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はじめてのおつかい(ペット編)

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はじめてのおつかい(ペット編)

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「さて、激しく入れ替わっているトップ争い、現在は、リアトリス・ウィリアムズさんのロウファさんが、全力疾走で飼い主の許へとむかっています。まさに忠犬。その後ろには、神和瀬織さんの藤乃さんが黙々と間を詰めていっています。その後ろに赤嶺霜月さんの槲さんと本郷涼介のルタールさんが抜きつ抜かれつの戦いを繰り広げています」
 シャレード・ムーンが実況する中、パーンしていったカメラが、ノルニル『運命の書』の開いた餌場を映し出した。
「さあさ、御褒美ですよ。栄養価の高い光る種モミや蜂蜜。スカイフィッシュの干物。アンデットのみなさん用に怨念石。嬉しい日本酒。残念ながらジェラートはなくなってしまいましたけれど、いろいろありますよー」
 ノルニル『運命の書』が手招きするところへ、神代明日香のコトちゃんが、興味深そうに種モミをクンクンしている。どうやら、あっけなく引っかかったらしい。
「あーだめですよ、コトちゃん。あなたは食べちゃだめですったらあ」
 パートナーの神代明日香のペットが罠に引っかかるという事態にノルニル『運命の書』があわてるが、さすがにこれはペットたちの問題なのでどうにもならない。
 それとは対照的に、マカロンが餌場を無視して進んでいく。
「さすがマカロンちゃんですね」
 ジャンガリアンハムスターのきぐるみを着たピンクのリボンもかわいいゆるスターのエクレールをだきかかえたエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が、縛られている秋月葵のそばで嬉しそうに言った。
「もちろん、このまま優勝よー」
 秋月葵が自慢げに答えた。
 
    ★    ★    ★
 
 レースの方は、エレナ・フェンリルから逃げ回っていた景虎がコースに復帰していた。
「はっはっはっー、勝利の女神は俺にぞっこんのようですね。大漁です。さすがは俺」(V)
 中間地点で付近一帯を凍らせた罠を仕掛けたクロセル・ラインツァートは、楽しそうに笑い声をあげた。だが、彼の足下もしっかりと地面に凍りついているように思えるのは気のせいだろうか。
 なんとか脱出できた染谷こうきのレオンはいいとしても、つるつると氷の上でのたうっているジャジラッド・ボゴルのナイアルラトホテップは最大のピンチだった。うまく誰かに寄生できなかったために、身動きすらできなくなっている。さすがにこの状態ではすぐに誰かに寄生することもできない。
 そのそばでは、ルカルカ・ルーのゴーレム軍団がすべって転んで折り重なるように氷の上で倒れていた。
「はははははは……」
「ケタケタケタケタ……」
「フォッフォッフォッ……」
 氷のひんやりとした冷たさが気に入ったのか、ウィルネスト・アーカイヴスのレイストリオも氷の上をふわふわ飛び回って遊んでいた。状況を理解しているのか、あくまでまったりのんびりペースのやる気なしだ。
「なんで、小雪、あなたまで引っかかっているのですか!」
 してやったりとしていたクロセル・ラインツァートだったが、まさか童話スノーマンの小雪まで引っかかるというのは想定外であった。
「今助けますから、早くレースに……うわお」
 小雪だけ逃がそうと思ったクロセル・ラインツァートではあったが、一歩前に踏み出そうとして足がまったく動かず、もろにつんのめってビターンと倒れた。
「うおおおお、仮面が氷にくっついてとれませーん」
 ペットたちの中で、自分が一番じたばたとするクロセル・ラインツァートであった。
 
    ★    ★    ★
 
 モニタの中では、クレシダ・ビトツェフのバフバフがのっそりと餌場を無視して進んでいく。
「バフバフなら大丈夫だって思っていたよ」
「うん。そうだね。バフバフ、頑張ってくださいです!」(V)
 ちょっと自慢げなクレシダ・ビトツェフの横で、ピンクのハリネズミのきぐるみを着たゆるすたーのハーイちゃんを肩に乗せたヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)がモニタにむかって声援を送った。
 
    ★    ★    ★
 
「はははは、ほーら、怖いですよー」
 矢野佑一が落とす怨念石に、騎沙良詩穂のパン・ティーと、立川ミケのネコ軍団と、アズミラ・フォースターのフクロウのアルビナスがパニックになって逃げ回っていた。
「あああ、うちのネコちゃんたちが……。ここはるるの力でお祓いするんだもん……」
 神子コスプレの立川るるが、祓い串をバサバサと振ってネコ軍団を応援した。もちろん、似非巫女では効果はない。
 
    ★    ★    ★
 
「ここが根性の見せ所ですよー」
 騎沙良詩穂がモニタにむかって叫んだが。さすがに、その声はパンとティーには届かなかった。
「頑張れー、今応援歌歌ってあげるよ。フレー、フレー、アルビナス♪ 夜はホーホー、アルビナス♪ 困ったときでも首は回るよアルビナス♪ ほら、総司とナツメも一緒になって歌う!」
 縛られたまま、アズミラ・フォースターが弥涼 総司(いすず・そうじ)をせっついた。
「歌うのか? 普通に応援じゃ……」
「だめ、歌え!」
 興奮したアズミラ・フォースターに命令されて、弥涼総司はしかたなく調子を合わせて歌いだした。
 
    ★    ★    ★
 
 最終グループ近くでは、エリシア・ボックのゴーレムのフォルテシモが、やっと餌に興味を失って再び歩き始める。
 そして、最下位は依然右介と左介のままであった。
 
 
残り17ターン
 
 
「さて、現在トップはぶっちぎりで神和瀬織さんの藤乃さんです。黙々と進む姿が、ここに来て圧倒的な差を生みつつあります。続く二位は、かなり離されてしまってはいますが、ロウファさんです。さすがに息切れしてしまったのか。それでも、南部ヒラニィさんがちらつかせているサザエなど見むきもせずに走り続けています。三位は、赤嶺霜月さんの槲さんが熾烈な争いを乗り越えてキープしています」
 
    ★    ★    ★
 
「ううむ、美味しいんだがのう。しかたない、次の獲物を待つとするのだよ」
 南部ヒラニィは、香ばしい焼きサザエの匂いに生唾を飲み込みながらロウファの姿を見送った。
 
    ★    ★    ★
 
「わきゃわきゃわきゃ……」
「なんです、この数珠繋がりは!?」
 仕掛けておいた拘束トラップに足を縛られて逆さ吊りになった朝霧垂のティーカップパンダたちに、影野陽太は目を白黒させた。
 実際に罠にかかったのは一匹だけなのだが、仲間にくっついてロープの先にティーカップパンダの群れがたわわに実っているという感じだ。
 
    ★    ★    ★
 
「はい。しっしっ」
 ノルニル『運命の書』に追い払われたコトちゃんは、少し尻尾を丸めてすねていたが、レースに復帰していった。
 代わりに、戦部小次郎の景虎が、物欲しそうに笹の葉っぱを見つめて指を銜えている。
「さあどうぞ! これを食べて頑張って!」
 ノルニル『運命の書』に手招きされて、景虎は嬉しそうに餌を食べ始めた。
 
    ★    ★    ★
 
「こ〜ば〜ばば〜」
 未だ氷に貼りついて動けないクロセル・ラインツァートのそばを、小ババ様がスケートの要領ですべって通りすぎていく。その上を、日堂真宵のふぎむにがすいーっと飛び去っていった。
 それを見て、興味を引かれたのか、レイストリオも移動を開始する。
「行きなさい、小雪。童話スノーマンが待っています」
 クロセル・ラインツァートに言われて、小雪がナイアルラトホテップを弾き飛ばして動きだした。おかげで、なんとかナイアルラトホテップも氷から脱出する。
 そのナイアルラトホテップに追いつくべく奮戦していたオルカであったが、直前でライゼ・エンブの餌に気づいて立ち止まってしまった。
 がつがつと餌を食べているオルカの姿に、ジュレール・リーヴェンディのロビーが興味をもって立ち止まり、ツンツンとオルカをつつく。いきなりつつかれて、びっくりしたオルカが、口からカリカリをこぼしつつ「うぎゃわん」と変な泣き声をあげた。
「なう?」
 その声に、曖浜瑠樹の納羽が不思議そうに振り返ったが、直後に気にもとめるようでもなく走り去っていった。
「はうぅ〜。美味しいシーンいただきました!」(V)
 カメラ片手にロビーを追いかけていたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が、ニッコリとして叫んだ。
 
    ★    ★    ★
 
 パニックのままパン・ティーとネコ軍団とフクロウのアルビナスがなんとか怨念石から逃げたすると、入れ違いにソア・ウェンボリスのフクロウのテオルが落ちてきた怨念石にびっくりしてコテンと地面に落ちた。その上を、エリシア・ボックのゴーレムのフォルテシモが、悠々とまたいで通りすぎていった。
「相手が、ゴーレムじゃやっぱり怖くはないですか」
 落ちた怨念石を拾い集めながら、矢野佑一はつぶやいた。
 
    ★    ★    ★
 
「きゃー、私のテオルがー! た、助けに行かないと……!」
 モニタを見ていたソア・ウェンボリスがじたばたともがいたが、縛られていては動くことができない。その思いは、ここで待つ飼い主たち共通のものであっただろうが、今は耐えて待つしかなかった。
 
    ★    ★    ★
 
「グルル……」
 ギルベルト・ハイドリヒのガブリエルが、低く唸りながら月詠司の用意した餌を避けて走っていった。どうやら、鋭い嗅覚で、混ざっている謎料理を感知したらしい。
 逆に、マイペースで進むオルガは、料理に脇目もふらずに通りすぎていった。
 代わりに、料理をすべて覆うようにして飛びついたのはスラの助さんだ。
「ちょっと、それが罠だというのは見え見えですわよ。なんでそんな単純な罠にだってかかってしまうのですわ。まったく、誰に似たのでしょうか……。さあ、その罠からとっとと抜け出してくださいませ」
 モニタを見た佐倉留美が叫んだが、スラの助さんは食べ物を取り込むのに一生懸命だった。
 
    ★    ★    ★
 
「相変わらず、息切れの右介さんと左介さんは最下位だけど。じりじりと追いあげてきてるよ。頑張れー」
 レテリア・エクスシアイに励まされて、二匹の猪は「ぶもー」っと大きく鳴いて走りだした。