあ、わんわん、ほーほー、かあかあ、ガチャガチャと騒がしい。
「よーい、ドーンですぅ!!」
 アーデルハイト・ワルプルギスが、火術で空中に特大の花火を打ち上げた。スタート地点からでも、その盛大な火花がしっかりと見える。
 ドーンという音に何匹かのペットたちがびくついたが、大半は一斉に走りだした。
「スタートしましたぁ」
 スタート地点実況担当の大谷文美が実況車から身を乗り出して叫んだ。レースの模様は、無数のカメラで人質たちの待つゴールの巨大モニタに逐一映し出されることになっている。
「追いかけるよ」
 実況を頼まれたレテリア・エクスシアイも、空飛ぶ箒に乗って飛びたつ。
「教えてやろう。この世で最強の生物。それがシロクマだあ。よっしゃあ、かかってこいやあ!」(V)
 両手を広げた雪国ベアが、ペットたちにむかって叫んだ。
 だが、ほとんどのペットは彼を無視して先へと進んでいく。
「待てぃ、貴様ら! No.1ペットを目指すと言うのなら、この俺様を倒してから行け!」
 雪国ベアがメガホンを使ってペットたちを挑発した。
 
    ★    ★    ★
 
「さて、さっそく波乱含みです!」
 モニタを見ながら、シャレード・ムーンが解説を入れる。
「雪国ベアの声にむっとして反応したのは、紙ドラゴンの黒竜白竜さんと、武者人形の風雅さんだあ。みごとな体当たりとパンチを受けて、雪国ベアがよろける。そこへ、パラミタ猪の右介と左介が突っ込んだあ。吹っ飛ぶ雪国ベア。ああっと、神ドラコンと武者人形も巻き込まれた!」
 ぺったんこになった黒竜白竜がむくむくと立体を取り戻そうとする。風雅は、吹っ飛んだ自分の鎧を集めてカチャカチャと組み立て始めていた。右介と左介はまだ雪国ベアをどついている。
 
    ★    ★    ★
 
「あーあ、何やってるのよ」
 空飛ぶ箒に乗って併走する気満々だったルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)が、初っぱなからの予想外、いや、ある程度予想通りの展開に頭をかかえた。
「……って言うか、右介と左介も馬鹿ね。みごとな馬鹿ね。飼い主に似るにも程があるわ……」
 目を細めて雪国ベアをどつき続けている猪たちを見つめて、ルルール・ルルルルルは溜め息をついた。
「そのへんで勘弁してあげなさい」
 言いつつ、ルルール・ルルルルルはボロボロになった雪国ベアにヒールをかけていった。
 
    ★    ★    ★
 
「はははは、私の黒竜白竜の前に立ちはだかったりするからだよね」
 如月玲奈が、当然の結果だと言いたげに高笑いをあげた。
 だが、雪国ベアに手を出したため、現在この三組は最下位である。
 その横をスラの助さんがずるずると這い進んでいく。マイペースである。
「わたくしのペットですもの、それくらい回避していただかなくては困りますわ。さあ、早く私の許まで来てくださいませ」
 佐倉留美が大型モニタを見て叫んだが、はたして、こんな調子で辿り着けるのだろうか。
 そのスラの助さんの横で、傀儡の藤乃がピョンピョンと跳びはねていた。
 そのそばでは、立川ミケのネコ軍団がじゃれあって全然進んでいない。
 
    ★    ★    ★
 
「ネコちゃんたち、にゃーにゃーってかわいいなぁ。にゃごにゃご。あれ? よく見るとミケだけいないね、どこ行っちゃったんだろ……」
 ミニ袴のちょっとセクシーな神子さん姿に変装した立川 るる(たちかわ・るる)が、空飛ぶ箒に横座りしたままデジカメで猫たちの姿を激写する。ところが、彼女のパートナーである立川ミケの姿がネコ軍団の中にいない。だったら、立川ミケに見つからないようにと変装する必要などなかったのだが、いまさら着替えるわけにもいかなかった。
「まっいいかあ。ネコちゃんたちかわいいもん♪」
 立川るるは、立川ミケのことはおいておいて撮影を続けていった。
 
    ★    ★    ★
 
「さて、トップグループは、本郷涼介さんのルタールさん、ミルディア・ディスティンさんのゆーちゃん、酒杜陽一さんの甚八さん……、あっ、ジャジラッド・ボゴルさんのナイアルラトホテップさんが、仲間のシュナイダー12世さんを早くも見捨てて、ルタールくんに寄生しています。ルタールくん、ものすごくいや〜んな顔です。さらに、トップグループにいるレイストリオさんが周りのペットたちに投げキッスを送って混乱を招いております」
 シャレード・ムーンが、ぶっちぎりのトップグループを読みあげたが、こちらもかなり波乱含みのようではある。
「うーん、早く来い早く来い……」
 第二グループにつけているセイツェマンにむかって、ズィーベン・ズューデンは必死に念を送った。
「よっしゃあ、そのまま逃げ切れー」
 思わず、モニタを見ていた本郷涼介の力が入る。
 
    ★    ★    ★
 
「いやーん、何よあのレイス。気持ち悪いんだもん。変な虫にもたかられちゃってるし。ルタール、早くぶっちぎっちゃってだもん」
 ワイバーンに乗って上空から本郷涼介のペットを応援していたクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が、ケタケタと不気味な笑いをあげながら飛び交う、ウィルネスト・アーカイヴスのレイストリオを見て身震いした。しかも、かわいいルタールに、変な虫までくっついている。
 
    ★    ★    ★
 
「こばー」
「頑張れー。小ババ様、ファイトー!」
 ペットの小型犬モモをだいてワイバーンに乗った音井 博季(おとい・ひろき)が、小ババ様を応援した。
「こばー」
 小ババ様が片手をあげてそれに応える。とはいえ、小ババ様は、まだ倒れている雪国ベアを少し追い抜いたぐらいしか進んでいない。
 
    ★    ★    ★
 
「ちょっと、開幕ダッシュしすぎなんだもん!!」
 モニタを見ていたルカルカ・ルーが、あんぐりと口を開いた。
 ゴーレム軍団は華麗なスタートダッシュを見せて、第二グループに入るという健闘を見せていたのだが、いかんせん速すぎた。途中で、あろうことかオルガを落っことしてしまったのである。当のオルガは、なんとかむくりと立ちあがると、自力でレースを続けている。
「オルガを落としただと!? 馬鹿か、あのゴーレムたちは。しまった、オルガにかまけすぎて、ゴーレムの調整をほったらかしにしていたのが敗因かあぁぁぁぁ!!」
 どーしようと、ダリル・ガイザックが天を仰いだ。